非効率こそクリエイティブ――KitchHike共同創業者・山本雅也氏が語る“ハックよりハイク”志向のススメ

ライフハック、グロースハック、キャリアハック……今私たちは、生活からビジネスのワークフローまで、多くのものごとを「ハック=効率化」することに力を注いでいる。そんな中、あえて“最適化しすぎないこと”の価値を提案しているのが、2013年の5月にスタートした「KitchHike」だ。

KitchHikeは、世界中のCOOK(クック・自宅で家庭料理を振る舞いたい人)とHIKER(ハイカー・家庭料理を食べたい人)をつなぐコミュニティサイトとしてリリースされた。

「ハックだけじゃなく、“ハイク”しましょうよ。その方が人生ずっと豊かになりますよ」

にこやかにそう語ってくれたのは、KitchHikeの共同創業者である山本雅也さん。ハックとハイク……響きこそ似ているが、一体どんな違いがあるのだろうか? KitchHikeの立ち上げに至った経緯や、 “ハイク”という言葉に込めた思いについて、山本さんにお話を伺った。

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山本雅也(やまもと・まさや)。1985年東京生まれ。2008年に早稲田大学を卒業し、博報堂DYメディアパートナーズに入社。2012年に同社を退社し、2013年4月に藤崎祥見(ふじさき・しょうけん)氏、浅利泰河(あさり・ゆたか)氏と共同で株式会社キッチハイクを設立。2013年5月に、料理を作る人と食べる人を世界中でマッチングさせるオンラインプラットフォーム「KitchHike」をオープン。

世界の食卓で、作る人と食べる人を結ぶサービス

−KitchHikeとは、どのようなサービスなのでしょうか?

ひとことで言えば、世界中の食卓で、料理を作る人と食べる人のマッチングをするウェブサービスです。KitchHikeには、現在28カ国、約500のメニューが登録されており、レストランではなく、その土地々々の食卓でご飯を食べたいユーザーが、現地の食を提供してくれる人を探し、そのもとでご飯を食べることができます。

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また、自分の手料理を誰かに振る舞いたい方は、KitchHikeにメニューを登録します。そのメニューに興味を持ってくれる人がいれば、食卓に呼び、もてなすことができます。価格は料理を作る側が設定するのですが、だいたい25ドルから30ドルといったところでしょうか。料理を一緒に食べる中で交流が生まれ、その土地や人の背景にある文化が見えて来ます。さらにはレシピを教えてもらえたり、英会話の勉強にもなったり……といったコミュニケーションを生み出すサービスになっています。

独立のきっかけは“メッセージ”より“仕組み”を作ろうという思い

−前職は広告会社にお勤めだったそうですね。

はい。就活のとき、「世の中を沸かしたい、動かしたい」という動機から、多くの人に向けて情報の発信ができるテレビや広告の仕事を志望していました。もともと「世界を平和にしたい」という思いを強く持っていて、「世の中を動かしたい」のはそのためのステップだと考えていました。

広告の仕事って、すごいんですよね。何千万人向けたメッセージを作り上げて、実際にそれが大勢の人の背中を押すことにつながるんですよ。「世の中を動かしている」という手応えを感じられる現場には何度も立ち会えました。

−充実した職場を離れて独立しようと決めるまでには、何かきっかけがあったんでしょうか?

僕が望んだ通り、広告は「世の中を動かすことができる」仕事でした。けれども、経験を積むうちに、「メッセージだけでは世の中を変えられない」って気づいたんです。広告は基本的に、メッセージを作るのが仕事。そして、そのメッセージは人を、世の中を動かすことができます。ただし、広告のメッセージの効果って”瞬間風速的”なことが多いんですよね。世の中を“動かす”だけでなく、根本から“変える”には、メッセージのように流れてしまうものではなく、もっとサステイナブルな“仕組み”を作り出さなきゃいけない……と感じるようになったんです。

例えば、省エネ社会を本気で目指すとしたら、「節電しよう!」ってメッセージを何度も発信するより、「誰もが知らぬ間に節電しちゃうような仕組み」を作った方が、ずっと効率がいいと思いませんか?

−仕組みとして定着させられたら、それこそ世の中をガラッと変えられますね。

そうなんです。僕の本来の行動原理は「世界を平和にしたい」というもので、そのためには「世界が平和になっちゃうような仕組み」を作るべきだなと。

内田樹氏の文章で“共食”と出会う

−そうして生まれたのが、このKitchHikeだと。

はい。平和につながる仕組みを模索していた時期に、、思想家の内田樹さんのブログで『個食のしあわせ』という記事を読みまして。そこに「人々が集まって車座になり、一つの食物を分け合う儀礼を持たない共同体は地球上に存在しない。共同体を立ち上げる基本の儀礼である」という記述があって、「共食」というテーマに興味が湧いたんです。

それから、文化人類学を中心に“食事と人の関係”についていろいろと勉強してみると、「昔から人々は戦争を回避するために、外からやってきた見知らぬ人たちに大切な食糧や飲料を振る舞ってきた」という歴史があることを知って「これは興味深い!」と思いましたね。「共食の文化を皆が楽しめるような仕組みにすることで、世界中の人たちがお互いの食卓をシェアするようになったら、世界は今よりもっと良くなるはずだ……」そう確信が持てたので、独立する決心がつきました。

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ハックではなく“ハイク”の精神を大切にしている

−KitchHikeというサービス名には、どんな思いを込められていますか?

僕らのチームでは常々、「ハイク」の精神を大事にしようって言っているんです。ちょっと話は変わりますが、ここ数年で「ハック」という概念が急激に世の中に浸透したなと感じていて。「ハック」というのはもともとハードウエア・ソフトウエアのエンジニアリングを広範に意味する言葉ですが、今は広義で「最適化・効率化する」という意味で使われていますよね。

ただ、このハックの考え方って、行き過ぎると息苦しくなると思うんですよ。というのも、無駄をなくすってことは、突き詰めていけば「見合ったリターンが見越せないと、行動を起こせない、最適化された予定調和から抜け出せない」という精神になってしまう。これを、僕は“ハック病”って名づけているんですが。もちろん、無駄をなくして効率化するのは、経済合理性の中ではとても正しい判断です。でも僕は、人生の面白さは”無駄を受け入れる”にこそあるって信じてます。そして”無駄を受け入れる”という点で、ハイクということに可能性を感じているんです。

−山本さんが考えるハイクとは?

僕は、「地に足を着けて歩きまわる」という風に解釈しています。「ヒッチハイク」という言葉からも想像がつくように、ハイクってまったく効率的じゃないし、むしろ偶有性を喜んで受け入れるような行為じゃないですか。けれども、この「偶然を受け入れる」って、見方を変えればすごくクリエイティブな考え方なんですよ。

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−無駄や偶然を受け入れるのがクリエイティブとは?

はい。何かを作ろうとする時に、必要な項目を洗い出して素材を用意するのではなく、手元や足元にあるアイテムから創造していく「Bricolage(ブリコラージュ)」という概念があるのですが、この考え方がクリエイティブに大きな影響を及ぼすと考えています。

スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学での卒業スピーチで「Connecting the dots(点と点をつなげること)」の尊さについて言及していますよね。彼は大学でカリグラフィ(文字を美しく見せるための技法)を学んでいた当時、それが何の役に立つかなんて考えもしていなかった。

けれども10年後に、カリグラフィの知識があったおかげで、マックに美しいフォント機能が備わった。役に立つかどうかわからないものを「無駄だ」と判断して切り捨てなかったからこそ、後々思わぬ形で活用することができた……という、ハイクの良さを説明するのには格好の事例です。

デジタルマーケティングではなく、自分の足で世界をフィールドワーク

−山本さん自身が、KitchHikeのビジネスをする中でハイクを実践した例はあるのでしょうか。

会社を辞めてからサービスを立ち上げてからも、リサーチとマーケティングを兼ねて、自分で実際に世界を回って、手料理を作ってもらい、現地の人と一緒に食卓を囲むフィールドワークをひたすら実践していましたね。423日間をかけて世界47カ国、50件以上の各地のお宅に突撃しました。そのときの体験は、ブログとBRUTUSの連載記事にもまとめています。

−今の時代、リサーチならばITを最大限利用して情報収集するのがトレンドだと思います。あえてご自身で時間をかけてフィールドワークを重ねたのには、何か理由があったんでしょうか?

たしかに、今のご時世ではビッグデータやSNSを活用すれば、量的にも質的にも優良な情報が簡単に手に入ります。そうしていれば、もっと効率よくサービスが作れたのかもしれません。けれども僕は、自分で体験して心から楽しいと思えることじゃないと、腹の底から人に勧められないんです。学生時代に何度か海外の食卓にお邪魔した経験はあったのですが、一度や二度やった程度では、サービスの本質を理解したつもりになってはいけないな、とも思いました。伝聞の情報と自分の足で稼いだ情報とじゃ、やっぱり重みが違いますからね。

−フィールドワークをした中で、どんな経験が印象に残っていますか?

難しい質問ですね……正直言って、全部が想像以上の体験だったので(笑)。例えば水上のボートハウスや、森の中の秘密基地みたいな隠れ家など、場所がユニークなところはたくさんありました。家の中に入ってみると、日本にいたら想像もつかないような生活や文化があって、見たことも聞いたこともない料理が出てくるんです。頭ではわかっていたことなんですが、そこで起こることすべてが発見の連続でした。

彼らにとっての日常は、僕にとっての非日常で、エンターテインメントだったんです。この気づきから、「現地の人の日常を体験することができるKitchHikeは、間違いなく面白いサービスになる」と確信することができました。

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ハイクを実現するための方法論は、ストイックにハックする

−これまで、ハイクの重要性をお話していただきましたが、とはいえ、ハイクだけでは儲からないのではないかと思います。

マネタイズは本当に難しいですよね。僕らも株式会社なので、非営利でやっていこうとは思っていないです。たしかに、KitchHikeというサービスが提供する“体験”自体は、偶有性に満ちていて、想像を超えるものであり続けたいですが、KitchHikeというサービスを広めるという点では、最適化、つまりハックしていくしかないんです。ですから、想像を超える体験を作るための方法は、ストイックにハックしていく。ベストな方法を最短距離でやるつもりです。

その意味では、「ハックとハイク、どちらをとるか」という問いは、正解はないと思っています。僕らも「KitchHikeを広めていくためには、もっと効率よく最適な改善をしていかなきゃ」なんてやり取りをしていますしね(笑)。ハックが優れた思考であることは紛れもなく事実です。だからこそ、僕は「ハイクは楽しい!」ってことを、もっと伝えていきたいんですよ。僕はサービス開始前にKitchHikeを実践しましたけど、想定外の発見と感動ばかりでした。無駄のない選択肢を探すより、「すべて無駄にならない!」と思ってそれぞれの良さを探す方が、圧倒的に人生を豊かにしてくれると思っています。