企業内からスタートアップ!? クックパッド、リクルートの新規事業の始め方

7月3日に東京・白金のクックパッド本社で行われた「ユーザーを向いたインターネットサービスづくりについて考える」は、クックパッドとリクルートの役員2人が、ざっくばらんに対談する、ちょっと変わった趣旨のイベントだった。

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片や創業50年を超え、多くの事業を抱えるリクルート。片や月間4000万人が訪れるという一点突破型の日本最大のレシピサイト「クックパッド」。創業17年目となるクックパッドの2014年4月期の売上は65億7200万円、営業利益は31億3200万円とネット企業としては最優良のグループといって良いが、リクルートの連結での売上高は1兆1900億円、営業利益も1170億円(2014年3月期)とケタ違い。

売上規模も取り組む事業領域も異なるが2社だが、一方で、共通する特徴がある。それはネットで新サービスを立ち上げるということについて、圧倒的な実績を持っていることだ。もう1つ、いずれにも企業文化として創業期の起業家精神が受け継がれていて、新しい形で企業内から新規事業を立ち上げていく人材、いわゆる「イントレプレナー」を上手く活用していこうと新しい取り組みを始めている点が共通している。

異なる強み持つクックパッドとリクルートの歴史を貫く企業カルチャーとはどんなものか? 2014年の今、どのようにして新規事業を生み出そうとしているのか?

クックパッド株式会社執行役兼取締役の石渡進介氏と、株式会社リクルートホールディングス メディアテクノロジーラボで所長を勤める石山洸氏が、nanapi創業者の古川健介氏の質問に答える形で語り合った。

新卒入社で新規事業やるってありますか?

まず古川氏から出た質問は、「新卒で新規事業をやることはあるか?」というもの。

2014年の今、起業するには良いタイミングと言う声が多い。リスクマネーは、だぶつき気味と言われるほどスタートアップの資金調達環境は良くなり、シードアクセラレーターと呼ばれる起業家養成スクールのようなプログラムも、ここ数年でいくつも登場している。「新しいサービスを作りたい!」「自分のアイデアを形にしたい!」と思っている起業家予備軍にとっては良い環境に違いない。

一方、就職を控えた学生や、若手のビジネスパーソンにとっては、起業といってもイメージが沸かなかったり、迷いがあったりするのが現実だろう。特に学生の場合、いきなり起業というより、まず既存企業で事業立ち上げを経験するなどしたほうがいいと考えるのも自然。そうなれば気になるのは、どの程度の自由度があるかということだろう。極端な例として、新卒入社でいきなり新規事業をやるような事例はあるか、というのが質問の趣旨だろう。

石山:私はリクルートのメディア・テクノロジー・ラボ(MTL)というところで私は所長をしているのですが、ここは事業開発のようことをやる部署です。リクルートには制度名でいうと「New Ring」(ニューリング)というものがあります。フリーペーパーの「R25」やブライダル情報誌「ゼクシィ」を生み出してきた制度ですが、今年から、この制度を少し変えました。去年までは1年に1度だけ、誰でも手を挙げて、それで賞をとるとサービスを始められるというものだったんですね。でも、いまは毎日のように新しいサービスが世の中に出てくる時代になったので、毎月事業を応募してもらって、賞を獲ったら、自分のサービスをやっていいよという風にしたんです。

photo02実際、この5月に新卒1年目で入った女性2人が賞を取って、「さあこれから新人研修」というときに、いきなり異動という話になりました。配属予定だった部署の人に、ぼくがめちゃくちゃ怒られたりしたんですけど(笑) 会社として、そういう葛藤というのはありながらも、新しいことに挑戦しているという感じですね。

具体的な枠組みとしては、結構マイルストーンを細かく刻んでいて、まず一番最初にプレゼンしてもらって、それに通過すると業務時間の20%を使って3カ月で開発する形です。次の1カ月でユーザー検証する。その計4カ月で500万円ぐらい予算が付く。ユーザー検証の段階で、ある程度の達成ができなかった場合は、そこでクローズ。次のマイルストーンが1年、2000万円ぐらいの予算で、サービスを強力なものにしていこうとやる。さらにその1年後、将来的にビジネスとして成長する可能性がありそうだって判断されたら、そのタイミングでスピンオフさせる。そういうルールになっています。

事業アイデアの採用基準ですか? これが……、基準はないんですよ。何でもやってもいいということになっています。昔のリクルートの事業開発って「2年後に100億円になっていてください」みたいな、鬼のような計画じゃないとダメだったんですよ。でも、そんなビジネスって、今どきないでしょ? ということになってきていて、「2、3年で経常利益で一桁億円規模だけど、IPOを目指せる」というぐらいの事業も全然やっていいよとなっています。少しずつ変わってきていますね。

リクルートって、リクナビとかスーモ、ゼクシィのようにいろんなサービスをやっているんですけど、ボトムアップで出て来ているものが多いですね。会社として、この辺のビジネスドメインをやりたいからやるというよりは、一人ひとりが手を挙げて、これがやりたいというような形でサービスを作っているケースが多いんですよ。

プロセスはライトでも、かなりの覚悟が必要

石渡:クックパッドでの新規事業開発も、基本的にその人がやりたいっていうのが大前提。でもリクルートさんみたいに社員2万人とかじゃなくて、うちは200人なので、コンテストとか審査とか、そういう仕組みは全然ありません。「これやりたいんですけど」って、ぼくのところに来たり、穐田(現クックパッド社長)のところ行ったりね。そうすると、「それ面白いね、じゃあやるか」っていうことになる。そういう意味ではライトですね。

最近だと、お出かけで休日を楽しくしようというサービスをやっている、というか、やりつつあります。もともとぼくがずっとやりたいと思っていたものなんですけど、やってくれる人がいない状況だった。学生時代からそういうサービスを始めていた人たちが、ある日突然クックパッドにやってきて、それでチームごと雇ったという例です。相当いい覚悟だったので、じゃあ雇うよということになった。いま入社3、4カ月です。もうすぐ形になります。

ただ、何でもかんでもやるという方向にはあんまりなりません。やはり覚悟を求めます。気楽に始めるというのは、実はあんまりない。なんでかっていうと、気楽に始めてもなかなか簡単にはいかないからですね。

いまインターネットにはグーグルの検索があるので、このグーグルの検索で解決できてしまうことが多いのですよ。「グーグルでいいじゃん」で終わる。情報を求めている人と、情報を出せる人がいて、その間にグーグルがある。ほとんどの問題はグーグルで解決できちゃう。逆にいえば、グーグルで見つからない情報、そういうものを掘り下げていく覚悟がないと、うまくいかない。やれるかどうかの境はそこにある。覚悟があるかどうか。

具体的な例で言えば「漢方デスク」というクックパッドの関連会社のサービスがあります。担当しているのは葉山くんというんですけど、本当に彼は漢方が好きなんですよ。良く調べてて異常に詳しいんです。それで熱意をもって説明されると、「ああもう分かった、分かった(笑)」という感じでね、スタートする。こういうケースだといずれ自分で自立するって方向になるので、クックパッドから資本を入れることもあり得るし、上場でもバイアウトでもいい。自分で自立していくんだったら、援助もするし、応援もするよという感じでやってます。

同じネット企業でも、わーっと盛り上がって人が集まってくるメディアっぽいものを立ち上げるのが得意な会社ってありますよね。クックパッドの場合は、そういう風に人を集めようということじゃなくて、世の中の問題を解決しようという会社です。スタートの違いですね。地道だけど、コンテンツをしっかり作っていって、役立つものを作るんだというね。地味だけど、うまく行ったら長く続きますよ、なくてはならないですよ、という方向でのサービス開発を志向しています。もちろんそれだけしかやらないということではないのですが。問題を解決しようっていうスタートがあれば、あとは問題を解決しなきゃいけない。解決すれば、ユーザーはお金を払ってくれる。必要なものであれば、必然的にお金を払う。事業が成り立ちやすいですよね。ただし、インスタントにはできない。結構な覚悟が必要です。

誰でも起業家になれるように「自分開発」を支援するリクルート

新規事業や起業がうまく行く人と行かない人にはどういう特徴があるだろうか?

石山:それはまさに日々頭を悩ませているところです。「こういうタイプは上手くいく」っていうのは確かにあります。でも、いまぼくが自分のテーマとして挑戦しているのは、いわゆる起業家タイプと世の中で言われてる人じゃなくても起業家になれるような、そういうプログラムを作ることです。もちろん自分でプロダクトも作るし、お客さんと話したりもするんですけど。

リクルートに入っていちばん最初にやらないといけないのは顧客開発じゃなくて、自分開発だっていうんですよ。どういうことかというと、「ウィルキャンマストシート」(Will-Can-Must)というのを書きます。自分が1年後、3年後、将来にどうなっていたいかということを最初に書くんですね。仕事を通じて能力を身に付けることで、それを達成する。なので「アントレプレナーになりたい」という目標を書いて、それを支援するようなプログラムを、いまリクルートではやってるということですね。「起業家タイプではないけど、なりたいんだ!」とか、そういうのって、いいと思うんですよね。

たとえばエンジニアの人とかって、Y Combinatorが出るまでは受託で搾取されているような人がいたと思うんですね。そういう人でも起業していいんだっていうものをカルチャーとして作っていったり、プロセスとして制定していくと価値があると思うんですよ。「誰でも起業家になれる」っていうことをテーマにしながら、リクルートで事業開発をしてもらえるといいんじゃないかなと思っています。

石渡:向き不向きというより、やっぱり相当の覚悟が必要だと思っています。起業は大歓迎です。応援もする。だけどそんなに甘いもんじゃない。解決したい問題が見つけられるか、その問題を解決する種を見つけて、サービスとして形にできるか。ユーザー数ゼロからこつこつと続けて、ユーザーに価値を届けるところまでやりきることができるのか。新規事業や起業には、その覚悟が問われ続けると思います。

中長期でみんなに使ってもらって、生活の中で必要不可欠になるサービス。クックパッドは、ずっと創業以来そういうものを追い求めている。そういうサービスを作るのって並大抵のことじゃないので、クックパッドにきて実際にそういうサービスを作るという覚悟やスタンスというものを隣りで感じて働きながら、いずれ自分自身でもできるようになってほしい。

そういう覚悟が持てた段階なら、いつでも起業を応援するよっていうのがクックパッドのスタンスですね。

会社内で新規事業? 会社外で起業?

photo04新規事業を会社内で立ち上げることと、会社の外に出て起業するのとでは何が違うだろうか?

石山:会社だと、成長させてくれるというのがあります。ぼくの実例でお話しましょう。ぼくって大学院のときはアカデミックな人間だったんですね。大学の修士のときには1年間で論文18本書いていたような学生で、起業には全く興味がなくて。それで(東京工業大学を)卒業したら、そのまま京都大学で先生をやるというポジションでオファーも、もらっていたんですね。それが間違ってリクルートに入った(笑)

入ったときは、全くビジネスのこととか分かんなくて、ほんとに毎日いろんな先輩に怒られながら、勉強していきましたね。いま9年目です。

6年目ぐらいのとき、会社を作ってみたいと会社(リクルート)にお願いしました。そしたらリクルートが250万円だしてくれて。それにある投資家が250万円を出してくれた。それで資本金500万円で会社を作った。そういう小さな資本金で会社を作るのってリクルートにはまだなかったので、たぶんリクルート史上最小資本金で設立した会社ですね(笑) それが3年前です。

通常業務もこなしながら、グーグルのような20%ルールで会社をやったので大変でした。でも、今年3年目で、経常利益1億円を作れてバイアウトしたっていう会社なんですね。なので、リクルートが、というより自分自身の体験かもしれませんけど、リクルートはある種ビジネススクールのような会社だと思うんですね。実体験を通して、どうやって起業したらいいかを勉強できる。後押ししてくれるのがいい会社だと思いますね。ぼく自身、もともとビジネスを指向していなかったし、ノウハウが分からなかったんですけどね。

MTLでは、まだ10人ぐらいしかいないんだけど、メンターとなる人がいてアドバイスをもらいながら成長していける、そんな制度を目指しています。MTLには外部の人もいる。アメリカの有名なスタートアップのアクセラレーターで「500 Startups」というところの人も外部から入ってもらっていて、1週間のうち2日間、1日5時間ぐらいメンタリングしてくれている。10人では、まだまだ数は足りていないですけどね。サンフランシスコってスタートアップを育てている人が、すごくたくさんいるんですよ。500 Startupsにはメンターが数百人いる。学校みたいになっていて、カレンダーがあって、そこでメンタリングのブッキングをするっていうシステムになっているんですね。そういうのを参考にしています。

企業内でスタートアップをやる、2つのメリット

石渡:クックパッドは懐が深いので、いろいろ学べると思います。社長の穐田は、もともとカカクコムの社長で、食べログも自分で作ってきた人です。クックパッドの創業者である佐野、いまアメリカで新しいサービスを開発しているんですけどね。この人たちが得てきた普遍的な「正しいこと」っていうのが、クックパッドという会社の中に根付いてる。それがあるのは大きい。

実例で言いましょう。Cyta.jpというプライベートコーチングのマッチングサイトをやっている会社があります。クックパッドに100%子会社として入ったんですね。社長は有安くんというんですけど、子会社になるというときに「なんで?」って聞いたんですよ。「まだチャンスあるから上場だって狙えたんじゃないの?」って。

2つほど理由があるんです。1つは資金調達から解放されること。起業する上で、資金調達っていうのは結構な労力なんですよ。事業だから資金調達は大事なんだけど、インターネットのサービスってマネタイズが上手くいく事業を最初から作るって凄く難しいんですよ。

サービス立ち上げをやってる間、資金調達のことをずっと考えないといけないというのがグルグル回ると、サービス改善に集中できない状況って発生するんですね。これがなくなるってめちゃくちゃ大きいと。もちろん子会社となれば、同時にアップサイドもなくなるけど、そこはバランスを取るべき。ある程度の段階でクックパッドの資本から独立して上場を目指しますとかね。そういうのも全然構わないんです。

食べログってあるじゃないですか。多分、カカクコムがやってなかったら、あんなふうにはなれなかったと思いますよ。だって、最初のうちは儲かりませんからね。レビューが集まらなかったら、何の価値もないです。レビューをひたすら集めてる間って誰も稼いでくれません。そのサービスを支えるのが、カカクコムが稼いだお金だったということですよね。

こういうサービスがあって、ユーザー数がこれぐらいでどうのこうのってファンドに説明して納得してもらって、出資を受け、その後も説明をし続けるって、結構な労力です。正直。リードインベスター、ファーストラウンド、セカンドラウンドってやっていく世界も、それはそれでいいんですけど、やっぱり企業の中でサービスが立ち上がってくるのってのも価値としては大きいんじゃないかなと。カカクコムもやってるし、クックパッドも、今いくつか新しいのができそうだなという状況になっている。

もう1つの理由は、成功事例が隣にあるということ。直接アドバイスが受けられる。たとえば、現社長の穐田はもともとクックパッドも社外取締役だった時代がある。ぼくもその時クックパッドの社外取締役だったんだけど、横で見てるととにかくアドバイスがものすごく適切なんですよね。だって似たようなことすでに経験しているのだから。そういうアドバイスが日々近くでもらえるのは、すごい価値です。自分ごととして考えてくれて、ファイナンスの話を一切しなくてよい。これが会社の中でスタートアップをやれる意味だと思う。

既存事業を壊す新サービスは、同一企業内から生まれるか?

企業内で新規事業をする場合、既存事業との兼ね合いが問題になることもある。既存事業と同じ市場を食い合ったり、最悪は壊してしまいかねない。そこをリクルートはどう考えているのだろうか?

photo03石山:自分たちで自分たちをディスラプト(破壊)できるか、というのは重要。それには2つあって、まず1つ目は、事業ドメインは一緒だけど、プロダクトをディスラプトっていうパターン。これはリクルートでは出来ている。もともと雑誌から始まって、フリーペーパーにして、それをPCして、そこからガラケーになって、今はスマフォになって、これからウェアラブルになっていくんでしょうけど、そういうのはやっていけるし、成功してきた。実際どのぐらいのレベル感で変わっているかというと、いまリクルートって売上が1兆円ぐらいあるんですね。この売上に占める10年前のビジネスの割合って20%ぐらい。そんくらいしか残っていない。10年で会社の売上構成比が全部変わる。もともと自分たちが作ってきたデバイスのデザインを壊しながら次のデバイスをやっていて、これは、かなり成功しているし、できるという自信もあります。

次にやらなきゃいけないのは、リクルートの中でビジネスモデル自体をどのくらい変えることができるか、ということで、これがいまリクルート社内でホットな話題です。

リクルートはクラシファイド・アドのビジネスモデルです。広告主から広告を集めてきて、ユーザーを集めて、それをメディアとするというモデルですね。これをどのくらい壊せるのか。イノベーションのジレンマみたいな話ですが、やっぱり難しい。ただ、既存のサービスを壊してでも新規事業で置き換えるというぐらいのサービスを起案してもらったら、ぼくは絶対に通しますね。そういうものをラボで作って出していくというのをやりたい。リクルートをぶっ壊したいという思いを持っている人は、ぜひ中から一緒に壊しましょう(笑)

石渡:でも、ジョブセンスをリクルートは作れますか? (ジョブセンスは、リクルートのビジネスモデルを破壊しつつ市場を奪っている)

石山:Aというプロダクトに対して、新しいBというプロダクトで置き換える。それ自体は簡単であっても、BはAより儲からないよねっていう場合、これを実行するのは確かに勇気がいる。もちろん、自分たちでやらなくても、いずれ誰かやるじゃん、という話もあるんですけどね。

B案で、どのぐらいの見通しを持てるかっていうのも重要です。たとえば、ジョブセンスはきつくても、リンクトインならいいみたいなね。この辺は、意思決定の部署を別々にして戦うみたいなやり方ですね。結構やってますけどね。

クックパッドのサービスは、なぜ強いのか?

石山:石渡さんにお伺いします。大きな会社でリーン・スタートアップやってますっていうのが増えていますけど、そういうリーンな組織と、200人の組織って違いがありますか?

石渡:使えるお金でいえば、圧倒的にクックパッドは使えないですよね。C2CのECアプリのメルカリのようなものを既存企業がやるならうちではなくリクルートさんのような大きな会社のほうがやりやすい。今のうちは絶対にあんなに広告宣伝はできない。ニュースアプリとかC2Cのコマースアプリとか、中身に大きな差が出にくい事業は実弾を射ち合って面を取ったほうが勝ちやすいと思います。利益成長をしっかりして行こうと考えているフェーズのうちとしてはなかなかやりにくいサービスです。

クックパッドの戦い方は違う。たとえばクックパッドに対して、後から楽天レシピが出てきて対決することになりました。しかも 向こうはタダです(注:クックパッドは月額約300円の有料会員制度がある)。なのに、なんでユーザーを今のところ大きく奪われていないか?

キャズムを超えていたっていうのはあるかもしれませんが。でも、それにしても次第にユーザーが流れてもおかしくはない。でも実際はあまり流れない。なんでですかって言ったら、やっぱりコンテンツなんです。レシピの中身の問題なのではないかと思います。

ユーザーさんは、いいレシピに出会いたい。しかも日常使える気が利いてて親切なわかりやすいレシピが使いやすい。主婦の人が、ちょっとここでこうしたほうがいいですよ、ここは気を付けたほうがいいですよと細かく書いてある。そういうレシピが沢山あるから、皆さんクックパッドを使うんです。

じゃあ、なぜクックパッドユーザーは、そういう良いレシピを投稿するのか。

楽天さんは、投稿を集めるエンジンとして50ポイント(50円)を配った。だから数は集まるんですよ。ここで投稿するレシピは、投稿するユーザーにとって50ポイントのレシピになってしまう。だから、どこまで行っても50ポイントだと思って投稿していくのだと思います。

クックパッドは投稿レシピに値段は付けません。ユーザーは「私は人の役に立ちたい」という気持ちで投稿する。そういう人たちが集まってどんどん投稿する。なんでやるかといえば、それが楽しいからです。クックパッドは載せることが楽しくなるサービスをひたすら作ってきた。だから探す人の役に立つ。こういうことを開発方針にしいてる会社って、あんまりないと思います。

クックパッドはひたすら役立つものを集めてきた。人の役に立ちたいと思っている人が一生懸命に投稿したコンテンツを集めてきた。クックパッドは今、累計177万レシピで、毎日800から1000レシピが増えてる。最初はそうではなかった。良いコンテンツって、地道に集めるしかないんです。楽には手に入らないし、真摯にサービスを作るしかない。だから投稿者が楽しくなることに集中するのです。

いま、クックパッドでは特売情報ってサービスをやってるんですよ。他にもやっている会社もありますがスーパーの特売チラシ情報を提供するサービスです。クックパッドが一番力を入れているのは、チラシから情報を取るのではなく、スーパーの人に自分で投稿してもらっている情報です。

「今日、これがいいですよ! ほらっ!」という写真を投稿してもらう。スーパーの店長さんが、「これで何人来てくれた!」って楽しくなってくるんですね。クックパッドは、そうやっていい情報を発信する場所を作る。ユーザーの役に立つ、いい情報をどうやって集めるか。そこがクックパッドの主戦場です。

いまぼくが始めているおでかけに関するサービスも、ほぼ同じです。そこに命をかけている。最初のうちは見に来る人のことは考えない。載せる人に集中する。良いコンテンツがあれば、後からユーザーは来ます。クックパッドもつい最近までずっと「レシピを載せるならクックパッド」とサイトに書いてあった。載せる人が宝なんです。

でも、このモデルは最初お金が稼げません。だからベンチャーとしてやるのは難しい。それをどうやってクックパッドは、しのいだんですかっていう話ですけど……、それは創業者の佐野が、水と野菜で生きていたからできたことです(笑)。嫁さんの実家から送られてくる野菜を食べて生きていたから、なんとかなった(会場笑)

やっぱりそういう意味でも、社内で新規事業をやるにしても覚悟が必要です。だけど、やればできる。なぜか? なぜなら大変だからみんななかなかやらないのです。2000年の最初のころは誰もレシピサイトなんてやってなかったし、上手く行くとすら思われていなかった。でも、問題があって問題を解決すれば上手く行く。必要なことなのに、みんながなかなかやるのを躊躇するような大変なところでやれば勝てるのではないかと思います。

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