「30年かけて、新しい働き方を浸透させたい」とランサーズ代表が語る理由

インターネットを介して、個人へ直接、開発やデザイン、ライティングといったさまざまな業務を委託する「クラウドソーシング」。今でこそこの概念は多くの人に浸透し、広く受け入れられつつある。しかしそれまでの間、参入企業は少なくない苦労をしてきた。

「30年かかってでも、国内の働き方の価値観を転換させていきたいです」と話すのは、クラウドソーシングサイト「ランサーズ」を運営するランサーズ株式会社代表の秋好陽介氏。

今年4月には、世界92カ国以上のデザイナーが参加しているクラウドソーシングサービス「designclue(デザインクルー)」を買収。「場所と時間にとらわれない新しい働き方を作る」というビジョンを掲げて起業した秋好氏に、今のクラウドソーシング市場における自社の課題と展望について聞いてみた。

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秋好陽介氏。ランサーズ株式会社の代表取締役社長 CEOとして、日本初のクラウドソーシングサービス「ランサーズ」の運用を開始、現在はランサーズ株式会社の戦略および経営の統括に従事。

仲介を始めるに至った苦い経験

サービス公開から現在までのランサーズで交わされた仕事の総額は500億円以上。約60万件以上の案件を成立させ、クラウドサービス市場の発展とともに成長してきたように見える「ランサーズ」。順風満帆に思えるが、サービス公開からしばらくの間、市場のルールを作っていく過程で、厳しい経営的決断を迫られた経験があるようだ。

「エンジニア出身の私は、創業当時、適正単価は『市場が勝手にうまく作ってくれるだろう』と思っていました。ところが、サービス開始当初は『ロゴ制作を1000円でやります』なんていう学生もいて、その金額が相場の基準になってしまった時期もありました。確かに、学生は企業と仕事する経験を積んでおけば、ポートフォリオを作る際の貴重な実績になるので、その単価設定にする気持ちはわからないでもないです。だけど、プロの人からすればそれはありえない金額です。これは完全に私の読みが甘かった。

証券取引所に株価の暴落を一定内に抑える『値幅制限』のルールがあるように、健全なプラットフォームを運用していくには、ランサーズでもルールを決める必要がありました。どんな仕事も低い単価で仕事を受ける人はいるかもしれないけど、それでは市場が成熟しないし、誰も幸せになれない。そのため、企業側に当社の担当者が出向きヒアリングを行い、ロゴ制作の最低単価を2万円とするなど、ルール設定に協力を仰ぎました。一時は、成立する案件数が大幅に下がり、かなり経営的に厳しい時期もありましたが、市場の秩序を作らないことにはこのサービスに未来はないと思い、なんとか耐えしのぐことができました」

「労働力=労働人口×生産性」

クラウドソーシングサービスの功罪については、いろいろなところで議論がなされているが、ランサーズの秋好氏は必ずやクラウドソーシングが日本の労働力を底上げすると信じているという。

「これからの日本の課題の1つとして、労働人口の減少が挙げられます。私はクラウドソーシングがもっと浸透し、大企業でも副業が可能になるよう、働き方の仕組みが変化すれば、労働人口の減少による労働力の低下を防げるのではないかと思っています。

私の定義する労働力とは労働人口×生産性のことです。

例えば、「1」の労働力だった会社員が、週末にフリーランスとして働いて「1.5」になるとか、これまで結婚・出産を基に会社を辞めた人がクラウドソーシングを利用して働くことで、「0」から「1」になるとか、そうしたことがもっと世の中で起きれば、労働力低下の問題が解消できます。

よくある例えですが、150年前くらいまでは、靴職人という職につければ、親子3代にわたってそのスキルだけで生きていけました。でも今のWebの市場って、10年単位で劇的に変化しています。しかも今生まれた赤ん坊の半数は、この世界にはまだ存在しない仕事をするっていわれているんですよね。

自分の寿命より業界の寿命の方が短いなかで、これからの働き方は短いタームのプロジェクト型に変化していくことは目に見えています。そうなったときに、プロジェクト単位で個人が集まって働くという仕組みが必要なんじゃないかなと信じています。ランサーズは、そのような短中期的なプロジェクトができる機会を用意していきたいと考えています」

30年規模のプロジェクトで働き方を変えたい

最後に秋好氏の展望を聞いてみた。

「目下の最大の目標は『2020年までに1000万人がランサーズのサイト上で働いている』状態です。そのために世界の市場も狙っていきたい。まずはデザインクルーとランサーズを融合させて、アジア圏内にフォーカスを定めています。

派遣業が1980年に登場してから、一般に浸透するまで30年かかりました。私も少なくとも今取り組んでいる事業を30年くらいは粘り強くやろうと思っています」

変化の多いベンチャー企業の経営者で、ここまで長期的な展望を語る人はあまり多くはない。秋好さんがここまでこの事業に取り組む覚悟があるのはなぜなのだろうか。

「ベンチャーの経営者のなかでも、私が勝っているところなんて何もないと思っています。それでも何かを挙げるならば、鈍感な性格と、これと決めたら1つにずっと集中することができる性格は、取りえだなと思います。何をするにも時間軸がすごく長い。

私はクラウドソーシングビジネス自体をやりたくて始めたのではなくて、『インターネット上の、オンラインで時間と場所にとらわれずに働ける』『企業が誰にでも発注できる』世界を実現したいと考えて、この会社を立ち上げました。30年くらい経って、当たり前のようにクラウドソーシングをしている人が『あれ? そういえばクラウドソーシングってどんな人たちが広めたの?』と思い返したときに『ランサーズ』という言葉が出てくるような未来があると考えると、それだけでワクワクしてしまうんです」

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