コロプラ創業者・馬場功淳氏が予言する、スマホの次に開拓すべきプラットフォームは「VR」

なぜ馬場氏は「VR」が普及すると判断したのか?

「VR」、いわゆる「バーチャルリアリティ」は、いまもっともキャッチアップすべきテクノロジートレンドの一つである。同領域を牽引するフェイスブック傘下のOculus VRは、1月に米ラスベガスで開催されたデジタル製品の国際見本市「CES」で、ヘッドマウントディスプレイ「Rift」の最新プロトタイプ機を公開。製品化への期待感を一層高めた。その他の新興企業も続々と市場に参入しており、間もなく活況を迎えつつある。

そもそもVR(バーチャルリアリティ)とは、「仮想現実」のこと。コンピューターグラフィックス(CG)で創りだした仮想の世界を、Oculus Riftの技術を用いるならば、ディスプレイを搭載したゴーグル型の装置を頭に装着することで、体験できる。この技術は、最近はエンターテインメント分野での利用が注目を集めているが、医師による手術、パイロットによる航空機操縦のシミュレーターなどでは、以前より用いられてきた。

それでは、その「VR」が生み出す体験とは、いかに新しく、また起業家やテクノロジストたちの注目に値する根拠は何なのかを今回探っていきたい。話を聞いたのは、スマートフォン向けゲームを開発する「コロプラ」の創業者であり代表取締役社長の馬場功淳氏。同社は1月に、Oculus Rift対応のアプリ『白猫VRプロジェクト』と、Oculus Riftタイトル専用コントローラーアプリ『colopad』(Android版)を公開した。2月にはiOS版もリリース。いま国内でもっともVRの実用化を推進する企業の一つである。

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「コロプラ」創業者であり代表取締役社長の馬場功淳氏

『白猫VRプロジェクト』は、コロプラにとってOculus Rift向けアプリの第2弾となる。第1弾は、昨年(2014年)8月に公開した『the射的! VR』。この作品は同社にとって初めてとなる、携帯電話端末以外へのアプリ提供の取り組みだった。

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『白猫VRプロジェクト』
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Oculus Riftを装着し『白猫VRプロジェクト』をプレイする様子

白猫VRプロジェクトは、昨年7月より提供を開始したスマートフォン向けのRPG『白猫プロジェクト』をOculus Rift対応のVR版として開発したもの。ゲームプレイ中のすべてのシーンを360度視点に対応し、敵キャラや超巨大なボスキャラとのバトルをバーチャルリアリティの世界で楽しめる。プレイ中の画面、いやあえて空間と呼ぼう。そのビジュアルはOculus VRが提供しているアプリストアで確認することができる。

VRのプロジェクトを実施するにいたった背景について、馬場社長は「その将来性について高く評価しているからだ」と確信を持って答えた。理由はいくつかある。

「1つは、技術的にすでに完成されていること。Oculus Riftは、現在はまだプロトタイプ版だが、このまま進化していけば商品として十分に成立するであろう」。Oculusは、正式版を公開する時期について明言を避けている。「2つめは、その体験がものすごく新しいということ。360度視点の仮想現実の世界というのは、非常に ”没入感” が高く、従来のゲームのそれを凌ぐ。また、その視点を活かしたさまざまな企画への応用が考えられそうである」。

そして、「3つめは、将来的に大きく普及するであろうこと。だから、いまから準備しておかなくてはいけない」。同社がプロジェクトの検討を開始したのは、いまからおよそ一年半前だった。当時はまだ、フェイスブックがOculusを買収する半年以上前だ。なぜその頃からVRの普及をイメージできたのか。

「テクノロジーが普及するか否かは、プラットフォームとなり得るかにかかっている。パソコンは、”マウスを使ったグラフィカルな体験” が人々に感銘を与え、われわれはそれを使って、いろんなものを作り始めた。インターネットは、”世界中がつながることができること”。フィーチャーフォンは、”どこの街にいても、だれとでもつながれること”。そしてスマートフォンは、”あの長方形の板でほとんどのことができてしまうこと” が魅力だった」

「Oculusも同じように、われわれ人類がこれまで体験したことのない、新しい体験を提供できるようになる。普及するまで、あと3〜4年くらいだと考えている」という。「普及のきっかけは、Oculus Riftや、ソニーの『Morpheus』など、精度の高い製品が登場すること。それをアーリーアダプターたちが体験し、他の人に広めていく。そして、いつかキラーアプリが生まれればそこから大きく普及していくだろう。そのときにキラーアプリを作れる存在になっていたいと思っている」(馬場社長)。

VR普及、最大の敵は「酔い」

数名の開発体制ではじまったVRプロジェクト。これを今後50人、100人と、状況を見ながら増やしていきたいという。しかし、Oculus Rift対応アプリの開発経験があるエンジニアはもちろん、ヘッドマウントディスプレイに触ったことすらない人が多いため、人材は育成していくほかない。「3Dプログラムの開発に慣れている人はOculus Rift対応アプリに向いていると思います。一方で、まったくノウハウがない領域なので、手探りながらも課題解決を行ってきたようなチャレンジ精神のある人にもチャンスがあると思います」(馬場社長)。

そんな特殊なアプリ開発をいち早く経験したことで気がついた、VRならではの難しさは2つあるという。1つは「UI」だ。ヘッドマウントディスプレイを頭に装着し、視界をすべて仮想現実に奪われ、手元が見えないため、「視覚のフィードバックが要らないUIにする必要があった」。つまり、指の触覚だけを頼りに操作可能な、従来とは異なるコントローラーを作らなければならなかったのだ。

そして開発されたのが、スマートデバイス向けのOculus Riftタイトル専用コントローラーアプリ『colopad』だった。colopadを用いると、スマートフォンやタブレット端末がゲームパッドとなり、キャラクターの移動や攻撃などのアクションを、”指一本” で操作することができる。スマートフォン上で画面の右側から左側に指をスワイプさせると、VR上のキャラクターも右から左へと移動するといった具合だ。超直感的なUIのデザインが求められる。

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Oculus Riftとコントローラーアプリ『colopad』

この開発を苦労させたのが、もう1つにして、最大の難しさである「酔い」である。少し想像してみてほしい。「自分は動いていないのに、自分を取り囲む視界が目まぐるしく動く。それが原因で酔う」。さらに、「慣れるまでは、開発者たち自身もさまざまな実験を繰り返す過程で酔ってしまう」という。開発の現場は、想像以上に大変なのだ。

しかし徐々に人間の脳も慣れ、プレーヤーは酔わなくなってくるという。そして、「開発者たちも、こうすれば酔う、こうすれば酔わないというフォーマットのようなものを理解するようになり、景色に急激な加速をさせないように制御するなどのコツが分かってくるようになった」そう。

酔いの問題もふくめ、これからヘッドマウントディスプレイの技術の進化に期待するのは、「画像の高解像度化、トラッキング精度・音質の向上、そして低価格化」。そうすれば、「いままでのテクノロジーで表現されてきたほとんどのことが、Oculus Riftでも再現できるようになる。それは、ゲームだけに限定されない」。馬場社長は、コロプラがゲーム領域以外にも乗り出す可能性を示唆した。

まだ、プロトタイプ版の製品しか出していなかったOculusをおよそ20億米ドルで買収したフェイスブックも、公式のブログで同様の可能性を言及していた。「通信、メディア、教育、その他の新たな垂直市場を開拓していく」。マーク・ザッカーバーグ氏も、「モバイルは今日のプラットフォームであるが、われわれは同時に、明日のプラットフォームに向けて準備を行っている。Oculusは私たちの働き方、遊び方、交流の仕方を変える」と。

コロプラは、具体的にどの分野に切り込んでいくのか。馬場社長は明言を避けたが、いまおもに海外でVRの活用を模索しているのが「映画」だ。

Oculus VRは1月に、映画制作部門「Story Studio」を立ち上げた。アメリカの映像制作会社のピクサーやルーカスフィルムの元従業員など約10人を迎え入れ、同スタジオ初の作品を同国で開催される映画祭で上映される見込み。同作は約5分間の作品だが、監督を務めるSaschka Unseld氏は、観客の動きによって変化するため、「2分半にもなれば、10分にもなる」という。

さらに、英Financial Timesによると、同映画祭の革新的な作品を上映する「New Frontier」部門に出品された14本の作品のうち、11本がVRのヘッドマウントディスプレイを用いて鑑賞するものだという。

コロプラの既存の事業に近しいところでは、「観光」分野での活用も模索されている。楽天トラベルと石川県は、Oculus Riftを導入した「バーチャルリアリティ観光体験」を開催。日本三名園の一つである「兼六園」を実際に訪れて観光しているような疑似体験を実現し、同県の魅力発信や体験後の旅行を促したという。

テクノロジーがありとあらゆる産業に染みだしている現代。「VR」がそのトレンドをさらに加速させていく存在であることは間違いないようだ。