自分より腕のいいエンジニアが部下になったらどうする? ViibarのCTOに聞くマネージャーの心得

今年4月、ミクシィの元CTO松岡剛志氏が、動画制作クラウド「Viibar(ビーバー)」のCTOに就任した。新天地では専ら組織のマネジメントに注力し、「得意な仕事はエンジニアチームの組織化です」と語る松岡氏も、かつてはゴリゴリとコードを書くエンジニアだったという。

BASEのCTOである「えふしん」こと藤川真一氏が、以前HRナビのインタビューで「エンジニアには、技術を追求する『職人型』と、『プロダクトマネージャー型』の2つのキャリアパスがある」と語ったように、キャリアの節目にいる多くのエンジニアが「技術を極めるか、管理する側に回るか」という選択を迫られる。松岡氏がキャリアの節目で選択したのは、「マネージャー」だった。その決断の背景には、どのような出来事があったのか。また、松岡氏が考える「職人型」と「マネージャー型」、それぞれのタイプに必要な素養とは何なのか。自分より腕のいいエンジニアが部下になったらどうするのか……。松岡氏に話を伺った。

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松岡剛志氏。1977年大阪府出身。2001年にヤフー株式会社入社。2007年、株式会社ミクシィへ入社し、2013年6月に取締役に。2014年6月にミクシィ取締役を退任し、2015年4月株式会社ViibarのCTOに就任。

CTOの仕事は“ボール拾い”

Viibarは、2013年10月にオープンしたクラウド型の動画制作プラットフォームである。動画を制作したいクライアントとプロのクリエイターが、Viibarを介して自由に出会い、オンライン上で協力して動画をつくり上げる。リリース以来「動画 × ITで人々のコミュニケーションを豊かにする」というミッションのもとにアップデートを続け、現在では2000人以上の動画クリエイターを擁する日本最大級の動画制作プラットフォームに成長した。

Viibarのプラットフォーム上では、動画を作りたいクライアントとプロのクリエイターとがマッチングされ、オンライン上で動画を制作することができる。

Viibarのプラットフォーム上では、動画を作りたいクライアントとプロのクリエイターとがマッチングされ、オンライン上で動画を制作することができる。

急成長を続けるViibarに2015年4月、CTOとしてジョインした松岡氏に、現在どんな業務を担当しているのか尋ねると、意外にも「日々見つかる課題を拾って、解決策を考える、“ボール拾い”のような仕事」という答えが返ってきた。

「入社前は技術的な指導を多く求められたり、自分でもコードを書いたりする必要があったりするのかなと想像していたのですが、思っていた以上に内部の開発体制がしっかりしていたんです。『自分がここに呼ばれたのはなぜだ?』って感じましたよ(笑)。

しかし、規模が大きくなりつつある発展途上のベンチャーですから、技術的なことに限らず『これはどうすればいいんだ?』とか『これはもっとこうすべきでは?』というような、“課題のボール”がたくさん転がっているんです。それらに対する解決策を『こうしてみたら?』と担当者に投げると、またすぐ課題が返ってくるんですよね。日々、そうした小さな改善の積み重ねです」

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“ボール拾い”の具体的な内容は、ものづくりの方向性を決めたり、社内システムの構築をしたり、人事だったりと多岐にわたる。その中でも特に力を入れているのが、“勉強会文化”を根付かせることだという。

「仕事で伸ばせるスキルの幅は、どうしても狭くて限定的ですから、通常業務以外でのさまざまなインプットが当たり前になるようにしていきたいですね。直近では、(本社のある)目黒のスタートアップ界隈の人たちを集めて勉強会を開催しました。エンジニアは基本的に勉強が好きな人が多いので、こうした場を社内外問わず積極的にアレンジしていけたらと考えています」

ミクシィで学んだ“ボール拾い”の感覚

今は組織のマネジメントに注力している松岡氏だが、新卒から6年間勤めたヤフーではバリバリのエンジニアだった。

「大学では建築学科にいたのですが、当時の建築業界はどこも就職難だったんです。それで、どんな職場だったら我慢できるかなと考えて選んだのが“冷房の効いた部屋でずっと座っていられる”というイメージがあった、エンジニア職でした(笑)。ヤフーでは基盤チーム、サービス開発、セキュリティ部門と移動しながら、ひたすらコードを書き続けていました。Yahoo!ウォレットやYahoo!ペイメントの立ち上げに携わるなど、貴重な経験をたくさんさせてもらいましたね」

その後、「規模感の違う環境で働きたい」という思いから、2007年にミクシィに転職。松岡氏は当時100人ほどだったミクシィで、キャリアの大きな転換期を迎えることとなる。

「初期はエンジニアとして手を動かす日々が続いていたのですが、人が増えていくにつれて管理側の人間の必要性が高まり、ある日『マネージャーをやってくれないか』と上から打診されたんです。私はサービスやお客様、同僚そしてそれを支える会社のことが好きだったので、『それが会社のためになるなら……』という思いで、未経験ながら引き受けました。

マネージャーの仕事は、全エンジニアに影響を及ぼす業務です。事務的な進捗管理はもちろんのこと、いろいろな人の要望を聞きながら、効率が上がるように作業フローの最適化を試みていきます。先に話した“ボール拾い”の感覚は、ミクシィでの経験から学びましたね。

それから、2012年に朝倉(前ミクシィ社長)と出会って、ミクシィ復活の絵を一緒に描き始めていました。彼が社長に就任するのと時を同じくして、私のCTOとしてのキャリアがスタートしました。ヤフーにいたころには、一介のエンジニアだった自分がこんな立場になるなんて、夢にも思っていませんでしたよ(笑)」

自分より腕のあるエンジニアが部下になったときは……

マネージャー、CTOといった立場になれば、必然的に“人の上に立つ”ことが増えてくる。その中で、自分よりもスキルに長けたエンジニアが部下になることもあるだろう。このような状況下においては、“精神的なマネジメント”が重要になってくると松岡氏は語る。

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「ミクシィにいたときには、尊敬するエンジニアから『松岡氏がたんぽぽグループ(※)の中でいちばんコードを書けないから、マネージャーやってくださいよ』って言われたこともありますよ。でも、“自分が人よりできない”ということが事実ならば、受け入れるほかないんですよ。受け入れた上で、彼らと同じ土俵で競い合っていくか、彼らが持っていないものを身につけていくしかないんです。

※「刺身の上にタンポポをのせる仕事」 のような単純作業の仕事から社内開発者を解放しよう、というミッションのもと、mixiの開発・運用がスムーズに進むための開発を行なうグループ。

私はマネージャーという立場を与えられたこともあって、後者の“彼らが持っていないもの”を身につける道を選びました。もちろん、“自分が人よりできない”ことに対して、何くそと悔しがる気持ちはあるべきだと思います。プライドとは、それが自らの能力向上につながっている限りでは、生産性のある要素です。IT業界のトップランナーには、こうした『よい意味でのプライド』を持っている方が多いなと感じますね」

職人型向きのエンジニアは感電経験のある人が多い

スキルを磨き続けて「職人」を目指すか、管理側に回って「マネージャー」を目指すか――この二択は、エンジニアとしての将来の方向性を決める大きな分岐点だろう。松岡氏に「職人型」と「マネージャー型」、それぞれのタイプにどんな素養が必要かと伺ったところ、前者の「職人型」の人間には、ある共通点があると話してくれた。

「エンジニアの面接でたまに聞くことがあります。『小学校までに、故意にコンセントに触って感電したことはありますか?』ということです。これ、『ACの法則は感電にあった!!』」という有名なブログ記事が元ネタなんです。この質問でわかるのは、“止まらない好奇心があるかどうか”ってことだと思います。実際に聞いてみると、エンジニア志望の方は感電経験のある人が多いんですよ。

ちなみに、この質問への返答で最も印象的だったのは『感電するというのは知識で知っていたので、友達をだまして感電させた』というものです。もうその場で『採用っ!』って思いましたよ(笑)。職人型に必要な姿勢は、常に技術のフロンティアを攻め続けること。そのためには好奇心と探究心、そして“エンジニアリングが好きで好きでしょうがない”ということも、カギとなる素養の1つといえるのではないでしょうか」

そして、後者の「マネージャー型」においては“複数の視座を得ることが重要だ”と、松岡氏は続ける。

「これは、職人型のタイプの方にも必要だとは思いますが、とりわけマネージャーに不可欠な素養だと感じます。自分以外の人を生かすため、自分のポジションや年齢の変化に従って柔軟に働き方を変えていくためには、さまざまな視点から多角的に物事を判断することが大切ですね。もし、たくさんの視座を得たいのならば、とにかく本を読むことをオススメします。1冊1000円程度で自分と異なる視座を手に入れられるわけですから、最もコストパフォーマンスのよい方法だと思いますよ」

「職人か、マネージャーか」の二元論ではない

ただ、松岡氏は「自分は職人/マネージャーだから」と、白黒を明確につけるような考え方は少し抵抗があるとも語る。

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「何でも二元論でものを考える人って苦手なんですよ。人はいろんな素養を持っていて、それぞれを調整するつまみがついている。あとはタイミングごとに、どのつまみをどれだけひねるかの問題だと思うんです。

ただ、人生ではどちらか1つを選ばなければならないタイミングもありますよね。そのときは、直感でやりたい方を選んでもいいし、やりたくはないけど将来性がある方を選んでもいい。どちらかが唯一の正解ではないからです。ここでポイントとなるのは、“決断する”ということ。大事な決断を、自分の意志でしっかりと下せることに意味が生まれてきます。どんなキャリアを積んでいくにしろ、“決断慣れをする”というのは重要な価値観ですね」

最後に、松岡氏にCTOという立場の魅力について伺った。

「前職からCTOという肩書を持ち、初めて“経営”に携わりました。経営って、問題がめちゃくちゃ難しいのに決まった答えがないんですよ。そんな問題に対して、エンジニアリングの知識があるからこその最適解を出していけるのが、CTOという立場だと思います。

CTOを極めたいのかどうかは自分自身でもよくわかりませんが、今はこの立場で経営に携わることに面白さとやりがいを感じています。今後はViibarでも自分なりの価値を生み出していって、大先輩であるグリー株式会社の現CTOである藤本真樹さんに、お褒めいただけるくらいにはなりたいですね」