Diggの共同創業者が得た教訓「ときに、何もしないことも、選択肢に」

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去る6月18日、東京・代官山のOpen Network Labで開かれた「FailCon Japan」。起業家のさまざまな失敗談から学ぼうというカンファレンスが、日本に初上陸したのだ。

多くの起業家や起業を目指す人々の熱気で包まれた会場では、「嵐を乗り切る方法はあるのか? 2度の経済危機で2度の失敗から学ぶスタートアップの防衛術」と題し、キーノートスピーチが行われた。

鳥が死んだのは、誰のせい? シリアルアントレプレナーが得た教訓とは

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スピーカーとして登壇したのは、アメリカから初の来日となったJay Adelson氏。ユーザー参加型のソーシャルニュースサイト『Digg』の共同創業者であり、データセンターを提供する『Equinix』、ネットテレビ・ネットワーク会社の『Revision3』など、1993年から数々の起業を経験してきたシリアルアントレプレナーだ。「こうしてFailConのキーノートに呼ばれたということは、よっぽど大きな失敗をしてきた人物として認識されているのかと思うと、ちょっと微妙なのですが…」と会場の笑いを誘いながら、自宅で起きた、とあるエピソードについて語り出した。

「2週間前くらいに妻がリビングで2匹の猫とくつろいでいたら、鳥が窓にぶつかって大きな音がしましました。妻はデッキに倒れた鳥を助けようと、窓を開けて抱き上げた瞬間に、1匹の猫が宙を舞って鳥をくわえて連れ去り、そのままベッドの下へ。…もちろん、鳥は殺されました。

この鳥が死んだのは、鳥自身のせいだったのでしょうか? それとも窓ガラスにシールを貼っておくべきだった? あるいは、猫を飼っていたことが、いけなかったのでしょうか?

その1週間後、再び同じところに妻が座っていると、また別の鳥が窓にぶつかりました。本当ですよ? でも今回、妻は鳥を助けようとしませんでした。ただ見守ったのです。すると、数分して鳥は自力で起き上がって、飛び去りました」。

この話から得られる教訓は、『ときに、何もしないのも、ひとつの選択肢ということだ』と語るAdelson氏。すぐに動くべきなのか、静観すべきなのかは、すべて状況次第だという。Adelson氏は、それを裏付ける過去に直面した2度の大きな失敗について、話を進めた。

同じ失敗は繰り返さずにいられるのか? ナスダック上場直後に起きたEquinixの悲劇

Adelson氏がAl Avery氏とともに『Equinix』を創業したのは、1998年のこと。今となっては23カ国に拠点を持つデータセンター企業だが、創業から2年経った2000年に大きな危機を迎えていた。2000年と聞いてピンと来た人もいるだろう。そう、ドットコムバブルの崩壊に直面したのだ。

「我々は創業からわずか2年の間に、シリーズAで1200万ドル、次にシリーズBで8250万ドルと、次々に調達を成功させました。シスコやマイクロソフト・DELL・AOLといった投資家が名を連ね、有頂天になっていました。私たちは何でも持っていたんです。お金も、お客さんも、特許も、巨大なデータセンターも。チャンピオンになった気分でした」

しかし、『Equinix』が2000年に上場した直後に、ナスダックは崩壊。史上最悪のタイミングだったとAdelson氏は振り返る。

「資本構成を見る限り、私たちは間違ったことはしていませんでした。あのときがピークだったと、誰にもわからなかったのです。おまけにナスダックに引きずられるように、アメリカ最大手のISP事業社が粉飾決算で経営破綻するなど、電気通信業界の崩壊も始まっていました。そんな中、誰も株を売る勇気は出せず、保有するしかなかった。我々もすでに着手しているデータセンターへの投資をストップすることはできませんでした」

「2001年の9月。ニューヨークで打ち合わせをしていると、CEOから電話がかかってきて、100人の従業員を解雇しなければいけないと言われました。それは当時の『Equinix』の従業員の大半でした。それから間もなく、9.11の同時多発テロが起きたのです。企業のITへの支出は完全に止まってしまい、もうすべておしまいだと思いました」

景気後退の時期を見誤って投資をしたのは大きな失敗だったと語るAdelson氏。一方で、たとえ1年前から支出を抑えていたら生き残れたかもしれないが、それはあくまでも可能性の問題だと語る。

その後、破綻寸前だった『Equinix』に奇跡が起こった。データセンター企業との合併が決まり、3億ドルの資本を投入することができたのだ。そこから息を吹き返したは、今となっては世界でNo.1のデータセンター企業へと復活を遂げている。

同じ轍は踏まずにいられるか? Diggを襲ったGoogleの大惨事とリーマンショック

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次はソーシャルニュースサイト『Digg』での失敗話。『Digg』は2004年にKevin Rose氏とともに立ち上げた。世界初のソーシャルメディアであった『Digg』には、常に買収の噂がつきまとうほど、好調にユーザーが増え続け、資金調達にも何の問題もなかった。2007年5月に著作権の保護に関する問題が発生して、『Digg』の注目度がさらに高まっていた最中、大惨事は起こった。

「当時『Google』にいた現『Yahoo!』CEOのMarissa Ann Mayerから電話がかかってきて、『Larry Pageと一緒に作ろうとしているGoogle Newsで一緒に組まないか』と持ちかけられました。『Google』の存在はあまりにも巨大でちょっとためらいましたが、従業員にとってもユーザーにとっても、利益のあることなのではないかと思いました。かなりの金額を提示されていましたしね」

しかし、2008年の6月、送金される前日になって、突然Googleは手を引いた。

「すべての交渉が終わって合意に至っていたのに、まさかこんなタイミングで白紙になるとは思ってもみませんでした。あと少しで億万長者になれるはずだった従業員や投資家に対して、何と説明していいのか…」

「なんとか再び新しい投資家から資金調達をして、気持ちを切り替えて前に進もうとしていたまさにそのとき、今度はリーマンショックが起こったのです。またしても市場が崩壊しました。けれども今回は『Equinix』のときのように負債となる構築中のデータセンターはなかったし、『Digg』にはまだ多くのユーザーがいる。ここは投資を続けるべきだと役員に対して説得をしました」。

残念なことに、Andelson氏の思いは通じず、その後2010年に『Digg』を離れることになる。残ったRose氏はベンチャーキャピタルの指示に従い、従業員の90%を解雇して『Digg』をリニューアルすることで立て直そうとしたが、ユーザーは『Reddit』へと移ってしまったという。

Andelson氏が2度の失敗から学んだこと

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Andelson氏は講演の中で、Intelの元CEO Andrew S. Grove氏の言葉を度々引用した。

“Our core philosophy for these times is that you can’t save your way out of a downturn. The only way you come out of a recession
stronger than when you went into it is with new products and new technologies.”

“このようなときにおける私たちの中核にある哲学は、景気の下降からは逃れられないということだ。不景気に陥ったときよりも強くなって抜け出す唯一の方法は、新製品と新しいテクノロジーを手にすることである。”

「私は1度目の過ちを教訓にして2度目の嵐に立ち向かおうとしましたが、うまくいきませんでした。その時々の状況によって条件が大きく変わるので、過去の教訓をあてはめることなんて、できないのです。データを見て市場で何が起こっているか把握したあとは、そのときの直感を信じるしかありません。鳥が死んだのは、窓のせいでも、猫のせいでもない」

8回の起業を経て、多くのことを学んだと語るAdelson氏は、「過去の教訓にとらわれず、とにかく何度でも立ち上がることが大切だ」と、会場に集まる起業家たちにエールを送った。