「秀丸」の秀まるおさん、そろそろMac版はいかがでしょう? 気になることを全部聞いてみた。

Windowsでテキストエディタといえば、ほとんどの人が同じものを思い浮かべるのではないだろうか。もちろん「秀丸」である。いまも多くの人がPCをセットアップするときにまずインストールするソフトウェアの1つだ。

1990年代半ばに生まれ、20年以上にわたって使われてきている。開発者の斉藤秀夫さんは秀丸があまりに売れたため、当時勤めていた大企業を退職して独立した。元祖ソフトウェアスタートアップともいうべき存在である。

そんな斉藤さんにいろいろ聞いてみた。Mac版は出ないのか? 秀丸御殿がたったのは本当? いまはスタートアップが成功しやすい? 自然体で答えてくれた斉藤さんのお話をどうぞ。

秀丸開発者の斉藤秀夫さん(a.k.a. 秀まるおさん)

秀丸開発者の斉藤秀夫さん(a.k.a. 秀まるおさん)

秀丸が好調で、「フェラーリに乗ってる」という噂も

–「秀丸」シリーズの売上はピーク時で1億円を超え、「秀丸御殿」が建ったとか。

斉藤:Windows 95が出てきて世の中みんながWindowsを使うようになった時に、他に競合するソフトがほぼなかったこともあって、その時は大変売れたし反響もかなりありました。

その時はすでに東京から実家のある福井県の鯖江に戻って有限会社サイトー企画を立ち上げていたのですが、売り上げはたしかに1億円以上ありましたね。

さすがに“御殿”はないですが、なぜか「斉藤秀夫さんがフェラーリに乗ってる」みいたな変な噂が流れたことはあります。フェラーリじゃなくてランサーエボリューションだったんですけども(笑)

色は赤でした。

–そもそも秀丸はどういった経緯で開発されたんでしたっけ。

斉藤:話せば長くなるのですが、まず僕自身は富士通という会社に勤めていて、その時、仕事の関係でOS/2っていう、IBMの作ったOS上の、当時はPresentation Managerというウィンドウシステムがあって、そのウィンドウシステム上で動くアプリケーションソフトの開発に携わっていました。

で、実はそのOS/2上で動く、秀Term(ひでたーむ)や秀丸といったソフトを会社の中で勝手に作って社内に広めて遊んでいました。

その後、いわゆるDOS/VやPC/AT互換機のブームがやってきて、そういった互換機上で日本語版のWindows 3.0を動かすのが流行って、僕もそういった互換機上でWindowsを動かすようになりました。

ただ、Windows用のアプリケーションソフトがほとんど無くて、OS/2用に作った秀Termや秀丸をWindows用に作り直して、それを、当時のNIFTY-Serveでシェアウェアとして配布した。そんなところが始まりです。

なぜテキストエディタやパソコン通信ソフトを作ったのかと聞かれたら、それはつまり、当時自分自身が一番必要とするソフトだったから、ということになります。

当時はBorland C++の英語版上で開発していました。また、NIFTY-Serveに「シェアウェア送金代行システム」があって、それがあったのも非常に大きかったと思います。いろんな点でタイミングが良かったと思います。 

秀丸の名前の由来は「よくわからない」

–ところで秀丸の由来とは。

斉藤:「秀丸」という名前は、富士通時代に会社の同僚の人が付けた名前だったりします。名前の由来は僕もよくわからないのですが、とりあえず僕の作るソフトには最初に「秀」を付けていて、それでテキストエディタなので最初は適当に「秀エディタ」などと呼んでいたのが語呂が悪くて、いろいろ意見がありました。

例えば「秀太郎」とかだと一太郎のパクりだとかあって、その流れで秀丸になったような気もします。 

–その同僚の方はその後、秀丸が爆発的に普及して驚いたでしょうね。

斉藤:僕が退職してから話したことがないので、その後どう思ってるのかはよくわからないです。というか、たぶん、そんなに爆発的にヒットしてるとは思ってないんじゃないかと思います(笑)

なにしろ公開した当時は、Windowsを使ってる人はほとんどソフト開発関係者しかいなかったですし、今みたいにインターネットもなかったので、あくまでパソコン通信の中の一部の人から反響があっただけでした。

–秀丸エディタはいまどれくらいの方が使っているんでしょうか。

斉藤:ユーザー数はちゃんと数えてないのでよく分からないのですが、20~30万人以上は行ってるはずだと思います。例えば会社とかで100ライセンス以上まとめて買っていただく例も多いので、そのへんも含めると正確な数はちょっとわからないです。

現在の売り上げは、社員3人でやってくのには余裕があるかなぁという程度です。バージョンアップもずっと無料でやってますが、今でもそれなりに新規ユーザーさんに買っていただいてはいるので、まだ当分は食っていけそうな気はします。 

Mac版秀丸の可能性はあるのか?

–新しいソフトウェアに取り組む予定はないのでしょうか。スマホもだいぶ普及しました。

斉藤:Windows以外のプラットフォームについては今までにもトライしたことはあったのですが、いろいろ難しい点があって、結局Windowsオンリーになってしまっています。

Mac版とか、BeOS版とか、LinuxのX-Window版だとか……あと最近だとスマホ用にはどうかといろいろテストしてみたりとか、Windowsのストアアプリ版はどうなのかと勉強してみたりもしてみましたが、正直、Windows版からの移植というような形で実現するのはほぼ不可能。名前以外は全部作り直しになるということで、全部挫折しています。

Windows版の方もなんだかんだでやることがあって、そっちを放置して他に手を出すわけにもいかないのです。

–WindowsからMacにスイッチする人も多く、「Mac版の秀丸エディタがほしい」という声も根強いですが……。

斉藤:先ほどの話と重なるのですが、Mac版を作るとすると、ユーザーインタフェースの設計も含めてほとんどゼロから作り直しになると思います。C++言語とObjective-Cとの違いも含めて、ほとんどゼロから勉強して作り始めないといけないとなって、しかもその間Windows版の開発も中断するわけにいかないとなると、無理があります。

あと僕自身、Macを使う上で、例えばいまだに親指シフト入力を、「Q’s Nicolatter」というソフトを使って実現してるんですが、そういったこともMac上では実現できてないとか、いろいろ今までできてたことがMac上でできないことがあるとか。

例えば簡単なところだとAlt+Fでファイルメニューが開くとか、そういった作法的なところもMacは違うので、そういった文化の違いに体を慣れさせることが非常に難しくて、ダメなんですよね。

–秀丸エディタはシンプルで使い勝手の良いエディタとして愛されています。斉藤さんが心がけているプロダクトデザイン的な思想などあるのでしょうか。

斉藤:僕自身はキーボード主体で操作する人間なので、キーボードで操作するのに不便なところがないようにってことは気をつけています。例えばダイアログボックスのタブストップがでたらめなソフトとかあったりしますが、うちのソフトではそういうこうとはないです。

あと性能面でも僕自身、非常にこだわりがありまして、最近、秀丸メールの検索や秀丸エディタのgrepをマルチスレッド化して高速化したりしましたが、そういったところは苦労しててでもやろうと思っています。

受託仕事はせず、いまも秀丸一本で

–先日、秀丸エディタ脆弱性が見つかりましたが、すぐに脆弱性を解決した修正版や対処策などの情報を提供されていました。

斉藤:脆弱性の情報については、その道の専門の方から直接メールが届いたので、すぐに再現テストをして1日以内で修正できました。他にも、直接メールをいただいたりとか、あとサポート会議室で届いたバグについては、再現できさえすれば、その日のうちに直せることがほとんどです。

いわゆる保護違反の類が発生した時も、実はうちのソフトには独自の方式で保護違反発生時の内部情報(スタックトレースなど)をログに出力する機能があって、そのログを送っていただくことで、大抵は原因が究明できます。バグ修正や機能追加の類は、いわゆるベータ版という形で素早く提供しています。

再現困難なバグがあるとなかなか解決が難しいですが、例えば秀丸エディタや秀丸メールには設定をファイルに保存する機能があって、それで保存した設定ファイルを送ってもらったりして再現させたりとか…。あと秀丸メールの場合だと、秀丸メールの動作についてログを詳細に出力する機能があるので、それでログを送ってもらって再現方法を考えたりとかもしています。

–今後のアップデートについて何か計画されていることはありますか。

斉藤:僕自身は現在は主に秀丸メールのサポートや改良などをやっています。他に1人、プログラマーの社員がいて、その人は、秀丸エディタや秀丸ファイラーClassic、あと秀丸スタートメニューなどを作っています。他の細かいソフトは僕が担当してることが多いです。

Windows 8.1からカラー絵文字って仕組みが導入されたので、それへの対応を今している所です。一般のソフトウェア会社だと受託開発とかもしてると思いますが、うちの会社は今のところはそういった仕事はしてません。

田舎の方が何かと便利だ

–福井県鯖江市に在住とのことですが、なぜ鯖江市に移られたのでしょうか。

斉藤:有限会社サイトー企画を作る時に、都会の方だと誰も知り合いもいないし心細いので、うちの親に手伝ってもらおうと思って、それで田舎に帰りました。うちの会社は秀丸エディタなどのソフトだけの商売だし、お客さんと打ち合わせすることもないし、場所的に困ることは何もないです。

便利な所としては……とりあえず山登りやらゴルフやら、その他いろいろスポーツとか散歩とかしようとした時に、田舎の方が何かと便利だなぁとは思います。

例えばゴルフの話をすると、こっちだと練習場の球代が1球6円程度ですが、都会の方だと入場料で500円取られて1球20円で、しかも20メートル先にネットがあって球の行方なんか確認できないとか、そんなんらしいし…。

ゴルフ場も、普通のサラリーマンが行けるような値段の所は高速道路で片道2時間以上かかるそうな……。こっちだと車で30分以内の所に土日でも1万円前後でラウンドできるゴルフ場がいくつもあります。そういう意味では田舎はいいと思います。

秀丸が「学生と開発者は無料」のワケ

–秀丸エディタは学生やフリーウェア作者には無料で提供されるなど、特徴的なフリー制度をお持ちですよね。

斉藤:フリー制度をやり始めた経緯は、例えば雑誌で秀丸エディタの記事を書いていただいたりとか「秀丸使って書いてます」みたいなことをせっかく言ってくれてる人に対してお金を取るのはちょっとどうか……というのがあって、それでそういった方は無料にしたいというのが1つありました。

その後、フリーソフト作者の人がソフト開発するのにお金がかかるのをなんとかして欲しい、みたいなことを言われたことがあって、そういう関係の方も無料にするようになりました。

あまり深い意味はないのですが、やめるにやめられなくて、まだ続けてます。ソフトがあんまり売れなくなったらやめると思いますけども……。今のところはまだ売れてるので続けてます。

あのパスワードの秘密も……

–そういえば秀丸エディタの有料版のパスワードは長く同じですけど、何か特別な理由などがあるのでしょうか。

斉藤:秀丸エディタのユーザーさんの数がものすごく多いので、今さらパスワードを変更したら、問い合わせが殺到してうちの会社が大変なことになると思います。それが怖いので変更していません。

例えばパスワードを問い合わせいただいたユーザー様が、たしかに以前購入いただいたユーザー様かどうか調べるのもなかなか大変だし、「送金いただいた記録がありません」と説明してもなかなか納得してもらえなくて、その後の対応にすごく時間のかかる例もあります。

電話で問い合わせされる方もけっこういらっしゃいますし、パスワード変更のためだけに人員を増やすわけにもいかないですし、なかなか難しいところです。

元祖ソフトウェアスタートアップとして思うこと

–斉藤さんが独立されてから20年経ち、現在はより個人でアプリやインターネットサービスを開発しやすくなっています。スタートアップのチャンスは広がっているのでしょうか。

斉藤:僕の場合はいろいろタイミング的に良かったところがあって成功したと思います。ある意味ラッキーが重なった感じだと思います。僕と同じようなプログラミングスキルがあっても、みんな同じような成功体験ができるわけではないと思います。

なので、まぁなんというか……世の中そんなにうまくいくと思わないで、仕事と趣味のバランスというか。「やりたくないこともやりつつ、やりたいこともやる」的な感じで生きていければいいんじゃないかと思います。

ゆるい雰囲気が魅力の斉藤さんでした。

ゆるい雰囲気が魅力の斉藤さんでした。