複数CTO体制、就業規則をGitHubで公開──1200万DLのトランスリミットが繰り出す「理詰め」のノリノリ戦略

「脳トレ」アプリのBrainWarsが全世界で1200万ダウンロード越えのヒットを飛ばし、エンジニアの増員を続けるトランスリミットの最近の施策は奇抜だ。CTO、つまり最高技術責任者を2人にしたり、Githubで就業規則を公開したり。ちょっと聞いただけでは「ネタ」と受け止めてしまいそうな施策だが、その背後には会社の成長を狙うロジックがあった。同社の高場大樹CEOに話を聞いた。

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エンジニア中心の会社は「分野別に複数のCTOがいてもいい」

同社の最近の施策で興味深いのが、「2人CTO体制」だ。2人目のCTOを任命し、同社はCTOが複数いる会社となった。

CTOは「最高技術責任者」と訳されるように、企業内の技術戦略やエンジニアのマネジメントに関するトップの役職とみなすのが普通の考え方だ。だが高場氏の考え方は少し違う。

photo-d「分野別に複数のCTOがいてもいい。新規事業CTO、全体最適CTO、人材育成CTOなど、それぞれの得意分野に応じたCTOがいてもいい。エンジニア中心の会社なら、人事部長もCTOであるべきだ」。

今の同社はエンジニア比率が9割。取材時点での同社の人員は17名、うち15人がエンジニアだ。今後もどんどん増やし、「今年中に30名」を目指す。高場氏は「エンジニアやデザイナーなど、手を動かす専門職が8割以上の比率を維持したい。経営陣も半分以上はエンジニア出身である必要がある」と話す。

つまり複数CTOは、複数のエンジニア出身者が経営幹部としての経験を積むための施策だ。CEOの高場氏自身、起業する前はサイバーエージェントでエンジニアとして働いていた。BrainWarsの実装について高場氏に話を聞くと、「サーバサイドには、RailsとNode.jsを使っている。対戦の部分はNode.jsのSocket.IOを使う。Socketで通信する対戦ゲームは飛ぶパケットが少ないので、回線事情が良くない地域でも問題なくプレイできる。またキャリアの通信制限が掛かり通信が重くなっても小さいデータしか送受信しないBrainWarsは難なくプレイできる」と答えが返ってくる。世界中にユーザーがいるBrainWarsの対戦型ゲームのSocket通信は、Node.jsを搭載する1台のサーバーだけで処理しているそうだ。

こうした技術寄りの話題を自ら理解して説明できる経営幹部が、同社が必要としている人材なのだ。

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ベテランエンジニアを採るには、就業規則の公開はプラス

もうひとつ、同社の最近の施策で目を引くのが、就業規則をGitHubで公開したことだ。名古屋市のIT企業であるデンキヤギ株式会社がGithubで公開した就業規則をforkし、スタートアップであるトランスリミットの事情に合わせてカスタマイズしたものだ。

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「オープンにすることで、就業規則の内容がきれいなものだと理解してもらえる。もし他のスタートアップでも採用してくれたら、ベストプラクティスだということになる」。

高場氏は、次のように話を続ける。

「自分は今28歳。会社としては30代半ばぐらいの、経験を積んだエンジニアを採用したい。そうすると、普通の会社に近い制度にした方が違和感なく入社してもらえることが“ハック的”に分かってきた」。

若いエンジニアばかりではなく、経験を積んだ年長のエンジニアを積極的に採用するには、就業規則がきちんとしていることが分かるよう公開されていた方が有利だというのだ。

なぜ、年長のエンジニアを採りたいのか。

「若いエンジニアだけだと、どうしてもフロントエンド寄りのレイヤーで仕事をしてきた人が多くなる。年長者の方が深いところを知ってたり幅広く経験している。若手とベテランのバランスが重要。したたかに、技術を身につけて成長していきたい」。

高場氏は、若さで突っ走るだけの会社ではなく、経験豊富なエンジニアの知識も取り込んだ会社にしたいと考えている。「今は外国人は1人だが、積極的に採用したい。日本国内に多国籍企業を作りたい」。幅広い年代、国籍のエンジニア達が能力を発揮する会社として、世界で戦おうとしているのだ。

BrainWarsの施策は「すべてがうまくいった」

高場氏の話を聞いていると、いっけん奇抜な施策の背後にあるロジックがわかってくる。理詰めで説明することが、高場氏のスタイルだ。

同社の「脳トレ」アプリBrainWarsは全世界で1000万ダウンロードを越えるヒットとなったが、これもただの偶然ではなかった。BrainWarsは最初から海外マーケットを狙った。論理や計算で解く「脳トレ」ゲームはローカルな文化の影響を受けない。アプリのデザインも、イラスト的なビジュアルは避け、スマートフォンOSのフラットデザインと親和性があるデザインとした。文化的なバイアスを避けるためだ。

こうした施策は「すべてがうまくいっている」と高場氏は言う。BrainWarsのリリース当初は日本国内ユーザー主体で伸びたが、今や95%が海外ユーザーだ。

ただし、課金ユーザーが少なかったことは「誤算」だった。脳トレ型のゲームのヘビーユーザーは、課金アイテムでショートカットを図るよりも、実力を蓄積していくスタイルでプレイするからだ。

同社の次の一手はどうなるのか、気になってきた。

ゲーム以外のサービスを準備中

photo-b「BrainWarsだけでやっていくつもりはない」と高場氏は語る。まず、別のゲームのビックタイトルを準備中だ。それだけでなく、BrainWarsのようなヘビーな作り込みが必要なゲームだけでは新人エンジニアの教育の機会が得にくいこともあり、より手軽に作れるカジュアルなゲームを月1本といったペースでリリースしていくことを考えている。

ゲーム以外のサービスの1つとして、開発者向けのアプリ多言語対応サービスを準備中だ。同社はBrainWarsを多国語で展開しているが、そのために作った多言語向けツールを元に、有償サービスを展開する。「SDKを1つアプリに組み込めば、いくらでも(多言語に)翻訳できる。クラウドソーシングも使う。2015年内には出せると思う」。

その先のビジネスの構想もある。大勢のユーザーの頭脳を活用する「マイクロタスク」型のサービスだ。認証サービスの「reCAPTCHA」が、難読文字を読解する「人力OCR」としても機能している話は有名だが、それと似た形で、多数のユーザーの頭脳を活用する。「脳トレ」的なゲームが、単にゲームであるだけでなく、大きな問題を解決するために機能するとしたら、それは素敵なビジネスモデルといえるだろう。

「エンジニアの価値を最高に引き出す会社にしたい」と高場氏は言う。同社がオフィスを構える渋谷に、世界で戦えるエンジニア中心の多国籍企業を作ることが、高場CEOの大きな狙いだ。