Tokyo Otaku Mode1750万「いいね!」獲得の舞台裏に、エンジニアの地道な努力があった

FacebookでiTunes、Amazonに次ぐ世界第3位の「いいね!」数を誇るECサービスが、日本にあることをご存じだろうか。アニメや漫画、ゲーム、コスプレ、フィギュア、ファッションといった日本のポップカルチャーの情報を世界に発信・販売する、Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)だ。

TOMのFacebookページが獲得した「いいね!」数は、現在1750万を超える。その99%が、海外のファンだという。

(「Facebook statistics of Ecommerce pages」social bakersより)

(「Facebook statistics of Ecommerce pages」social bakersより)

日本のポップカルチャーを世界に発信することに成功しているTOM。世界中の“Otaku”たちを引きつけるサイトの背景には、代表の「日本の良質なコンテンツを届けたい」という思いと、それを実現するエンジニアたちの姿がある。今回はTOM代表亀井智英氏へのインタビューから、華やかなコンテンツの裏にある思いや、エンジニアの地道な作業に焦点を当てる。

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亀井 智英(かめいともひで)。Tokyo Otaku Mode Inc. 共同創業者/CEO。
1977年愛知県出身。大学卒業後、サイバー・コミュニケーションズへ入社。NTTアド、デジタルガレージ、電通デジタルビジネス局への出向を経て、2012年4月にTokyo Otaku Mode Inc.を米国デラウェア州にて創業。同月、米国のシードアクセラレーター500 Startupsのプログラムに参加。

タイムマシン経営がしたくて、自腹で海外視察へ

TOM代表の亀井氏は、もともとは広告業界のサラリーマンだ。大学卒業後、電通グループのサイバーコミュニケーションズに入社。その後、NTTアドやデジタルガレージに出向し、広告に携わる業務を行ってきた。

一方で業務の合間を縫って、亀井氏は個人的な趣味として中国、ベトナム、フィリピンなどへ市場視察を繰り返していた。その目的を「タイムマシン経営をしたかったため」と振り返る。

「日本で流行っているウェブサービスを海外に持って行って、ビジネスできないかと考えていました。日本でも、海外で普及したサービスを焼き直す人たちがいた。ならば、例えば『食べログ』みたいな日本のサービスも、他の国でも事業にできるかもしれないと考え、視察に行っていたんです。」

現地で聞いた「本当に見たい日本のコンテンツが自国内にない」という声

亀井氏は有給休暇を取るたび、海外を自らの足で歩き回った。

中国では、夜の繁華街に足を運んだ。現地の若者たちのリアルな声を聞くことで、どんなサービスが流行っているのかを知るためだ。ある店に足を踏み入れると、フロアは驚くほど大きく、店員に聞くと「今日は1000人の客が来ている」という。日本とは異なるスケールに圧倒された。店に集まる若者たちは、日本人に好意的で、いま使っているサービスは何か尋ねると積極的に話してくれた。

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ベトナムでは、街中のロータリーで、バイクの二人乗りをした若者がぐるぐると回っていた。なぜかと聞くと、「デートしてるんです」という答え。遊び場所がないため、若者は皆、屋外でそうして遊んでいるという。『娯楽が少ないこの国なら、ソーシャルゲームが流行るかもしれない』。そう思った亀井氏は、現地のゲーム会社を見学するなど、視察に駆け回った。

さまざまな国を回るなかで、特に亀井氏の心に残ったのは、日本のコンテンツの実情だった。市場では日本のアニメのDVDや漫画が数十円で売られ、そのどれもが海賊版。購入していく人たちに、それが違法であるとの意識は薄い。話を聞けば、「本当に見たい日本のコンテンツが、国内に流通していない。だから、質が悪くても買うしかない」との反応が返ってきた。

「日本のコンテンツがうまく広まっていないことがわかった。圧倒されたのは韓国のすごさで、視察当時、海外では『日本より韓国のほうが格好いい』という認識を持つ人が多かった。『“ジャパンアズナンバーワン”っていわれたのって何だったんだ?』と思いましたよ」

日本の良質なコンテンツを海外に

「日本の良質なコンテンツを海外に発信しなければいけない」。そう実感した亀井氏は、2011年3月、日本のコンテンツを紹介するメディアとして、TOMのFacebookページを開設。コスプレイヤーの写真など、海外の人が関心を持つトピックを根気強く取り上げ、次第にファンを拡大していった。

2012年4月、シリコンバレーへの視察をきっかけに、有力ベンチャーキャピタル「500 Startups」の代表、デイブ・マクルーア氏と出会う。デイブ氏の目に留まったTOMは、500 Startupsから出資を受けることになった。亀井氏は当時勤めていた会社を辞め、米国デラウェア州に本社を登記。シリコンバレーにオフィスを設立した。

その後TOMのFacebookページは、海外向けに日本のアニメ/漫画/ゲーム/音楽/ファッションなどの日本のコンテンツを世界に発信するメディアとして、1750万人以上のファンを獲得するまでに成長。出荷先は100カ国近くにものぼる。2015年5月には、中国最大のインターネットショッピングサイトを運営するアリババ・グループの、海外企業向けサイト「天猫国際(Tmall Global)」での出店を開始し、さらなるグローバル展開も進めている。

亀井氏がそうした事業の先に見据えるのは、”オタク(Otaku)の言葉の再定義”だという。

「海外に行ってみると、日本のコンテンツを好きな人以外は、Otakuという言葉をほとんど知らない。それって結構面白いですよね。知らないということは、僕らが意味づけしてあげることができるってことだから。日本でそうであるような、Otakuに対するネガティブなイメージを出したいわけではなく、発信して、自慢したくなるような、格好いいものを出していきたい。エッジが立っているものを出していきたいんです。海外でOtakuの格好よさを認知してもらうという意味では、1750万『いいね!』も、世界中の人口からすればにまだまだたいした数じゃない。なので、認知をさらに増やしていく作業を、今後やっていくつもりです。」

 

華やかなサイトの裏にある、地道な作業の積み重ね

TOMのサイトを見てみると、人気アニメキャラクターのフィギュアやコスプレアイテムなどが並び、にぎやかな印象を受ける。華やかサイトの背景に、どのようなエンジニアの作業があるのだろうか。

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運営を支えるエンジニアは、国内外でおよそ10人だという。平均年齢も20代半ばと、若いメンバーたちだ。定例ミーティングでは、各メンバーが直近の1週間に仕入れた技術ネタをまとめてシェアするなど、「新しい技術にアンテナの高い、エッジの効いたエンジニアが集まっている」と亀井氏は話す。ECのアプリケーションにはNode.js、データベースにはMongoDBを連携させ、サイトを構築している。

エンジニアチームを指揮するCTOの関根雅史氏は、「海外を対象にしたEC事業では、日本向けサービスよりもシビアな面もある」という。例えば、サービスの快適性を担保するためにはCDNが必須で、そのため、ファイルサイズを小さくする、表示する画像数を減らすなどして、極力負荷を減らす努力が欠かせない。

また、ログを取るときに、アクセス元の国や言語設定など、ユーザー属性のログをきめ細かに残しておかないと、正確に分析することができない。「拡散に利用されるSNSの種類や、情報のハブとなるサービスも地域によって異なるため、うまく選別しながら使い分けている」と関根氏は語る。

常にどこかの国で閲覧されているため、夜間のメンテナンスが困難

さらにCOOの安宅基氏は、「物理的な距離があるのでレイテンシー(遅延)や、サービスの活発な時間帯の時差を気にしている」と語る。世界中で、いずれかの国の人が常に閲覧している、つまり「どの時間もどこかの国の人がオンタイム」なのが、TOMのサービスの特徴だ。国内向けサービスのように、アクセスの少ない深夜の時間帯にメンテナンスをすることが難しい。そのため、サービスを止めてしまうメンテナンスを省けるようにDBをレプリケーションさせたり、サーバーを冗長構成にするなどして、部分メンテナンスの繰り返しで対処できるようにしているという。

言語の面でも工夫が必要だ。TOMのユーザーは英語圏だけではなく、中国、東南アジア、南米などにも多く存在する。そのため、サイトに書かれている文言が正しいか、英語・中国語・スペイン語・インドネシア語のネイティブがチェックする体制が整えられている。また、バナーやアイコンを、言語を理解してもらうことを前提にデザインすると、世界中で汎用的に使うことができない問題が生じる。そのため、言語が理解できなくても通用するような、ユニバーサルデザインを意識してサイトを作成しているという。

海外向けのECでは、エンジニアにもこうした細かい配慮が求められる。こまごました作業に嫌気が差すこともあるのでは?と思ってしまうが、TOMのエンジニアは全世界を相手にするという、スケールの大きいサービスの開発に携わっていること、また日本のコンテンツの海外普及に関われることにモチベーションを感じているそうだ。

エンジニアに求めるのは「セルフスターター」であること

ここまで挙げたように、海外向けのECサイトを運営する際には、細かい問題が次々に訪れる。そうした問題を解決していくために、エンジニアに求められることは何か尋ねると、亀井氏は次のように答えた。

「やはり、セルフスターターであることかな。『自分から何かやろう』『何かを起こしたい』という思いを持っていることが大事。『どうしたらいいですか?』みたいな待ちの姿勢は嫌で、『こうしたいけど、どう思いますか?』って人はウェルカムです。言い換えれば、それぞれの役割のなかでリーダーシップを発揮できる人。たとえば、サッカーだとみんながFWでいる必要ないし、RPGだったらみんな戦士でいる必要はない。それぞれのメンバーが、『自分だったらこの役割にハマりそうだな』というときに、その役割で自らリーダーシップを発揮できることが大事なんです。」