西海岸で感じた「グローバル化のワンステップの差」。Scrum Ventures広報、三浦茜氏が語る日米スタートアップの差異とは?

サンフランシスコを拠点とする「Scrum Ventures(以下、スクラムベンチャーズ)」は、2013年の創立から2年間で、34社への投資実績を持つベンチャーキャピタル。そのマーケティングマネジャーを務めるのは、三浦茜氏。自らも企業経営に携わった経験を持つ彼女に、日米のベンチャー事情の違いや、今後の戦略などについて伺った。

15040424ScrumVentures04

三浦茜氏。スクラムベンチャーズ マーケティングマネジャー。2007年に、29歳でITベンチャー企業の代表取締役に就任。その後、日本で複数のWebサービスの立ち上げや運営に携わり、ライフハッカー[日本版]では編集委員として起業家や精神科医、漫画家など幅広い層の方にインタビューを行うなどライターとしても活動。2014年に、結婚を機に渡米し、スクラムベンチャーズのメンバーとして参加。

ベンチャーキャピタルがシェアオフィスをオープンした理由

三浦さんがスクラムベンチャーズに参加するきっかけとなったのは、同社がサンフランシスコに開設したシェアスペース「Zen Square」。スクラムベンチャーズの代表、宮田拓弥氏とは旧知の間柄だったことから、このスペースのオフィスマネジャー兼マーケティングマネジャー候補として声が掛かったという。現在はその一員として、ベンチャーキャピタルからさらに、シェアスペース&イベントスペース「Zen Square」の提供、そして自社メディアの運営、コンサルティングへと領域を超えて広がる活動の広報を担当している。

サンフランシスコの中心街に開設されたシェアスペース「Zen Square」

サンフランシスコの中心街に開設されたシェアスペース「Zen Square」

三浦:スクラムベンチャーズは、日本をはじめ韓国や台湾などのアジアからファンドのお金を集めてアメリカのスタートアップに投資をしています。ベンチャーキャピタル自体も、アジアとアメリカのハブのような役割をしているのですが、その役割をもう少し広げていきたいと思うようになりました。そういった思いから「Zen Square」という「場」を設けたんです。そうすればアメリカのスタートアップがアジアに行くきっかけを作ることができたり、日本のスタートアップがアメリカに来るきっかけ作りにもなると考えました。

さらに、「Zen Square」という場を作ることで自社で運営するメディアとの相乗効果も狙っています。人が集まる場所があることで、イベントを行えるなどメディアの運営にもメリットがあります。その流れから「Zen Square TV」という、注目の起業家のインタビュー、プロダクト、トレンドを紹介する動画メディアを始めています。他にも現在、日本の新聞の電子版への情報提供を行うなども行っています。これからもスクラムベンチャーズではベンチャーキャピタルという役割だけではなく、プラスアルファの展開をいろいろとやっていこうと思っています。

日本企業とシリコンバレーを繋ぐ

スクラムベンチャーズにとって、シェアスペース、メディアと並び展開する「コンサルティング」領域は、日本とシリコンバレーを繋ぐ役割。スタートアップを無視できないと考えている日本の大企業から「アメリカのスタートアップと一緒に仕事をしたい、事業提携をしたい」もしくは「新技術やサービスに投資したい」との声は非常に盛んだという。その仲立ちとなり、大企業に提携先・投資先として適切なスタートアップをマッチングしたり、ベンチャーの技術やサービスを紹介したりしている。そうした機会を通じて、シリコンバレーのベンチャーが日本、そしてアジアへと展開するきっかけを提供しているのだ。


三浦:
スタートアップにまつわる日本との違いは多々ありますが、アメリカはスタートアップの環境がけっこう整っているな、という印象が強いです。1999〜2000年頃のドットコムバブルで資金を得た人たちが次世代のベンチャーに投資する、というステップがあったため、日本と比べると何周か先を回っているのだと思います。一例を挙げると、ベンチャーや起業家の成長を加速させることを目的とした「アクセラレータープログラム」もたくさんあり、例えば、ディズニーでもアクセラレータープログラムを始めているんです。このように、誰もが知る大企業のディズニーですら、スタートアップの技術を取り込もうとしています。

そういったことを、最近は日本の大企業も検討しはじめていますし、進んでいるところは実際にもう始めていますよね。KDDIやドコモなどは有名ですが、オムロンや森永といった大企業もアクセラレータープログラムを始めています。私たちのアメリカでのネットワークや、拠点がサンフランシスコにある点を生かして、そのような日本企業へ、シリコンバレーの状況をお伝えしたり、次のステップについてご提案させていただいたり、といったこともベンチャーへの投資と合わせて行っています。

代表の宮田は「顔ちぇき!」を開発したジェイマジックの創業者で、「顔ちぇき!」を手がける以前から、顔認識技術などをずっと研究していた経歴の持ち主です。海外では代表取締役を務めていた会社をGoogleへ売却し、日本でもジェイマジックをミクシィへ事業譲渡しています。ジェイマジックの事業譲渡後、ミクシィへ移り、海外担当役員を経て、「mixi America, Inc.」(ミクシィの米国法人)を立ち上げ、その後スクラムベンチャーズを設立しました。日米での起業経験があって、かつイグジットした経験がある人というのは、ちょっと異色ではあると思います。そして、現役から一歩退いた視点で「応援する側に回ろう」というマインドで、ベンチャーキャピタルをスタートしました。そのマインドが、スクラムベンチャーズの掲げる「シリコンバレーとアジアをつなぐ」という目的の源泉になっているのです。

代表の宮田氏(左から2人目)ほかスクラムベンチャーズメンバーと、三浦氏(右から2人目)。

代表の宮田氏(左から2人目)ほかスクラムベンチャーズメンバーと、三浦氏(右から2人目)

投資先を決めるポイントは「マーケット」と「チーム」

スクラムベンチャーズの投資対象企業は、会社設立3カ月から1年以内くらいのアーリーステージの企業。そのなかでも、「コマース」「ヘルスケア」「教育」「動画」「IoT(Internet of Things)」の5分野への投資を積極的に行っている。1年間に1000社のスタートアップや起業家を見て、そのうちデューデリ(投資調査)に至るのは100社ほど。最終的に投資に至るのは約20社だと、三浦氏は語る。投資を決める際には、どのような点が決め手となるのだろうか。

三浦:投資対象について注視するポイントは「マーケット」「チーム」「プロダクト」「競合」「売上」「イグジット」(どこかに売却するか、IPOするか)「他の投資家」「私たちとの相性」の8つ。特に重視しているのが「マーケット」と「チーム」です。これから大きな変化が起きそうな「マーケット」があり、そのマーケットで勝てる「チーム」なのかどうか。この2つが投資決定には大きく影響しています。

これから伸びると予想されるマーケットで、どんなことをしようとしているのかという基本的な考えやプランもそうですが、そのチームが持つマインドや経歴を、投資先としてみるときに大事にしている面はありますね。シリアルアントレプレーナーのような、何回も起業して、すでに何度か成功(イグジット)して…という人もけっこう多いです。宮田自身が起業家なので、起業家同士でしか感じ得ないもの、というと曖昧ではありますが、「ビジネスモデルがイケててお金になりそうだから投資する」というよりは「このチームならいける。どんな状況も乗り越えられる」という感覚、言い換えると応援したくなるような人かどうかで見ている部分はけっこう大きいと思います。たくさんの投資先を見ているとはいえ、未来のことは読み切れなくて、想像もしないものがヒットしたりするじゃないですか(笑)。

アメリカは、最初からグローバル

サンフランシスコでは、スタートアップを生み、育み、そしてまた新たなスタートアップを生み出す「エコシステム」が成熟しているという三浦氏。その「エコシステム」を作る秘訣を探ろうと多くの日本人・日本企業が視察に訪れるが、エコシステムを日本に根付かせるのは大変に難しいと、三浦氏は感じている。その理由を伺った。

15040424ScrumVentures01_300_400三浦:日本にいると「グローバル」という言葉をよく聞きますし、「グローバル人材を育てる」といったテーマを掲げることが、前職でもよくありました。こちらに来て強く感じているのは、アメリカのスタートアップは最初からグローバルだということです。日本だと、国内で軌道に乗せ、その後でグローバル化という流れが多いですが、そのワンステップがないのです。そのワンステップって、大きな違いだなと思います。また、投資先のスタートアップはビジョンの規模が一回り大きいと感じます。一見、夢みたいな話でも、ビジネスプランがしっかりしていて、リアリティーがあります。

先日東京で開催したミートアップに参加した「Top Flight」は、世界トップレベルの技術を擁するMIT発のドローンのスタートアップです。ドローンというと、無人で荷物を輸送したり、人が入り込みにくいエリアの地形探査、また農業などへの活用を前提に開発が進んでいますし、彼らも今はそのソリューションを提供していますが、彼らがこの間話していたのは「空飛ぶ車」を作ること。通常、ドローンは電気で動くのですが、「Top Flight」はガスと電気のハイブリッド推進技術を開発しており、9キロほどの重い荷物を運びながら長時間の飛行(2時間半/約160km)が可能なドローンを開発しています。空飛ぶ車も遠くない未来な気がしますよね。

また、「Noom」という、健康管理アプリのスタートアップにも投資しています。一見、ダイエットアプリのように見えてますが、アメリカの糖尿病予防プログラムに準認定され、全米の医療事業者にも利用されています。彼らはただアプリを提供しているだけでなく、健康維持のためのデータも提供して、世界中の人を健康にしようとしているのです。

身近な課題解決をしてくれるサービスに見えて、その背景には大きなビジョン、それを実現するためのビジネスプランがあり、私たちの未来が変わる感じがします。そういった点でアメリカのスタートアップの話を聞いているとワクワクします。その他、既成概念にとらわれない、というのも違いだと感じますね。UberAirBnbのように、デファクトを作ってしまうのが、巧みな気がします。こちらの最新ベンチャー情報をスクラムベンチャーズのブログで毎週発信していますので、ぜひ日本のスタートアップのみなさんにも、その違いや、息吹を感じていただきたいと思っています。