大企業辞め「レゴ」で起業——日本初の“レゴ認定プロ”三井淳平さんに聞く、「好きを仕事に」できた理由

三井淳平さん

三井淳平さん

四角いブロックを組み合わせ、自由に形を作って遊べる「レゴ」。子どものころ誰もが遊んだおもちゃの1つだが、これを遊びから仕事に変えてしまった人がいる。日本初・世界で13人目の「レゴ認定プロビルダー」こと三井淳平さん(28)だ。

今年3月まで大手鉄鋼メーカー・新日鐵住金で働いていたが、退職して起業。レゴ事業に特化した「三井ブリックスタジオ株式会社」を設立し、レゴによる作品の制作や、レゴをより楽しむためのスマートフォンアプリ公開といった事業を展開している。

“レゴ漬け”の人生を歩んできた。物心つく前からレゴで遊び、灘中学・高校在学中には「宇宙戦艦ヤマト」や「実物大ドラえもん」など数メートル級の大きな作品を制作。灘高3年生で「TVチャンピオン レゴブロック王選手権」に出場して準優勝を果たした。東京大学に入学するや否や「レゴ部」を創設し、レゴ作品を作るアルバイトもした。

大学院では金属材料を学び、専門知識を生かして就職。会社員としての仕事は楽しかったが3年で退職し、“レゴで起業”した。「レゴで作品を作るという、日本一夢のある職業。そういう選択肢があってもいいと思う」——三井さんは言う。

0歳からレゴ 中3で海外からパーツ買い付け

兵庫県明石市生まれ。3つ上の兄の影響もあり、生まれて間もないころからレゴに触れていた。4歳のころ初めてレゴセットを組み、小学生になるとオリジナルの組み方を工夫できるようになった。

誕生日プレゼントはいつもレゴ。積み木やプラレールでも遊んだし、外遊びも好きだったが、レゴはとにかく飽きなかった。「レゴはセットが1つ増えるだけで広がる世界観が大きい。タイヤのパーツが入ってるセットが手に入れば、乗り物がいろいろ作れるようになるなど、どんどんステップアップする」。

本格的な制作を始めたのは、中学の野球部を引退し、時間ができた中3の秋ごろ。実物大の「R2-D2」など海外のビルターによる大きな作品をインターネットで見つけ、「僕もレゴで大きな作品を作ってみたい」と考えた。

とはいえ、家にあるパーツだけでは大きな作品には足りない。安く大量のパーツを調達するため、レゴの“個人輸入”に挑戦した。世界中のレゴファンが余ったパーツを売買する市場サイト「BrickLink」で1200ピース入りのバケツを10個、貯金をはたいて約5万円で購入したのだ。

サイトの英語を何とか読み解き、売り手のオーストラリア人とメールでやりとりして送金方法などを相談し、100ドル札を直接、現金書留で売り手に発送。船便でレゴが届くまで2カ月間、ひたすら待ったという。

ようやく届いたレゴを使ってさっそく、長さ2メートルの「サターンV型ロケット」を制作。方眼紙に鉛筆で設計図を描いて制作し、レゴファンが集まる作品展示サイト「Brickshelf」や個人サイトで写真を公開。世界中の人に見てもらった。

サターンV型ロケット

中学生のころ制作した「サターンV型ロケット」

三井さんの作品は原則、四角いブロックだけで作られている。曲線も四角いブロックで表現し、あらゆる形を再現する。「丸い形を作るのに丸いパーツ使ったら面白くない。四角いブロックだけ、という制約があるから面白いし、オリジナリティが出ると思う」。

高校時代に3メートルの「ヤマト」制作 TVチャンピオン出演

高校生のころには全長3メートル超の「宇宙戦艦ヤマト」を制作。小遣いやお年玉はレゴのために貯金し、夜や週末、長期休暇を制作にあてた。

全長6.6メートルの「戦艦大和」も作り始めた。必要なブロックは約20万個。手持ちのパーツだけでは全く足りない。「大人になって財力ができれば、ブロックを好き放題使って作ろう」と少しずつ作り、足かけ6年4カ月かけて大学3年生のころに完成させた。

同級生に初めてレゴ作品を披露したのは、3年生の文化祭だ。実物大の「ドラえもん」を展示し、注目を浴びた。まん丸い形を維持するための強度の設計に悩み、運ぶ時、玄関でドラえもんの鼻が引っかかって出ない……など苦労して完成させたという。

「TVチャンピオンに出ませんか」——テレビ東京から「レゴブロック選手権」出演依頼のメールが届いたのは、大学受験を間近に控えた高3年の秋。前回選手権の出場依頼メールを見逃し、悔しい思いをしていたこともあり、出場を決めた。予選を順調に勝ち進み、レゴ生誕の地・デンマークでの決勝戦に進出。1メートル四方の東大寺大仏殿を作り、準優勝に輝いた。

大仏殿はそのまま日本に送り返したが、輸送中にパーツがバラバラになり、「粉々になって帰ってきた」と笑う。「その後、ちゃんとパーツとして再利用しました」。

東大寺大仏殿

「TVチャンピオン」の決勝戦で作った東大寺大仏殿は、中を開くとデンマークの街が現れる

「東大レゴ部」創設、バイトもレゴ 「レゴで仕事をするとレゴが増える」

「TVチャンピオン」の収録が終わるとレゴを封印し、受験勉強に集中。東京大学理科一類に現役合格し、東京に移り住んだ。

「レゴで安田講堂を作りたい。誰か一緒に作りませんか?」——高3のころ、SNS「mixi」のコミュニティで、東大の学生によるこんな書き込みを目にしていた。合格を機に書き込み主に声をかけ、ともに「東大レゴ部」を創設。2年生の五月祭に1メートル立法ほどの安田講堂をレゴ部で作って展示し、五月祭の展示部門で1位を獲得するなど注目を浴びた。

東大レゴ部で制作した安田講堂

東大レゴ部で制作した安田講堂

個人でもレゴ作品を発表し続けた。「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」「YouTube」にも作品を投稿。2ちゃんねるで人気キャラクター「ブーン」を制作する様子を「VIP板」でリアルタイムに実況して話題になるなど、レゴファンの外の人にもアプローチしていった。

「2ちゃんねるやニコニコ動画は、リアクションがもらえるのがうれしくて、やってて楽しかった」と振り返る。YouTubeには、海外ユーザーに作品を見てもらうために投稿。英語でキャプションを入れ、世界中の人から反響をもらった。

ブーン

「ブーン」の制作は、「2ちゃんねる」のVIP板で実況した

大学時代のアルバイトもレゴだった。クリスマスイベントにレゴで雪だるまを制作するなど注文を受けた作品を制作・納品。「レゴ以外のバイトはしなかった」という。報酬はレゴのパーツ代に消えた。「レゴで仕事するたびにレゴが増える。倍々ゲームでレゴが増えていきました」。

テレビ番組やチャリティーイベントなどに作品を提供したり、海外のレゴ関連イベントに呼ばれるなど、レゴビルダーとしての知名度や活動の幅も急拡大。レゴを使った活動で「東大総長賞」を受賞したり、レゴブランドを使ったビジネスができるレゴ公認資格「レゴ認定プロビルダー」にも選ばるなど、評価も高まっていった。

レゴを追求することで、人生の幅が大きく広がったという。「レゴを作ってばかりだと、レゴしかできない人間になると思われるかもしれないが、逆だ。人と知り合う機会も生まれるし、新しいことに挑戦するきっかけをもらえたりする。1つのことを極めることで広がる世界は想像以上に大きい」。

レゴで起業は「考えていなかった」が……

大学院では金属材料を研究。専門を生かし、新日鐵住金に就職した。当時は「レゴで起業」は考えておらず、仕事は「すごく楽しかった」と振り返る。

自社工場をレゴで再現して会社に持ち込み、同僚に顔と名前を覚えてもらうなど、レゴが“名刺代わり”にもなった。レゴに使える時間は大学時代より減り、制作は休日のみ。自宅とは別に、レゴパーツを保管する倉庫と制作用のアトリエをそれぞれ借り、企業などから依頼を受けた作品を作った。時間の余裕がなく、趣味のレゴ作りは封印した。

新日鐵住金の君津製作所第四高炉をレゴで再現

新日鐵住金の君津製作所第四高炉をレゴで再現

「レゴ制作をフルタイムでやりたい」——そんな思いが強くなっていた。休日だけではスケールの大きな作品には挑戦できない。会社の仕事も好きだったため悩んだが、このまま働き続け、管理職になればさらに身動きが取りづらくなる。「時間が経ってから辞めるより、入社3年の今のタイミングが、区切りとして良いのではないかと考えた」。

設計図も在庫管理も「頭の中」で PC使わず

今年4月、三井ブリックスタジオを創業。100平方メートル超のオフィスを世田谷区内に見つけ、オフィス兼アトリエ兼倉庫を構えた。

専業になったことで、時間の制約から断っていた仕事も受けられるようになり、年内の仕事はほぼ満杯。数メートル級の作品をいくつか作る予定が決まっているという。レゴ制作だけでなく、レゴ教室の開催など教育分野にも積極的に進出していきたい考えだ。

作品は設計図なしで作っている。頭の中にイメージを思い描き、手で再現していく。在庫管理も頭の中だけ。100平方メートル超のオフィスにほぼ満杯・200〜300万ピースもの在庫があるが、「何を買ったかだいたい覚えている」。

買ったピースから作品に使ったピース数を引き算して在庫を把握。床から天井までぎっしりレゴが積まれたオフィスはまさに“在庫の山”だが、どこにどのパーツを置いているかも、ほぼ正確に覚えているという。

在庫の山

オフィスはまさに在庫の山。200~300万ピースあるという

事業は当面、1人で行っていく考えだ。海外のレゴビルダーには、CGで設計図を組み、実際のレゴ制作はほかの人に任せることで分業している人もいるが、「手作業でやることに意味があると思っているので、当面は1人でやっていきたい」という。

なぜ手作業にこだわるのか——「作品に自分なりの解釈を入れ、デフォルメしたいという思いがある」ためだ。ブロックによる色や形の表現、陰影の付け方などを、手で組んで1つ1つ確かめ、試行錯誤することで、オリジナリティある作品を作っていきたいという。

怪獣が変形ロボに、サルがカブトムシに——「組み替え」アプリ公開

新事業として、レゴセットの“組み替え”を楽しむためのスマートフォンアプリ「PlusL(プラスエル)」(提供:ハンゾー)をプロデュースした。怪獣のセットから変形ロボを作ったり、サルのセットからカブトムシを作る——など、既存のレゴセットを使って別のものを作る組み替えレシピを、1つ120円(一部無料)でダウンロードできる。

画像8 Plus-Lキャプチャ

組み替えレシピの販売は、大学時代から知人と一緒に温めていたアイデアで、起業をきっかけにスマホアプリの形で実現した。レシピは組み替えが得意なビルダーに声をかけて提供してもらっており、今後も世界中のビルダーからレシピを集めたいという。

「レゴセットは説明書通りにしか作れないように見えるが、その先に広がりがある。『このパーツはこう使えるんだ』『こういう見せ方があるんだ』という発想を吸収し、一度作った作品を崩す勇気を持ってほしい」と三井さんは願う。

「好きを仕事に」できた理由

レゴ制作という「好き」を仕事にした三井さん。「趣味を仕事にすると、趣味が嫌いになってしまう」とも言われるが、彼の場合は当てはまらなかったという。ずっと“見せ方”にこだわってレゴを作ってきたためだ。「自己満足のためというより、見た人に楽しんでもらおうと作ってきた。仕事的な発想だったと思う」。

完全オリジナルの作品より、“お題”を与えられて作ったり、「ドラえもん」や「宇宙戦艦ヤマト」など既存のものを再現することが好き。その志向は、依頼を受け、仕事として作ることにマッチしていた。

今後はさらに大きな作品に挑戦し、より大きな場で展示していきたいという。「“レゴが仕事”とは、子どもからは想像もつかないだろうが、そういう選択肢があってもいいと思う。子どもたちに夢を与えられれば」。

画像7 三井さん@オフィス