世界一の男性美容化粧会社を標榜する「BULK HOMME」の地道な成長戦略

日本でも徐々に市民権を得てきたクラウドファンディング。しかしその多くのプロジェクトは調達金額100万円以内の、比較的小規模なものだ。クラウドファンディングの本場・アメリカの「Kickstarter」では数千万円規模のプロジェクトが続々と成功していることを考えると、まだまだ日本においてはスタートアップの資金調達にクラウドファンディングが有効であるとは言い難い。

しかし昨年、国内でも、サイバーエージェントが運営するクラウドファンディング「Makuake」において、3000万円超の資金調達に成功するプロジェクトが現れた。弱冠26歳の野口卓也氏が代表を務める、男性向けコスメブランド「BULK HOMME」によるプロジェクトだ。クラウドファンディングというコスメブランドらしからぬ手法で資金を調達した同氏はどういった人物なのか? 詳しく話を聞いた。

 

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野口卓也氏。1989年東京都生まれ仙台育ち。慶應義塾大学境情報学部中退。 ITベンチャー、飲食店の創業を経て、2013年4月2日にメンズコスメブランド「BULK HOMME(バルクオム)」をスタート。 2014年4月にクラウドファウンディングにて、メンズフェイシャルサロンのオープン資金として31,396,500円を調達し、国内での最高額を記録し2014年10月に南青山にて「SALON by BULK HOMME(サロン バイ バルク オム)」をオープンした。

失敗してもビジョンを大きく持って、何度でもチャレンジすればいい

高校時代からいずれ起業したいと思っていた野口氏は、慶應義塾大学中退を機に個人でWeb制作の受託事業を開始。その後、20歳で法人化。Web制作の受託を続けながら、電子書籍アプリの制作にチャレンジした。日本でiPhone 3Gが発売された年のことである。

「漫画のiPhoneアプリのベンダーとしては、うちが最初でした。当時は有料アプリがまったく売れない時代でしたが、いずれ売れる時代が来ると信じていました。コツコツ漫画を作って、ひとつひとつアプリ化してという手法だったので、コストがかさんで資金繰りがショートしてしまい、1年半くらいで事実上、倒産してしまいました」

そして半年間留学した後、Webのプランナーやサイトのディレクションで生計を立てながら、家入一真氏の出資を受け、動画制作のベンチャー企業を設立。有料メルマガの「まぐまぐ」が注目を集めていた頃で、htmlのリッチなメルマガ配信スタンドを作ってほしいという要望があったからだ。しかし、エンジニアに逃げられ、廃業。

次のチャレンジは日本酒専門の飲食店の経営だ。こちらは成功して、今も店は存続しているというが、「BULK HOMME」の立ち上げのために、共同オーナーの座を退いた。

「大学を辞めて一旗揚げるぞ、と夢見ていたんですけど、徐々にやることが小さくなってきてしまって。このままではいかん、と。飲食店をやりながら『何かITの知識や経験を生かして勝負をかけられるビジネスはないか』と模索していました」と、当時の思いを語る。

そんな野口氏が目をつけたのが、男性化粧品だった。

「当時、男性化粧品と聞いて浮かんでくるブランド名は、ほとんどありませんでした。もちろん大手の化粧品会社でも、一セクションとして男性向け化粧品を扱っていましたが、ユーザーの多くが『これだ』と声をそろえて挙げる商品がない、市場規模とか競合とかを考える前に“イメージにおいて隙間が空いている”と感じたんです。そこで男性化粧品を取り扱うECサイトを立ち上げようと思い立ったのですが、どうせなら自分でブランドを立ち上げた方が面白いと考え、『BULK HOMME』を立ち上げました」

着想から販売にこぎつけるまでにかかった期間は7カ月ほど。10社ほどのOEMメーカーから協業先を選定し、ブランドイメージや期待する効果などを伝えながら、試作品の製作を重ねた。そうして2013年4月に「BULK HOMME」はデビューすることになる。

「実は、2月から先行会員登録をスタートし、無料でお試しのスキンケアセットを届けるという施策を打ちました。そこで早速約5000名からの反響がありました。そこから何パーセントかが有料登録してくれたので、順調な滑り出しをする上でのいいカンフル剤になったなと思います」

またニッチ市場であることが功を奏し、SEO対策を行ったことで、「メンズコスメ」で検索すると、当時は2番目に表示されるようになった。ここから東急ハンズのバイヤーが目をつけ、東急ハンズやロフトといったリアルの小売店でも取り扱われるようになったのだ。

ブログメディア運営で潜在顧客にユーザー像を示す

「BLOG HOMME」のトップページ

「BLOG HOMME」のトップページ

また「BULK HOMME」は自社オウンドメディアである「BLOG HOMME(ブログオム)」を運営している。

「数年前からECサイトを持っているならオウンドメディアを持つべきだという議論がありましたが、SEO的に考えると膨大な量のコンテンツが必要だし、われわれのようなベンチャーがプロのライターに何十万円も毎月払って外注するのは厳しい。ブログなら、みなさん自由に書いていただけるかなと思ったんですよね」

「BLOG HOMME」を見ると、執筆者の顔がずらっと並んでおり、なかにはTwitterのフォロワー数を多く抱えるインフルエンサーもいる。

「こういうかっこいい人たちが『BULK HOMME』のお客さんだとビジュアルで見せることで、世界観を伝えたかったんですよね。若くして独特のお仕事をされていたり、個人で活動されていたり。そういう人たちのライフスタイルを可視化することで、『BULK HOMME』にモノを見る目のあるお客さんが増えた感覚はあります」。

ただ課題ももちろんある。継続的にブログを運営していく上で、更新頻度が下がってくる。「お金以外の方法で、うまくモチベーションを上げて書いてもらわなければならない」と野口氏は語る。

目指すはレッドブルのようなグローバルブランド

“美容習慣のある男性を増やしていくこと”をミッションとして掲げる「BULK HOMME」が見据える先はシェア争いではない。平成25年の「男性皮膚用化粧品」の販売額は、約200億円(『平成25年 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編』)。市場規模全体を1000億円へと拡大させながら、そのうちの800億円を取るという大きな野望を抱いている。

「目標にしているのはレッドブルのようなグローバルブランドに育て上げることです。レッドブルの売上は、エナジードリンク市場と同じように伸びているんですよ。PRも上手で、レッドブルを飲むこと、エナジードリンクを飲むことにポジティブな印象を持たせるブランディングにも成功している。レッドブルのような社会的インパクトのあるブランドに『BULK HOMME』を育てていきたいですね」

そのために「BULK HOMME」がどうしても持ちたかったのが、その世界観を体験できるエステサロンだ。しかしサロンの開設には、社内で反対の声が大きく、野口氏自身もそれを押し切るほどの自信はなかったのだと言う。

そこでクラウドファンディングに目をつけ、資金調達できたら反対する社員に対する説得材料になると考えたのだ。

当時、クラウドファンディングで調達に成功した国内最高額が1600万円。株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングが運営する「Makuake」を使って、目標額とした3000万円をクリアし、国内最高額を塗り替えることができた。

「正直なところ、うちのプロジェクトが世の中に支持されて達成したとは、まったく思っていません。資金調達に成功した理由は2つあって、まずは期間中にぼくが死に物狂いで知人に営業して、買ってもらったから。もうひとつは国内最高額にチャレンジするという社会的な大義名分があったから。

この2つが掛け算になって、『野口がそこまで本気でやっているなら、日本も元気になるだろうし、ちょっと入れてやろうか』とご支援していただけたんだと思います。この“エポックメイキングなプロジェクトを成立させよう”というお祭り感が生まれたことで、まったくぼくが存じ上げない方でも100名ほど支援してくださった方がいらっしゃいました」と野口氏は振り返った。

まだまだやりたいことの10分の1もできていない

今、会社として最も力を入れているところは、“定期購入サービス利用顧客の満足度向上”なのだと言う。

「ECサイトのいいところは、お客さまひとりひとりの詳細なデータを得られるところ。ユーザーがどの広告を見て購入に至ったのか、ブログから来たのかなど、本当に細かな情報がわかる。つまりメーカーとユーザーが直につながっているからこそ、提供できる“マメなサービス”があると思っています。小売店にまとめて卸しても、誰がどう買ってくれているのか、何ひとつわからないんですよ。一番大切なのは『BULK HOMME』のブランドであり、心から自信を持てる製品であり、定期購入いただいているお客さま。そこがぶれるようならサロン事業の拡大も考えていません。そんなリソースがあるならECを伸ばしていこうというのが、基本的な方針です」

これまでの2年間の歩みを振り返ってターニングポイントについて尋ねたところ、野口氏は「急成長はしていない。じわじわ・コツコツ、堅実に売上を伸ばしてきた」と断言する。

「今、スキンケアをしていない男性が、女性のように当たり前にスキンケアをするようになり、数多くの商品が出てきても『BULK HOMME』を選んでくれるような仕掛けをどんどん打っていきたい。まだまだやりたいことの10分の1もできていないですからね」

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