技術は手段にすぎない。クックパッド勝間氏が語る、いかにして「ユーザーファースト」を実現するか?

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長年ユーザーに愛され続ける料理レシピのサイト「クックパッド」。1998年のオープン当初から今に至るまで変わらない基本機能が「レシピを探すこと」「レシピを投稿すること」。この、ユーザーが行える2つの機能のうち「レシピ投稿」の利用体験を最大限に向上させることをミッションに掲げるのが、同社のレシピ投稿推進室です。クックパッドの財産である、ユーザーからのレシピ投稿を、どう捉え、どのようにユーザー体験を向上させようとしているのか、室長の勝間亮さんにお話を伺いました。

「レシピを投稿する」に特化した専任チーム「レシピ投稿推進室」

2009年にクックパッドに入社してから5年を迎えた勝間さん。大学では情報系学部を専攻し、研究室の先輩が立ち上げたベンチャー企業に新卒入社。P2P(Peer to Peer)の技術を使った動画配信の自社サービスを開発。その後3年ほどして、自社開発したWebサービスで、ユーザーに直接価値を届けるような仕事がしたいと、クックパッドに転職しました。

今年の5月に、レシピ投稿推進室の室長のポジションに就く以前は、検索部門、Happy Author部(レシピ投稿推進室の前身)、新規事業開発部、サービスデザイン部、有料会員向けのサービスを手掛ける会員事業と、さまざまな部署を渡り歩いてきました。

クックパッドの創業者である前社長の時代から言われ続けているのが、「ユーザーのことを一番に考える」ということ。社内では、それを象徴する「ユーザーファースト」という言葉が頻繁に飛び交います。「それって本当にユーザーのためにいいの?」と問いかけるプロダクト作りの文化が、深く根付いているのです。勝間さんが経験したクックパッド事業の各部署と、その他の新規事業でも「ユーザーファースト」は徹底されていました。

クックパッドの主な利用目的である「レシピを探す」と「レシピを投稿する」。その中でも「レシピを投稿する」を専任で見る部署として、レシピ投稿推進室が発足したのが2011年。現在のチームは、エンジニア2名、サービス開発のディレクター1名、残りを「ガイドグループ」のメンバーが占めています。ガイドグループでは、クックパッドに投稿される「レシピ」や「つくれぽ」などのコンテンツを目視でチェックし、クックパッドが設ける基準に沿っているかを見極めます。

「レシピを投稿してくださった方が、『クックパッドにレシピを投稿して良かった』と思えるかどうか。そのための機能や仕組み、コミュニティを育むことが僕たちのミッションです」

Androidアプリの改修で、レシピ投稿数が右肩上がりに

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現在、レシピ投稿が多く行われるのはPCとiPhoneアプリです。それを少し下回ってAndroidアプリが続きます。古くからの投稿者はPCを使い、最近投稿を始めたユーザーはアプリを活用する傾向があるそうです。これらのさまざまなデバイスで、レシピ投稿のユーザー体験を横断的に見ています。

今年の夏には、Androidアプリのレシピ投稿機能を全面リニューアル。以前のバージョンでもレシピ投稿はできましたが、「レシピを探す」機能に比べるとUIが古く、改善の余地がありました。レシピを投稿しやすくなるよう全面的に見直したところ、横ばいだったAndroidアプリからのレシピ投稿数が右肩上がりになりました。

以前のバージョンでのレシピ投稿のエディター画面は、「材料」「作り方」「それ以外の情報」の編集カテゴリを明示的に分けることで、レシピ投稿のしやすさを狙ったものでしたが、UIのパーツが「レシピを探す」ものに追従できておらず、タイトルや写真よりも材料を最初に入力する形になっているなど、レシピ投稿の観点で改善の余地が多いものでした。レシピエディタについても、UIパーツを「レシピを探す」のものと統一することで、より直感的な操作を実現することができました。

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Androidアプリ改修前
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Androidアプリ改修後

ユーザーファースト推進部など、他部署間で集まって行う事前レビュー

ユーザーが抱えている課題をもとに、どんな機能や改善が必要なのかを話し合うことから始まる開発プロセス。クックパッドの「ユーザーファースト」の鍵を握るのが、開発に着手する前のタイミングで行う設計レビューです。どんな目的で、どんな機能を作るのか。その仮説を、関係しそうな他部署を含めたメンバー間でレビューし、方向の妥当性を確認します。

ここで大事な役割を果たすのが、UI(ユーザー・インタフェース)やUX(ユーザー・エクスペリエンス)を見るユーザーファースト推進部です。明確な目標を掲げて動く各部署の案件を、客観的な目で見てレビューする機能を担っています。

「僕たちのチームの目的は、レシピ投稿の体験を良くすることが最たるものです。どうしてもバイアスがかかってしまう部分を、ユーザーファースト推進部がフラットな目線で見てくれることで、気づきを与えてくれます」

ユーザーファースト推進部の提案は、UIの具体的な改善点から目的そのものの捉え方に至るまで多岐にわたります。例えば、Androidアプリに追加する予定だったのが、レシピを投稿する人向けの「お知らせ欄」。つくれぽ をはじめ、レシピ投稿者にとってのうれしい出来事や、レシピコンテストのお知らせなどの告知をまとめて知らせるためのスペースです。

当初、レシピ投稿推進室は、お知らせ欄を左サイドバーに固定で設けることを考えていました。それに対して、「『つくれぽが届いた』などの投稿者個々人に向けた情報と、レシピコンテスト開催など一般的なお知らせを一カ所で通知することはいいことなのか。一般的なお知らせを、より自然に受け取れる場所はないか?」とユーザーファースト推進部から指摘を受けました。結局、一般的なお知らせは、自分のレシピがどれだけ見られたかがわかる「キッチンレポート」の「活動記録」の中に表示することに。

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「キッチンレポート」の「活動記録」

「自分のレシピをどのように活用したかを振り返る中で、レシピコンテストへの応募履歴とあわせて、レシピコンテスト開催のお知らせもわかるようにしました。コンテキストを考えて、より自然なフローの中に盛り込む。ユーザーにとって一番いいことを考えることがミッションであるユーザーファースト推進部との、絶対的な信頼関係が役立っています」

聞くけれど、聞き過ぎない、ユーザーからの声

クックパッドが頻繁に行うユーザーインタビューは、決して、決まった部署や一部の人に限って行われるものではありません。エンジニアからデザイナーまで、さまざまな役割を担う人間が、必要だと思ったタイミングで実施するもの。その多くは、ユーザーの生活を知り、そこにある課題を探り出し、検討する課題解決へのアプローチが適切であるかをヒアリングする目的で行われます。

ユーザーからの意見や要望を起点に、さらにはユーザーファースト推進部のレビューを経て作った機能でも、思ったように使われないことは往々にしてあると話す勝間さん。社内でも有名だという例が、レシピにメモを残せる「メモ機能」です。「個別のレシピにメモを残したい」という要望が多かったため、プロトタイプを作ってリリースしてみたところ、全く使われませんでした。

「ユーザーが”欲しい”と口で言っていることと、実際の行動が乖離することはよくあります。メモが欲しいと言っているけれど、本当に欲しいのはメモじゃない。その先にまだ何かあるはずなので、そこを解明する必要があります。ユーザーの声だけでなく、ユーザーの行動に目を向けて見極めることが大事だと思います」

実際のところは、機能を出してみないとわからない。出しながら、少しずつ改善していくしかないのです。

ユーザーファースト実現のための社内コミュニケーション

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メンバーの一人一人の努力に加えて、部署間連携で強化されるクックパッドのユーザーファースト。具体的な様々なミッションを掲げる部署が、ユーザーの課題解決をするという共通目標の実現に向けて、共に1つのプロダクトを作るためには、普段からのコミュニケーションが欠かせません。クックパッドには、それを実現するための3つの習慣があります。

まずは、開発レベルで行う「コードレビュー」。「いいライブラリがあるよ」「ここはデータ構造に気をつけて」などとアドバイスし合い、きれいでわかりやすいコードが書けているかを、部署を越えて、エンジニア同士で確認します。また、変更前と後の画面キャプチャを提示し、ユーザーにわかりやすいUIになっているかも確認。ユーザーにとって心地良い体験になっているかを、さまざまな作り手がその都度確かめることで、ユーザーファーストが徹底されています。

施策レベルで重要だと言うのが、部署をまたいだ「横断的ミーティング」。例えば、勝間さんが参加する週1回の「プロダクト編成会議」では、各部署のマネージャーが集まり、進行中の施策やプロジェクトを共有し、既存の機能について意見交換します。ユーザー体験を損ねている可能性がある機能やUIが議題に上ると、その場で議論し、解決方針を決定。権限を持つマネージャーが一堂に集まることで、見つかった課題をより早く解決するスピーディな意思決定が実現しています。

3つ目は、「Groupad」と呼ばれる社内ブログです。検討中のアイデアから、開発したライブラリの紹介、社内イベント、新入社員の自己紹介など、あらゆる情報が共有される場です。エンジニアが直面した課題の解決方法、デザイナーが行ったユーザーインタビューの内容など、そこは知見の宝庫。

「ユーザーインタビューを実施したら、その結果や学びをブログに投稿するのがル-チンです。知見はどんどん共有して、お互いに生かそうという方針なので、社員は毎日のようにブログを読んでいます。ユーザーの行動や考えを分析した個々人のブログを読んで、「その考えは見落としていたなぁ」と気づかされることもありますね」

「技術はあくまで手段である」

レシピ投稿推進室の責任者で、自身も現役エンジニアである勝間さんは、ユーザーファーストを具現化できるかは、「技術をあくまで手段として捉えられるか」、つまり「技術のための技術」とは考えずに、「人の役に立つための技術」という考え方ができるかどうかにかかっていると話します。

1998年のリリースから、約16年という月日が経過するクックパッド。長く継続してサービスを運営する中で、時代相応の改善や進化を続けることで、いつの時代にもユーザーに絶大な支持を誇るサービスであり続けています。

「ユーザーさんによるクックパッドの使い方は、時代と共に変わります。10年もすれば生活スタイルも変わりますし、ガラケーからスマホへの変遷など、デバイス1つをとっても変化が尽きることはありません。例えば、『最近話題のスマートウオッチなど、最新の技術をどう使えば、毎日の料理が楽しくなるだろう?』と、常に考えています。一番料理が楽しくなるサービスって何だろう。時代や環境に応じて、それを考えていきたいです」