“メルカリ超え”のチャンス逃した、DeNA南場氏「自分には見えていない世界があった」と反省

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2015年3月10日、「み・とう」の日に、「未踏会議」が開催されました。

情報処理推進機構(IPA)では2000年から、これからのIT産業を担う創造的人材を発掘、育成することを目的に「未踏プロジェクト」を実施し、多くのエンジニアやプログラマーを支援してきました。未踏会議は、のべ1600名を超える未踏事業卒業者、未踏クリエータらと、イノベーション創出に関心を持つ起業家、研究者や大企業が交流する場として設けられたものです。

未踏会議の冒頭には、「創造的人材を伸ばすビジネス環境〜未踏的人材の破壊力!〜」と題する対談が実施されました。登壇したのは、日本のITベンチャーを代表するツートップとも言えるディー・エヌ・エーの南場智子氏とLINE代表取締役社長の森川亮氏。未踏プロジェクトマネージャーで慶応義塾大学大学院政策 政策・メディア研究科特別招聘享受の夏野剛氏がテンポよくモデレータを務めました。

「私たちには見えてない世界が若者には見えていた」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA夏野:皆さんの社内には未踏的人材はいますか? どれぐらいいらっしゃいます?

南場:うちは未踏プロジェクトの出身者、何人もいます。

森川:未踏的人材はけっこう多いですね。変わり者というか、尖った人が。

夏野:DeNAやLINEには多いんですね。なんで大きな会社にはいないんでしょう。

南場:人材こそが我が社のアセットだと考えています。で、本当に優秀な人材にとって何がイヤかというと、訳の分かってない上司や経営者にプロジェクトをつぶされることだと思うんですよ。今は新しいアイデア、本当に信じられるアイデアの審判を、経営会議や役員じゃなく、市場に問うことができる時代なんです。特に、われわれはインターネットサービスの会社なので、PRやマーケティングをしなくても、まず友だちをかき集めて使ってもらい、そのリターンレートや紹介される割合さえよければつぶさない、という聖域を作って、自由にさせている部門もあります。

夏野:利益が少なくなっている局面では、そういう一見「無駄」「コスト」に思えることを絞りたくなりませんか?

南場:それはそうですよ。正直言えば業績は回復途上で、経営的に楽とはいえません。ただ、新しい事業のトライアルって小さい企業ほどできることなんです。全国ネットでコマーシャルを打つとなると2桁億円はかかりますが、新しいトライアルならば、例えば200人の友だちからどのように広がるかを見るだけでポテンシャルは分かります。そこまでならば数百万のお金でできるんですね。

森川:インターネット系の若い経営者がやっている会社は問題ないと思うんですが、僕は、大企業の一番の問題は、「我慢が美徳」って教え込むところにあると思うんですよね。まず「3年我慢しろ」、それで3年我慢したら今度は「5年我慢しろ」……いつまで我慢したらいいんですかと。

夏野:僕の経験から言うと「30年」。

森川:でも新しいことをする人って、サッカーのポジションで言うとフォワードみたいな人です。そういう人が我慢を覚えてしまうと中途半端になっちゃう。全員がFWである必要はないけれど、FWには最初からシュートを打たせるような環境にしないと。

南場:私、経営会議で新しいアイデアをつぶしたことがあるんですよ。メルカリががーっと伸びる前に、「携帯オークションのモバオクの機能を限定すれば」と、似たような案が現場から発案されたのに、経営会議で議論して、結果として取り上げなかったんです。そしたら数カ月後にがーっと伸びて……私たちには見えてない世界が若者には見えていたんだと、ものすごく反省しました。

森川:日本の企業は特に、過去の成功モデルをどう壊すかが難しいところですね。トップはいいんですが、中間層は失敗すると出世に響くので、なるべく失敗しないよう未然にリスクをつぶす力が働くと思うんです。

うざい「未踏的人材」、会社としてどう使いこなす?

夏野:でも、そうは言っても未踏的人材ってうざいですよね。こだわりは多いし、好き嫌いは激しいし……このうざい人材をどう使っていけばいいでしょう?

OLYMPUS DIGITAL CAMERA森川:評価の問題ですね。そういう人たちは協調性がないと評価され、出世できない。かといって研究室に飼い殺しにされるのもあまりよくない。そういう人たちをどうやって野に放つかが重要なんじゃないですか。

夏野:野に放つって?

森川:大企業では、マーケットじゃなくて上司のために働きがちです。そうしているうちにだんだん何が大事か分からなくなってきて、評価結果だけが唯一のKPIになってしまうんですよね。そうならないためには、なるべく自然に近い環境に身を置く、つまりユーザーやお客さんとコミュニケーションを取りながら作る場を設けるのが重要だと思います。

南場:それって、時には会社のアジェンダと合わないことがある、ということですよね。合致するところもあるけれど、私はそういう緊張感が好きで、大事にしています。会社のアジェンダを無理に理解してもらおうとしないで、もしDeNAに属するのがいやなら外でいいよと、お互い利用したいときに利用できるようにしようよという関係です。先ほど「うざい」とおっしゃったけれど、彼らも普通の人間で、ただ愛しているのが、会社ではなくサービスだったり彼らの腕だったりするだけです。それに、全員が会社を愛しているような組織は気持ち悪いし、永続しないと思うので、お互いに利用し合うことが必要だなと思います。

夏野:未踏的人材って、使ってくれるユーザーのことや社会を良くするということを本気で突き詰めて考えている。だからうざくなるんですよ。

南場:ユーザーの利益とか、会社が忘れていることを思い出させる人材でもありますよね。

異能の人材に対する適切な報酬や処遇は?

夏野:そういう未踏的人材をどう処遇していくべきでしょう。組織の中で生かすことを考えたとき、どういうキャリアパスを用意し、報酬体系をどうするか。1990年代後半のサン・マイクロシステムズや今のグーグルを見ていると、能力が高ければポジションは大したことがなくても高い報酬を用意するとか、チーフサイエンティストといった役職が用意されるなど、異能の人材に対する報酬がとても高いですね。

南場:うちもそうした報酬を用意しています。けれど唯一困っているのが、朝来ないこと(笑い)。できれば許してあげたいんですが、カスタマーサポートや営業といった他の部署もある中で、ルールをどうしようかというのは悩みどころで、報酬のことよりも悩ましかったです。今はグループリーダーに任せていますが、例えばずっと家で徹夜で仕事をしていると労働時間の管理も難しくなるじゃないですか。そうなると今度は人事が、「これはちょっと良くないですよ」と入ってくるんですね。そこが大変。

森川:日本の大きな会社に入った人って、何かルールを作るとか、共通化する、仕組みを作るのが好きな人が多くて、雑然としていると整理しようとしがちです。でも、今は多様性が重要な時代です。

夏野:LINEではどうなんですか?

森川:朝は来てますが、出勤時間や労働時間よりも成果が大事なので、そこを重視しています。本質的には、その人たちの価値をどれだけ高めるのかが重要だと思っています。その意味で、これからの人事は、管理するんじゃなくエンパワーメントすることが仕事になると思います。

萌芽の見え始めた日本のエンジェル投資家

夏野:社会全体として、こうした異能の人材にもっとお金が出るようになってもいいんじゃないかって思うんですが、日本ではなかなかリスクマネーというものが回らないじゃないですか。このあたりを供給する仕組みについてはどう思いますか?

南場:そうですね、ベンチャーキャピタルにも潤沢にお金があるんですが、例えば、2年以内に上場しないと買い戻しするとか、自分が将来、自分の選んだ相手に自由に株を売ったりできないような「ひも付き」なんですよね。

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夏野
:それって「融資」ですよね。

南場:そうなんです。お金を引っ張ってくる時、契約書は目を皿にして読んでほしいし、起業経験者に味方になってもらって精査してもらうのもいいと思います。金融機関ひも付きのベンチャーキャピタルだと、たいていいろんな条件を付けて自分は損しないようにできているので……そういう意味で、ベンチャーキャピタルににお金は余っていても、良質なお金は少ないと思います。

夏野:評価額も異常に低いですね。例えばグーグルができたときは、まだアイデアベースで検索エンジンのβ版しかなかったのに100億単位の価値が付けられていましたが、日本では、アイデアとβ版だけでは実績も何もないと判断されて、評価額が異常に低いですよね。

南場:そこも大問題ですよね。汗をかく人の割合がどんどん減っちゃう。

森川:投資する人が技術やサービスを分からないと、数字の世界で計算できる範囲内で投資してしまう。なので、計算できないところには投資が集まりにくい状況がありますね。けれどそれも最近ちょっと変わってきて、エンジェル投資家が増えています。そこがうまく回れば、サービスを理解している人がビジネスを育てる、というようになっていくかもしれません。

南場:「志」と「応援する心」のある人のお金を入れて、アドバイスをもらうというのが、ほんの少しだけれど日本でも始まっていますよね。

まだ根強い、「起業=落ちこぼれ」のイメージ

夏野:もう1つの鍵は人材の流動性だと思うんですよね。未踏的人材を生かすためには、エリック・シュミットのように、未踏的人材の発想力、突破力をちゃんと形にするパートナーを供給しないといけないと思うんですけれど、日本ではどういう感じでしょうか。

森川:やっぱり、大きい会社でも小さい会社でも、経営者そのものが外から来ることに対する抵抗がある会社が多いじゃないですか。前の経営者に好かれることを目指してしまうと、新しいことを生み出すよりもリスクをつぶすことを優先するので、投資の壁になる。経営者の流動性があってはじめて、下の層の流動性の効果が出てくると思います。

夏野:森川さんは今月末で社長を辞めて引き継ぎますよね。会社にとってどんな意味を持つでしょう?

森川:うちの場合、買収によって集まってきた部署ごとにカルチャーがけっこう違います。彼らは彼らなりの考え方でやるので、できればそれがいい方向に進んでほしいですね。僕についていうと、ダメになる前に変わらなきゃいけないという危機感がありました。だってダメになると変わりにくいですよね、引き継いだ人のプレッシャーもあるし。

南場:そもそも、起業したいという人材がいないんですよね。私は起業するときに、親戚一同から「小さい頃はいい子だったのに、一体どうしちゃったの」って、まるで落ちこぼれのように言われました。そこまであからさまに言われなくても、「名前のある大企業に就職する、そのために偏差値のいい大学に行く、そのためにはいい高校、中学に行く」という価値観からはみでちゃった人、というイメージを持たれます。

夏野:僕は大学で教えていますが、今の若い人は、就職氷河期のおかげで、そういう感覚はかなりなくなってますよね。特にSFCの場合は、大企業に行くやつが一番ダメ(笑い)。

森川:でも親の世代はそうじゃないので、就職しようとすると引き止めにくるんですよ。

南場:親に「内定を取り下げてもらうまで帰りません」と玄関に座り込まれたこともありました。球団を持ってからですよ、親が来なくなったのは。

森川:昭和の時代の「脱サラ」と起業が一緒にされて、ラーメン屋でもやるのかといわれますね。

最後に、会場からの「若い学生やエンジニアにやって欲しいことは?」という質問への答えは、図らずも南場氏、森川氏いずれも共通するものでした。「何でもいいので、深く掘り下げてほしい。そして行動範囲を広げていろんな人間と交わってほしい」(南場氏)。「何でもいいのでナンバーワンになれるものを見つけてほしい。あとは、社会を知ってほしい」(森川氏)。