マネタイズより「イノベーション」を。リクルートが「TECH LAB PAAK」を通じて目指すもの

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昨年12月に「TECH LAB PAAK(テック・ラボ・パーク)」というITクリエイターのためのコミュニティスペースが渋谷にオープンしました。運営は、リクルートホールディングス。いわゆるコワーキングスペースではなく、「テクノロジーをベースとした新しい価値の創造を支援する」がコンセプトで、会員は施設利用料なしでWi-Fi、電源、大型ディスプレイやミーティングルーム、ドリンク・スナックなどスペースにあるものを利用できるといいます。

メンターには元LINE株式会社の代表取締役である森川亮氏や元Facebook日本法人のグロースマネージャーの児玉太郎氏や東大大学大学院准教授の松尾豊氏(参考:東京大学の松尾豊氏に学ぶ。人工知能の進化でデザイナーやプログラマー、起業家の仕事はどう変わる?)を据えるほか、外部からの講師によるイベントなど、会員を支援するさまざまな取り組みも行われています。

「この場所を作ったのは、リクルートのCSRでもなければ、ビジネスにつなげるための場でもない」と話すのは、TECHLABPAAK所長の麻生要一氏。ではなぜ、このような施設を運営するのか。話を聞いてみました。

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麻生要一氏。2006年、株式会社リクルートへ新卒入社。社内新規事業コンテストNewRINGで受賞し、社内起業家として2010年に株式会社ニジボックスを創業。2013年にCEOに指名され、現職。2014年からはリクルートグループのR&D戦略の立案を担当し、2015年4月よりリクルートホールディングス事業開発室 室長、Media Technology Lab. 局長を兼任する。

リクルート本社のある東京駅ではなく、ITのスタートアップがひしめく渋谷で

-2月に開催されたTECH LAB PAAKのメディア関係者向けのオープ二ングパーティーで、麻生さんが「この場所を作ったのは、リクルートのCSRでもなければ、ビジネスにつなげるための場でもない」とお話されたのが印象的でした。この施設を立ち上げた経緯や理由について教えてください。

現在リクルートはHR事業とメディア事業で成り立っている会社ですが、次はどのように組織を作っていくべきかを議論しています。そのなかで、ITクリエイターの皆さんの活動を支援し、世の中にインパクトをもたらすオープンイノベーションを創出していきたいという意見が出てきたのです。「テクノロジーの力で世の中をもっと良くしていきたい」。そのように考えている人たちのための場を作りたいという思いから、「TECH LAB PAAK」が生まれました。

リクルートに対して世間は体育会系のような“マッチョ”なイメージを持っているかもしれませんが、10年前からWEB開発コンテスト「Mashup Awards」を開催するなど、テクノロジーの力で社会を変えることを後押ししてきた一面もあります。その文脈からすれば「TECH LAB PAAK」がリクルートから生まれたのは自然な流れかなと思っています。

2月に開催されたイベントの様子

2月に開催されたイベントの様子

-場所を渋谷にしたのにはどのような理由があったのでしょうか?

今まさに、大きなIT企業からベンチャーで勢いのある企業までがひしめいている場所でやりたかったからです。事前にエンジニアやスタートアップの人たちに理想的な仕事場のエリアをヒアリングした結果、「今、渋谷が一番面白い」といった声が多かったので渋谷にしました。

-初期の会員はどのように集められたのでしょうか?

現在は40組、100人が会員として入居しています。公募と推薦と、コンテスト受賞者たちですね。公募の倍率は公開していませんが、多数の応募がありました。そのなかから書類選考と面談を経て選抜しました。そのかいあってか、スタートアップ企業をはじめ、大学生やフリーランス、会社員までかなり熱量を持った人たちが会員になってくれたと思っています。

-2月20日に行われたイベントも、サンフランシスコのハッカソンさながらの勢いを感じることができました。メンバーを選ぶ上でどのようなことを心がけたのでしょうか?

そういってもらえるとうれしいですね。根本にあるのはマネタイズできるかという視点ではなくて、純粋に応援したいかどうか、という点で見ています。ただ、TECH LAB PAAKがイノベーションを生むための場になるためにメンバー同士の組み合わせはかなり意識しました。

質の担保はもちろん大事ですが、それだけだと面白い化学反応は起きにくいと思うので、異分子のような人もいれたりしています(笑)。また会員のみが集まるクローズドな場になってしまうのもよくないため、外からの風が入って来るように、イベントを積極的に行うなど、バランスは意識しています。

オープニングパーティでの集合写真

オープニングパーティでの集合写真

ビジネスになるかではない。イノベーションを起こそうとする人をサポートしたい

-まだ始まったばかりですが、これから「TECH LAB PAAK」をどのように成長させていきたいとお考えでしょうか?

企業が応援するオープンイノベーションの場の多くは、将来的な投資対象とすることを念頭に置いています。そのため、福祉系やあまりにも先進的すぎるもの、投資家の鼻が利かないサービスに支持が集まりにくいという実情があります。

例えば、現在の「TECH LAB PAAK」会員様のサービスで言えば、視覚障害者向けのウェアラブルデバイス「mimimiru(ミミミル)」や、スマホでSOSを発信して周囲に知らせ、救急車到着前にAEDで救命する仕組みを作るアプリ「AED SOS」などが挙げられます。これらはビジネスとして成り立つか否かは置いておいて、これまでの社会のあり方を変えられるツールを作ろうとしています。

彼らがクラウドファンディングで一般から広くお金を集めれば、アイデアに共感する人たちが投資してくれるかもしれません。でも現段階では、どうマネタイズできるかわからないから、VCや投資家の目にとまりづらいのです。ただそういう人たちをうちで応援して、いろんな人たちに見てもらったり、相談に乗ることで、もう少し上のステージに行ったら、もっと良いサポートが得られるかもしれません。

そういう状況に置かれている人たちを応援する体制は、まだ日本にも世界にもあまりないのです。だから、世界のあり方を変えようとするサービスを純粋に応援するプラットフォームとして、機能させたいと思っています。

もちろん、リクルートが将来的に投資をするとか、関係のある企業を紹介することもケースバイケースで出てくるかもしれませんが、世の中を変えるイノベーションを起こそうとしている人たちを目先の利益だけで選ばないで、サポートしたいと思っています。

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安田一斗氏(写真左)。株式会社デプロイゲート Co-founder/COO。2006年4月、NTTコミュニケーションズ株式会社入社。NWエンジニア、プロジェクトマネージャーを経て、外資系金融企業向けのシステムコンサルティング業務に従事。2011年より株式会社ミクシィ入社、新規事業の開発部署であるイノベーションセンターの立ち上げ、ならびにインキュベーターとしてDeployGateやノハナといった新規事業の事業成長をサポート。
藤崎友樹氏(写真中央)。株式会社デプロイゲート Co-founder/CEO。2008年に新卒で株式会社ミクシィに入社、mixiモバイルの開発、mixi全体の開発基盤を整えるたんぽぽグループ、Androidアプリ開発を経て、DeployGate事業の責任者としてキャリアを積んだ。

 

ここからは「TECH LAB PAAK」の会員を交えて行った座談会の様子をお届けします。座談会に参加してくれたのは、スマホアプリのテスト配布サービス「DeployGate」を運営する藤崎友樹氏と安田一斗氏。会員であるお二人に「TECH LAB PAAK」の魅力とこれからの展望について語ってもらいました。

会員同士で議論やサポートし合える関係性がいい

-デプロイゲートのお二人が会員になった経緯について教えてください。

 

藤崎:2014年の年末より諸々準備をしつつ、今年始めにプレスリリースで発表させていただいた通り、2月末日にて「DeployGate」サービスをミクシィ社より事業譲渡し、3月の頭からこちらに入居しました。

-審査はどのように行われたのでしょうか?

麻生:推薦ですね。リクルートに元ミクシィの社員がいて、「超絶イケてるイノベーティブな奴がいるから会ってくれ」と言われて(笑)。そこまで言うならと急遽面談をしました。会ってすぐにレベルが高いのがわかって、即OKしました。

藤崎:5分で面談が終わったので、落ちたのかと思ったのですが(笑)。

安田:麻生さんと僕達をつないでくれたのは、僕のミクシィ入社時の同期だったんですよ。たまたまどこかいいスペースないですか? と相談してみたら、麻生さんに話を持っていってくれたんです。

-入居からまだ数週間ですが、居心地はいかがでしょうか?

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安田:宣伝みたいになるかもしれないですけど、すごくいいですよ。他の会員の方々もスマホアプリを作られている方が多いですし、DeployGateのターゲット層や顧客層とマッチしているので、お試しでユーザーになってもらうこともできる。なので僕らが彼らをサポートできる部分も色々とあるかなと。会員同士で補い合える部分が大きいのがうれしいですね。

環境面では、可変式のスタンディングデスクとかがあって、そういうのもすごくうれしいですね。サンフランシスコにmixi Americaのオフィスがあるのですが、以前そこではスタンディングデスクにするために、机の上に本を積んで高さを調整しつつ、作業していましたからね(笑)。

藤崎:自分たちしかいないオフィスだったら、外部の人と話す機会ってそこまでないですし、どこかのコワーキングスペースの会員になったとしても、会員全員がエンジニアではないから、話が進まなくて、仲良くなりづらいんですよね。

僕らは毎週金曜日に飲み会を主催していて、スタートアップ、大企業含めて友人を誘い、またその友人が友人を誘って参加してくれるので、様々な方と意見交換ができるのはすごくありがたいと思っています

シリコンバレーと東京をつなぐ場にしたい

-せっかくなので、麻生さんに「こういうイベントやりたい!」など、何か聞いてみたいことはありますか?

藤崎:海外からいろんな人がやって来るイベントを、積極的にやっていきたいですね。特に僕らの場合は開発者向けのサービスなので、シリコンバレーの人たちに使ってもらいたいという思いがあります。今のシリコンバレーと、「TECH LAB PAAK」をつなぐことができたら非常に面白いなと。

麻生:それいいね。

藤崎:アップル本社をはじめ、西海岸にいた経験を持つ人も結構いるので、「TECH LAB PAAK」がサンフランシスコと東京をつなぐハブになったら面白いなと思います。

安田:以前、サンフランシスコベースのスタートアップの経営陣が日本に遊びに来て、「日本で法人営業をかけたいんだけど、どうしたら良いかな?」と相談に来たことがあって。彼らも日本のマーケットに興味を持っている、そう考えると一緒にできることってかなり多いなって思って。僕らとしては、彼らのサポートもできるし、彼らもサンフランシスコで何かやるときはオフィスを提供すると言ってくれていたので。

麻生:じゃあ、やりますそれ! シリコンバレーで投資活動をしているので、チャネルがいくつかあるから。

-ここで1つ話がまとまりましたね。こういう高次元の要求ができる場というのは、なかなかないですよね。

安田:そうですね。言ったもん勝ち(笑)。

麻生:すべてが叶えられるわけではないけど、できる限りそういう形のサポートはしていきたいですね。

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-会員としての期限は半年間ですが、それまでの間、どのように利用していきたいと考えますか?

安田:今後サンフランシスコとの行き来もかなり増えていくかなと思っているので、向こうで得られた人脈をこっちに持って帰って来たいと考えています。あとは、ここに入居してから、SNSに「TECH LAB PAAK」の写真をあげると、ものすごく反応がいいんです(笑)。場所にいること自体をネタにして、どんどん人が集まってきたら面白いなと思っています。それはきっと僕らのためにもなるし、この場所のためにもなるかなと思います。

藤崎:デプロイゲートのユーザーイベントを開いていきたいですね。あと、それぞれの会員とのコミュニケーションをさらに積極的に行って勉強会もどんどんやっていきたいです。

麻生:僕たち運営側は何かを言ってもらえたら、できることは何でもするので、要望はたくさん言ってほしいです。その分、サービスを頑張って成長させてもらいたいですね。「デプロイゲートは『TECH LAB PAAK』の卒業生なんだ」と誰かに話したら、「すごい! あのデプロイゲートを!」なんて言われたい。親心としてそう思いますね。

【第二期会員募集開始】テクノロジーの力で社会を変えたい会員の方を募集開始。審査は5月23日(土)~27日(水)を予定。ご興味のある人は是非チャレンジを。http://techlabpaak.com/news/153