8期連続赤字→マザーズ上場 弁護士ドットコム創業者が語るブルーオーシャンな生き様

依頼人と弁護士を引き合わせる機能に加え、法律に関するさまざまな情報を提供するポータルサイト「弁護士ドットコム」。2014年12月にマザーズ上場を果たし業績好調の同社だが、代表取締役の元榮太一郎氏によると、「それまで8期連続赤字という、育ちの悪い子供だった」という。

起業時は、書店でめぼしい本を読みあさる日々だったというほど「経営の素人」。大手法律事務所での安定した生活を捨ててまでベンチャーを始めた元榮氏は、どのようにして日本最大級の法律相談ポータルサイトを作り上げたのか。彼自身もかつてここで学んだという起業家養成スクール、アタッカーズ・ビジネススクール主催で行われた経営者講義の講演内容を元に、その歩みを追ってみよう。
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弁護士の5人に1人が登録

弁護士ドットコムは、一言で表現すれば「法律相談ポータルサイト」だ。国内の弁護士のうち5人に1人以上に当たる7900名の弁護士が登録しており、そのプロフィールを基に相談内容に合った弁護士を検索し、相談することができる。加えて、約50万件の無料インターネット法律相談データベースや、時事問題を法律の視点で斬る「弁護士ドットコムニュース」といったコンテンツにより、月間サイト訪問者数は700万人を超えるに至った。

弁護士ドットコムの収入を支えているのは、弁護士のマーケティング支援サービス/登録料と、過去の法律相談などのコンテンツを閲覧するユーザーの登録料(PC端末からの閲覧は全て無料)、そして広告だ。大規模専門サイトに成長した今も、その目的は「弁護士が身近なものになるのを手助けすること」という。

離婚や遺産相続など、人生の中で何らかの法律トラブルに巻き込まれるケースは少なくない。電通の調査によると、過去1年のうちに法律トラブルに遭遇した人の数は年間約1060万人に達するという。しかし、実際に弁護士に相談する人は20%弱に過ぎない。その理由の大半を占めるのは「費用面での不安」だ。

一方で弁護士業界を見ると、新司法試験制度の導入にともなって弁護士数は倍増し、それ以前からの広告の解禁や報酬の自由化も相まって、市場環境は激変。「一見さんお断り」という昔ながらのやり方に代わり、弁護士の「マーケティング」のニーズが高まっている。こうした両者をインターネットで結びつけることが、弁護士ドットコムの狙いだ。

「最近印象的だった出来事に、いわゆるぼったくりの飲食店に入ってしまった依頼者が、トラブルに火がついたその場で携帯で弁護士ドットコムを検索し、出てきた弁護士に電話したら、『今から行きます』とすぐ駆けつけてくれて示談解決できたという事例があった。僕自身、これからの時代は弁護士も家に配達されるような世界をリードしていこうと思っていたが、現実は僕より早く、『訪問弁護』を超えて『駆けつけ弁護』になっている」(元榮氏)。

あの時の自分と同じ悩みを抱える人を助けたい

OLYMPUS DIGITAL CAMERA現役の弁護士でもある元榮氏がこのビジネスに着目したのは2004年のことだった。当時、大手弁護士事務所のアンダーソン・毛利・友常法律事務所でM&Aやファイナンスに関する案件に携わっていた元榮氏だが、とあるベンチャー企業のM&Aに関わることになり、そのカルチャーに衝撃を受けたという。

「それまで手がけたグローバルなM&A案件に携わるのは落ち着いた人が多かったが、ベンチャーはとにかく前のめり。可能性は無限大だという雰囲気に、『こっちの方が自分に合っているかもしれない』と感じた。大手弁護士事務所にいれば自分の人生が安定するのは間違いないが、ベンチャーの方はまるで想像ができない」(元榮氏)。

こうして、「弁護士」×「IT」で何かできないかとあれこれアイデアを練る中で見つけたのが、引っ越し比較サイトだったという。「『価格.com』は商品を比較するけれど、こんなふうにサービスも比較できるんだ。そういえば、弁護士もサービスだ。弁護士をネットで比較したり検討できたらいいんじゃないか……と考えたとき、大学2年の自分がフラッシュバックした」(元榮氏)。

実は元榮氏自身、弁護士にお世話になったことのある経験の持ち主だ。大学生の時に車で物損事故を起こし、「過失割合は10:0だ」と全額賠償を迫られ、悩んでいるときに、家族に地元の無料弁護士相談会を紹介された。ここで弁護士に相談したところ、「7:3」で示談できることになった。そのときに「弁護士とはこんなに役に立つ仕事なのか」と感じたことが、弁護士を目指すきっかけだったという。

「あのときの自分も、誰にも知られたくない、けれど弁護士に相談すると高額の費用がかかるに違いないと悩んでいた。同じように悩んでいる人がきっとネットもにいるはず。あのときの自分がネットで弁護士を探せていれば助かったに違いない、と考えた」(元榮氏)。

ただ、ここでネックになったのが、弁護士の仲介によって報酬を受け取ることを禁じる「弁護士法72条」の存在だ。ただ、「確かに法律の壁はあるが、絶対にこのサービスを必要とする人がいるはずだ。本当に世の中に必要なものであれば、法律の解釈の仕方があるんじゃないか。それにマッチング手数料以外のマネタイズの方法も何か見つかるんじゃないかということで、独立して起業することを決めた」(元榮氏)。

スキルだけでなくカルチャーでも共感できる仲間を

起業した元榮氏がまず取りかかったのが、仲間探しだ。まずはエンジニアが必要だと考え、とにかくいろいろな人に会っては事業プランを説明しまくった。その1人である後輩弁護士が起業のビジョンに共感し、さらに彼の大学の同期生のエンジニアにつながるという具合で、運良く短期間に創業メンバーと出会うことができたという。

「自分の場合は、とにかく共鳴してくれる人、というのを基準にしている。特に、後輩弁護士のソーシャルグラフでイケてるエンジニアにたどり着けたのはラッキーだった。人によるとは思うが、自分の場合は、今も人を採用するときは、スキルとカルチャー、その両方で共感することが大事かなと思う」(元榮氏)。

経営についても当時はほぼ素人。書店にいってめぼしい本を読みあさり、さらに、大前研一氏創業、監修のアタッカーズ・ビジネススクールを受講した。選んだ理由は、「優秀なビジネスプランを作れれば、大前さんから直接フィードバックがもらえるから」(元榮氏)。受講後のプレゼンテーションで優勝を飾ったときに大前氏からもらったコメントは、「専門家がネットでつながるのはいいことだ」というポジティブなものだった。

こうした言葉が、思うようにビジネスが伸びなかった時期の支えになったという。

弁護士法72条の存在もあって、当初、弁護士ドットコムのサービスは無料で開始した。アドセンスによる収入が合ったとはいえ微々たるもので、別途経営する法律事務所の収入でカバーする状態が何年も続いたという。「当時の社員に感謝しているのは、給料を上げられなかった中で本当にがんばってくれたこと。とにかく『俺たちのサービスは役に立っているんだ』と繰り返し伝え、マスメディアにも積極的に露出して、士気を高めてきた」(元榮氏)。

ビジネス拡大の転機となったのは、専門家による無料の公開型Q&A「みんなの法律相談」の開始だ。これが人気コンテンツとなり、トラフィックを劇的に増やすエンジンになった。その後、身近なニュースを法律面から解説するオウンドメディア「弁護士ドットコムニュース」を開始。それがYahoo! Japanの公式ニュース提供者として認定されることでトラフィックを生み出すようになると、アクセスがアクセスを呼ぶ好循環が生まれてきた。月間サイト訪問者数は3 年間で9倍超というペースで伸びているという。

生き様をブルーオーシャンに

元榮氏が事業に取り組む中でこだわっていることは2つあるという。1つは「ブルーオーシャンで戦うこと。本当にイノベーションを生み出すためには、まずある程度独占的なサービスを築いて、そこから生み出される収益でビジョナリーなことをしていく必要がある」という。

さらに、「僕自身がブルーオーシャンであるよう意識している。弁護士なのに起業する。みんなが家庭教師をするときに僕は家庭教師の契約を獲得するための営業をする、といった具合に、生き様がブルーオーシャンだと発想もブルーオーシャンになり、そのときの判断にも独自性が生まれる」(元榮氏)。

そして「かけ算をするのも好き。秩序を象徴する弁護士と自由を象徴するITのように、違和感のあるものを組み合わせている。常にかけ算をしていって、有限な人生の中で日本で1人、世界で1人、日本初、世界初を目指したい」という。

弁護士ドットコムでは、「弁護士をもっと身近に」というコンセプトをさらに掘り下げるため、いざという時の弁護士費用を支給することで費用面での負担を減らす「弁護士費用保険」の提供や、契約書のペーパーレス化を支援する「クラウド契約」といった新機軸の準備を進めるなど、元榮氏はまだまだ新たなかけ算に取り組んでいく。