「teamLabCamera」の制作秘話から探る。チームラボが新しい企画を量産できる理由

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古くは奈良時代に「市(いち)」の目印として用いられたことに端を発する屋外広告。1900年代には電飾を施したネオンサイン、そして近年ではディスプレイに画像や映像を映すことのできるデジタルサイネージへとその姿を進化させている。一方でそんな屋外広告の歴史においてエポックメイキングなプロダクトが現れた。それがteamlab(チームラボ)が開発した、「teamLabCamera(チームラボカメラ)」だ。

teamLab(チームラボ
チームラボは、プログラマ・エンジニア(UIエンジニア、DBエンジニア、ネットワークエンジニア、ハードウェアエンジニア、コンピュータビジョンエンジニア、ソフトウェアアーキテクト)、数学者、建築家、CGアニメーター、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、絵師、編集者など、スペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。サイエンス・テクノロジー・アート・デザインの境界線を曖昧にしながら活動中。

 

同社が開発した、「teamLabCamera(チームラボカメラ)」はサイネージの前に立つと自動で撮影が始まり、撮影した写真をFacebookやTwitterに投稿できるデジタルサイネージである。背景の切り抜きや顔認識、合成、360度撮影などの技術を利用した、さまざまなエフェクトを楽しむことができる、いわば「進化版プリクラ」だ。

これまで一方通行であった屋外広告に、双方向性をもたらしたという点において、革新的な同プロダクト。今後は屋外広告の世界にもIoTのトレンドの波が訪れる、そんな未来を予感させてくれる。

スマートフォンのカメラアプリのように、さまざまなエフェクトのテンプレートを用意することのできる同プロダクトは企業やブランドとタイアップし、オリジナルのテンプレートを制作。全国各地のイベント会場に設置され、イベントの世界観をデジタル上に拡張させている。

今回「teamLabCamera」の担当である、チームラボのカタリスト中村洋太氏に同プロダクトの開発エピソードを伺った。インタビューから浮き彫りになった、チームラボが新しいモノを次々と生み出せる背景とは?

※カタリストとは…“触媒”を意味する英単語。モノとモノを編集したり、組み合せることで新たなモノを生む、いわば化学反応を促進する役割を担う。チームラボの場合、デザイナーやプログラマーに化学反応を起こさせる触媒として働く人のこと。

思わず「いいね!」したくなる「teamLabCamera

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チームラボのカタリスト、中村洋太氏

——teamLabCameraが生まれた経緯を教えてください。

2010年に小学館さんから「30周年記念で何かできないか」というお話をいただいて作った「オリジナルスピリッツ表紙を作ろう!! –『ビッグコミックスピリッツ』創刊30周年プロジェクト」が原型です。それが面白かったので、プロダクトとしていろんなお客さまに提供しようということで汎用化しました。

「teamLabCamera」もそうですが、こうした施策はお客さまの中で「こんなのを作りたい」という明確で具体的なイメージがあるわけではないので、ヒアリングをする中で「こんなのがあるんですけど、どうですか」と弊社がもともと温めていた技術を提案して始まることが多いですね。

*『ビッグコミックスピリッツ』創刊30周年プロジェクト…デジタルサイネージの横に付属したカメラで自らを撮影すると、ビッグコピックスピリッツの表紙に自分の姿が合成される。できあがった表紙はQRコードで携帯電話にダウンロード可能。

——「teamLabCamera」を導入されるクライアントさんは、集客が目的なのでしょうか。

長期間やっているイベントだと、ダイレクトな集客が目的だと思いますね。ただ、スポットのイベントで導入されることも多いので、直接的な集客というよりは、「teamLabCamera」で写真を撮って楽しい思い出を作ってもらい、さらにその写真を見た友達もFacebookを通じて、ブランドに接して良いイメージを持ってもらえるところに高い評価をいただいています。

ソーシャルメディア上の友達の情報から、「今度どこに行こう」とか、「何を買おう」とか、チェックすることも増えているじゃないですか。ただ宣伝を投稿しても「いいね!」って、なかなかしてもらえないと思うんですけど、自分や友達の写真だったら「いいね!」したくなりますもんね。

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社内にも設置されていた

エンジニアたちの“遊び”を“仕事”に膨らませていくこと

——「teamLabCamera」に携わっている人数は?

ずっと同じメンバーが携わっているわけではないのですが、コアなメンバーは2〜3人で、プロジェクトによって別のエンジニアが入って、新しい機能をつけて進化させています。

うちの特徴として、エンジニアが遊びで勝手に新しい技術を研究していることが多くて、エンジニアに相談すると、「こんなのありますよ」とか「やりたいです」と言ってくれるんです。「teamLabCamera」も顔認識や人物認識をやっていた人に入ってもらって作りました。

プロジェクトになるとディレクターやデザイナーが入るし、違う分野のエンジニアが入ることで、自分がやっていた遊びの範囲がどんどん膨らんで、より高次元のものに変わっていくので、エンジニアもきっと楽しいんじゃないかな。

——teamLabのエンジニアさんは勉強熱心なんですね。

基本的にみんなすごく忙しいんですけど、土日にも勉強会に行っていたりするんですよね。それは今の仕事に直接関係がなくても、未来の仕事に反映されるので。みんな良いものを作るのが本当に好きなんだと思います。

——エンジニアさんが仕事外で勉強されている内容を、どうやって把握されているのですか?

エンジニアだけで300人近くいるので、把握はしていないです。困ったときに、適当に声をかけて聞きますね。声をかけられたエンジニアも自分が適任じゃないなと思うと、誰に聞けば良いか教えてくれます。

例えば、「teamLabCamera」に音楽を入れたいとなったときは、音楽好きな子の隣にこっそり行って、お願いしてやってもらいました。自分の好きなことだと、声をかけられたらうれしいじゃないですか。僕らとしてもクオリティーが上がってうれしいし、お客さまにも喜んでもらえるし。もちろん、もともとやっている仕事も完璧にやりつつ、プラスαでできる人を選ぶんですけど。

「自分が作ったもので喜ぶ人がいること」が開発者の動機になる

——忙しいエンジニアさんに“良いものを作りたい”と思ってもらうために、どんな工夫をされているのですか。

何を作ったら人が喜ぶかなんて、究極的には実際やってみないと誰もわからない。けれど、「この作業をやってくれたらお客さまが喜ぶ」というゴールを丁寧に伝えて、エンジニアたちにイメージしてもらうことができたら、喜んで作ってくれますよ。

例えば、評判が良かったときは、お客さまから来たメールを見せると、喜んでくれますね。Webサービスでは、喜んでいる人の顔が見えにくいので鈍感になりやすいんです。けれど、「ECサイトで売上が上がった」など、お客さまが喜んでくれている反応をエンジニアにフィードバックすれば、「自分が作ったもので喜んでくれる人がいる=良いものを作りたい」と自然に思ってくれるはずです。

クライアントの理解があるからこそ、テクノロジーの進化は生まれる

——「teamLabCamera」は、この夏から動画撮影にも対応されたそうですが。

はい。以前から動画をやりたいと、ずっと思っていたのですが、Facebookのタイムラインで自動的に動画が流れるようになったこともあり、導入に踏み切りました。ちょうどその頃に、エイベックスさんが手がけている海の家「avex beach paradise powered by UULA」で「teamLabCamera」を導入したいとお話をいただいて、「海の楽しいテンションを動画で届けよう」と企画・開発しました。

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「UULA Movie Camera -ムビカメ-」のFacebookページでは、投稿された動画を見ることができる。

 

エンジニアが作っていたプロトタイプがあったので、それをお見せしたら「やりましょう!」という話になったものの、実は製品としては完成していなくて、海開きの7月1日には間に合いそうになかったんですね。でもダメ元で「オープンまではプロトタイプですけど、いいですか?その代わり、7月21日の海の日までにはパワーアップさせるんで!」とお願いしたら、「いいですよ」と言っていただけて。…奇跡ですよね(笑)。

そこから現場の空気が変わって、「海の日までになんとかしよう!」が合言葉になりました。エイベックスさんも現場に行かれてお忙しいので、LINEでグループを作って、細かなやりとりはLINEチャットでポンポンとやりとりしながら進めていきました。

至極普通のことかもしれませんが、新しいことをやるときって、僕たちだけがやりたいと思っていてもダメなんです。お客さまもやりたいと思っていて、かつ寛容じゃないと厳しい。実際に作業に取りかかると想定外のことって絶対に起きるので、最初から完璧を求められてしまうと、安全を担保できるところまでで止まっちゃうんですよね。でもエイベックスさんみたいに、「じゃあこうしましょう」、「やりましょう」って言ってくださると、僕らも前向きになれるし、きついけど頑張ろうと思えるので、ありがたかったです。

——「teamLabCamera」の今後の展望は?

今はまだ期間限定のイベントが多いので、常設を増やしていきたいですね。お客さまや「teamLabCamera」で遊んでくれる方みんなが「こうなるとうれしいよね」と感じる部分を反映させながら、今後もたくさんの人のところに届けていきたいと思います。

最近だと、東京・新宿のグッチ(GUCCI)でチームラボの新作「Infinity of Flowers」を展示したり、梅田阪急のGUCCIさんで期間限定で「teamLabCamera」の導入を行ないました。このような企画は続いていきますので、様々な場所で「teamLabCamera」の楽しさに触れてもらえたらうれしいですね。

*Infinity of Flowers…コンピュータプログラムによって、リアルタイムで東京に咲く華を描き続けるインスタレーション作品

(野本纏花)