たった1人からの出発。メディアジーン8メディアを支えるエンジニア、緒方昂児氏の想うエンジニア像とは?(前編)

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ガジェット好きなら一度は目にしたことがあるだろうWebメディア。ギズモード・ジャパン。その運営を行っているのが、メディアジーンという企業だ。

「ギズモード・ジャパン」を始め、「ライフハッカー[日本版]」「コタク・ジャパン」「ルーミー」「タブロイド」「グリッティー」「マイロハス」「カフェグローブ」といった、ガジェット系から女性向けメディアまで、幅広いジャンルの合計8メディアを運営。全メディア合わせて、月間PVは1億を超える。

そのメディアジーンのメディア開発室テクニカルディレクターについているのが緒方昂児氏だ。今年4月に開催されたMovable Typeのユーザー会「MT東京-01」において「MTを使った巨大トラフィックの捌き方」というプレゼンテーションを行い、巨大Webメディアにおけるスムーズな運営のポイントを解説した。

しかし、Webメディアの運営は、システムの開発や改善だけでは成立しない。それ以外の部分のほうが重要なことも多い。そこで今回は、MT東京-01で緒方氏が語り尽くせなかった部分を中心に、お話を伺った。

自分の意見が編集長に影響をおよぼすポジションにいたい

緒方氏がメディアジーンに入社したのは、2011年11月。それまでは、Webサイトの受託制作を行う会社に勤務していた。

「メディアジーンの面接を受けたときが、スティーブ・ジョブズが亡くなったという報道があった日だったんです。社内は騒然としていましたね。メディアジーンを選んだのは、オウンドメディアをやりたいと思ったから。世間でもオウンドメディアという言葉が出始めた頃で、自社でメディアの制作運営をしている会社に入りたかったというのが一番の要因です」

以前に勤務していた会社では、フロントエンドエンジニアかつディレクションを担当。開発を行いながら、進行管理などを行っていた。

「受託制作の場合は、企画から絡むということが難しい。企画の担当者、クライアントの代理店担当者といった最上流の方々の意向が一番反映され、受託制作会社の立場では、ほとんど意見することができないんです。受託制作をやっている間は、自分の作りたいメディアはできないだろうなと感じていました。僕がオウンドメディアにこだわっていた理由はそこなんです。自分の意見が、編集長の趣向や判断に影響をおよぼすポジションにいたいと思っていました」

自分の意見が反映されるオウンドメディアをやりたい。その志をもってメディアジーンに入社。しかし、メディアジーンには緒方氏が入社する前には、社内にシステム開発の担当者がいないという状況であった。

「ルールがまったくない状態だったんです。なので、ゼロからルールを策定していきました。それは入社前のイメージ通りといえばイメージ通りだったのですが。逆に、中途半端なルールが存在していて、それがあまりよくないルールだった場合、変えていくのが難しい。ルールがまったくないというのが、よかったと思っています」

プロジェクトマネージングツール導入で仕事の流れを円滑に

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メディアジーン入社後は、MovableTypeやWordPressといったCMS周りの整備に加え、メディア運営を円滑にするための改善もいくつか行っている。そのうちのひとつが「外注とのやりとりにプロジェクトマネージメントツールを導入」だ。

「弊社は、雑誌や書籍出身の編集者も多いためか、メールでやりとりを残してエビデンスを残すという習慣が徹底していなかったんです。電話で話していつまでにこれをお願いしますというようなやりとりが多くて、それで大丈夫かなと思っていて。あとで言った言わないということになりかねませんし、それで何千万円という取り引きはさすがにできないだろう思っていました。そこで、一般的にほかの会社でも使っているようなプロジェクトマネージングツールを使うことにしました。そこで導入したのがRedmineです。現在は、Redmineでチケットを管理しています」

それまでなんとなく行っていたプロジェクトの管理を、Redmineを使ってマネージングするように改善。しかし、長い間の習慣というものはすぐに変えられるものではない。それでも緒方氏は、Redmineを使ってもらえるように普及活動を進めた。

「最初はあまり使ってくれませんでした。なあなあでやってよみたいなこともあったんですが、僕はあんまり温和な会話をしないんですよ、社内では(笑)。何か頼まれても、チケットを立ててください、と答えるだけで。全員に対してフラットなやりとりをしないといけないので、『しょうがないな今回だけね』というような話は極力しないようにしています」

そうは言っても、急な案件というものもある。そういうときは、作業ログを残すためにチケットは立てておくようお願いしているそうだ。一見ドライなやり方だが、当時1人で8メディアのシステムを担当していたため、そのくらい徹底した管理方法を取り入れないと、破綻していたことだろう。

もうひとつ、メディアジーンで進めたことは、「内制できる体制の確保」。これは簡単にいえば、自分以外の開発担当の人材を増やすということ。

「昨年12月に若手を1人採用しました。それまでは、チケット管理しつつ外注さんにかなりリソースを割いてもらうという進行だったんですが、今は半々くらいの割合で社内で行っています。僕が入るまでは、100%外注頼みだったんです。社内で何か障害が起きたときに、原因を想像できる人もいなかったのではと思います」

Webメディア運営において、システムの不具合はPVなどに直結するため、できるだけ素早く解決したいところ。緒方氏が入社する前まではトラブルのたびに外注へ依頼していたため、復旧までに時間がかかることが多かったが、入社後は速やかに解決できるようになる。オウンドメディアならば、やはりエンジニアを用意するというのは、必要なことだろう。

編集サイドとはフェアに接することを心がけている

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エンジニアとしてメディア運営に関わるには、それなりの苦労もある。緒方氏の場合は「コミュニケーション」だった。

「編集部の人と意思疎通をするときには、フェアに接することを心がけています。あまり感情的にならずに事実だけを述べるというか。スケジュール意識は、受託制作時代に体に叩きこまれましたので、Redmineで社内チケットを立てるときも、この日までに欲しいと伝えるようにしています。なるはやで、というのは禁止ですね。外注先に発注をするときも、期日はしっかり伝えるようにしています。そうしないと失礼に当たりますから。それと、あまり懇切丁寧に教えないことですかね。できるだけ社内リテラシーのボトムアップをしなければという思いがあって。質問されたら、できるだけ少ないワード数で答えたり、自己解決できる手段を教えてあげたりという感じです」

「エンジニアと編集者の言語は、違うもの。これはオウンドメディアだけでなく受託制作をしているときにも感じていました。たとえば、編集者というのはおもしろい記事を出してPVを稼ぐということを考えている。一方エンジニアは、汎用性の高いサーバー環境や、負荷のかからないプログラムを作って、安定したメディア運営をしたり、コストを下げるということを考えている。お互いが相反しているわけですから、その溝を埋めるのはなかなか難しいことです」

このHRナビにしても、おもしろい記事をアップして、いろんな人に見てもらいたいと思っている。少なくても、これを書いている筆者はそう思っているし、それがHRナビにとっても有益なことだと信じている。しかし、一方でエンジニアはPVが上がることで、サーバーへの負荷や、負荷を分散するためのコスト計算などをしなければならないわけだ。お金が潤沢にあるメディアであれば、設備投資や人件費にお金をかけて、負荷を減らしていくという手段が取れるが、低コストで利益を上げるというのが、企業という仕組み。そう簡単にお金を使わせてはくれないのだ。