【IT美人図鑑Vol.4】「崇高なビジョンを抱くよりも、身近な誰かの幸せをやりがいに」ブラケットCOO塚原文奈さん

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塚原さんプロフィール 栃木県出身。2003年、学習院女子大学・国際文化交流学部を卒業。株式会社サイバーエージェントに6年勤務後、フリーランスとしての活動を経て、2012年、株式会社ブラケットに入社。サイバーエージェントでは広告代理店事業部にて、営業、マーケティング事業部を経て、リワード事業やアドネットワーク事業立ち上げに携わる。フリーランスでは、ネットを中心とした事業開発〜プロジェクト遂行を一手に引き受ける業務支援を実行。株式会社ブラケットでは、自社サービス『STORES.jp(ストアーズ・ドット・ジェーピー)』の企画・開発・運営のマネジメントから、パートナー企業への企画・提案、社内のマネジメントなどほぼすべての案件に携わっている。

IT業界で燦然と輝く女性をひたすらインタビューする企画「IT美人図鑑」。今回は、開設ストア数は10万以上を数えるオンラインストアサービス「STORES.jp」、オリジナルの靴をオンライン上でデザインして購入できる「Shoes of Prey」を手掛ける、株式会社ブラケットCOOの塚原文奈さんにお話を伺いました。圧倒的なスピードで店舗数を増やす「STORES.jp」に、立ち上げ当初から携わってきた塚原さん。事業に対する思いや、インテリジェンス→サイバーエージェント→独立→現職というキャリアパスのなかで育まれた、仕事に対するビジョンを聞いてきました。

SNSアカウントのように、1人1つオンラインストアを持てる時代がくる

杉本:ブラケットさんのサービス「STORES.jp」は現在10万店以上で、楽天市場の総店舗数を越えているとお聞きしました。

塚原:ありがたいことに、当初の予想以上にご利用者数が伸びています。「売りたいものがあって、あとは販売をするだけ。だけどECサイトを作れない方」を、ユーザーとして想定していましたが、すでにECサイトで販売をしていた別のサービスから乗りかえて「STORES.jp」を選ばれた方も多いです。ITに詳しくない方でも簡単に作成できるUIデザインにはこだわりましたね。利用者は、若い方で18歳くらいから、上の世代だと80代までいらっしゃいます。

杉本:事業のマネタイズはフリーミアムスタイルだと思いますが、具体的にはどのようなものになりますか?

塚原:基本的には、無料のユーザー様も、ストアテンプレートからの作成と掲載できる商品数は無制限です。有料プランとして、月額980円のプランがあります。こちらでは、プロモーション機能や独自ドメインでのストア開設が利用でき、ネットの知識がない人でもプロモーションを簡単に行えて、「STORES.jp」での売り上げを伸ばせる仕組みを提供しています。

杉本:具体的には、どんな仕組みがありますか?

塚原:一例を挙げるとZOZOMARKETなど、独自で提携するECサイト上へ「STORES.jp」で販売している商品を掲載できる「プロモーションスイッチ」と呼ばれるものがあります。この機能を利用して、審査さえ通ればZOZOに出店できちゃう、という仕組みを提供しています。

杉本:個人でもZOZOデビューできるんですね! それはうれしいですね。出店数が10万店以上にも成長した、その秘訣は何だったと考えていますか?

塚原:広告出稿はほとんどしていないため、口コミでのユーザー増加がもっとも大きな要因だと考えています。体感としては、ママさんユーザー同士で「私も作ったよ」「いいなあ、私も作ってみた」といった口コミで「STORES.jp」を知ってもらうようになったり、リアルなネットワークや地縁的な繋がりからユーザーが広がっている感はありますね。

杉本:塚原さんは「STORES.jp」のローンチ当初から関わっていたとのことですが、サービスを立ち上げ時の思いを教えてください。

塚原:2つあります。1つは「個が立つ時代に寄与するものを作りたい」という思い。仲介ビジネスがなくなりつつなると私たちは考えているのですが、CtoCの直接取引がメインになるからこそ、個人が直接商品を売買する市場も規模が大きくなるという時代への読みがありました。 もう1つは、ユーザーからの声を反映させたいということですね。今、インターネットでものを売るという行為自体は珍しくないですよね。

ですが、いざ自分が出店するというときに、IT業界に繋がりの薄い一般の人には「Webデザインもコーディングもよくわからない」「ECサイトを作りたいけど、どうしたらいいかわからない」という声が、とても多かったんですね。そういった声をあげる方でも、ブログサービスを使えば、自分のブログを作ったり、書くことはできるようになってきていました。そこで、ブログサービスと同じように、一般の人にでも、独力で立ち上げられるECサイトサービスは作れないか? という思いから始まりました。

杉本:ユーザー数・出店数について、具体的な数値目標は設定されていますか?

塚原:今や、ブログやTwitter、LINEといった、SNSやツールは広く一般層に普及し、その生活の一部になっていると思います。例えば、LINEだったら10億ユーザーがいますし、そこを基準に考えると10万という出店数はまだまだですね。利用者数が2000万〜2500万人になると、世間から「使っている人が多くなったな」と感じられますよね。目標としては、1人に1店、オンラインストアを持つ時代の実現に貢献できるサービスを目指したいですね。

初めて会ったときに、「この人と腰を据えて事業をやりたい」と思った

141130_bracket_IMG_3343_580杉本:塚原さん自身は、ブラケット以前はフリーランスで働いたあと、入社したと伺いましたが、フリーランス以前はどのようなキャリアをつまれていたのですか?

塚原:新卒時はインテリジェンスへ入社しました。ところが「安心できるけれど、このままいると居心地が良すぎてダメな人間になる」という気持ちがあって(笑)、1年半で退職し、その後サイバーエージェントへ転職し、約6年を過ごしました。その後、フリーランスとして独立したんですね。サイバーエージェントも、いい会社だったんですが、昔から「いずれは自分で何かしたい」「出産前にチャレンジをしたい」と思っていました。そういう思いがフツフツと湧き続けていたのですが、30歳というタイミングを前にして、思い切って会社を辞めて、自分でやりたいことをやろうと思ったのが、そのきっかけです。

杉本:大手企業からフリーに踏み出すことは、不安も伴うと思います。何かきっかけはありましたか?

塚原:実は「フリーランスになる前に、1個ネタになることをしよう」と思い、上司に「2年ぐらい別の興味ある仕事をやってから、いずれフリーになろうと思っている」と話をしたら、「そんな考え方ではぬるい。あとからやればいいやという考えでは、スピード感もビジネス感覚もなくなるから、やりたいと思うタイミングでやりなさい」と叱咤激励されました。尊敬していた方からのアドバイスを受けて、そこで「フリーランスになろう!」とようやく踏ん切りがついたんですね。今思い返すと、そのときの自分は、失敗を怖れて、自らに言い訳できる道を無意識に作っていたのかもしれません。

杉本:まさに、「いつやるか、今でしょ!」ですね。フリーになってからはどんな肩書で仕事をしていたのですか?

塚原:フリーのときの肩書は「業務支援」。かっこいい横文字系の肩書が苦手だったんですよね(笑)。仕事の中身としては、新規事業の立案や実行、マーケティングプランニングなどをしていました。2年ほどがむしゃらに働いていて、フリーランスの仕事の楽しさを感じると同時に、フリーランスならではの悩みや限界というものも見えてきたんです。 例えば、提案した企画内容がほとんど形になる寸前に、お取引先様の意見が変わってしまい、練りに練って作り込んだ企画が「公開されずに終わる」なんてこともありましたし…。

「これが、お取引先様にとって利益になる」と自信を持って仕事を進めても、最終的な判断はお取引先様に委ねられてしまうのはしょうがないと言えばそうなのですが、結果が出ると目に見えているのに、さまざまな制約で、頓挫してしまうのはもったいないと思って。だったら、自分の価値基準で物事を進めて、自分で責任の取れることをやりたい。そう考えるなかで「自分でサービスを持ちたい」と強く思うようになっていきました。

 

杉本:自分で責任を持って、自分で判断したい人にとってはフラストレーションですよね。そうなると、会社として起業して自らサービスを作り出すというキャリアパスが一番わかりやすいのかなと思ったのですが。そこをあえて、取締役として、ブラケットへ入社する道を選んだのは、なぜなのでしょうか?

塚原:もちろん、おっしゃるとおり、日本での法人化や、海外でのビジネスも視野にありました。当時は、とある海外での新規事業にジョインする話もあって、ブラケットに入社する寸前までは、現地で住まいの候補となる住宅を見学して、行く気満々だったんですよ、でも…。

杉本:でも?

塚原:プロマネを探していた、当社の代表の光本と会ったんです。とても意気投合して、そこで即断で入社を決めました。小さいことかもしれませんが、ビジネス感覚、価値観が近いと感じたところがポイントですね。「目立つなら自分よりも、ビジネスが目立ったほうがいい」とか、そういう仕事をする上での感覚ですね。 その感覚が合致していると知った瞬間、不安よりも、何よりも、この人と一緒に腹をくくって、腰を据えてやりたい、と思ったんですよ。まさに、「ビビビ!」です。それで、2012年にブラケットへジョインしました。「STORES.jp」のサービスはまだなくて、社員が3人のころの話です。

杉本:「ビビビ!」結婚と同じですね(笑)。塚原さんはもともとチャレンジ精神があったほうなんですか?

 

塚原:父がサラリーマンで、脱サラして自分で会社を興したんですよ。新しいことをやることの崇高さは小さなころから身近で見て、そのなかで育ってきました。母はパートをしていましたが、よく言われたのは、「これからは女性も自立していく時代だから…」と。物心ついたころから、「新しいことにチャレンジしたい、自分で何かをできるようになりたい」というのはありましたね。

杉本:チャレンジしたことで得たものはありますか?

塚原:器が少しずつ大きくなっている感はありますね。今でもまだまだ未熟者だとは自覚していますが、新卒のころは目先のことに一喜一憂していたのに、失敗があっても成長過程の1つでパラダイムシフトが起きると信じて、じっと待つことができるようになったと思います。そんな風に、思うように行かない逆境に対しての免疫ができつつあるというか、受け入れられる自分ができてきましたね。

現場感覚を忘れた経営者にはなりたくない

杉本:他に会社員時代の経験、フリーでの経験の中で、今に繋がっていると感じるものはありますか?

塚原:サイバーエージェントでの経験では、特にスピード、スケジュール感覚ですね。広告代理店事業をしていましたので、納期を必ず間に合わせる。絶対形にする、絶対着地させることがマストでした。自社サービスの場合は、仮に1日リリースが遅れても、リリース日を公表していなければ、外部からはわかりません。広告の場合は、予定された期日通りに媒体を押さえたり、スタッフを押さえたり、すべてスケジュール通りに進まなければなりませんから、それをいかに実行するか、という考えは体にしみこみましたね。それと、フリー時代には、ゼロからお金を生み出す大変さや、給料を支払うことの大変さを学んだように思います。

杉本:そういった経験を経て、チームの作り方で気をつけていることはありますか?

塚原:私はマネジメント経験が多いわけではないので、「上に立っている感覚」は持たないようにと、徹底しています。言い換えれば、社員に対してのリードはしますが「取締役だから」と仕事に一線を引く考えにはならないようにしている、ということです。弊社では、エンジニア、デザイナー、オペレーションチームやマネージャーと、複数の職種でプロジェクト毎にチームを随時組みますが、どの現場においても、「現場感覚」をきちんと自分にインストールしておきたいのです。チームでのワークでは、それぞれが最大限能力を発揮することが大切だと思っています。そのためには自分も一緒に汗をかいて、一緒にいる隣人の視点を持つことを大切にしています。経営者側も、チームで一緒に働いている感覚がないと会社の価値がなくなると思っているんですよ。

杉本:これまで、次々と挑戦してきた塚原さんの、人生の岐路における選択基準は?

塚原:そうですね、私は「あとがない状況」を決断するクセがあるかも(笑)。環境が安定すると、「チャレンジしてないのではないか」という不安に駆られるんです。インテリジェンスもサイバーエージェントも、とても居心地のいい環境ではありました。だけど、そういう状況にずっといるのではなくて挑戦し続けたいと思うのは、子どものころからの影響かもしれません。「人生はネタ作り」だと思っているので、山あり谷ありジェットコースターのような人生を、これからも過ごしたいです!

杉本:ジェットコースターのような人生。どんな状況でも新しい環境に挑戦する、根っからの開拓者なんですね。

塚原:新しい市場を自分たちの手で作りたいという思いは、会社の理念としても、個人としても、強く抱いています。ヤフオクが「個人でも利用できるインターネットオークション」という市場を日本で開拓したように、クックパッドが「個人がレシピを公開でき、それを見て料理を作れる、レシピ検索サービス」を日本発から世界規模にまで広げたように、私たちは「個人が、簡単にオンラインストアを持てるサービス」でのパイオニアになりたいと考えています。「STORES.jp」が、今まで販売チャネルを持ち得なかった人への、新たな選択肢になるようにと思っています。

杉本:最後に、塚原さんが考える一流のサービスとは?

塚原:私が考える一流のサービスとは、先ほど挙げたヤフオク、クックパッドのように「それがないと、生きがいがなくなる、HAPPYじゃなくなる、サービス」です。 私には「世界中の皆が幸せに生きられる社会の仕組みを作りたい!」といった大きな視点よりも、自分の周りの大切な人が幸せになったり、便利になったりという身近なレベルの幸せのほうがしっくりくるし、そういうことに生きがいを感じるタイプです。「まだ見ぬ誰か」を幸せにすることを目的とするのではなく、世の中に求められることにチャレンジした結果、誰かがHAPPYになったらいいなと思っています。私自身、ここが秀でている! ということが何もないんで。だからこそ、リアルな生活に根ざした豊かさや実体験が伴うものが好きなんだと思います。 141130_bracket_IMG_3402_580 (杉本綾弓)