「表面まねてもダメ」インターネットの父が語る、日本がシリコンバレーになれない理由

3月10日、これからのIT産業を担う創造的人材を発掘、育成することを目的とした「未踏プロジェクト」の卒業者、未踏クリエータらと、イノベーション創出に関心を持つ起業家、研究者や大企業が交流する場として「未踏会議」が開催されました。

イベントでは、日本の「インターネットの父」として知られる慶応大学教授の村井純氏と、国産OS「TRON」の提唱者で東京大学教授の坂村健氏が登場。未踏プロジェクトマネージャーで、東京大学名誉教授の竹内郁雄氏がモデレータを務める形で、「IoT時代を切り拓く創造的人材〜未来を創る異端力!〜」と題して対談を行いました。多くの未踏クリエータらが生まれる前から「異端」の道を歩んできたお二人の言葉を紹介します。
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異端なのは僕じゃなくて日本の学会

竹内:お二人とも、研究を始めた当初から異端者だったんですよね。ぜひ自らの異端ぶりを語ってください。

坂村:私の世代は、コンピュータをやろうとすること自体が異端だったんですよね。僕は組み込みのリアルタイムオペレーティングシステムをずっとやっていたけれど、そういう世界自体がメインストリームの情報処理から外れていたし、そもそもコンピュータをやっている人自体が少なかった。

村井:そもそもコンピュータの研究をやろうにも、計算機科学科とかありませんでしたからね。その上に僕なんかは、そのコンピュータをつなごうとするのでますます変、という。でも、竹内先生も坂村先生もそうだけど、当時の先輩方はひどい意味で(笑)……じゃなくて、いい意味ですごい異端の先輩ばかりで、すっごい楽しくてしょうがなかった。コンピュータ系の会議行くと、みんな、好きなことをやっているんだもん。当時、坂村先生は世界中で活躍されてました。「アメリカにKen Sakamuraがやってくるぞ」ってARPANETで注意が流れるくらい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA坂村:いやそれは、当時の時代背景を言うと、日本はアメリカに追いつけということで、大型計算機を作ろうとしていた。その流れの中で、知っている人もいるかと思いますが「第五世代コンピュータ」を作ろうとしてたんですよね。人工知能コンピュータを作ろうという話が出て、予備調査が必要だということで、僕が渡米して人工知能の研究がどのくらい進んでるかを調べてきたことがあります。

そのとき印象的だったのは、割とみんな親切で、最初に行ったスタンフォード大学から次の大学、次の研究機関を紹介してくれるとき、「こういうやつが行くよ」とARPANETで連絡してくれた。それにベル・ラボに行ったら、UNIXとかC言語の前のB言語とかも、オープンソースで「これ持っていけ」ともらってきて……結局「人工知能の研究はやめた方がいい。向こうでインターネットを見てきた、これからはこういうのに取り組む方がいい」って報告したんですけど、クビになっちゃった。で、僕はEmbeddedとか、人がやっていないことをやる方がいい、と。

村井:でも異端という観点から言うと、組み込みやUIの考え方、物理的なものの空間とコンピュータとの関わりに関する坂村さんの話にはリアリティがあった。だからあまり異端という感じじゃなかった。

坂村異端なのは日本の学会でしょ。

村井:僕も、ネットワークをやるといったら、情報処理学会で「面白いからやれ、でも今はやばいからだまってろ」といわれたことがあります。当時は、通信プロトコルは国で決めてやるものだった。そこで好きなことをやるなよ、っていう空気があって……好きなことをやるのは異端かもしれない、と。

でも、今日の話を聞いていて感じたのは、最初は好きなことをやらせようってことです。好きなことをやってるからいいんだよそれで、と。つまり、周りから何と言われても好きなことをやる、で、好きなことをやっていて文句を言われたら、かなり異端なんだよね。

坂村:怖いからね、エスタブリッシュした人にとって。日本の学会がだめだったのは、新しいことに対する評価軸を作れなかったこと。完成しているところに関係ない奴が来ると、その完成が崩れるんじゃないかというわけですね。その点アメリカは、どんどん新しいことをやるような場を提供して、歓迎する。未踏会議のようなものが学会の場で用意されていて、そこでは出会いもあるし、リクルートも来る。

竹内:つまり、日本の学会はダメだと。

坂村:改革する必要がありますね。ちゃんと評価をしないと若い人がかわいそう。「認める」ということをある程度システム化していかないといけない。

日本がシリコンバレーになれない理由

村井:「好き」が中心にあって勉強して、モノを作るとか、変えたいとか、そういうことを夢中になってやるというのは大事だと思います。僕は一方で楽観的なところがあるんです。前に比べれば大学も変わっているし、学会もよくなってる。むしろ、この国で、新しいことをやろうということに対してなかなか動けないのは、産業じゃないですか。行政もあるけど。

坂村:僕は、答えは一個しかないと思っています。人材の流動性がないんですよ、日本って。よく「シリコンバレーのようなものを作りたい」と言う人がいるけれど、表面だけまねてもだめ。シリコンバレーの何がすごいって、人材の流動性があるんですよ。なんで未踏のような人材がアメリカに行っちゃうかというと、人を取れるからなんです。

未踏をやってきても僕は思うんだけれど、日本人が馬鹿かというとそうじゃない。アイデアもある。お金も最近少し良くなってきて、ファンディングもあるし、経済産業省やIPAも後押ししている。でも、人がいないとだめなんです。グーグルだってどこだって、急激に人が増える時がありますよね。そういう時に人を雇えるかというと、ここじゃ雇えないんですよ。大きな会社が人材をロックしちゃっているから。人を動かせる仕組み、雰囲気がないとダメ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA村井:でも、人間が流通しないのはなんでかっていうと、例えばあっちのCEOとかのすぐ脇には、スーパーエンジニアがいるんですよ。(ジェームズ・)ゴスリンなんかがそうですね。彼はCEOじゃなくて、プログラムを書いてる。でも彼の給料はCEOの3倍ですよ。プログラマにものすごく投資している。だから流動できる、というのがある。

ひるがえって日本では「プログラマなんて、40になったら行き場がなくなるよ」といわれる。40歳になったらマネージャーになるとか社長になるとか、そういうことをやらなきゃいけないっていうのがそもそもおかしいと思うんだよね。やっぱりプログラマに金払え、ですよね。

坂村:でも、ろくでもないプログラムを書いているやつもいるからね(笑)。

それと、日本人的に自虐的にもう1つ言えば、大学も問題。再教育することに対する意欲がない。向こうだと、どうしてもテクノロジってのは進化するからもう一回勉強しようと、働いて、大学に行ってまたちょっと働いて……という人がたくさんいるし、そういう人たちが入りやすい大学になっている。でも今の日本の大学は入りにくい。ちょこっと再教育、ってあんまりないですよね。

あとアメリカは、大学間の人材の交流もけっこうやっている。でも日本は人材はロック。ある大学を出たやつが他の大学の院に行くと、周りがええっとなる……みんながロック、みんながクローズ。もっとオープンな環境を作って、人が動いていくと、テストやまっとうな標準化されたカリキュラムも作られるようになると思う。

村井:今年から、ASEANの大学が同期をし始めたんですよね。カリキュラムに互換性ができて、域内の大学の学生が、どこに行ってもいいようにし始めている。あと2年くらい経つと、ASEANの大学はみんなこうなっちゃうよね。同期して、流通するという意味では、アメリカだけでなくて、東南アジアもそうなりつつあって、インドネシアとかにはけっこう強い大学がありますよね。

坂村:アジアにせよヨーロッパにせよ、大学が流動させようって努力してるんですよね。だから、日本がこれやんないと取り残されちゃう。クローズのまま滞ってしまう。イノベーションってどうやって起こるかっていうと、やっぱり、クロスがないとだめなんですよ。マッシュアップしてるわけなんだから。

未踏人材のネットワークは「異端ネット」

村井:そういえば今日のテーマって、IoTじゃないの?

竹内:ここまでの話だと「Itan net of Students」ですね。IoTじゃなくてIoSになってる。今日の前半には、夏野さんの司会で企業と経営者の話がありましたね。お二人とも、その気になれば金儲けができた人じゃないですか。(関連記事:“メルカリ超え”のチャンス逃した、DeNA南場氏「自分には見えていない世界があった」と反省

村井:90年の後半、当時のインターネットのコミュニティを形作っていたメンバーの中で大学にいたのは僕一人で、あとはみんな起業して大金持ちになった。俺だけが唯一の貧乏だ、と。

ただこれには考えもあって、この国を変えようと思ったとき、ビジネスから変えるか、それとも大学から変えるか——で、結果論から言うと、大学にいてよかったと思う。何かを変えるときって、既存産業のある中で、ご迷惑をおかけしながらやってくわけですよ。そのとき、アメリカならば、産業から引っ張る、エコノミーから引っ張る、というのができるんですが、日本では、どこかの民間企業がやろうとすると「金儲けのためにやってるんだろう」って、あらゆる足ひっぱりが起こる。でも、なぜか大学の立場から言うと、「世の中をよくするためですよね」と、そういうふうに思わせることができる。

竹内:今日はIoTの話がIoSになっちゃった。せっかくですので、バズワードでもう流行っている「IoT」の次は何になるか言ってみて(と、無茶ぶり)

坂村:いやいや、そもそもIoT時代がこれからですから……IoTって、私がずっとやってきた組み込みとも深く関連するもので、インターネットが人と人を結ぶものならば、IoTはものともの、バーチャルとリアルを結ぶものですよね。これから10〜20年で、今インターネットをみんなが普通に使っているのと同じように、IoTも普通にみんなが違和感なく使うようになるのではないかと。で、問題はその先でしょ? 人と人をつないで、ものとものをつないで、人とものをつなぐとなったら、次は人間の精神がつながるところですよね。

竹内:やっぱり「IoS」だ。

坂村:そうめちゃめちゃな話じゃないと思うのは、精神的なものがつながるって話はSFではたくさん出てくるんですよね。なので、本は読まないとだめだよ、若い人。

村井:これは竹内さんの質問がおかしい。「次はどうなる」を考えるんじゃなくて、ずーっと好きなことをやってるんだよ。僕はWIDEでずっと何がやりたかったかというと、地球の上のコンピュータを全部つないで分散システムを作る、分散OSを作るってのが最初の目的だったの。でもつながってないから、しょうがないからネットワークをやったわけ。

で、つながったので、ようやくここでどんな処理ができるようになるか考えることができるようになった。遠回りしたけれど、ようやく地球の形の分散処理という環境が整った。ここで何をしたいのよ、というところで行き着くのは、人の抽象化だよね。人を抽象化して、その中でIoTによって全てのものから情報が出てくる。そういうものが全てうちそろったイメージが持てるようになった。30年かけてようやく準備が整ったんです。

竹内:これからが楽しみってことですね。

坂村:未踏会議の次の段階でやりたいのは、やっぱりX Prize(エクスプライズ)ですよ。うまくいった人に賞金を出すって言うやり方。未踏では、うまくいこうといくまいと、いいものにお金を出しているけど、もっとチャレンジャーじゃないと。アメリカでは成功しないやつにはあげない。エクスプライズ財団があって、目標を達成したやつにお金を出すんですよ。それを税金でもやっている。日本でもそれをぜひやってほしい。そういうのあると燃えるでしょ? 世界で戦うにはそれくらいのことをやらないといけない。戦え!

竹内:えー、いろいろと面白いお話がありましたが、財団法人未踏では、これからは人材のネットワークを、インターネットじゃなく「異端ネット」でいくことに決めました。ありがとうございました。