「ディープラーニング×画像認識」はマーケティングをどう変革するのか? ABEJAのCEO・岡田氏が語る未来絵図

ABEJA(アベジャ)」という会社をご存じだろうか。画像認識技術をコア技術とする企業で、知名度こそ高くないが、2013年には、日本テレビ「24時間テレビ」のプロモーションに協力。通行人の動きに連動して広告が人を追いかけてくる「フキダシステム」という独自のシステムを導入して話題を呼んだ。また今年1月には、「劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス」のプロモーションとしてインタラクティブコンテンツのシステム開発を担当し、先日のデジタルサイネージアワード2015ではインタラクティブ部門に入賞した。

そのABEJAをCEOとして率いるのが、岡田陽介氏。5年生でコンピューターに触れたときの衝撃から、コンピューターグラフィックス(CG)における物理シミュレーションに興味を持ち、大学時代にはその分野の国際学会で発表した経歴を持つ。ABEJAを代表する岡田氏に、次世代テクノロジーへの挑戦と、今年に計画しているという海外進出について語ってもらった。

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岡田陽介氏。ABEJA 代表取締役CEO。1988年生まれ。愛知県名古屋市出身。大学では、三次元コンピューターグラフィックス関連の研究、商店街活性化プロジェクトなどを経験。研究内容を複数の国際会議で発表。2011年、株式会社響取締役CIOに就任。その後、株式会社リッチメディアに入社し、事業開発を担当。2012年4月に同社を退社。同年9月に起業。

空白の「オフライン」での覇権掌握を目指す

-画像認識技術分野において、ABEJAは今後どのような展開を目指しているのでしょうか。

「当社の画像認識技術は、人工知能分野でホットワードになっている『ディープラーニング(深層学習)』技術を応用し、実用化している点が特徴です。またERP(統合基幹業務システム)などの業務用ソフトウエアと連携させ、複合的なシステムとして提供しています。

そもそもディープラーニングとは、コンピューティングにおいて、インプットとアウトプットの間に中間層をいくつか設けて、インプットされたデータを多層的に分析し、その処理速度と正確性を高める技術です。

ディープラーニング以前の手法では、例えば顔写真の画像を、人の顔としてコンピューターに認識させるためには、目、鼻、口などパーツの特徴を人の力で入力する必要がありました。しかも画像データを端的に表現するための特徴を抽出する必要があり、大変時間のかかるものでしたし、入力できる特徴データ量には制限があり、画像認識の精度は高くありませんでした。

一方ディープラーニング技術を使うと、この特徴抽出作業をコンピューターに任せることが可能となり、時間短縮に加えて画像認識の精度が大幅に向上します。

グローバルでは、Facebook、Google、バイドゥなどの大手企業が、ディープラーニングを得意とするテクノロジー系の会社を買収するなどして攻勢を強めています。業界内ではもっぱら、Googleは『ディープラーニング技術でオンライン上に保有する膨大な画像データを解析して、マーケティングや販促につなげたいのではないか。画像のキーワード検索に応用するのではないか』といった推測なされていますが、ABEJAは違います。私たちが今やろうとしているのは、『オフライン』環境における画像認識技術の応用です」

テクノロジーが、店舗や都市の運営を効率化させる

-オフライン環境に画像認識技術を応用するとはどういうことでしょうか。

「当社は現在、店舗やスマートシティー構想での画像認識技術の応用を進めています。

従来の顧客行動分析は、データの可視化が可能なオンライン上に限定されており、実店舗での実現が難しいとされていました。そこをまずABEJAでは、顧客の動態や、滞留データの解析サービス『ABEJA Behavior』や性別年齢推定サービス『ABEJA Demographic』などを用いて来店者の店舗内行動を取得することを可能にしました。加えて、データ管理・分析サービス『ABEJA DMP』を使うことで、オンラインとオフラインのデータをリアルタイムに解析することができるようになりました。

例えば小売店舗で、『リアルでのA/Bテスト』を行い、販売促進につなげる実験を行っています。画像認識技術を活用すると、実店舗で撮影した映像を解析して、店舗来店客の性別、年齢、動線などをデータベースに落としこむことができます。このデータを分析することで、どの商品をどの位置に配置すれば、どれくらい売り上げに変化が生じるのかをテストできるようになります。これを取り入れたのが、先日の株式会社三越伊勢丹と共同プロジェクトです。お菓子セレクトショップ『菓遊庵』における店舗レイアウトの最適化に、これらの技術をテスト導入しました」

現在ABEJAが提供中の、画像解析・機械学習などの最先端テクノロジーを活用したリアル市場の解析サービス

「また店舗に限らず、街の公共の場でも非効率なものは数多くあります。それらを改善する手段として、画像認識技術を応用できる可能性があり、我々のテクノロジーが入り込む余地が大いにあると考えています。

例えば、駅やバス停での混雑状況の確認や、事故が発生したときの対応にも画像認識を役立てられます。また街中で倒れている人がいた場合、個人データと照合した緊急処置も可能になります。画像認識の技術はこのように、事故や事件、トラブルの早期発見を可能にし、より安全・安心な街づくりに役立てることもできるでしょう

目線は既に、ディープラーニングの「次の技術」

「当然ですが、ディープラーニング技術には課題もあります。それはディープラーニングの中間層で何が起こっているのかは、完全に理解されておらず、取り扱いや調整が難しいため、万能ではないという点です。

そこで我々は、ディープラーニングの次の技術である『トポロジカル・データ・アナリシス(TDA)』にも注目するようになりました。

TDAとは、データマイニングにおいて、膨大で複雑なデータを空間内で連続的に変化する形として捉え、データの持つ意味を捉えやすくする技術のことです。この技術を応用した場合、理論的にはビッグデータ解析でよく利用されるHadoopの「1000×1000倍」のスピードで、データの処理が可能になると言われています。ABEJAでは既に最高技術顧問に、TDA研究を推進する東京大学・会津大学名誉教授 國井利泰氏を迎えています。TDAの技術が確立した場合、ディープラーニング技術と組み合わせることにより、高い精度でデータ分析を実現できるようになります」

米国、シンガポールに同時進出

-今年、シンガポールと米国に進出する計画があるそうですね。

「はい。主な理由としては、日本国内での実績ができたことに加え、新興国の急速な経済発展です。特にアジアでは大型の商業施設が猛スピードで建設されており、我々の得意とするリアル店舗における画像認識の需要が高まると想定しています。アジア展開の布石としては、まずシンガポールに拠点を構えます。シンガポールは東南アジアへのゲートウェイとして捉えており、これを足がかりにアジア市場での事業拡大を目指します。

シンガポールは情報、技術、資金が集まる国なので、ここで実績を積むことがグローバル展開を加速させることになると見ています

シンガポールで開催されたイノブフェスのディスカッションの様子、左から3人目がABEJA代表岡田氏

NUS主催、シンガポール開催のInnovFestでのディスカッションの様子。左から3人目がABEJA代表岡田氏

「また、シンガポールに進出するのと同じタイミングで、サンフランシスコにも拠点を開設する予定です。競合が多い米国にあえて進出する理由は、米国での『勝負』に勝てた場合には、グローバルでも通用すると考えているからです。特にサンフランシスコは、テクノロジー系スタートアップが群雄割拠している状態で、そこで生き残ることができれば、自信を持ってグローバル市場で事業展開できると信じています」