ユーザビリティは後回し!? freee代表佐々木氏が語る、ベータテストをマイルストーンにしたプロダクト開発

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新しいサービスを開発する際、リリースする前にまず試作品を使ってもらい、ユーザーの声に耳を傾け、プロダクトを改良していく手法がある。クラウド会計ソフト「freee」も、リリース前にはこうした「ベータテスト」を実施した。ベータテストを実施したことで得られた学びはどのようなものだったのだろうか。ベータテストの手法について、freee代表取締役 佐々木大輔氏に話を伺った。

 

freeeが生まれた背景にある問題意識

佐々木氏は、freeeを立ち上げるに至った背景に、大きく2つの経験があった。20人ほどの規模のスタートアップでCFOを務めた経験と、Googleで中小企業向けのマーケティングに従事した経験だ。

「20人くらいの規模のスタートアップのCFOをしていたころは、資金調達をするとき以外の時間は、いかにビジネスを伸ばすか、ということに使いたかったんです。ただ、いろいろと、バックオフィス業務の自動化を図ろうとしたところ、当時の会計ソフトではなかなかそういうことはできなかった。会計ソフトに入力して、Excelにも入力して、銀行でも入力するといった具合に、とにかく手間が多かったんです」

ビジネスに集中するべき人たちが、それ以外の作業に時間をとられてしまうことに課題意識を持った佐々木氏は、その後Googleに入社。中小企業向けのマーケティングを担当する。各国のマーケットと比較しながら、日本の中小企業マーケットを見た結果、テクノロジーの浸透度の低さに驚いたという。

「日本の中小企業へのテクノロジーの浸透度を上げられないか、というのが新たな課題意識になりました。いろいろ調べ直したところ、まだ会計ソフトには進化が起きていなかった。この領域で何かできないか、と思って始めてみたのがfreeeというプロダクトです」

取り組みたい課題が見つかった佐々木氏は、まずコーディングを始めた。Googleには在籍したままで、プログラミングの書籍を手に、勉強することから始めたという。開発過程で、1人では難しいと考えていたタイミングに共同創業者の横路隆氏に出会う。

 

ブレストで増える要件、進まない開発

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その後、法人を立ち上げることになり、起業。順調な滑り出しをしたかと思えば、そうではなかった。

「会社を辞めて、起業してみると、高揚感やワクワク感のようなものが出てきて、事業を最初から考え直してしまったんですよね。壁にポストイットを貼って、ブレストするぞ! みたいな。結局起業した当初は、いたずらに新しいアイデアなどを議論して、過ごしてしまいました。今考えると、グダグダ考えずにまず作ってみたほうが良かったんじゃないかと思いますね」

2カ月の間、プロダクトの開発もしていたそうだが、チームで議論する中でプロダクトの方向性がぶれることが多かったという。

 

ベータテストを行うことが、細かくマイルストーンを設定することにつながる

ベータテストの日付を決め、マイルストーンとした約3カ月後、freeeはベータテストの期間に入った。100人ほどのユーザーたちにプロダクトを使ってもらって意見を聞き、開発に反映させるという期間を3カ月ほど設けた。

佐々木氏は、ベータテストを実施することは最初から決めていたという。ベータテストの実施を決めていたのは、動いているものをユーザーに見せて仮説を検証するのに加えて、ベータテストの実施がマイルストーンになるという理由があった。

「何をいつまでにやるか、がマイルストーンになります。不完全でもいいから、この時点で外部の人に見せるんだ、というのが開発のペースを作っていく上でとても重要なマイルストーンになります」

freeeのベータテスト期間にテストユーザーとなっていた人たちに、どのタイミングで、どんな機能をテストしてもらうのか。それを決めていくことが、細かくマイルストーンを設定することにつながった。

「いきなりローンチを目指して開発すると、ここもやらなきゃいけない、あれもやらなきゃいけないと、追加したい機能や改善したい部分が次々と出てきて、ローンチする日が後ろにずれ込んでしまう。僕たちも最初の2カ月のせいもあって、本当は確定申告の前にリリースしたかったのに、間に合わずに3月リリースになってしまった。細かくマイルストーンを設定していっても、スケジュールはズレてしまうもの。できるかぎり小さい単位の目標を作るためにも、ベータテストは重要だと思います」

 

ベータテストではネガティブな意見が多かった

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コンセプトを練り直している段階でヒアリングをしたり、ベータテストの段階でもfreeeはさまざまな人に意見を聞いたそうだ。だが、その反応は必ずしもポジティブではなかったどころか、ネガティブな意見が多かったという。

「ネガティブな反応ばかりで、自分たちのプロダクトへの自信が揺らぎそうでしたが、freeeを活用することで実際に生産性が上がることを証明できるほうが大事なんじゃないかと思っていました。実際に使ってみて、会計の作業時間が今までの50分の1になったなど、成果が出ていたので、人になんと言われようと、実際に出ている数字を心の拠り所にして、より広いマーケットに出して、仮説を検証してみようと考えました」

佐々木氏は「プロダクトをマーケットに出してみて、みんなのフィードバックを聞いてみないとわからない」と語る。このマーケットに聞いてみようという精神は、今でもfreeeのチームのメンバーがしっかり持っているものになっている。

「人にコンセプト段階で見せて反応を求めたり、少ない人数に使ってもらうベータテストで、10人の人に感想を聞いてみたら「いいね!」と言ってくれるのは1人くらいです。この1人を多いと見るか、少ないと見るか。僕たちは多いと見てプロダクトを開発しました」

 

ベータテストで検証するべきは、プロダクトの本質的な価値

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freeeはベータテストにおいて、ある仮説の検証を目標としていた。

「会計ソフトをクラウド化したら、みんな使うのかというと、そうではありません。ただクラウド化することに価値があるのではなく、クレジットカードや銀行の口座を登録しておくと自動で仕分けをしてくれて、かつ簡単に使えるようになることに価値がある。そうしないと、会計にかかる負担を下げることはできません。負担が下がるからクラウドに乗り換えたいって思わせなきゃいけないっていうのは、僕たちが当初から持っていた仮説でした」

freeeにとって、既存の会計ソフトにおいて、すでに可能になっていることは重要なことではなかった。これまでの会計ソフトにない部分、これまで人々が体験したことのない価値について、ユーザーがどう思うか。プロダクトを試してもらい、その仮説を確認すること、ユーザーの反応を知ることにフォーカスしていたという。

「UIを追求し、プロダクトの使いやすさを追い求めるよりも、仮説を検証し、ユーザーが使い始めるまでのハードルは何かを確認したいと考えていました。ベータテストを実施したことで、『本当にお金のデータを預けて大丈夫なんですか?』という心配をするユーザーが多いことがわかりました。ただ、ちゃんと説明をすると、納得してくれる人もいて。安全性をわかりやすくしようというのは、ベータテストを通じて実施した対策です。具体的には、TRUSTeというセキュリティマークを取得することにしました」

 

ベータテストドリブンで、余計な機能は作らない

ベータテスト期間のうち、佐々木氏はサインアップフローの開発なども行っていた。佐々木氏は、これは重要なことではなかったと振り返る。

「サインアップフローなどは、ベータテストの際には利用していない機能でした。『サインアップしやすいかどうか』というのは、ベータテストで確認しなくてはならないことではありません。ベータテストで確認したかったのは、自動化・簡便化にユーザーが魅力を感じるかどうかというものでした。ベータテストでは、試さなくてはいけない重要な部分を決めて、余計な機能を作らず、決めた部分のみ作ることを徹底をしていれば、開発期間をもっと短くできたと思います」

ベータテストで最低限必要になることを整理し、開発する項目をどれだけ削ぎ落とせるか。検証したいことにフォーカスし、ベータテストドリブンで考えることが重要だ。

 

まず、コアなファンに受け入れられるサービスに

合計3カ月のベータテスト期間を経て、freeeはリリースされた。佐々木氏はリリース初日から「このプロダクトはいける」という感覚を持つことができたという。

「公開してみると、freeeの想定していたユーザーたちにリーチできて、リリースした翌日にはプロダクトを使ってみたユーザーが感想をツイートしてくれていました。そのときに、このプロダクトはちゃんとニーズがあるんだということが、やっと実感できたんです」

ベータテスト段階では、ネガティブなフィードバックをしていたユーザーたちも、コアなファンが生まれてくることによって、反応を変えていったという。リリースした時点では、freeeの対応ブラウザはChromeだけだった。freeeのようなプロダクトを最初に使おうとする人たちのほとんどは、Chromeを使っており、まずはこうした相性の良いユーザー層に合わせてプロダクトを準備したという。

「プロダクトが普及するのには順序があって、いきなりマス受けするプロダクトってダメなんです。最初から欲張り過ぎてしまうと、軸がぶれてしまいます。まず最初は受け入れてくれるユーザー層にフォーカスして、そのユーザーたちが好きになってくれるプロダクトを作る。その他の人たちはその後、順番に対応していく」

 

さらに深く、広くユーザーにサービスを使ってもらうために

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freeeは2013年3月にリリースして以来、2年弱の月日が経過している。ベータテスト時と、リリース直後は限られたユーザーたちに向けて、限定された機能を提供してきたfreeeだったが、ユーザー数が増えたことで、リリース当時と比較してユーザー層は変化している。

シニアの人も使い始め、ユーザーが使用するブラウザも、今ではIEが一番多くなっている。サービスを利用するユーザーに変化が起きてくると、だんだんと簡単に使えるようにする、わかりやすくすることへのハードルが上がってくる。そのため現在では、初期フェーズでは優先順位を下げていた、UI・UX改善への投資を行っているという。

また、freeeは昨年末、法人向け新コンセプト「バックオフィス最適化」を発表している。経理だけではなく、経費計算や請求書受け取り、給与計算などに加え、コンセプトモデル段階のものも含めて、経理の周辺業務まで簡単にすることに取り組んでいる。

今後について佐々木氏は、モバイルのさらなる強化を挙げる。freeeはわりと早い時期からモバイルに対応してきたが、最近ではモバイルでレシートを撮影して、レシートデータの保管が可能になるなど、モバイルを活用することで新しい体験も生まれてきている。佐々木氏は「ベストなシナリオではモバイルだけで会計ができるようにしたい」と今後のビジョンについて語ってくれた。