スピード命、eurekaがVCを入れずに成長できた理由

Webサービスやアプリを開発するスタートアップ企業の経営方針で意見が分かれるのが「受託事業と並行してサービスを運営するか」、「自社サービスのみに舵を切るか」という選択。そして、ベンチャーキャピタル(以降、VC)からの投資を受けるか否か」という選択だ。

恋愛・結婚マッチングサービス『pairs(ペアーズ)』と、カップル専用アプリ『Couples(カップルズ)』を開発・運営するeurekaは、2008年の創業以来、さまざまなパートナーから仕事を受託として受けていたが、昨年から事業を自社サービスのみに絞ることを決意したという。

主な理由について「『pairs』が日本・台湾合計で200万会員を超え、事業としての軌道にのったこと。そして『Couples』も200万ダウンロードを超え、国内のカップル専用アプリ市場で1位に躍り出たこともあり、リソースを自社サービスに集中させて、サービス拡大のスピード感を高めたいと考えたため」と代表の赤坂優氏は語る。

これまで一度もVCからの出資を受けずに会社を成長させてきた赤坂優氏は、自社サービスの運営に事業を一本化した今、『pairs』『Couples』のサービスをどのように推進させていこうと考えているのだろうか。話を伺ってみた。

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赤坂優氏。1983年9月30日生。法政大学在学中に、博報堂C&Dでインターン。イマージュ・ネットに入社後、メディアプランナーを経て新規事業、アライアンスに従事。25才で株式会社エウレカを設立し、代表取締役CEOに就任。

 

まずは創業当時からこれまで、受託の仕事を請けていた経緯についてお伺いさせてください。

「話は遡りますが、eurekaを立ち上げる前の2008年に共同創業の西川と『ミリオンデザインズ』というクラウドソーシングのサービスを立ち上げました。当時海外でデザインコンペをオンライン上で開催できるオーストラリア発のサービス『99designs』が流行していたので、それを真似たのがきっかけです。しかしそのサービスでは月間10万〜20万円程の売り上げしか立たず、食べていくことができませんでした。会社を存続させていくために受託仕事をやる必要があったのです。

eurekaを創業後『Pickie』というアプリ探しサービスを作り始めたのも、Appleが『chomp』というアプリ探しサービスを買収するという流れがあり、これは世界的に流行するかも、と思ったためです。ただこのサービスもなかなかうまくいかず、受託仕事からの収益がメインでした。

つまりeurekaを創業する以前から『絶対自社サービスのみで、会社を成り立たせたい』という思いはあったのですが、とにかく会社を存続させるために、受託できちんとお金を稼いで収益を上げる必要があったのです。当時の社員数は35人規模でしたが、受託で忙しかったため、新規サービスにさけた人員は5人のみでした」

これまで受託仕事をやっていて良かったと思われることはありますでしょうか?

「受託仕事をこれまでやってきたことで、社内にナレッジが貯まったことが今の自社サービスに生きていると感じています。クライアントのニーズをくみ取り、PDCAサイクルを回していくなかで個々人の能力が上がっていきました。特に、社員に納期意識が生まれたこと。仕様の設計書を書いて、説明するという外部とのやりとりをエンジニアもフロントに立って行えたこと。この2点は会社の財産になっていると思っています。自社サービスが軌道に乗ったとき、受託で育った優秀なメンバーをうまくサービス開発にシフトすることができました」

優秀な人間を自社サービスに回していくことで、クライアントのやりとりで問題は発生しなかったのでしょうか。

「受託事業を撤退することを喧伝するのは、クライアントとの信頼関係にヒビが入る可能性があるので、かなり慎重に進めました。具体的には新規の案件は受けずに、既存案件も信頼できる企業に引き渡せるように体制を整えていくようにしました」

収益を上げていた受託事業をたたむのは、結構勇気のいる決断だったと思うのですが。

「もちろん勇気のいる決断でした。恐怖でしかなかったですよ(笑)。一案件数百万円から数千万円規模の案件が回っているのを撤退するというのは、組織としても大きな決断です。撤退するとお伝えしても『そこを何とかお願いします』とまで言ってくださるクライアントもいました。ただ『pairs』も堅調に伸びており、『Couples』も2月に200万ダウンロードを突破という勢いのなか、もう一段階ギアを加速させたいという思いのほうが強かったです」

「pairs」の成功で気づいた、新規事業を成功させる3つの条件

改めて『pairs』を立ち上げるに至った経緯について教えてください。

「海外の新しいWebサービスをよくチェックしていて、海外でヒットしたWebサービスが数年後、日本にも広がっていくというトレンドのサイクルを感じていました。2012年には、アメリカでFacebookを使ったマッチングサービスの『Zoosk』や『Are you interested?』が大きなサービスに成長しており、イギリスでは『badoo』というマッチングサービスが話題になっていました。同じアジアを見ても、GPS機能を使ったマッチングアプリが出始めていたので、これは需要があるなと感じました。そんなタイミングに、次の自社サービスをどうするか考えていたのです」

これまで2つのサービスを立ち上げて伸び悩んだにもかかわらず、『pairs』ではどこに勝機を見いだしていたのでしょうか。

「2つのサービスを経験したなかで、『サービスを流行らせるには、早すぎたらダメだ』と実感しました。2008年に参入したクラウドソーシング事業の『ミリオンデザインズ』も、今でこそ市場が成熟してきましたが、クラウドソーシングという新しいサービスが一定の認知を得るまでにはかなりの歳月が経っています。そう考えると、知見も経験もない当時の僕らにしては、そうしたサービスに手をつけるのは、時期尚早でした。

今だからこそ言えるのかもしれませんが、新規事業を成功させるには3つの条件があるようです。1つ目は『その市場で既にお金が動いていること』。2つ目に『時代の変化でリプレイスができるものであること』。そして最後に『既存の市場に何らかの問題があること』。これは、ライフネット生命の岩瀬社長の言葉ですが、僕もこの通りだと思っています。

当時のガラケー主流の出会い系サービスは、サクラやポイント制での高額請求など詐欺まがいのものが横行していました。一方で、SNS市場はmixiからtwitterやFacebookにどんどん人が流れていました。つまり実名サービスで、自分の顔写真を載せる文化が浸透しはじめたころでした。国内の出会い系の市場に問題があり、こうしたSNSサービスのトレンドが存在していたため、成功に導けると思ったのです」

業界内での話題を気にもとめず、生の高校生の声を信じて突き進んだ

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そして昨年5月に公開された『Couples』。既に国内に『Pairy(ペアリー)』や『Between(ビトウィーン)』という競合モデルがいた状況で、あえてカップルアプリ市場に参入していった理由をお聞きしたいです。既に『pairs』があったことで、事業シナジーがあると感じていたということなのでしょうか?

「いえ。シナジーに関しては基本的に考えていません。『pairs』は20代中盤から30代前半がボリューム層ですが、『Couples』は10代を想定しているので、ターゲットも異なります。

世界のクローズドSNS市場を見たときに、韓国では『カカオトーク』が既に流行していました。次第にクローズドなアプリにニーズが増え、結果『Between』というアプリが500万人のユーザーを集めるほどに流行っていたのです。次はこの流れが確実に日本に来るとは思っていました。なぜなら、日本では『LINE』がほぼ市場を独占していましたが、まだカップル専用アプリという市場が認知されていなかったからです。ただ、日本国内では既に『Between』『Pairy』が既にその市場で争ってました。そこに飛び込むかどうかを悩んでいるときに、『HR』という高校生向けの雑誌の編集部にお邪魔したんです。

情報感度の高い高校生はカップル専用アプリについてどう思っているのか気になって話を聞いたところ、カップル専用アプリを知っている子は、10人に1人くらいでした。IT業界的には当時カップル専用アプリというものを知らなかったら『遅れている』と思われていましたが、実際コアのターゲットになりうる子たちにはまだまだ認知されていない。IT業界の間で話題になることが、いかに無意味かを痛感したんです。そこで、感度の高い高校生にヒアリングをして、面白いと思ってもらえれば、成功するという考えに行き着きました。

それからヒアリングを重ねながらアプリを作って、渋谷のセンター街や原宿にいるような10代の子に向けたプロモーション戦略を行っていったら、今のような状況(『Couples』の10代に向けた広告戦略については、TechCrunchの記事に詳しい)になったんです」

世間一般から見れば、カップル専用アプリは『新商品』だ

–2月のCMで20代向けのクリエイティブを制作されていましたが、その経緯についても教えてください。

「10代の間である程度シェアを獲得できましたが、20代はまだまだ取り込めていなかった。しかし20代で恋人がいる人は10代の約6倍いるという調査結果を目の当たりにしたので、そこに向けたCMを作ろうという話になりました。

まず全国2万人に『カップル専用アプリの認知度がどれくらいあるのか』を調査したところ、『知っている』と回答した人は15%に満たなかったんです。カップル専用アプリは世の中の8割以上の人にとって、まったく新しいサービスの紹介となることが分かりました。だったら、利便性や競合媒体とのダウンロード数の比較ではなくて、圧倒的に感情に訴えるものに振りきったほうがいいと思ったんです。

そこで『好きな子をカップルアプリに誘ってみる』、『別れそうな2人が、アプリを通して記念日まであと10分ということを知って思いとどまる』といったストーリーを作りました。恋人をつなぐ媒介としてアプリが機能するということを訴える狙いがあったからです。結果、多くの20代の共感を呼んでアプリのダウンロード数が伸びていきました」

現在は無料での展開ですが、今後の『Couples』におけるマネタイズ戦略について教えてください。

「1つは有料会員向けのプレミアムサービスの追加。もう1つはアプリのメディア化ですね。今、アプリの可処分時間で『LINE』が圧倒的というデータがあるので、そこに食いこんでいく必要があると思っています。スマホ利用者が『LINE』に滞在する時間が長いからこそ、LINEゲームのタイトルがシンプルなものでもヒットする。また、キュレーションメディアもアクティブユーザーの率が軒並み高い。だったら『Couples』でも、ユーザーの滞在時間を長くさせるために、メディアをやるべきなのではないかという議論になりました。『Couples』内でやるメディアはお出かけ情報など、カップル2人で楽しめる内容がふさわしいと考えています。既存では雑誌の『東京ウォーカー』やテレビの『王様のブランチ』みたいなコンテンツをアプリ上で3月末を目処に公開する予定です」

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VCが入っていたら、台湾進出を15分で決められなかった

これまでの歩みのなかで、外部から資金調達をするチャンスも少なくなかったように思います。あえてどこからも出資を受けなかったのにはどんな理由があるのでしょうか?

「単純に僕らが創業したような2009年当時は、VCによるファイナンスって今ほど活発ではなかったというのが1つの理由です。

実は『pairs』が国内で60万人のユーザーを獲得したときに、台湾に進出するという決断をスタンドのミーティングの15分くらいでしたんですね。日本のFB人口比率が1/6なのに対して、台湾では1/2だということが概算で分かったので、すぐに決断しました。その話をVCが入っているベンチャーの社長と話すと、『新規事業も移転もVCへの確認が必要』と言っていて、一長一短だなと(笑)。

そのときに弊社の場合は自社の人間のみの価値基準で物事を進めていったほうが絶対いいと思ったんです。VCから資金を調達すると、さまざまな意思決定に時間や労力を割かなくてはならない。仮にシリアルアントレプレナーとして業界的に名のしれた人だったら信頼を得られるのでしょうが、弊社の場合そこまで実績はないですからね。

ベンチャー企業はスピード感こそが命ですから、そこを死守できないのであれば出資は入れないようにしたほうがいいというのが当時の僕たちの考え方だったんです」

自社サービスに専念できる今、eurekaのサービスをどのように広げていきたいとお考えでしょうか?

「『pairs』のユーザーは国内に120万人、台湾に80万人。比率的には海外が4割ですから、これからも海外での展開を推進していきたいなと考えています。まずは11月にシンガポール法人から英語版をリリースします。それを契機に、これまでリーチできなかった東南アジア諸国に対してアプローチしていくのがしばらくの目標ですね。そこでいかにローカライズできるかが今後のミッションになっていくと思います。また今まで『pairs』は男性向けの課金サービスしかありませんでしたが、女性向けの課金メニューも開発しています。

オンライン上で人と出会うことはまだまだハードルが高いですから、そこを打破したい。そのためにファッション・音楽・化粧品といった会社とコラボレーションをして、サービスに対する抵抗感を無くしていけるような工夫もしていきたいです。

『Couples』に関して言うと、競合を抑えて1位を維持していくために、台湾はもちろん東南アジアの進出はマストだと考えています。また、アプリを一過性の流行で終わらせないで、『ユーザーの年齢やライフステージが変わっても、利用してもらえるアプリであり続けるにはどうするべきか?』を分析して、腰を据えてサービスの改善・進化に取り組んでいきたいですね」

(HRナビ編集部)