バスキュール代表に問う「誰もがクリエイターになれる時代のウェブクリエイティブ」の未来とは

2000年の設立以来、新たな表現手法やコミュニケーション手法を積極的に挑戦し、インタラクティブコンテンツを制作し続けてきた「バスキュール」。これまでに世界各国の広告賞のデジタル、インターネット部門等で受賞し、国際的な実績を残している。

これまでに手がけてきたプロジェクトは、「TOYOTOWN」のデジタルキャンペーン全般、ネイマールJrのスゴ技を3Dで再現したPanasonic「Crazy Skills」、コカ・コーラの年号のついたボトルを買うとその年のヒットソングが聞ける「Share a Coke and a Song 」、友達が広告になる「NIKEiD FRIEND STUDIO」、Yahoo!JAPAN「Search for 3.11」の検索ビジュアライザなど、多岐にわたる。

しかし「2010年以降、Webコンテンツやクリエイティブのあり方に危機感を感じるようになってきた」と代表の朴正義氏は話す。その真意を伺ってみた。

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朴 正義(ぼく まさよし)
1967年東京都生まれ。インタラクティブ・クリエイティブ・カンパニー、バスキュール代表。 国内外の広告賞で、デザイン、デジタル、インターネット部門等で多数受賞し、国際的な実績を残している。日経ビジネス「次代を創る100人」において「CREATOR/創造主」の1人としても選出される。

20世紀末に可能性を感じたインターネットの世界

朴氏は「バスキュール」を創業する前、CG企画制作の会社に勤めていた。フルデジタル映像の世界に魅せられた朴氏は、当時「いつかハリウッド映画を作る」という気持ちで働いていたという。

「CGの会社で、単なる下請けではなくて『自分たちのコンテンツを作っていくぞ』っていう会社は多くありませんでした。そういった気概のある『ポリゴン・ピクチュアズ』っていう会社に入社して、いろんな妄想を抱きながら楽しんで仕事をしていました。ただ、CGはお金がかかるので、打席に立てるチャンスが少ないんですよね…。当時、制作に必要なマシンが一台数百万円もするような世界。レンダリングにものすごく時間がかかる時代だったので、1秒の映像を作るだけでもかなりのお金がかかります。企画しかできない若造が映像コンテンツを作りたいと思っていても、なかなか機会は巡ってきませんでした」

コンテンツが作りたくても機会が巡ってこない。そんな朴氏の前に颯爽と登場したのがインターネットだった。

「同じデジタルでもちょっと違う面白さがありました。情報をアップロードしたら、すぐにブラウザから見ることができて、これはすごいなって思いましたね。CGはお金を集めてからじゃないと実際は作りはじめられない。そして、ようやくできた映像も、テレビ・映画など見せられる場所が限られていた。でも、インターネットの世界では伝えたいものをアップロードしてしまえば、誰もが発信者になれる点に魅力を感じたんですよね」

当時のインターネットは画像一枚閲覧するのでも待たされる時代であったが、朴氏は先立つものがなくても始められる敷居の低さ、思ったことをすぐに表現できる即時性に惹かれ、「バスキュール」を立ち上げた。

世の中が変わる場所にいたかった

今日ではソーシャルメディアなどのツールが普及して、誰でも情報を発信できるようになった。だが、朴氏が会社を立ち上げた当時は、「2ちゃんねる」がようやく盛り上がってきた頃で、インターネットはアナーキーな雰囲気に満ちあふれていた。

「今はもう当時の感覚を忘れてしまった人も多いかもしれませんが、ネット以前は選ばれた人しか情報を世に伝えるっていう行為ができませんでした。基本的に情報は受け取るもので、自分から何かを発信できるなんて発想すらなかったんです。その階層構造が、僕はあまり好きじゃなかったんですよ。

2000年当時のインターネットはアナーキーな感じがしていて、”誰であろうと面白いものを作ったほうが正義”というムードがありました。世の中を変えるようなことができるんじゃないか、世の中のほとんどすべてのコンテンツがWebに行くのではないかという期待がありました。『コンテンツを作りたい』という気持ちはもちろんありましたけど、それよりも『世の中が変わる場所にいたい』という気持ちのほうが大きかったかもしれないですね」

素人が撮った猫動画とも戦わなければならない危機感

インターネットによって、誰にでも情報発信が可能になった。今では、YouTuberをはじめ、インターネット上での表現者が大量に存在する。朴氏はこの技術がもたらした劇的な環境変化に対して、希望を感じつつも、同時に危機感を抱いているという。

「『とにかく面白いと思っていることを世に出し、問うてみたい』という思いのもと、インターネットを使った発信行為を2000年当時から行っていました。当時は今とは違ってウェブだけで完結するコンテンツでしたけど。インターネットの良い意味での敷居の低さは、それまで機会に恵まれていなかった僕にとってはとても良かったんです。だけど逆に言うと今のクリエイターは、その敷居の低さゆえに大変な目に遭っている状態だという気はしていますね。誰もが簡単に発信できすぎるので、物量に凌駕されてしまうのです。偶然撮れた可愛い猫動画のほうが、クリエイターが集まって作ったコンテンツより見られてしまうような世界。さらには違法にアップロードされた過去の名作とも戦わなければならない。モチベーションを保つだけで大変です」

「バスキュール」が創業した2000年から2015年に至るまで、インターネット界隈にも多くの変化があった。そのなかの1つがスマートフォンやソーシャルメディアの登場だ。

「2010年ごろからスマートフォンが広まって、誰もがどんどん映像を撮影してアップロードするようになりました。ガラケーでも映像は撮影できたけれど、アップロードするまではいかなかったと思います。でもスマートフォンなら撮り放題だし、加工も簡単。そして何よりもソーシャルメディアというアップロード先がある。世界中の人々が画像や映像をバンバン撮りだした。そういう時代にクリエイターは何をするのがカッコいいのかということを、考えさせられるようになりました。それが一番自分のなかで大きい変化ですね。

『バスキュール』の15年を振り返ると、2000年から2008年までの前半の8〜9年間は、Webを舞台に新しい体験を提供するインタラクティブコンテンツを作ってきました。その試みは国内だけでなく世界でも評価をいただき、自分でも意味のあるトライができたなと思っているんですけど、一方で『現在でも通用するか?』 と考えると疑問の生じる部分があるんです。『当時のキャンペーンサイトを今、1人のユーザーとして見るか?』といったら、必ずしも首を縦に振れないようになってきてしまっているんです、正直なところ。この現実を直視しないで仕事をし続けるのはずるいなと思ったんです」

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プロの表現者こそリスクをとって、新しい価値の創造に挑むべき

「元々自分たちが期待・志向していたレベルに、『自分たちの作るものは10%もたどり着いていない』と思っていました。『Webなら世界中どこでも見られるし、言語を超えて世界の人々が楽しんでくれるものをつくりたい』『それを体験した子供たちに目標とされるものをつくりたい』というのが創業の思いだったのですが、現実は国内の1%の人に届けるのにも四苦八苦しているのです」

プロだからこそ可能なコンテンツとは何か。それを突き詰めて考えていくうちに、少しずつ朴氏の思考はWebから離れていった。

「予算をかけて、映画のようなものすごいコンテンツを作れるものなら作りたいなって今でも思いますよ。でもそれは前職の会社が既にやっていて、スケールの大きい展開をしています。そこを飛び出してきたんだから、インターネットならではの新しいクリエイティブ・フォーマットにチャレンジしたい。スマートフォンをはじめ、あらゆるところにインターネット端末が溢れ、誰もが簡単にクリエイターになれてしまう時代に、プロが目指すべきクリエイティブは、いわゆるコンテンツをつくることだけではないのかもしれない。

それよりも、鬼ごっこや缶蹴り、盆踊りや花火大会などの遊びや行事…、例えば新しいお祭りを作るとか、これまでなかったような習慣を作るとか、そういうことにクリエイティブの分野が入っていくっていうことが、今一番カッコいいことなんじゃないかなと思うようになりました。今後、インターネット的インフラはさらに進化する方向にあるのは間違いないので、そうした時代だからこそできる新しい行事をつくり、それが何百年も続いたらカッコいいかもなと思うようになったんです

自由に好きなことを発信する個人には、ほとんどの場合リスクはない。「アマチュアとプロの差は、リスクを背負っているかどうか」。そう朴氏は考えているという。

「Webサイトや映像などのコンテンツでなくてもいいのです。こんなのあったらいいなと思うサービスを作るほうが今の時代のクリエイティブとしてはカッコいいかもしれない。最近は、学生でもビジネスを始められる環境が整いはじめているので、若い人にはできないチャレンジを自分がやらないとカッコ悪いなと思っていますね」

目指すのはサマーウォーズの花札シーンみたいな世界観

20世紀の終わりから、数々のインターネットの変化の波を乗り越えてきた「バスキュール」。この先、どんなことに取り組んでいくつもりなのだろうか。

「みんながまだ見えていないなっていう領域に挑戦するのが面白くて。3年前から視聴者参加型テレビ番組に関わっていますが、『テレビは前のめりになって見るものじゃない』と何度言われたかわかりません。でも、『ネット上で長尺映像をみるなんて考えられない』『日本ではリアルソーシャルグラフは流行らない』とか、常識的に思える意見って結構外れてきたんですよね。スマートフォンがもはや電話だけでないように、近い未来のテレビは家庭の中で新しい役割を果たす端末になっているのかもしれないんです。『バスキュール』と日本テレビの合弁でスマートテレビに挑戦している『HAROiD』も、僕のなかではたくさんの妄想が広がっています。まあ逆の結果になるかもしれないけど。そういうリスクを含めて面白いんです」

まだ多くの人が見向きもしていない領域とは、一体どのような取り組みなのだろう。

朴氏「やっぱり超大量の人を集めてみたいですよね。1000万単位の人々が集まるなんらかのきっかけがあって、その人たちが集まる器を作って、そこでみんながインタラクティブにつながって、コミュニケーションし合う。そんなものをいつか作れるといいなと思っています。『サマーウォーズ』っていう日本のアニメ映画の中で、みんなが花札を応援している世界があるじゃないですか。『ああいう世界を目指そう』と言っています。多くの人にはポカーンとされてしまうんですけど(笑)。

いずれにしても、未踏のクリエイティブを目指すと声高に宣言してしまっているので、その言葉にふさわしい挑戦を続けていけたらなと思いますね。でも実は、こうしたチャレンジを継続することこそ、誰もが簡単に情報発信ができる時代の最大のリスクヘッジだったりするんですよね。旗をあげるからこそ、たくさんの才能や貴重な機会が自分に巡ってくる。そう信じて、今後もチャレンジを続けたいですね」

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