「紙 VS デジタル」で語るのは時代遅れ、コピペ全盛時代のネットメディアの価値とは

キュレーションメディアがネット上の情報をコピペする時代。オリジナルコンテンツを発信する出版社やネットニュース編集者はどうあるべきなのか。一次取材のコストをどう回収していくのか——。5月12日に開かれた「iMedia Summit 2015」で、「一次取材 VS コピペ編集」や「紙 VS ウェブ」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。

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登壇者はBRUTUS編集長・西田善太さんとNewsPicks(ニューズピックス)編集長・佐々木紀彦さん。西田さんは博報堂のコピーライターを経て、1991年にマガジンハウス入社。2007年12月よりBRUTUS編集長を務める、いわば「紙」代表です。佐々木さんは2002年に東洋経済新報社に入社し、紙の記者として自動車・IT業界を担当。その後、東洋経済オンラインの編集長を務め、現在に至ります。

パネルディスカッションは、モデレーターを務めた博報堂ケトルの代表取締役社長・嶋浩一郎さんの“過激”な発言で幕を明けました。

「紙 VS デジタル」の文脈で語るのは時代遅れ

嶋:実際キュレーションメディアみたいなものができてきて、もう、ぶっちゃけウンコみたいな編集してる記事が死ぬほどあるじゃないですか。そういうのをいかがなものかっていう。ただPVに課金するネットでのマネタイズ方法を考えると、ウンコ編集でもPVいっぱい取れれば儲かっちゃう世界もあるわけで、そこらへんを話したいなと思います。

いきなり話が長くなっちゃうんですけども、コピペ編集で一番びっくりしたのは、デイリーポータルZの林(雄司)編集長の話。グミの面白い食べ方を特集しようと思って、「#(ハッシュタグ)グミ」っていうのを作って、Twitterとかで食べ方を集めていたんですよね。1週間くらいたったらそれをまとめようと思ってたらしいんですけど、集め始めて4日後くらいにネットを見たら、グミの面白い食べ方の記事がもう載ってたんですよ。林くんのハッシュタグを使って。「ほんとに大丈夫かそいつは?」っていう感じ。林くんの感想はというと、「喫茶店でコーヒー残してトイレに行ってる間にそのコーヒー飲んじゃうやついるんだ」っていう……。

もうウェブって、そういうのが展開されている世界なんですよね。今、よく「紙 VS デジタル」って二つの媒体が語られるけど、そんな文脈で語ること自体が遅れてるんですよ。ネットのほうが勝つんですよね。どう考えても便利ですから。紙のほうがいいところもあるけれど。それに読者は勝手に使い分けてる。だからこそ紙は「一次取材をしっかりしているんだ」っていうところをちゃんと言っていくのがいいんじゃないかと思うんですが。

西田:例えばレストランを選ぶにしても、僕はネットを使うのは非効率だと思うんですよね。食べログみたいに、「みんながいい」と思っているものではなくて、僕が「食の天使」と呼ぶ人たちが何人かいるんですけど、その人たちに聞いたほうがよっぽど完璧なリストを作れている。そのほうが面白いし、それが一次取材ということかな、と。

編集部というのは、全員、全部でひとつの人格のようなものです。例えば、食(のコンテンツ)が足りなくなると、誰かを食の担当にさせたりしています。僕一人ではなくて、14、5人で。(みんな)カルチャー好きで、大体すべてのことをA4用紙2枚くらい喋れるやつ。雑誌で“人格”を作れるように調整するのが、編集部っていう仕事で、どこよりも僕らは引き出しを持っているような気はしています。

嶋:確かに、食べログでは調理場の話や、作ってる人の思いとか、聞けないですよね。それを聞けるのがちゃんと一次取材しているってことなんですね。しかも日本には幸せなことに、そういう一次取材をちゃんとできて、世界に発信できるメディアがたくさんあるわけです。ちゃんと世界中に特派員を送って、取材をして、編集をして、一つのパッケージにして情報を作るってすごく重要な社会のインフラだと思っています。

博報堂ケトルの嶋さん。紙メディアは「一次取材をしっかりしているんだ」とアピールすべきという

博報堂ケトルの嶋さん。紙メディアは「一次取材をしっかりしているんだ」とアピールすべきという

佐々木:全くおっしゃる通りです。ちゃんと一次取材をしていることが重要なことはもちろん、それ以上に紙で培われているノウハウがふんだんにあると思っていまして。紙からキャリアを始めたから今の自分があるのだとすごく感じるんですね。

それはあらゆることに言えて、例えば取材対象との距離の取り方とか、インタビューの仕方、細かいところのまとめ、そういうものを体系的に教えてくれるところってネットは全然ないと思うんです。だから、総合力が高いってところは絶対に自慢したほうがいいです。

ウェブ上では垂れ流しというか、紙幅に制限がないので、あまり編集力って問われませんよね。でも今、スマホになってきてすごく制約が多いので、その中でどう要約するかとか、クリエイティブの力が本当に重要。今まで培ってきた、要約する力とか、デザイナーとコラボしてかっこいいものを作るとか、そういった力の価値は確実に上がっていると思っています。

なぜネットにスゴ腕編集者が出てこない?

嶋:でも、現行の「PVに課金する」っていうビジネスモデルで利益は出せるんですか?

佐々木:ウェブ単体で一次取材からちゃんとできる記者をつけて利益を出す、っていうのは相当PVを増やしても難しいんじゃないかな、とは思います。

嶋:PVを最初の通貨に決めたのは発明だったと思うのですけど、単価を安くしすぎたんじゃないですかね。

佐々木:そうですね。ウェブはどうしても安くなりやすい構造ですね。それと、ウェブのかっこいい広告を作れるとか、クオリティ高いコンテンツを作れるとかいった人材の移動が遅いというか、いまも起きていない気がするんですね。

西田:給料が低いからなのかな? それに、今は編集作業だけじゃなくて、広告の扱いだったり、雑誌単体じゃなく生き抜いていかなきゃだから、経営的な視点も必要とされているよね。ネットは誰にでも開かれた場所、簡単に参入できる世界だと思うけど、すごい才能や編集力は生まれていないんですか?

佐々木:給料が低いというか、その前に、ビジネスモデルがないんですね。ネット上では個人で輝く人は出てきているけど、組織とかチームで輝く集団が出てきているかというと、まだない。というのは、経営力がないからだと思っています。

それに、自分がクリエイティビティを発揮できる場所に、それほど見えていないんじゃないかなと思うんですね。紙みたいなクラシックメディアのほうが企画や、取材費も潤沢で豊富。ところがウェブでは毎日のようにコンテンツを作ったりすることに追われてしまっていて、深追いすることができない。

西田: それは、深堀りできないシステムになっているからじゃないの? その中でちゃんと取材する文化を作っていくことは無理なの?

佐々木:それは今、私がやろうとしていることです。でも、できていないところは実際に多いです。最初、我々は情報をフローにしてやってみようとした。結果、人は集まってPVは獲得できたけれども、課金にはつながらなかった。

じゃあ今度はキュレーションという形で、外からのニュースを持ってきて、編集部の20人は特集を組んでいこうというふうに変えました。就活特集を30日間連続で出すとか、未来の自動車を2週間連続でやったり。今はまだできていないけど、特集をムックにしたりとかもできますよね。

NewsPicksの就活特集

NewsPicksの就活特集

NewsPicks佐々木氏「PVは完全に捨てました」

嶋:NewsPicksではPVを稼ぐ以外にどうやってマネタイズしているんですか。何か挑戦していることはありますか。

佐々木:まず、PVを見るのは完全に捨てました。その代わり、どれくらいの人が毎日来てくれているか、課金にどれくらい繋がったか、有料会員がどれくらい読んでくれたか、あるコンテンツを見るためにどれくらいの人が新規登録してくれたか、そういったものを見るようにしています。

そして、情報をヤフーの配信などに載せて外へ出すのではなく、基本的には、僕たちのところに来ないとコンテンツを読めない、という形に変えています。外に流せば10万PVが達成できるかもしれないけれど、内部で止めると1、2万PVくらい。それでも覚悟して、外には出しません。そうすることでNewsPicksの価値を保って、有料会員につなげていきたい。

ウェブ上のコンテンツにお金を払ってくれない人が多いとよく言われます。でもこの10カ月、目標数より有料会員数は増えてきていて、ちゃんといいコンテンツを作れば読者はちゃんとお金を払ってくれるんだと分かりました。

西田:NewsPicksって固有名詞っぽいよね。このまま世の中に広まればブランドになる。ブランドのロゴってとても大事で、この編集部の特集だから読もう、ってなる。前に『クロワッサン』創ったときなんか、みんなパンなんじゃないかと思ってたよね。でも、イメージは伝わった。

嶋:その他に新しいマネタイズは何か考えていますか。

佐々木:一つはサブスクリプションモデル。そうするとあんまりガッと売上が落ちたりはしない。あとはやっぱり広告。インフィード広告みたいに数に比例する広告もやります。

それだけじゃなくて、今度ブランドデザインというチームを作りました。ネイティブアドに近いと思うんですけど、ちゃんとした編集者たちが、企業のブランディングに役立つような広告を作っていくことで、単価を上げていこうと思っています。有料会員とこういう形の広告と、二つのモデルで成長と安定性を保てないかな、と考えています。

賛否両論のネイティブアド、どう思う?

嶋:ネイティブアドには賛否両論あると思いますけど、いかがですか。

西田:本では比較的受け入れられている気はします。要は作り方ですよね。雑誌の場合は、僕らの周りにいるいわゆる”文化人”の人たちに協力してもらって広告を作る。そして構成の仕方。雑誌の中で、前半と後半の間にタイアップ広告のブックインブックを挟み込む、テレビのコマーシャルのような作りを、BRUTUSではしています。

佐々木:大事なのはちゃんとお金をかけていてクオリティが保たれているかどうか。そしてクレジットが明記されているかどうかですね。それさえ守れていれば何も問題はないと思っています。逆に、質の悪いネイティブアドとかクレジットがちゃんとしていない広告を作ることは自分たちのメディアとしての価値を下げてしまったり、信頼を失ってしまうことに繋がります。

嶋:人材の問題もありますね。今アメリカのヤフーCEOがネイティブアドにちゃんと取り組もうということで、いろんな業界から優れた人材を集めていますね。

コンテンツとしてのレベルを突破したネイティブアドは僕はやれると思っているんですけど……。企業の情報って実は面白いものがたくさんあるし。ネイティブアドを進化させるのは、PVをひとつひとつ換金するよりも、ちゃんとまとまったお金を収益として得るために、今のところ一番いい方法なんじゃないでしょうか。

クオリティが担保され、クレジットを明記すれば、ネイティブアドは何も問題はないと、NewsPicks編集長の佐々木さん

クオリティが担保され、クレジットを明記すれば、ネイティブアドは何も問題はないと、NewsPicks編集長の佐々木さん

ネットも紙も、才能が混ざってしまえばいい

西田:僕らは、紙へのノスタルジーもあるんですけど、原体験が紙だとよく伝わるんですよ。でもそれを再現するのにウェブでもいいと思っていて。今のところは本を一冊でも多く出し続けながら、かつ、例えばその続編をネットでやるとか、そういった生き残り方を考えています。

ネットにも紙の人が流入したり、若い人と才能が混ざってしまえばいいと思いますよね。

話が飛ぶようだけど、黒磯駅ってご存知ですか? 那須高原の別荘の入り口として栄えた華やかな町でしたが、隣に新幹線の那須塩原駅ができてしまった。皆、便利な那須塩原で乗り降りするから、黒磯は少しさびれてしまった。黒磯駅が紙メディア、那須塩原駅がデジタル…、そう考えるとわかりやすい。要は、情報の通り道が変わってしまったんです。それだけのことです。那須塩原駅前には巨大なビルが立ち、交通も便利で、さまざまなショップが集中してる。那須塩原駅で乗り降りする人たちに、黒磯駅から文句言ってもしょうがないと思うんです。

でも実際、黒磯の町には皆にしたわれている素晴らしいカフェの経営者がいたり、東京でも最先端のセレクトショップが週末だけお店を開いていたり、驚くほどおいしいパン屋さんが2軒あったりする。黒磯には黒磯で文化があたらしく育っている。だから、たとえば紙メディアとして黒磯に居を構えるけれど、那須塩原駅にも出店する…ということもありでしょう。あくまで本店は黒磯駅前で。ただ紙メディアとしてとどまっていくと廃れていくだけだから、使い分けをする。

佐々木:西田さんのおっしゃる通り。紙とウェブの融合って、多分紙の有力なメディアが本気になって取り組んだほうが面白いし、一番早いんじゃないかな。文藝春秋さんとか、新潮社さんとかがこうしたウェブのセミナーに来るようになれば面白くなるんじゃないかな、と思うんですよね。