スタンフォード卒、Microsoftでインターン…年収1500万を約束された男がなぜ日本のスタートアップに?

日本の優秀な人材が、海外のグローバル企業に流出しているといわれる。そんななか、名だたるグローバル大企業との競争に勝ち、スタンフォード大学やニューヨーク大学卒の優秀な学生の採用に成功しているスタートアップが日本にある。1800万もの「いいね!」数を誇る越境ECサービスを運営する「Tokyo Otaku Mode(以下、TOM)」だ。

シリコンバレーの世界的企業にエンジニアとして就職すれば、給料は新卒でも1500万円にも達するとも言われる。なぜ、多くの人が憧れるような待遇が待っているグローバル企業ではなく、設立間もない日本のスタートアップに惹かれるのか。アメリカ生まれでスタンフォード大学院を卒業、AmazonやMicrosoftでインターンをしていた経験を持ちながら、TOMで働いているアレックス氏へのインタビューから探る。

アレックスさんはカリフォルニア大学サンタバーバラ校卒業後、スタンフォード大学大学院へ。在学中、Amazon.com,IncやMicrosoft Corporationでインターンとして勤務。卒業後Tokyo Otaku Mode Inc.へエンジニアとして新卒入社。mobile applicationチームにて活躍中

アレックスさんはカリフォルニア大学サンタバーバラ校卒業後、スタンフォード大学大学院へ。在学中、Amazon.com,IncやMicrosoft Corporationでインターンとして勤務。卒業後Tokyo Otaku Mode Inc.へエンジニアとして新卒入社。mobile applicationチームにて活躍中

「10年前のFacebookやTwitterくらい可能性を秘めている」

——アレックスさんがTOMで働こうと思ったのは、何がきっかけだったのでしょうか?

2012年頃、すでにTOMで働いていた友人がいました。その人に日本で働こうと考えていると相談したら、「じゃあ一緒に働こうよ」って言われて。TOMのFacebookページを見たら、自分の好きな日本のアニメや漫画のコンテンツが扱われていて、さらにlike数を見たら、ものすごい数で。それを見た瞬間に「うん、是非是非!』と伝えました。「これから東京オリンピックもあるし、もっと日本のコンテンツに注目が集まっていけば、この会社はさらにすごいことになる」と確信したんです。

——もともと日本で働こうと思っていたんですね。日本に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょう?

僕はアメリカ生まれなんですけど、1歳から17歳まで中国で過ごしました。その頃の中国には、そんなにアニメは無かったけど、『スラムダンク』や『クレヨンしんちゃん』など、日本のコンテンツに触れていたんです。そこから自然に日本に愛着を持ち、日本で働きたいと思うようになりました。

s_IMG_2599

——その後はアメリカの大学に進学されたんですよね。

はい。カリフォルニア大学サンタバーバラ校を卒業して、スタンフォードの大学院に入りました。その頃、AmazonとかMicrosoftでインターンしていたんです。僕がそのままアメリカのそうしたIT企業のエンジニアとして働いたら、1500万円程度は初任給でもらえていたのかな。その道を選ばないで日本に来たのは多分、変人だからでしょう(笑)

——周囲からの反対はなかったですか?

Microsoftの友達はもちろん、親や親戚にも反対されました。「高い学費を払ったのにどうしてわざわざ日本で働くんだ」と。漫画のONE PIECE的に言うと、「苦労してグランドラインに入ったのに、どうしてわざわざイーストブルーに戻るの?」って(笑)でも、日本のエンジニアも優秀な人ばかりです。新卒入社の自分はもっと勉強しなければいけないですね。

ただ、そもそも30歳までに日本に来て働いてみたいという思いはありました。仮に1度アメリカで良い待遇で働き初めてしまったら、日本で働きたいと言いつつも、多分願望だけで終わってしまう気がしたんです。

s_IMG_2624

だったらチャンスがあるうちに来たほうがいいんじゃないかと思って、母を説得しました。「今日本でTOMに入るということは、10年前のFacebook社やTwitter社に入ろうとしているようなものなのに、それを止めるの?」って。TOMはそれくらい可能性が秘められていると思ったんですよ。

たしかにシリコンバレーに比べればお給料は低いかもしれませんが、今の給料で自分の生活は支えることができています。それくらいで良い。一番大好きな日本の、青い青い空の下にいられるだけで良いじゃないか、と思うんです。

共通言語が『キングダム』。米IT企業では感じられない面白さ

——実際に働いてみて、シリコンバレーの大企業との違いは感じますか?

Microsoftでは、Windows10のエンジニアグループにいたのですが、そのグループだけでもエンジニアが5000人いるんです。僕はインターンとして、Windows10のスタート画面のある部分を実装しました。でもそれは改修前とそれほど違いがわからない。だからあまり自分が何かしたという達成感が無かったんです。

Microsoftのような大きな企業では、ソフトの大きさに比べたら、自分のやっている領域の変更は本当に小さい。僕がいるかいないかで、会社はそんなに変わることはないじゃないですか。自分の携わった機能を何千人の人が使うのはすごいことなのですが、僕には向いていなかったようです。

でもTOMでエンジニアとして働くのは、毎日自分が修正した部分の効果が見えますから、そのやりがいは大きいですね。例えばTokyo Otaku Mode Premium shopの商品ページに人気(ひとけ)がないのが寂しいと感じて、ヴィレッジヴァンガードみたいな派手なPOPを入れてみました。そしたら実際反応や購買率もよくなったことが効果として現れて、すごく嬉しかったです。

s_IMG_2635

——仕事に対するやりがいの他に、シリコンバレーの大企業との違いは?

そうですね。これはTOMだからこそですが、働いている仲間に価値観を共有できる人が多いので、それが楽しいです。ニューヨーク大学やペンシルベニア大学などの海外の大学からわざわざここに来て、一緒に仕事しています。しかも大半が、TOMが海外向け採用をしたわけではなくて、普通に求人をしたら外国人がたくさん集まってきたらしいんです。皆、それくらい日本のオタク文化が好きということですよね。

例えば、いま会社の中で漫画の『キングダム』がすごく流行っています。僕も大好きで読んでいるのですが、社内である漫画が流行っていると、社内の今後の目標がその漫画に例えられたりしますね。「今、会社の状況は、戦局で言うとキングダムの5巻くらいの状態だから、こうしよう」みたいな話をするんです。きっとこういう価値観を共有している面白さは、Microsoftに入っていたら感じることができなかっただろうなって思いますね。

スタンフォード卒の即戦力な男、“世界一即戦力な男”と出会う

実は僕はLIGブログが大好きで、アメリカにいたときからずっと読んでいました。TOMの志望理由書を書くとき「即戦力」という言葉の使い方を知りたくて調べていたら、現在LIGで働いている菊池良さんのサイトを見つけたんです。

s_IMG_2605

——「世界一即戦力な男」のサイトといえば、作者個人が雇ってくれる企業を募集する「逆就活」というユニークな手法で、2万を超える「いいね!」を集めるなど、一時期話題になりましたね。

そこまでWebサイトデザインが得意ではないので、菊池さんみたいに大げさに作ることはできなかったんですけど、ちょっと影響を受けたような、志望理由をまとめたプロフィールサイトを作りました。

アレックスさんが志望理由書として提出したプロフィールサイト

アレックスさんが志望理由書として提出したプロフィールサイト

そういえば、こないだ「世界一即戦力な男』を書いたLIGの菊池さんを、渋谷で偶然見かけたんです。でもその時は、菊池さんという名前を知らなかったので「即戦力の人だ!』と(笑)

僕は人見知りなので声をかけられなかったのですが、その後にTwitterで「すみません、昨日夜11時に渋谷に居ましたか? 海外のファンです」って聞いたら、「居ましたよ」って。めちゃくちゃ感動しましたね。もしLIGの菊池さんを知らなかったらTOMに入れていなかったかもしれないので、いつかお話してみたいです。」

オタクという言葉を、クールに再定義する

——これからのTOMをどう広げていきたいですか?

TOMでオタクのイメージを変えていきたいと思っています。日本人にとって、
オタクという言葉は、ネガティブな印象があります。でもオタクって単純に、ある事にすごく熱中している人達じゃないですか。だから、オタクは海外から見たらかっこいい文化だと認識されています。そうじゃないと、1800万の「いいね!」がついていないはずですよね。

——「オタクという言葉を、もっとクールに再定義しよう」というTOMの方針が、アレックスさんをはじめ多くの海外のエンジニアを惹きつけているんですね。

はい。僕はこの会社のクレド(信条)の1つである、「Become a type of otaku(何かのオタクであれ)」という言葉もすごく好きなんです。TOMで働いている人って、みんな漫画が好きな訳ではなくて、例えば中国史オタクやプログラミングオタクもいます。そういう、何かしらに熱中している人が会社に集まっているから、会話も自然と面白くなるし、エネルギーが生まれる。僕もプログラミングを使って、TOMが生み出すかっこいいオタク文化に貢献できたら嬉しいです。