「起業するのにパーフェクトなアイデアなんて待つな」、Dropbox創業者が若い起業家へ送る言葉

独立系クラウドストレージサービス「Dropbox」は、MIT(マサチューセッツ工科大学)卒の、当時24歳の若き起業家、ドリュー・ハウストン(Drew Houston)によって設立された。2007年の創業当時、すでにクラウドストレージサービスやバックアップサービスはレッドオーシャン状態だと考えられていて、今さら差別化要因などないし、Dropboxが成功する理由もないと、多くの投資家は考えていた。

ところがその後の数年でDropboxは使いやすさで他を圧倒。今ではGoogle、Apple、Microsoft、Amazonなどと並んでストレージサービスの世界で強い存在感を示すに至っている。2014年1月には評価額100億ドル(1.2兆円)で2億5000万ドルの資金を調達するなど、企業規模が大きくなりすぎてしまって、もはや買収できるのはMicrosoftぐらいしか残っていないのではないかと言われるほどだ。

2015年4月7日に東京で開催した新経済サミットで登壇したドリューが、詰めかけたテック業界関係者や若手起業家たちに語ったのは、1回めで成功しようと考えるよりも、とにかく早く始めるというアドバイスだった。

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1社目から大成功する必要なんてない

今から3000日ほど前のこと、ドリューはY Combinatorが運営する掲示板のHacker Newsに、「USBドライブはもう不要」というメッセージとともに、Dropboxというプロジェクトのリンクを投稿した。これは直ぐにテクノロジー界隈の住人たちの間で話題となり、後はその後の歴史に見る通りだ。ドリュー自身が新経済サミットで語ったところによれば、Dropboxに関する最初の記事は日本発のもので、初期には日本からのユーザーも多かったという。今では日本のDropboxのユーザー数は1000万を数えるほどになっている。

Dropboxはドリューが最初に世に問うたプロダクトではなかった。

米国の大学受験生が必ず受ける「SAT」と呼ばれる共通テストの対策がオンライン上でできる、「Accolade Prep」というWebサービスを2006年に立ち上げたのが最初で、それが1つ目の会社だった。紙ベースの模擬試験で800ページもあるようなものを自分で採点する必要があったり、土曜日の朝8時からクラスに出席しないといけないなど大きなフラストレーションを感じたことから着想したサービスだった。

「アイデアは良かったけど、まあ誰にでも1つめの会社というのはありますよね。いま振り返ってみると、いくつも間違いを犯しました。資金調達もしなかったし、とても非効率でした。週末や深夜を使って、(SATの数学の問いである)平行線や三角形の問題を作ったり、アナロジーの問題(言語運用力を測るタイプの問題)を自分で考えたりしてね、結局すぐにバーンアウトしてしまった(笑)」

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1社目の起業では多くの間違いを犯したと自ら言うドリューだが、21歳という若さで始めたこと自体はとても良かったと話した。起業家として成功する最適な道筋というのはなく、Facebook創業者のザッカーバーグにせよ、Microsoft共同創業者のビル・ゲイツにせよ、いきなり最初のプロジェクトで成功したのではなく、いつもあったプロジェクトの中の1つが軌道に載ったところからその後の成功が導かれているのだという。「1つ目のプロジェクトで成功した人は多くないと思う」。

Accolade Prepの次にドリューが取り組んだプロジェクトの中には、「ポーカーボット」というイケてないものもあったというから驚きだ。Dropboxをサイドプロジェクトとしてスタートする前、オンラインのポーカーで勝つために、ローカルのマシンで動くポーカーボットを作成したという。「画面上でマウスやポイントが動いて、アルゴリズムにしたがってポーカーで賭ける」もので、持ち金を全部賭けたりしていたそうで、それ自体はクールだと思っていたという。

その頃、USBドライブを良くなくして困っていた問題を解決しようと始めたのがDropboxだ。「最悪のケースでも自分自身がユーザーになり、自分の問題は解決できるんだから」とプロジェクトを開始した。「どんなプロジェクトをやっているときでも、アイデアには熱中していました。大学ではコンピューターサイエンスで分散コンピューティングを学んでいたので、Dropboxは学んだことを試す、一種の遊び場のようなものでした。だから最初は少し罪悪感を感じたりもしていました。プロジェクトはいつも楽しいというわけではありません。Dropboxはサイドプロジェクトだったし、Accoladeや学業があるのに、と。でも、だんだん自分の中で、その(自己批判の)声が小さくなっていったんです。ミッションは変わります。最初は自分の問題を解くことだったのが、結局数億ユーザーの課題解決となりました」。

Dropboxは、個別ユーザーのデバイス間でのファイルの持ち運びの問題から徐々に範囲を広げていて、いまやMicrosoft Office文書の共同編集というコラボレーションの領域や、際限なく枚数が増える写真整理という領域でも、新アプリや機能をリリースしている。

「AppleやGoogle、Amazonと戦う日が来るなんて、これは夢の様な話ですよ。もちろん、より手強い敵と戦うってことですが……、それも楽しさの一部です」

パーフェクトなアイデアを待つな、早く始めろ

世界に通用する起業家になるためには、どうすればいいですか?

日本の起業家志望の若者と思しき会場からの質問に対して、ドリューは次のように答えた。

photo02「パーフェクトなアイデアや、パーフェクトな状況がやって来るのを待つんじゃなくて、早い時期に始めること。そして実際に会社を始めたような人たち、自分自身がより良い起業家になろうというプレッシャーを与えてくれるような人たち、そうした人々の間に自分の身を置くこと」

「それから、ビジネス関連の本をたくさん読むのもいい。ぼくは大学時代に100冊ぐらいは読んだと思う。プログラミングは知っていたし、プロダクトの作り方も知っていたけど、ビジネスのことは何も分からなかったので、たくさん読んだ。たくさん読むとパターンが見えてきます。ビジネスだけじゃなくて、軍隊でも政府でもスポーツでも。読書の価値は過小評価されていると思いますね」

日本での講演ということで、「日本への処方箋」を質問されたドリューは、起業家や経営者が次世代の起業家をメンタリングし、投資をしていくサイクルの重要性を強調しつつも、シリコンバレーのような特定モデルをコピーすることが簡単ではないと指摘。機械学習やロボティクス、IoTなど、日本が取り組めば価値が出るかもしれない領域に言及し、数年おきに国や地域によって違う波、大きなチャンスが来るので、そうした波をつかむほうが大事だと話した。

また、失敗が許容され、ある意味奨励される文化がアメリカにあることについて、日本社会でもロールモデルさえ出てくれば、変わるのではないかと示唆した。

「事前に結果が分かっているなら、何も新しいことをしているなんて言えないですよ。だから、これからもたくさん失敗が出てくるするはずです」

「必要なのはロールモデル。いちばん良いのは、これとこれをやったけど、うまく行かなかったよと話してくれるような起業家たちですよね。何もかもうまく行かなくていいんです。1度でも成功したら、それでヒーローなんだよ、と。そういうロールモデルになる人たちがいれば、失敗を許容するような文化が生まれてくるのでは」