B2B経験者は要りません、トレタ中村仁さんの強みは「ターゲット、俺」

スタートアップ、そして起業家という言葉。ついつい威勢がいい若者の姿を想像してしまいがちだが、もちろん、いいオトナだってしっかり結果を出している。

アスキー主催のイベントで、飲食店の予約台帳アプリ「トレタ」を提供するトレタ代表の中村仁氏が、自身の起業の経緯やトレタ開発の裏側について講演。かなり初期のアイデアを元にしたスケッチや、ラフなど貴重な資料が初めて公開された。

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中村氏は大学卒業後にパナソニック入社。そして広告代理店に転職した後、2000年から飲食店を経営してきた。六本木にある「豚組」などが有名だ。「食文化を豊かにできるような仕事をしたい」とずっと考えており、それが高じてIT分野の技術を使ってより食文化に貢献できるよう、インターネットサービスを提供する会社を興すに至ったという。そして2013年7月にトレタを設立した。

実際、中村氏も年齢に関しては「けっこうコンプレックスだった」と明かす。独立して飲食店を始めたのが30歳。IT業界で最初のベンチャー企業を立ち上げたのは40歳目前の頃だった。周りの起業家はほとんど20代で、「僕だけ異質に年寄りなので、年齢のところですでに遅れをとっているんじゃないか思うこともありました」と打ち明けた。

一方で、それまでの社会経験が確実に活かされた成功パターンでもある。なにしろトレタという製品は「ターゲット、俺」である。中村氏自身が飲食店の現場に立ってきた経験からずっと抱えていた課題があるため、それさえクリアできるものを作れば、自ずと良いサービスになるというわけだ。

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飲食業界はまったく情報化が行われていないそうで、予約管理はほとんどが手作業。まだ20〜30年前のやり方がほとんどそのまま残っている状態だという。いまも飲食店はお客さんから電話で予約の問い合わせを受けて、紙の台帳に記入する流れが一般的。これがとても非効率で、ミスの温床になっているのだ。

中村氏はそれを解決するようなサービス、アプリの登場を待っていたが、一向に現れなかった。「僕自身が欲しいと思うものを誰も作ってくれなかったので、しょうがない作るかっていう感じです。なので、単純に『ターゲット、俺』っていうことなる」と起業した経緯について語った。

トレタはタブレットとアプリ、クラウド技術を用いて、飲食店の予約管理を支援するアプリ。これまでの紙の予約台帳を置き換えるものだ。トレタ導入店舗の店員は、お客さんから予約の電話を受けると、紙の台帳にメモするのではなく、iPadでトレタアプリに入力していく。

電話番号を打ち込むだけで、その人が常連さんであればアラートが出る。iPadの内蔵マイクで会話を録音しているため、聞き間違いが起きにくい。予約受け付けを完了すると自動でリマインドのSMSが飛ぶ。予約のデータはクラウドで管理しているため、どこからでもアクセスできる。現場から出た発想がトレタには盛り込まれている。

これによって店舗の現場が変わるという。「ブラック企業だとかよく言われる飲食業界ですが、うまく情報化をすることで、お客様の満足度が上がり、常連さんが増えて、働く人のやりがいも増す」との展望を中村氏は持っている。

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店舗経営の視点から、予約台帳アプリ「トレタ」を作る上で重要な課題は3点あると認識していたそうだ。1つ目はすでにある店舗のオペレーションを変えなくて済むこと。2つ目はトレーニングが不要であること。3つ目は使えば使うほど成果が出ること。

つまり、前提条件として誰でも簡単に操作できるシンプルさが不可欠。そうでなければ現場への導入は困難であるということである。そのため、エンジニアはBtoB向けのシステム構築などの経験者ではなく、ゲームなどのコンシューマー向けアプリの開発者を揃えたという。

この点は徹底していて、「BtoBの経験者、うちに入ってこなくていいです」とまで言い切る。BtoCのアプリやゲームを作る感覚でデザイン・開発しなくては、誰もが直感的に使えるアプリは生まれないという考え方だ。そうやってできたトレタのアプリのUIは以下の動画で確認できる。中村氏は「銀行のATMでお金が下ろせる人だったら誰でも使えるようにしようということをベンチマークにした」と話す。

トレタのプロジェクトを検討し始めた当初は、中村氏自身も成功するかどうか半信半疑だったという。今回、アイデア段階のスケッチから初期のデザイン、調査段階のモック画像などをいくつか初出の資料を公開してくれた。こうして何枚も絵を描きつつ、「確信を持って始めたわけではなくて、堅くやっていった」と振り返る。

1.アイデア

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「自分でお店を経営していて、予約の台帳がすごく大変だという着想がありました。まずはそのアイデアを絵に描いてみた。これ本物です。こんなレイアウトでやりたいとか、予約のリストはこんな感じでとか描くわけですよ」

2.ラフ

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「デザイナーさんにお願いして、ちょっとデザインを起こしてもらいました。さっきの絵がこんな感じに。絵だけですので、動きません」

3.調査

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「デザインを画像ファイルにしてiPadに入れて、知り合いの飲食店とかいっぱい回ったんです。iPadで実際に見せると本物のアプリに見えるので、『ここ触るとこうなります、ここはこうなります』ってパラパラ漫画みたいに見せました。モックの手前の段階ですね。こんなのあったら使います?って聞いて回って、『これだったら欲しい。作って作って』という引き合いが非常に強かったので、やっと初めていけると思いました。ここまでは半信半疑でした」

4.ワイヤー

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「20社くらい回って、ヒヤリングした内容をワイヤーフレームに落としました。ワイヤー作ってる途中で縦画面は使いづらいと気づいて、横画面に直して、またワイヤーにしました」

5.デザイン

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「遷移図を作って、これを踏まえて仕様書を作って、デザインに起こしました」

中村氏が「これならいける」と確信を持ったのは調査のところからだという。2013年5月頃のことだった。そしてトレタがサービス提供を開始したのはその約半年後、2013年12月だ。

ビジネスモデルは月額課金。順調に加盟店が伸びており、サービスインから10カ月たった現在、登録店舗数は1500に上るという。「飲食店向けのこの手のサービスとしてはかなり異例のスピード」だそうだ。

トレタで扱った予約の件数はすでに58万件で、人数に換算すると360万人だという。9月にはユーザー向けにウェブ予約の仕組みを公開した。店舗向けの予約管理システムだけでなく、お客さんの入り口もトレタが持てることになる。これにより外食×ITサービスのインフラへの道も拓けるかもしれない。