長く愛されるプロダクトってどう作るの? 老舗スタートアップ「ヌーラボ」に聞いた

「10年で7割、20年で5割」と言われる中小企業生存率。とりわけ変化の激しいIT企業の生存率は低い。そうした厳しい環境にもかかわらず、自社開発のサービスで着実に成長し続けているのが、今年で設立12年目を迎えた株式会社ヌーラボだ。ここ数年でグローバル展開も積極的に進め、今や世界中にユーザーを抱えている。「長く愛されるプロダクト」を生み出し、成長し続ける秘訣をヌーラボ共同創業者・最高経営責任者の橋本正徳氏に聞いた。

株式会社ヌーラボCEO(最高経営責任者) 橋本正徳氏。劇団員、DJ、八百屋などの経験を経て派遣プログラマとなる。2004年にエンジニア3人でヌーラボを起業。その後、「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」といったインターネットサービスをローンチ。国内外216カ国でサービスを展開する。共同創業者の縣俊貴氏との共著『Javaセンスアッププログラミング』(秀和システム、2003年刊)がある。

株式会社ヌーラボCEO(最高経営責任者) 橋本正徳氏。劇団員、DJ、八百屋などの経験を経て派遣プログラマとなる。2004年にエンジニア3人でヌーラボを起業。その後、「Backlog」「Cacoo」「Typetalk」といったインターネットサービスをローンチ。国内外216カ国でサービスを展開する。共同創業者の縣俊貴氏との共著『Javaセンスアッププログラミング』(秀和システム、2003年刊)がある。

エンジニアの強み「プロダクト・ファースト」のものづくり

–ヌーラボは2004年に設立された、いわば“老舗”のスタートアップですが、プロダクトは国内だけでなく海外ユーザーも多いですよね。

弊社は、CTOでありプロダクトデザイナーの縣俊貴と、CMO兼マーケティング担当の田端辰輔と私の3名のエンジニアで立ち上げました。主な事業として、プロジェクト・マネジメントをサポートするタスク管理ツールの「Backlog」、Web上で簡単に図を作成し共有できるサービスの「Cacoo」、チャットサービス「Typetalk」の自社開発と運営を行っています。

ありがたいことに、ユーザー数は年々拡大していて、なかでも2009年にリリースした作図ツール「Cacoo」にいたっては、日本国内だけでなく、世界216カ国に170万以上のユーザーが広がっています。

こうした背景もあり、本社は福岡にあるのですが、国内には東京と京都に支社があり、2012年にはシンガポール、2014年にはニューヨークにも現地法人を立ち上げ、台湾やベトナム、アリゾナなどにも社員がいます。

–「創業者が全員エンジニア」というのは珍しいですね。

そうですね。共同創始者の縣とは音楽という共通の趣味がきっかけで一緒に仕事をするようになりました。

私たちが意気投合したのは、ある飲み会でのこと。誰かが「音楽を始めるときは事前に基礎知識を身につけてから始めたい」と言ったのに対して、私は全く違う考えを抱いていました。「基礎から始めるよりも、まずは演奏して人に聞かせることを始めて、そこから徐々に学習していくべき」と話したら、縣も同じ意見で話が盛り上がったんです。

この「座学よりも、まずは“実技”」という考え方は、エンジニアがものづくりに向かう姿勢とリンクします。例えば、一般的なものづくりの流れは、まず市場調査をして、社内外のプレゼンがあり、それが通ったら設計を始める、という流れでリリースをするのが主流だと思います。

しかし、弊社は全員エンジニアで、技術面の基礎知識があるため「まずつくってみよう」となる。そしてプロトタイプを社内やユーザーに公開して、反響を加味しながら改善していきます。つまり設計ファーストではなく「プロダクト・ファースト」のやり方を創業以来ずっと続けています。プロダクト・ファーストだとプロダクトづくりまでの工数を削減でき、最も力を入れるべき開発にかける時間を多く持てるので、より納得のいく“良い”プロダクトづくりにつながります。これは創業者全員がエンジニアだからこそできる、弊社ならではの強みです。

左からCEO 橋本正徳氏 CTO 縣俊貴氏 CMO 田端辰輔氏

左からCEO 橋本正徳氏 CTO 縣俊貴氏 CMO 田端辰輔氏

愛されるプロダクトは社内の良い雰囲気から生まれる

–プロジェクト管理ツール「Backlog」はリリースから10年目、今では3500社を超える企業で使われているロングランのサービスですね。

人に長く愛されるプロダクトを手がけるためには、まず作っている人たちがそのプロダクトを“愛する”ことが大前提です。これは、親バカのように盲目的に愛するのではなく、プロダクトのメリットとデメリットも理解した上で、どう育てるのが最適なのかを客観的に考える冷静な愛情を持つことです。

そのためには、開発者にプロダクトの持つ世界観を好きになってもらうことが重要です。例えば、BacklogやCacooは、個人の仕事の効率化だけを目指すツールではありません。使う人にとって、仕事が少しでも楽しくなって、チームでの作業が捗るサービスを目指しています。自分たちの手がけるものが、エンドユーザーの心をウキウキさせて仕事のモチベーションにつながっているという世界観に共感する人が作るからこそ、魅力的なプロダクトに仕上がるのです。

–サービスを広めてくれるようなコアなファンを獲得するためにどのような取り組みをしていますか?

使っていて「楽しい」と感じるプロダクトは、ユーザーの心をつかみます。他に意識していることは3つあります。

1つ目は、先ほど話したように、仕事を楽しくするためのサービスを提供している楽しい会社だと知ってもらうことです。実際にコアユーザーは、弊社のプロダクトに対する考え方や姿勢に共感して、ファンになってくれています。

2つ目に、“ユーザーサポートの見える化”をしているところ。例えば、プロダクトに関する質問などを「LIVE Q&A」というビデオチャットで対応しているのですが、メールなどテキストだけでは伝わらない部分をカバーできますし、顔が見えることで、ユーザーの安心感につながります。私たちスタッフにとっても、ユーザーを直接知ることができる絶好の機会でもあるのです。

台北で行われたCacooUpの様子

台北で行われたCacooUpの様子

他にも、コワーキングスペースやカフェでユーザーの集いを頻繁に行っています。弊社スタッフ主導で新しいサービスや機能の発表をすることもあれば、ユーザーが主導になってサービスの使い方を事例で紹介したり、Q&Aなどを行うことも。Cacooに至っては「CacooUp」といった世界規模のユーザーイベントを行っていて、台湾と東京という遠隔地をつないだイベントも開催しています。

3つ目は、“スターエンジニア”が所属していることです。技術力が高く、社内ブログや個人ブログ、各種カンファレンスや勉強会などで情報発信をしているエンジニアにはコアなファンがついていますね。

こうした取り組みを通して、サービスを手がける私たちが、いかにユーザーのニーズを汲み取り、応えていけるのか。ユーザー目線でのものづくりを常に考えています。

–「ユーザーを楽しませるものづくり」に対する思いはずっと昔からあったんですか?

ありましたね。実はヌーラボを設立する前にあるプロダクトの事業計画書を作ったことがあったんです。それは、メールクライアントの「ポストペット」のようなものを“企業のグループウェア向けに作りたい”というもの。企画した理由は、自分自身が堅苦しい仕事があまり好きじゃなくて、そういった仕事をどうしたら楽しめるのかを考え、そのためのツールを作りたいと思ったからです。

個人的には自分がやっていて楽しいと思うことが本当の「仕事」だと考えているので、そんな思いが結果としてヌーラボのプロダクトづくりにつながっていると思います。

福岡本社オフィス 社員の働きやすさを考え社内にグリーンカラーが使われている

福岡本社オフィス 社員の働きやすさを考え社内にグリーンカラーが使われている

自発性は継続性につながっている

–自分が心から楽しいと思う仕事を選ぶために必要なことはなんですか?

まずは、自発的にやりたいと思える仕事なのかは重要です。すべての仕事は継続して続けていくことで成り立っていて、自ら考えて動くことのできる主体性が欠かせません。

ただ長い期間、1つのことをやり続けていると、あるリスクに直面します。それは「飽きる」という問題です。これは仕事を継続する上で深刻な問題なのですが、一方でこれって自分の方向性を見つめ直す機会なのです。実際本当にやりたいことだったら、飽きて立ち止まることなく深掘りをしていくはずですし。

という私も、実は飽きっぽい性格です。それでも今までヌーラボを続けてこれたのは、同じことでも、常に新しい角度で見るように心がけていたからだと思います。例えば、その姿勢はヌーラボの経営やプロダクトづくりに現れており、12年間一貫してソフトウェアを基軸に事業を継続していますが、実は、随所で大きな変化を社内に取り入れてます。

新しいウェブサービスを作ってみたり、拠点を海外に増やしたり、変化を意図的に取り入れていることで飽きませんし、常に社内に新しい風を入れることもできます。これが、飽きずにひとつのことを継続して行えている秘訣ではないでしょうか。

–ビジョンや軸はぶらさずに、必要な変化には柔軟に対応する。ヌーラボが大切にしていることは?

他社や自社、あるいは他人と自分を比較しないようにしています。数値の比較などをして自らを陥れるようなやり方は、社内の人間関係にも響くし、全体のモチベーションを下げるので、結果的に楽しい仕事を生み出しません。

たとえ競合が勢いに乗っていても、自分たちのやり方をすべて変えるようなことはしたくありません。それをやってしまうと、ヌーラボの文化や考え方が好きで付いてきてくれているユーザーや社員のことを裏切ってしまうことになるからです。

ビジョンや軸をぶらさないためには、社員を効率重視でガチガチにマイクロマネジメントしたり、経営目線だけで方向性を決めるのではなく常に「ユーザーファースト」であり続けることでしょうか。

IT業界の流れは早く、それに対する危機感は常に持っていますが、だからといって自分たちのやり方を崩すことはせず、うまくバランスをとるようにしています。時代の流れに合わせすぎてしまうと、それが2、3年といった短い期間だけの流れであったときに結局淘汰されてしまう。だったら自分たちのやり方で進める方が賢明な判断です。

もちろん、グローバル化などの長期的な視野を持つことは大切です。その視野を持つことで、淘汰されないで長期的にユーザーへサービスを提供することができるからです。世界中にいるユーザーのみなさんに、ヌーラボのツールを快適に長く使ってもらうことが会社創業時からの目標であり、これからもずっと目指す目標です。