「従来型の広告業界のあり方では、クライアントニーズに答えられない」とSIX野添氏が語る理由

90年代まで、確かに“広告”はクリエイティブの主役だった。広告クリエイターは若者なら誰でも憧れる人気の職業で、桁違いの予算で最高峰のクリエイターたちによって作られた“広告”は今のように嫌われ者ではなく、むしろ文化とさえ言われていた。

しかし近年、主役は変わった。いまやクリエイティブな企業の代名詞はGoogleだし、センスの良い若者はメディアアートのような感覚で、自分の表現手段として、Webサービスを立ち上げる。“広告”はディスプレイの中でいかに“広告”らしくなく振る舞うかを求められ、旧来型の広告クリエイターの時代は終わったというのが一般的な見解だろう。

2013年6月に博報堂からスピンオフして生まれたクリエイティブエージェンシー「SIX」。デジタル領域に強みを持つクリエイター集団の彼らが、今年の「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2015」の第7回SXSWアクセラレーター・コンペティションのエンターテインメント・コンテントテクノロジー部門において、アジアで初めての受賞企業に選出された。

受賞作品はSIXが開発した次世代型スピーカー「 Lyric Speaker(リリック・スピーカー)」。モバイル端末の専用アプリから好きな音楽を選曲して再生すると、スピーカーと一体になった透過スクリーンに、自動生成された美しいモーショングラフィックで歌詞が、音楽に合わせて表示されるというものだ。

近年、世界中から注目を集めるビジネスコンテストとしての側面を持つSXSW。広告業界に身を置いてきたSIXがサービスの担い手として、日本企業初の快挙を成し遂げた背景には、どんなストーリーがあったのだろうか。2011年度クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリストに輝き、生粋の広告クリエイターとしての側面も持つ、株式会社SIX 代表取締役社長 野添剛士氏に話を聞いた。

150513_six_IMG_8428v8_872

野添剛士氏/「SIX」代表取締役社長 クリエイティブディレクター。博報堂入社後、クリエイターとして活躍。同グループの「SIX」代表取締役社長。Cannes Lions 2013 審査員。主な仕事は「SPACE BALLOON PROJECT」「JIM BEAM」「adidasサッカーW杯日本代表」など。受賞歴は、2011年度クリエイター・オブ・ザ・イヤーメダリスト、文化庁メディア芸術祭グランプリ、Cannes Lions、ACCマーケティングエフェクティブネス部門グランプリ ほか。2013年度Cannes Lions審査員。「SIX」は6人のクリエイティブ・ディレクターとビジネスプロデューサーを中心とし、現在9人構成。

コミュニケーションの主眼は「For Brand」から「For People」へ

長年、日本の広告業界を牽引してきた博報堂出身のSIXのメンバーにとって、テクノロジーの祭典ともいえるSXSWへの出展は、まさに未知の領域へのチャレンジだった。広告業界の人間として目指してきたカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(以後、「カンヌ」)との違いを、野添氏は次のように語った。

「カンヌが評価するのは『過去』。1年前の広告やキャンペーンの良しあしを評価するものです。それに対し、SXSWが評価するのは『未来』。この事業にはどんなポテンシャルがあって、今後どう広がっていくアイデアなのか。その可能性を示すことが求められます」

“過去”を説明するのは、実際に広告を作ったクリエイターであるのに対し、ビジネスプランも含めた“未来”をプレゼンするには、ビジネスプロデューサーとしての手腕も求められるという違いもある。そこで野添氏は昨年初めてビジネスプロデューサーと一緒にSXSWを訪れ、今年の受賞へとつなげた。

音楽ダウンロードが当たり前になった昨今において、音楽を構成する2大要素である“歌詞”と“メロディー”のうち、“歌詞”の方がどんどん見えなくなってきている現状がある。それを復活させるプロダクトが Lyric Speakerなのだ。

「そもそもLyric SpeakerはSXSWのために作ったわけではありませんが、僕たちSIXが未来志向であることは確かです。これまでの広告は『目的芸術』。クライアントの課題を解決するというはっきりとした目的があって、クライアントはそれに対して広告予算を割いています。しかし、最近のクライアントが求めているのは、まだ課題すらはっきり見えていない中で、課題を一緒に創造するところです。

そうすると、目的芸術においては、クライアントだけにとって100%意味のある“For Brand”の視点でよかったものが、“For People”の視点が重要になってきます。世の中から支持されるとか、文化的に価値があるとか、そういったことが大切になってきているんですね。SIXを作った目的のひとつも、そこにあります」

代表自身が分析するSIXの強みと弱み

150513_six_IMG_8376_872

通常、博報堂の子会社には、社名に博報堂の名を刻むことが多いが、SIXには博報堂の冠が付いていない。それは、SIXが広告領域から越境したクリエイティブ集団であるからだ。“For People”でクライアントと向き合ったときに、そのソリューションは広告とは限らない。クライアントにとって意味があるだけでなく、世の中にとっても価値のあることであれば、アウトプットはサービスでもプロダクトでも関係がないのだという。野添氏はSIXの強みについて、次のように述べる。

「広告をずっとやってきた人間には、“コンセプトをひと言でまとめる力”だったり、“ユーザーにそれをわかりやすく伝える力”といった『筋力』が備わっています。“◯◯から△△へ”といった言葉で、人をハッとさせられるかどうか。言葉で人を動かす力ですね。同じようにプロダクトを作るときにも、最初のコンセプトを提示したり、周知したりするときにも、ベースにあるのは、『言葉』です。言葉の強さによって、与えられる影響が変わってくる。新しいルールを作るといったコンセプトワーキングができるところは、僕たちの強みだと思っています」

逆に、弱みとして感じているのは、ビジネスとしてスケールさせる部分なのだという。

「これまでメディアに軸を置いてGRP(延べ視聴率)単位でスケールを設計してきましたが、今新たに挑戦している広告外の領域、例えば商品開発のようなときでも、勝つための方法を模索していく必要があると感じています。

弱みと感じている部分をもっと具体的にいうと、VCから投資を受けながらどうやってスケールさせていくのかとか、どんな企業とBtoBでコラボレーションしてスケールさせていくのか、といったビジネス戦略の部分が足りていないと思いますね。広告ではコピーライターとアートディレクターさえいれば、チームになるんですよ。

でもこれからのクリエイティブはもっと複雑なチームが当たり前になってきます。最近では、なぜか弁理士が入っていたり、テクノロジストが入るようになっていたり。これまで僕らはそういった方々と週1でテレビ会議をするなんてこともなかったですから。最適なチームスタッフの構成も案件ごとに異なってくる。チームの作り方も学んでいる最中です」

モノづくりからコトづくりに日本のクリエイティブはシフトすべき

広告からプロダクトの領域へ一歩踏み出したLyric Speakerを作り上げたことで、SIXにはどんな変化があったのだろうか。

「まだトライ&エラーを重ねている段階の僕らにとっては、Lyric Speakerという新たな題材ができたのが大きかったです。題材がないと本を読んだりして机上で勉強するしかないんだけど、ひとつプロダクトができたことによって、実践的に学べるフィールドまで推し進めることができた。これは今後、博報堂本体にも還元できるようなスキルセットになっていくと思っています。

Lyric Speakerを作ってみてわかったことは、僕らがチャレンジしている新たなクリエイティブに必要なスキルを持っている人が、広告業界にはいないということ。どこかから呼んでこようと思っても、いないんですよ。だから僕らは自分たちで勉強する必要があるんですね」

そうしてSIXが学んだことは、クライアントやその先にいる世の中の人々へと還元されていく。野添氏は、SIXが数多くのナショナルクライアントから求められている理由のひとつとして、日本の弱点を補完できるところにあると指摘した。

「日本はモノづくりで世界から評価されてきたけれど、それだけでは戦えない時代になってきているじゃないですか。だってiPhoneの中身を見ると日本製の部品だらけなのに、日本からiPhoneは生まれなかった。

これは日本はモノづくりができても、『コトづくり』ができないからなんですよね。iPodにしてもそう。音楽をハードディスクに入れて持ち歩くものは日本にもたくさんあったはずなのに、日本の企業は“10GBから15GBにしました”と、優位性をスペックでしか示すことができない。

一方で、iPodが打ち出したのは“1000曲をいつでもポケットに”っていう簡潔なキーワードとコンセプト。これはモノではなく『コト』です。言葉の力を使って『コトづくり』をするのはまさに僕らが得意としているところ。僕らには15GBのハードディスクは作れないけど、そういうモノがあると聞けば『コト』を生み出して、モノの意味や価値を拡張してあげることができると思っています」

「好き」が原動力になる

SIXのエントランスエリア。これまでに受賞した各賞が所狭しと並べられている

SIXのエントランスエリア。これまでに受賞した各賞が所狭しと並べられている

野添氏がいう通り多くのクリエイティブエージェンシーや広告会社でも『コトづくり』を意識しているところは増えてきているはず。しかしながら、やりたくてもできない、できていないというのが本音なのではないだろうか。そんななか、SXSWで賞を獲得したSIXはひとつの結果を出したと言える。他の多くの企業とSIXとの違いはどこにあるのだろうか?

「メンバーひとりひとりがある種のオタク、というかフリークであるというところ。自分が好きな領域がすごくはっきりしているんですよ。

例えば“世の中に出るゲームは全部やります!”とか“とにかく漫画は全部読みます!”とか。表面的に理解するんじゃなくて、何よりも自分がファーストユーザーでありディープユーザーなんですよね。とにかく深く知る、深く関心を持つ。好きじゃないとそこまでできないじゃないですか。でも一人で全領域に関心を向けるのは無理だから、“俺はここだ!”っていえるものがある人間が集って、それぞれの個性をマッシュアップできるよう、何かしらの“好き”を持った人間を集めています。

実はLyric Speakerのアイデアを出してきたのも、ミュージシャンの顔を持つメンバーなんですよ。音楽が好きでギターをずっと手放さないやつがいて。そいつだから、そのアイデアが作れたと思いますね。好きなことを伝える熱量って、すごいですから。でも彼だけではすべてを作れなくて、そのアイデアの種をどう磨いていくのかは、チームの力になるんです。

『コトづくり』の真ん中にコンセプトを置いて、いろんな『好きの領域』を持った人間が集まれば、相乗効果が働いていいものができあがってくるんだと思います」

何よりも“For People”の視点を大事にし、文化への貢献を重要視しているSIXでは、テクノロジーからアイデアを考えることはない。テクノロジーはあくまでもコンセプトを実現するための手段であって、外部の人たちとコラボレーションすればいいと考えているからだ。

世の中の価値観を更新できるものしか、世に出さない覚悟

そんな野添氏に「これはやられた!」と衝撃を受けた施策について聞いてみると、2009年の「カンヌ」のサイバー部門でグランプリを受賞したフィアットの「eco:Drive」だという答えが返ってきた。「eco:Drive」は、運転する際にUSBスティックをフィアットの車に差し込み、運転状況を記録。それを後で、専用ソフトをダウンロードした自分のPCにつなぐと、燃費効率や運転の改善策を見ることができるアプリである。

「エコブームが来たときに、自分の運転状況を知ることが大事だって、僕も思っていたんですよ。1リットルあたりの燃費を「○km/L」と表示するだけでは、どこをどう改善すればいいか全然わからないので。だから『eco:Drive』が出てきて、同じこと考えていたのに、やられたなと思いましたね。でも、後からわかったことが、これを作るまでに2年かかっていたということ。

僕が考えていた2年前には、すでにアイデアとしてあったっていうことですよね。これには驚愕しました。その衝撃がいまだに大きくて、常に自分が何かを考えるときにも、世の中の流れに対して『eco:Drive』のアイデアが生まれたスピード感に勝てているのかどうかと思いますし、それくらいのインパクトを与えられるものなのかと常に見つめ直していますね」

SIXのメンバーとしても常に「アップデート」を意識している。自分たちが関わるからには、絶対にバックデートさせない。必ず文化を前に進めてやるという思考だ。クライアントだけでなく世の中をアップデートできているのか。そうでないものは、絶対にクライアントにも出さないと、徹底しているという。

「従来のプラットフォームが刺さらなくなったということではなく、感動の与え方が広告だけではなく、プロダクトやサービス、コミュニケーションなど、あらゆる手法の中から選ぶ必要が出てきたということ。自社の持つ武器や置かれている環境によって、やるべきことは大きく変わってきます。その中で、どう選択と集中をしていくのか。

今は疎ましく思われがちな広告だけど、かつては広告が文化を作っていた時代があったんですよね。今の、広告はない方がいいものという風潮は、幸せな関係ではないと危機感を持っています。“For Brand”であり、“For People”でもある、もっと幸せな関係を求めて、これからもチャレンジしていきたいと思っています」

150513_six_IMG_8388_872