掃除もするし家具も組み立てる、スキル版Airbnb「エニタイムズ」が見据える”空き時間”共有市場

AirbnbUberスペースマーケットなど、日本でもシェアリングサービスが普及しつつある。シェアリングサービスの特徴は、普段使っていないものや空間を、”ウェブを通じて”流通させることにより、貸し借りをする際に必要となる時間や労力を大幅に減らすことができる点だ。

しかし、個人が空き時間やスキルをシェアし、家事を中心とした日常の困りごとを解決できるサービスである「ANYTIMES(エニタイムズ)」は、ユーザー同士にウェブ上で完結しない”リアルなコミュニケーション”が生まれることを目指しているという。いったいなぜ、エニタイムズはリアルなコミュニケーションにこだわるのか。また、日本において多くのシェアリングサービスが直面する課題に、どのように向き合っているのか。株式会社エニタイムズの代表取締役兼CEOである角田千佳氏に話を聞いた。

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角田千佳氏。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。新卒で野村證券に入社し、その後IT企業を経て、”豊富な幸せの尺度を持った社会の実現”を目指し、2013年に株式会社エニタイムズを創業。同年末に、日常のちょっとしたお困りごとを簡単に依頼・請負できるサービス「ANYTIMES」をリリース。

サービスを個人間で売買できるマーケットプレイス

-エニタイムズは、どんなサービスなのでしょうか?

ちょっとした掃除や料理の手伝いなどのサービスを個人間で売買できる、サービスのマーケットプレイスです。要は家事のAirbnbみたいなものなのですが、よく言われる“シェアリングエコノミー”という言葉はIT業界の一部の方にしかイメージがしづらい言葉なので、状況によってはあまり使わないようにしています。

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-エニタイムズの主軸は、やはり「家事」なんですか?

たしかに、現在エニタイムズでマッチングが成約しているのは、部屋の掃除や料理の代行などが多いです。家事は最初に狙っていたところではあるんですけど、カテゴリーを家事だけに絞ってしまうと、特定のスキルを持った人だけのコミュニティになってしまいます。なので、これからは「趣味を仕事に」をスローガンに掲げたいと思っています。

-家事以外で、おもしろい依頼は何かありましたか?

サービスの初期の頃に、40代くらいの男性から60分5000円で「白髪を抜いてほしい」という依頼がありましたね。その時は弊社のメンバーがサポーターとして白髪を抜きに行って、頼んだ理由を聞いてみると、「後ろのほうが抜きにくいから」って(笑)。エニタイムズで依頼するまでは、便利屋さんに電話して頼んでいたそうです。あと、春は時給2000円くらいで「花見の場所取り」がありました。他にも、飲食店から「人手が足りないから来てほしい」という依頼もたまにあります。私たち運営側も思いつかないような依頼が、いろいろ出てくるんですよ。

日本ではまちづくりが全然できていない

-今シェアリングサービスが流行っているから、このサービスを始めたというわけではないのですね。

そうです。そもそも、“シェアリングエコノミー”って、学生時代に経済学の授業でも出てきたような言葉で、「昔からあるのに、なんで今バズワードになってるんだろう?」という印象なんですよね。

もともと私は、途上国でまちづくりや開発援助の事業をやりたいと考えていて。そのためにいろんな場所に足を運んでいる中で、途上国ならではのポジティブなエネルギーを強く感じたんです。「これって、なんで東京にはないのかな」と、疑問に思ったことから、まずは日本でまちづくりの事業をやろうと考えました。

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-“まちづくり”からどうして“家事のシェア”へ結びついたのですか?

日本でまちづくりがうまくできていないのは、昔のような直系家族の同一世帯内やご近所同士で、付き合いが希薄化しているからではないかと仮設を立てたんです。そこで、事業によって“新しい形で地域の助け合いを生み出したい”と考えました。従って、エニタイムズは特に家事に限定しているわけではありません。“個人のスキルや空き時間をシェアする”というコンセプトで、個々人がつながって助け合える環境づくりをサポートするプラットフォームなんです。

-特に都心部では、ご近所付き合いは敬遠されがちなのではないかと思うのですが、角田さんは地域での助け合いを経験されてきたのでしょうか?

私が生まれ育ったのは、東京都内の杉並区なのですが、住宅街で昔から住んでいる方が多い地域でした。私の実家も二世帯住宅で、祖父母と一緒に住んでいたんです。近くにある商店街の人たちも大体顔見知りで、お店の人が親の同級生だったり、自分の同級生の親だったりして。町の人たちが見守り役になっているというか、近所の人たちの目に助けられている安心感がありました。家庭内でも、母が仕事で忙しいときは、祖母がごはんを作ってくれたり、ご近所さんからおすそ分けをもらったり…。そうやって地域に住む人たちが、助け合いながら生きている姿を見て育ちました。

ところが、社会人になってから一人暮らしを始めて、同じ都内なのにそこでは隣に誰が住んでいるかもわからなかったり、引っ越しの際に隣の人の家へご挨拶に伺っても、警戒されたりということを経験して、ご近所同士での付き合いが希薄化していることを実感しましたね。

また、企業で仕事をする中で、同僚や先輩、上司が疲弊していたり、仕事に対してネガティブに捉えている姿を多く目にしました。人生の中で多くの時間を仕事に費やすわけじゃないですか。それなのに、こんなにつらくて苦しい状況になっているって、悲しいことだなと。働き方という面でも、この状況を変えていきたいと感じました。

「シェアリングサービスが理解できない」というユーザーも多い

-日本では、シェアリングエコノミーの普及の妨げになるような文化的な背景もありそうですが。

ありますね。例えば、家というプライベートな空間に、知らない人を入れることにも抵抗があります。Airbnbのホストをされているようなアーリーアダプターの方には、そんなに抵抗なくエニタイムズのサービスも使っていただいておりますが、そんなにITリテラシーの高くない方ですと、「そもそもサービスの仕組み自体が理解できない」というユーザーさんも非常に多いですね。

また、家事のシェアリングサービスという点で言うと、メイドさんがいるのが当たり前という国とは違って、日本では「家事は絶対に女性がやるべきものだ」という固定観念が根強くあります。そのため、家事を誰かに頼むと“サボっている”とか“家事が下手なんだ”と思われるんですよね。女性自身が、そう思い込んでしまっているところも、さらに問題を複雑にしていて。海外の類似サービスが日本で展開しようとしてもなかなか出来ないのは、文化が違いすぎて、同じスキームで広げていくのが難しいからではないでしょうか。こういった文化的背景があるため、まだまだ啓蒙が必要だと感じています。

-啓蒙とは、どういったことをするんでしょうか。

まずは、1対1で訴求できるリアルな場を作ることですね。地域の施設などと提携して、各地域にハブを作っていこうとしています。例えば、この夏、多摩センターに新しくスポーツクラブなどの複合施設ができるのですが、その会社と提携して、定期的にワークショップを開いたり、各サポーターさんが仕事をする際にレンタルも出来る予定になっています。やはり、まちづくりは「1対n」の訴求だけは難しくて、「1対1」で人と人がつながっていくことも重要なんですよね。

-なるほど。インターネット上だけでなく、リアルでのアプローチが大切なのですね。

はい。インターネット上のこのサービスは、目指す社会の実現への一つの手段でしかありません。実際に初めてみても、テクノロジーだけでは解決できないことも、多いです。Airbnbがここまで拡大して、根強いファンが多いのは、ホスト同士のつながりも強く、リアルな場での情報共有も活発に行われているからだと思います。当初からリアルな場でのマーケティングや啓蒙活動の必要性は感じていましたが、日に日にその重要性が身に染みています。

-エニタイムズのサービスで、新たなリアルなつながりが生まれていると感じますか?

まだまだこれからです。依頼者と提供者の1対1でのつながりは生まれはじめたな、という実感はあるのですが、依頼者同士のコミュニティや、提供者同士のコミュニティはまだできていません。ワークショップは秋を目途に始めていく予定なので、そこでつながりができることは期待しています。

湖の中に落とした指輪を拾ってもらう市場はどこにもない

-シェアリングエコノミーのサービスを展開する上で、既存業界からの反発や規制があるという話を耳にしますが、エニタイムズでもそういった問題は起きていますか?

現状、ほとんどありません。現在使っていただいているユーザーさんは、依頼者側も提供者側も、家事代行サービスが未経験の方がほとんどで、既存業界からも新しい市場だという認識をされていて、そこに対しての反発は起きていません。逆に、家事代行サービスの業者さんとは連携することもできると考えています。例えば、エニタイムズに登録しているサポーターさんの中から、一定のレベルを超えた人たちのリソースを業者さんに提供したり、業者さんの抱えている人材をエニタイムズへ登録してもらって、広告営業ツールの一つとして使ってもらえるようにしたりなど、様々な可能性が考えられます。

-なるほど。とはいえ、シェアリングエコノミーで大きな収益を上げるのは難しいと言われていますが、その点についてはどのようにお考えですか?

今は全体のユーザー数よりも、コアユーザー、ファンの数を増やすことを重視しています。そのため、まだ時間はかかると思っています。しかしある一定のファンを獲得した段階で、マネタイズの部分でアクセルを踏みたいと考えています。また、今後はシニア層などにも使いやすいサービスにし、老若男女問わず、ユーザーの層を拡大していきたいですね。

また、まだ顕在化していないようなカテゴリも多々出てくる可能性があるんです。アメリカにTaskRabbitという、お手伝いのシェアリングサービスがあります。そのCEOが今まであった依頼の中で一番興味深かったものは、「湖の中に鍵を落としてしまったので、拾ってください」というものだったと言います。その依頼を受けて、ダイバーが湖に潜って鍵を見つけたのだそうですが、湖に落ちた鍵を拾うなんて市場は、どこにもないじゃないですか。そういう、個人のスキルをシェアする市場は、無限大にあるなというのは感じています。

-収益モデルに関してはいかがでしょう。個人間での家事等のシェアリングでは、マッチング1件あたりの単価がどうしても低くなってしまうように思いますが。

収益に関しては、現在はマッチング成約時に発生する手数料が主です。ここ1年くらいはマッチング実績の平均単価は7000円ほどで推移しています。しかし今後は、手数料だけではなく、広告やPRのタイアップ、法人向けのパッケージなど、事業のフェーズに合わせて、様々な収益モデルを準備している最中です。

-以前インタビューで、「この事業がなくなることがゴール」とおっしゃっていましたが、その真意は?

目指しているのは、「ご近所や地域のつながりを再構築する」というところなので、もちろんそれが完全に実現できたら日本でこの事業の必要はなくなると考えています。最終的にはそのノウハウを生かして、途上国の各地域でまちづくりの事業を展開していきたいと考えています。