VAIOがあえて時代に逆行する理由

物書きである筆者にとって、ノートパソコンは仕事道具の中心にあるものだ。早く、長く、気持ちよく書けることが最優先だが、カメラやボイスレコーダーを持ち歩く取材に付き合わせるためには、軽さと強靱さも欲しい。そんなバランス感を備えた一台を求めて、様々な機種を使ってきた。

しかし、Ultrabook、タブレットのように使えるPC、そして新しいMacbookのように接続ポートが1つしかない機種など、仕事道具として使うには、いささか思い切りすぎている製品が相次いでいるのが最近のパソコン市場だ。大学での講義や客先でのプレゼンも行う筆者にとって、古いプロジェクターとの接続ために変換アダプターを持ち歩かないといけないというのはどうにも負担だった。

そんな中、「今時こんなバランス感の製品があるのか!?」と驚かされたのが、今回中の人に話を聞く「VAIO Pro 13 | mk2」(以下:mk2<マークツー>)だ。(先に断っておくと、本記事は広告ではない。著者はインタビュー後、そそくさと自腹で本機を購入したことを告白しておく)

あえて「あのパソコン」の逆を行く

今回お話しを伺ったのは、本機のジェネラルマネージャーの林薫さんと、商品企画担当の小笠原努さんだ。林さんがハードウェアとしての最適解を図り、小笠原さんがコンセプトを定め商品としての価値を高める役割だ。

VAIOの上に立つ林氏

VAIO C1から設計を手がける商品ユニット1(現:ビジネスユニット)の林薫部長はmk2の上に乗ってみせてくれた。150キロの重さまで耐えるという。

一瞬某ノートPCに見えるmk2。「似てますかねぇ」と笑うマーケティング・セールス&コミュニケーション部商品企画担当の小笠原努さん。

一瞬某ノートPCに見えるmk2。「似てますかねぇ」と笑うマーケティング・セールス&コミュニケーション部商品企画担当の小笠原努さん。

ソニー時代に「世界最薄・最軽量」をひっさげて登場したVAIO PRO13(以下「初代」)。だが、今回取り上げるmk2は約90グラム重くなったが、VGAや有線LAN端子、さらにタッチパッドには左右のクリックボタンも復活した。

「ソニーのときに初代は、世界市場がターゲットでした。でもmk2は日本市場に向けて、ユーザーにアンケートを取りながらコンセプトを固めて行ったんです。その結果こういった一般には古いかなと思われる仕様も復活することになりました」と小笠原さんはmk2を掲げる。

オーディオ端子を除き接続系の端子がUSBType-Cのみと振り切った感のある、Macbookとは真逆を行く選択だ。直接のライバルになりそうな13インチのMacBook Airと比べても端子の充実ぶりは目をひく。それでいてまだ約300グラム軽いのだ。「Macの剛性は正直すごいと思う」と設計担当の小林さんも話すが、一方でそれは重量のアップにもつながる。mk2では生活シーンの中で必要な強さと、軽さとのバランスを探ったのだという。豊富な端子類と必要な剛性を備えつつ、それでいて軽い。打鍵音にもこだわったキーボードは、剛性の上がったボディとも相まって、打心地も向上した。そこには、ソニー時代から培われた高密度実装の技術が活かされている。冷却系もしっかりしているので、夏場の利用に不安がないのも安心だ。

右から、最近なかなか見かけなくなったVGAポート・有線LAN端子。HDMIやUSB3.0、SDカードポートももちろん備える。反対側にもUSB3.0ポートが2つあり、ハブを持ち歩く必要もない。

右から、最近なかなか見かけなくなったVGAポート・有線LAN端子。HDMIやUSB3.0、SDカードポートももちろん備える。反対側にもUSB3.0ポートが2つあり、ハブを持ち歩く必要もない。

時代と逆行するアンケートで日本市場の実態を浮き彫りに

こういった仕様を詰めていくにあたりアンケートを採る=顧客にニーズを聞く、というのも最近のトレンドとは逆なのだが、その点はどうなのだろうか?

「私たちも、VAIO Zなど市場に問いかけるような尖った機種を開発するときは敢えてユーザーに意見を求めることはありません。でも、mk2のようにビジネスシーンでの生産性を追求する役割が与えられた機種では、逆に積極的にユーザーの声を聞きます」(小笠原氏)

VGA端子はすでにインテルなど主要メーカーではサポートが終了しており、いわゆる「レガシー」な規格だ。しかし、実際、日本のオフィスや学校ではこのポートへの接続を求められることがまだまだ多い。出張先のホテルで有線LANしか用意されておらず、アダプターを持ってこなかったことを後悔した経験が読者にもあるはずだ。アンケートではそんな「日本市場」の実態が改めて浮き彫りになったのだという。

「実は日本は先進国の中でもPCを巡る環境はかなり保守的です。そんな環境においても、バッテリーが保ち(JEITA測定法で9.4時間~10.4時間)、ポートが充実しているから変換アダプターや電源アダプターを持ち歩く必要はほとんどありません。パソコンだけを持ち歩けば大丈夫ですから、余計な気を遣う必要がなく、ストレスフリーに仕事を進めることができるはずです」(小笠原氏)

スマホやタブレットが普及した今、パソコンに求められるのは必要な文書をいかに早く、効率良く参照し、作成できるかという「生産性」が大きなウェイトを占めるようになった。mk2は愚直なまでにそのニーズに寄り添った「道具」だと言えるだろう。

「スタバでドヤ顔」もいいけどドトールや新幹線の占有率も上げたい

スターバックスにMacBookを開く人たちを評して「スタバでドヤ顔」という言葉があるが、ビジネスシーンはスタバだけではない。小笠原さんは「mk2が狙うのがそこなのか、というのは疑問。私たちが想定するビジネスパーソンは、スタバだけにいるのではなくて、会社のオフィスもそうだし、ドトールとか他のお店にもいる」と語り、林さんも「例えば新幹線での占有率を上げていきたい」と続ける。

そのためには、VAIOというブランドが浸透し、それでいて価格面でも競争力がなくてはならない。実際、上述したような付加価値があるとはいえ、ライバルの1つである13インチMacbook Airの同等仕様の構成で比べるとmk2は数万円高いのだ。

VAIO社は1年前の7月1日にソニーから独立し、以降は国内に市場を絞り込んだ展開を続けている。ターゲットは明確になるが、販売規模が小さくなれば、量産効果によって価格を抑えるのは困難になる。VAIO社はこの難題をどうやって解決しようとしているのだろうか?

「もともと、Video Audio Integrated Operationの頭文字をとっていたくらい、VAIOはオーディオビジュアルにこだわったパソコンでした。けれども、スマホやタブレットの登場によって、少なくともエンターテインメント領域はそちらが主役となったわけです。そうすると残る本質はやはり生産性、そこに付加価値という『プラスアルファ』をどう加えるかが、私たちの腕の活かしどころになります」(林氏)

そのプラスアルファは、他社にはなかなか真似ができない高密度実装と、その組み上げを日本(長野県安曇野市)で行うことだ。mk2は中国など海外で部品は製造されているが、最終工程は品質を確保するため国内で行っている。これを彼らは「安曇野フィニッシュ」と呼んでいる。

「デザインド・バイ・ジャパン」の付加価値を追求できるか

かつてソニーの躍進と共にあったのも「メイド・イン・ジャパン」というキャッチフレーズだった。しかし人件費が先進国同様となったいま、日本で全てを生産すると価格競争力が無くなってしまう。「どこで作っているか、というより、デザインした人間の意志がどこまで入っているかが重要なんです」と林さん。スマホで多く採用されているODM(設計から開発までを受託者が行う)事業者に、その意志を伝えるためにチームは足繁く製造拠点に足を運び、試作品への指導や改善要望を行っているという。

実はVAIO社はスマホの分野では蹉跌も踏んでいる。日本通信との協業で今年3月に登場したVAIOフォンに対しては、この「意志」を伝えることが十分にできず、ありきたりな製品に市場から落胆の声が上がった。Appleは自社工場を持たず、海外工場からの調達であの高いブランド力を保ち続けている。海外生産による価格競争力も維持しながら、「デザインド・バイ・ジャパン」という付加価値を追求し続けるという難しい舵取りが新生VAIO社にも求められているのだ。

「僕の場合、ソニーからの独立にまったく躊躇はなかったです。パソコンでまだ何かできる、もう一度VAIOとして成功させたい、と思ったんです」と林さんは独立当時を振り返る。故スティーブ・ジョブズはかつてVAIOにAppleのOSを搭載することを提案したという逸話が残っている。日本のモノ作りの粋が詰まったパソコンは、かようにクールだったのだ。コンパクトな組織となり、市場と商品ラインナップを絞りこむことで、ブランドを改めて確立しようとしているVAIO。その挑戦は1年を迎えその真価が問われている。

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