今後のメディア業界にはパブリッシャーが必要。「SmartNews」松浦茂樹氏インタビュー

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SmartNews」、「Gunosy」、「NewsPicks」、「Antenna」など、ニュースキュレーションと呼ばれるサービスが数多く登場している。その多くは大型の資金調達を行い、TVCMを打ってプロモーションを行っている。複数のプレイヤーによる競争が激化しており、戦国時代と表現してもおかしくない状況だ。

その中でも動きが目立つのは「SmartNews」だ。今年の8月に約36億円の資金調達を実施10月にメジャーアップデートを行い、「SmartNews 2.0」をリリース。リリースに合わせて日本語版だけではなく、米国版の提供も開始し、現在は500万ダウンロードを突破している。

「SmartNews」の動きが目立つ理由のひとつに、数々の人材の参画が決まっていることが挙げられる。中でも、ハフィントンポスト日本版の初代編集長を務めた松浦茂樹氏の参画は大きな注目を集めた。

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松浦氏は東京理科大学卒業後にエンジニアとしてキャリアを開始。2004年からライブドアでポータル部門の統括などに携わり、コンデナストで日本版「WIRED」のウェブエディター、グリーで「GREE ニュース」を経て、2013年3月からハフィントンポスト日本版編集長として同サイトの立ち上げを担った人物。

松浦氏はハフィントンポスト日本版編集長に就任した当時、目標として月間1000万UUを掲げていた。この数字は、就任から1年ほどで達成されることになり、退任するまでの1年半で月間1300万UUのウェブメディアに成長させた。「こんなに早くクリアできるとは思っていませんでした」と松浦氏は語る。

グローバルブランドになり得るメディア

目標としていた数字をクリアした松浦氏は次の挑戦の舞台をスマートニュースへと移す。様々な声がかかっていた松浦氏が、行き先をスマートニュースに決めた理由は「良質な情報をすべての人へ」という理念に共感したからだという。

スマートニュースは「SmartNews 2.0」のリリースに合わせて、米国版をリリースしており、Re/code、The Verge、Quartzなど数多くの有力メディアと協業を開始している。米国メディアとの協業は今後も拡大予定となっている。

スマートニュースへの加入にあたっては、松浦氏の中で挑戦したいと思える環境が整っていたことも大きい。ハフィントンポストは、アメリカから日本へのチャレンジだった。今回、スマートニュースでは日本からアメリカへ、というチャレンジとなる。ハフィントンポストでもモバイル版は運営していたが、スマートニュースではスマホアプリ上での戦いとなるため、よりスマートデバイスに特化することになる。

「TOYOTA、SONY、任天堂など、日本の会社はグローバルブランドになり得ています。ネットの世界観で言うとLINEが絶賛チャレンジ中ですが、日本から生まれ、グローバルブランドになり得るプロダクトに関わりたいと思いました」

パブリッシャーとしてのチャレンジ

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松浦氏は、自身のことをライターでもエディターでもなく、パブリッシャーだと位置づけている。コンテンツに手を加えるのではなく、できあがったコンテンツを読者に送り届けることを得意としている。

「スマートニュースであれば、パブリッシャーの領域を極められるのではと思いました」と、スマートニュースでの意気込みを語る。

松浦氏がスマートニュースで担う役割はメディアコミュニケーションディレクター。「SmartNews」を通じてコンテンツを配信するメディアとコミュニケーションをとり、預かったコンテンツを読者へと届ける橋渡しのような存在だ。

スマートニュースが独自コンテンツを作らない理由

メディアとリレーションを築いていく上で、最も大切なこと。それは「作り手へのリスペクトを持つこと」だと松浦氏は語る。コンテンツはメディアから預かっているものであり、それを読者に届けること。全体を通じてこの考え方を大切にしているという。

「私のスマートニュースでの役割は、一次コンテンツの作り手をしっかりと見ること。そして読者の期待に対して適切なコンテンツを届けていくこと。作り手と読み手の両方を見て、つないでいく橋渡しのような役割です」

作り手へのリスペクトを持っているからこそ、スマートニュースは独自コンテンツを作成しないという立場をとっている。自分たちでコンテンツを作り始めると、作り手へのリスペクトを持つことが困難となるからだという。

自分たちでコンテンツを作らずとも、作り手と読み手の架け橋となることで価値が生まれる、松浦氏はそう考えている。

編成は、例えるならコンビニの品揃えを考える作業

ハフィントンポスト日本版では編集長という肩書だった松浦氏は、スマートニュースでの役割を、“編集”ではなく、“編成”だと語る。編集と編成の違いは一体どこになるのだろうか。辞書をひくと、編成とは個々のものを集めて組織的なまとまりとすることを指す。

コンテンツ自体に手を加える“編集”に対して、メディアから受け取ったコンテンツのラインアップを読者に最適化するという意味で、スマートニュースは“編成”だといえる。またラインアップを決める行為の中にも“編成”と“編集”があるという。

「編成を例えて表現するなら、コンビニの品揃えを決める仕事です。コンビニは色々な人々のニーズに合わせて、日用品から雑誌、食べ物まで、様々なものが揃っていてとても便利な場所です。編集したお店だとイメージはセレクトショップのようなものになり、入口を限定したものとなります」

もちろん、コンビニはただ品揃えが多ければ良いわけではない。良いコンビニとなるには、顧客のニーズに応え、トレンドを押さえて商品を揃えている必要がある。顧客のニーズに応えるためには、押さえておくべきメーカーの商品を揃えておきつつ、店舗が位置するエリアの特性に合わせたラインアップにすることが必要だ。

「たとえば、コカコーラが置いていないコンビニはないと思いますが、発泡酒が置いていないコンビニはあるかもしれない。この前聞いた話では、渋谷のコンビニではとても高価なワインが置いてあったそうです。これもひとつのラインアップのあり方かなと思いますね」

スマートニュースではこうしたラインアップ的な作業は、アルゴリズムが行っている。トピックごとにソーシャルメディア上で話題になっているものがアルゴリズムによって分析され、記事がユーザーに提供されている。

店舗の特性によって置かれる商品は変化する

 

小売店舗にはセブン-イレブンがあり、ドン・キホーテがあり、ヴィレッジヴァンガードがあって、それぞれ似ている部分はありながらも、すべてがセブン-イレブンに代替されるわけではなく、切磋琢磨し合っている。メディアにおいても、スマートニュースだけにすべてのコンテンツを集約する必要はないと松浦氏は考えている。

商品もその特性によって置かれる小売店は変化する。コンテンツも特性によってどのサービスに配信するのが良いのか選ばれるべきだと松浦氏は語る。松浦氏がスマートニュースのブランドに合ったメディアからコンテンツを預かり、アルゴリズムがユーザーのニーズを把握してコンテンツを並べて提供していく。

では、同様にアルゴリズムを用いて記事をレコメンドする他サービスとの違いはどこになるのだろうか。

アルゴリズムに思想を与えるとは?

先ほど編成について触れたが、スマートニュースでも編成はアルゴリズムによって行われている。

「アルゴリズムにも思想を与える必要があります。この思想の部分が異なると考えています」と松浦氏は語る。

この思想とはどのようなものなのだろうか。スマートニュースでは、しっかりと作られているテキストコンテンツ、作り手の思いが正直に伝わるコンテンツを届けられるアルゴリズムを開発している。情報を受け取った側がどう感じ、どう行動するかを考えた上で情報を届けようとするメディア的思想とも言うべき味付けがそこに加えられている

能動的なアクションを促す設計

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また、テクノロジーにすべて任せ、配信メディアからの情報を届けて終わり、ではなく、スマートニュースにはユーザーに能動的なアクションを促す機能が備わっている。

それはユーザーが自分でメディアを選び、チャンネルとして追加することが可能な専用コンテンツチャンネル「チャンネルプラス」だ。この「チャンネルプラス」の購読者総数は10月上旬時点で1000万人(複数購読者は重複してカウント)を超えている。

何を「良質な情報」と捉えるかは、人によって差異がある。ユーザーにとって良質な情報を提供するためには、選択肢を用意しておき、求めている情報に合わせて自らにチャンネルを選んでもらう必要がある。

「私は物事を数字で考えることが多い人間ですし、数字に基づいて判断することも多いです。ですが、ロジックだけの世界は無味乾燥になってしまいます。そこに人の要素や、おもてなしの要素をどう加えられるか。完全に受動的で選択の余地がないことは良いことなのかは疑問です。人が考えることを放棄してしまわないように、ユーザーが能動的になれる部分を残しておきたいと思います」

コンテンツを作るのも人であり、受け取るのもまた人だ。その橋渡しを行うスマートニュースも、技術を駆使しながら、人の要素を出そうとしている。こうしたところもアルゴリズムに影響を与える思想なのかもしれない。

今のウェブメディア業界にはパブリッシャーが足りていない

スマートニュースで松浦氏は、メディアと読者の橋渡しを行っていく。メディアからのコンテンツを預かるだけにとどまらず、スマートニュースで得られたデータをメディア側にフィードバックしたり、改善策を提案するなど、メディアを成長させるためのアクションもとっていく。

これまでのキャリアで、コンテンツプロバイダーから、プラットフォームまで幅広く経験してきた松浦氏だからこそできるアドバイスがあるはずだ。

今、ウェブメディアに関わるプレイヤーは、それぞれの役割が曖昧になっている。「今はコンテンツの作り手はたくさんいますが、伝え手は足りていません。読者にコンテンツを届けるパブリッシュを担う人が増えていくと良いなと考えています」

メディアと読者の橋渡し役を担い、相互に影響をもたらす松浦氏のようなパブリッシャーは、メディアと読者を仲介するコミュニケーターのような存在だと感じる。この役割を担う人が増えていけば、メディアをめぐる環境はプラスに向かいそうだ。

松浦氏の「メディアコミュニケーションディレクター」という肩書は、将来色々なところで目にするものになるのかもしれない。