「コードは書かない」と宣言する、えふしんが描くエンジニアの理想のキャリアパス

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かつてないほど手軽にネットショップ運営を始められる「BASE」。今年の5月には3億円の資金調達に成功し、今、最も勢いのあるECのスタートアップだ。同社に約2年間にわたって技術顧問として関わってきた「えふしん」こと藤川真一氏が、このほどCTOとしてジョインした。

エンジニアとして名高い藤川氏だが、BASEでは「コードを書かない」と公言している。代表の鶴岡氏の掲げるビジョンを具現化し、サービスを成長させるために、マネジメント業務に徹することを決めたという。藤川氏が考える、エンジニアにとっての理想の組織、そしてキャリアパスについて、詳しく話を聞いた。

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なぜ藤川氏は「コードを書かない」のか?

――BASEでは「コードを書かない」と宣言されていますが、それはなぜですか?

藤川:一言で言うと、コードを書いている余裕がないからということに尽きるのですが、BASEにはすでにある程度の規模のチームがあるので、自分の役割のあるべき姿を考えたときに、各メンバーの成長に期待し、コードを書かないと宣言した方が良いだろうと。

もともとぼくは技術を極めたいと思うタイプではなくて、むしろすでにある技術をありがたく使わせていただくというか(笑)。エンジニアには、技術を追求する「職人型」と、ぼくみたいな「プロダクトマネージャー型」の2つのキャリアパスがあると思っていて。どっちがいいとかじゃなく、「職人型」の人が技術を支えて、「プロダクトマネージャー型」の人がビジネスにコミットするのが、組織として理想だと思っています。

言語のトレンドが変わるということは、特定のエンジニアが置いてかれるということ

藤川:逆に、エンジニアの理想像が「職人型」にだけ偏るのは、リスクがあると思っています。「職人型」はPerlハッカーのような、「コードを書きたい」というモチベーションのエンジニア。これはこれで大事なことなのですが、理想の技術者像がそっちに偏り過ぎると、エンジニアがどの言語を好きか、嫌いかということに、Webサービスの盛衰が影響を受けるという問題があると思っていまして。

でもPerlが流行ったと思ったら、次にRubyの時代が来た、といったように、メディアの上では、どんどん言語のトレンドは変わっていくじゃないですか。その視点では10年先に廃れていない言語なんて、あまりないと思いますし。トレンドが変わるたびにエンジニアのキャリア目標が影響されてしまうのは、エンジニア自身にとっても、企業やWebサービスにとっても、そうなると“ヤバい”と思っています。

そうじゃなくて、「職人型」のエンジニアが楽しく一生働けて、企業もトレンドの波にのみ込まれずに存続するには、“言語に寄らない技術”を身に付けるほかにないんです。最新言語も使いつつ、笑ってPHPのダメなところも受け入れられるようなエンジニアになってほしい。言語の新旧に振り回されるのではなく、「必要ならどんな技術でも使いこなせる!会社として良いサービスを作るんだ!」というレイヤーで考えられるようなエンジニアを育てたいと思っています。

藤川氏の考える「プロダクトマネージャー」の役割は?

――プロダクトマネージャーと聞くと、エンジニアのイメージがあまりないのですが、具体的な役割は?

藤川:会社のステージや提供するサービスによっても違うので、一概には言えませんが、技術者に対してサービス視点でリーダーシップをとる人材です。日々の数字を見て、ビジネスを考えているマーケティングの担当者とコラボレーションして、サービスの成長について技術面から話ができる人材。そういう人材がいない技術者のチームだと、「作っている途中で『これは絶対ダメだろう』と思いながら作っている」とか「仕様を持ってきてください」となってしまうのが、最悪のパターン。そんなミスコミュニケーションを、ぼくらのようなスタートアップがやっている時間はないんですよ。

世間一般のプロダクトマネージャーは、必ずしもエンジニア出身である必要はないと思いますが、技術的にちゃんと同じレベルで言いたいことを言い合える人がプロダクトマネージャーになった方が、サービスにとって大きなメリットになるんじゃないですかね。もし技術を持った人じゃないと言えないことがサービスのクオリティーに影響を与えるのであれば、言えるに越したことはないと思います。ただ、みんな完璧じゃないし、いろんな視点があると思うので、チームとして最大利益を出せるようになればいいかなとは思います。

――「職人型」と「プロダクトマネージャー型」のどちらに進むべきかは、個人の性格で決まるものですか?

藤川:そうですね。コンピューターサイエンスを勉強してきた人であれば、パフォーマンスやコンピューターがどう動いているかをイメージして開発言語を扱っていると思うので、「職人型」の人が多いかな。「職人型」の人が目指すのは、コンピューターのあるべき姿ですよね。一方、「プロダクトマネージャー型」はそこではなくて、ユーザーという人間をこのサービスでどう幸せにするかを考える人。2つのベクトルがあるように思っています。

例えば、「画面に表示される文字を一文字変えます」と言うタスクがあった場合、技術的にはつまらない仕事なので、「職人型」の人は全然やりたくないんだけど、「プロダクトマネージャー型」の人は、それでお客さんの世界が変わるかもしれないと、楽しんでできる。そこで分かれてくるかな。スーパープログラマーと言われる、マーケティングセンスを持ちながらステキなサービスを実装に落とせる人もいますけどね。そういう人はたぶんもうどこかの経営者として会社をやっていると思うので(笑)。会社員エンジニアとしては、「職人型」と「プロダクトマネージャー型」のいずれか自分の適性のある方を極めていくというのが理想かなと。

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プロダクトマネージャー型のエンジニアはどこにいるのか?

—―BASEのエンジニアは「職人型」と「プロダクトマネージャー型」はどのように構成されていますか?

藤川:「プロダクトマネージャー型」のエンジニアリーダーが1人いて、「職人型」を希望する人が1人います。それ以外にまだ見極めていない人が5〜6人います。すぐどちらかに決めなければいけないわけではないし、強制もしません。ただ、自分の進みたい将来を聞いて、向いていそうな方向は意識して仕事の役割に反映していくつもりです。希望としては「職人型」を目指す人は自主的に言語の勉強をしたり、人のソースコードを読んだりしてほしいし、「プロダクトマネージャー型」の人はマーケティングや心理学の本を読んだりしてほしいですよね。そうやって趣味的にインプットしたものが、アウトプットとしてサービスに返ってくるべきなので。

—―採用市場に「プロダクトマネージャー型」の人って、いるものですか?

藤川:まだ明確な役割になってない分、なかなか見つからないですね。Facebookのぼくの友達にはいっぱいいますけど(笑)。職人的なスキルの方が可視化されやすい状況ですよね。プロダクトマネージャーは縁の下の力持ちなので、日本だと評価が低いんですよね。まだまだこれからだと思います。

採用のときにも人材のタイプは見てはいるんですけど、言葉だけではわからないので経験を通じて育てるつもりです。例えば、ただ機械的に仕事を振るのではなくて、なぜそれをするのか、しなければいけないのか、それをするとどう変わるのかといったことを示しながら、設計のレビューなどを通じて、だんだんハードルを上げていく。独立や転職するときに、「俺はこれだけBASEを育てた」と胸を張って言える人間をどれだけ育てられるかだと思っています。

エンジニアはプロスポーツ選手と一緒で、若い方が強い。エンジニアが一生楽しく働ける世の中に

—―藤川さんがエンジニアのキャリアパスについて深く考察される理由って、何ですか?

藤川:ぼくもう40なんですよ。エンジニアって、ある種プロ野球選手やサッカー選手と同じで、最新の技術の習得に関しては若い人の方が絶対に強い。技術のトレンドの波に乗り続けるのは、おっさん的につらいなと思ったんですよね。究極のポジショントークかもしれないです。でも、ぼくがフロントランナーとしてロールモデルになれたら、これからアラフォーになる人たちが悩まなくて済むはずなんです。

コンピューターを扱う産業の中でもWebって素晴らしいと思っていて、HTMLに書いてある文字や画像で人に幸せを提供できるなんて、それまであまりなかった仕事だと思うんです。そういう情報の入出力を扱うエンジニアが、プレーヤーとして楽しく働き続けられるよう、ちゃんとキャリアに反映される世の中にしていきたいなと思っています。

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(野本纏花)