【IT地方の旅】限界集落での起業で、地域が変わり自分も変わる。「たからのやま」社インタビュー

 

140812_ID29_main_580
たからのやま代表:奥田浩美さん

こんにちは。IT地方の旅、レポーター杉本綾弓です。前回に続き、「移住」や「地方で働く」をテーマに徳島県市内から、港町の美波町にやってきました。後編は、“日本中の地域を宝の山に!”を経営理念に、人口8000人の過疎の町で2013年に会社を起業した、たからのやま社の代表・奥田浩美さんと、美波町で「かめさぶろう」という、ゆるキャラクターになり大人気の副社長・本田正浩さんにお話をお伺いいたしました。

取材が出会いのきっかけに

-たからのやま社を作ったきっかけは?

奥田「私は、もともと鹿児島の限界集落と言われるような場所の生まれです。父が倒れて要介護になり、母が孤独を感じていたときに、LINEで母と私、娘、妹、姪のグループを作って会話をしていたんですよ。最初は父の様子を聞いていたけれど、だんだん娘や姪の学校の話など、関係ない会話になってきて。それって『昔の居間だな』と思って。それは他の地域でもやっていく価値があるんじゃないかと思ったのが始まりですね」

 

本田「僕は、TechWaveというIT系のWEBメディアの立ち上げ・運営をしていましたが、本当にITの恩恵を受けるべき人は、東京じゃない、若者じゃない人で、その人たちに普及してこそ、ITの価値があるのではないかと考えはじめて。以前、僕が代表の奥田の取材をした際に、『地域のことをやりたい』って話をしていたのがきっかけで、僕の考えを奥田が継続できる形にしていったという流れです」

-具体的な事業内容を教えてください。

奥田「ITふれあいカフェは、スマートフォンやタブレット端末など、最新のITに関する住民の質問や相談を、現地で雇用した社員が無料で受けています。担当した社員は30分〜1時間ほど相談に乗ると、個人情報を除いた高齢者の興味・背景・相談内容や解決方法をデータ化して蓄積しています。自著の『人生は見切り発車でうまくいく』(総合法令出版刊)の中でも触れていますが、β版を出してから、マーケティングをして、人のニーズや声を反映して、モノを創りだしていける時代です。地域からの声が届く製品開発・サービス改善の拠点が全国各地にできる時代を作れると思っています。地方の高齢者が『使いにくい…』と言うことを、苦情として捉えるのではなく、チャンスに変えて製品につなげていけたらと思います」

140812_ID29_sub1_580
美波町のキャラクター:かめさぶろう(副社長の本田)さん

限界集落の課題は、大きなチャンスに転換しうる

-ITふれあいカフェを、なぜ作ったのですか?

奥田「実は、シリコンバレーに本社を置くような外資系のITイベントなどのプロモーションを行う、株式会社ウィズグループの代表でもあります。

学生時代はインド・ムンバイに行きマザーテレサの施設研究などをして、帰国後『ITは人類を幸せにする』という思いに影響されて、25年間、IT業界で事業を行ってきました。たからのやまは当初、地域とITにフォーカスしたメディア fin.der.jpを作り、地域でのITエンジニアコミュニティーをつなげる活動を続け、今年5月に“ITふれあいカフェ”という地域住民向けの場を作りました。最先端のITを生み出す都会に対し、一見その対極にある方の限界集落だらけの町には、これまた世界最先端の大きな課題、すなわちチャンスが見えてきます。これは東京にしかいなかったら、決してリアリティーを感じられないことです」

本田「スタンスとしては、奥田が全国を飛び回り、僕は東京と徳島をつなぐ。現地の社員は徳島の中をつなぎ、美波町をつなぐ。オンラインでできること・できないことがあるので、オフラインの部分は徳島に来て仕事を行っていますね」

-ITに詳しい人たちを美波町で採用するのは、大変ではありませんでしたか?

奥田「採用する人物像は明確でした。私たちがいなくてもゆくゆく町の人たちで継続していけるように、地元で今まで普通に暮らしてきた人たちです。1人は前半で取材をしていただいた笹田。もう1人は、元美容師の西沢。そして、デザイナーの海老名です。彼もイラストを描いたことがある程度でしたが、今では動画を作っています。誰もスーパースターではありません。どこの町にでもいる人たちを採用したにすぎません」

本田「海老名が『お祭りで、動画を上映したい』などと言ってくれて、社員が自分たちで生み出しました。それが嬉しいです。ちょっと無理かなと思うぐらいの課題があって成長していける。私自身、人を雇うようになってすごく変わりました。それまではフリーランスだったこともあり、自分が何をできるか、という範囲でしか考えていなくて。でも、会社を創りここの地域の人たちを採用してから、このメンバーで何ができるだろう、この人や地域はどのように活かせるだろうと考えるようになりました。たからのやまで働く人たちは、スーパースターではなくて、本当に普通に町に住んでいた人。高齢者も開発の目線で考えると有効な人材であるし、ここにいる人たちの才能や可能性が、たからのやまなんですよね」

140812_ID29_sub2_580
ITふれあいカフェを完成させた後のたからのやま社員:左から海老名智一さん、笹田可枝さん、奥田浩美さん、本田正浩さん、西澤茜さん。(撮影:たからのやま社 本田正浩)

140812_ID29_sub3_580
ITふれあいカフェにて、海老沢さんの制作した動画が流れている様子
(撮影:たからのやま社・本田正浩)

ちょうど取材の日は、うみがめ祭り。近くの大浜海岸では、うみがめの上陸・産卵を祈願する「うみがめ感謝祭」やうみがめの放流が行われます。たからのやま社では、古民家を改築して作られた、ITふれあいカフェの2階を利用して、映像投影をしていました。子どもたちの「すごーい!」という声を聞くたびに、周りの大人たちがうれしそうに見守ります。まさに地域の発見。心温かくなる取材となりました。

全2回に亘ってお届けした「地域への移住」や「地方で働く」ということ、少しは伝わったでしょうか。地方には距離・情報などの面でのデメリットはあるものの、暮らしを考えるととても豊かになれること、そしてたくさんの「たからのやま」が地方に潜んでいることが皆さんにも伝わればいいなと思います。

(杉本綾弓)