ヴィトンが愛した「おしぼり」、NTT出身の二代目社長が新市場を切り拓く

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日本が誇る“おもてなし”文化の一つである、おしぼり。用途といえば飲食店で手を拭うシーンが真っ先に思い浮かぶが、「アロマ」や「抗ウイルス」といった付加価値を与えることで、外食産業以外にビジネスを拡大する会社がある。

アロマおしぼりの封を開けると、レモングラスの香りがふわりと漂う。よくある人工的な香りとはまったく異なる、天然のアロマの香りが印象的だ。その上、このおしぼりは抗菌ならぬ抗ウイルス機能もあわせ持つ。どちらも特許技術を活かしている。

このおしぼりを考案したのは、1967年に創業した藤波タオルサービスの二代目社長、藤波克之氏。以前はNTTのグループ企業に在籍していたが、先代の父が病に倒れた2004年に入社。2013年9月に社長を継いだ。

世界初という抗ウイルスおしぼりを製造する藤波タオルサービスの藤波克之さん

世界初という抗ウイルスおしぼりを製造する藤波タオルサービスの藤波克之さん

FacebookやGoogleも福利厚生で導入

一般的に、おしぼりビジネスは大きく2つに分かれる。一つ目は、布タイプのレンタルおしぼりだ。得意先を回って使用済みおしぼりを回収・洗浄・消毒し、包装して配達する地域密着型ビジネスとなる。もう一つが、使い捨てタイプの不織布おしぼり販売だ。

レンタルおしぼり市場はバブル期をピークに、ピーク時の6割程度まで縮小。現在の市場は220億円程度なっている。逆にファストフード店などの需要を追い風に、使い捨ての不織布おしぼり市場が拡大している。

二代目社長の藤波氏がイノベーションを起こしたのは、市場が低迷していたレンタルおしぼりだ。まずは、おしぼりにアロマセラピー効果のある香りを付ける芳香剤「LARME」を2006年4月に発売。薄さ6mmのシートをおしぼりタオル用温蔵庫に入れておくだけで、アロマセラピー効果のある香りを付ける芳香剤やおしぼりは、ルイ・ヴィトンをはじめとする高級ブティックも接客時に使うために採用した。

温蔵庫に入れておくだけで、おしぼりに天然アロマの香りを付ける芳香剤「LARME」

温蔵庫に入れておくだけで、おしぼりに天然アロマの香りを付ける芳香剤「LARME」

きっかけはおしぼりの塩素臭さ

芳香剤に着目したのは、「おしぼりが塩素臭い」と感じたことがきっかけだった。先代の父が病気で倒れてNTTのグループ会社を退職後、元の上司におしぼりの臭いについて相談したところ、香料メーカーを紹介された。メーカーの香りに感銘を受け、「これだ」と思った。

香りをつける布おしぼりが認知されると、不織布の使い捨てタイプのアロマおしぼりの開発にも着手。石油系化学繊維を使用しない天然素材100%ながらも3層構造の80g/㎡という重量の素材にすることで、吸水性・保水性・強度を強化した。使用後は環境にも配慮した土に返る素材を使っている。

一番人気はシトラール。レモングラスから抽出したアロマ成分の香りだ。ペパーミントやラベンダーなど、天然アロマ100%の香りも取り揃えている。

これらの香り付きおしぼりや芳香剤はルイ・ヴィトン以外にも、GoogleやFacebook、Adobeといった大手ネット企業が福利厚生で導入。ほかにもエステやネイルサロン、マンション販売会社、カーディーラーといった客単価が高い店舗を中心に2万店以上が採用するなど、新たな市場を切り開いた。

GoogleやFacebookといったIT業界、ルイ・ヴィトンを始めとする高級ブティックにも販路を拡大している

取引先の一部。GoogleやFacebookといったIT業界、ルイ・ヴィトンを始めとする高級ブティックにも販路を拡大している

減らない在庫

そんな人気のアロマおしぼりも、最初から順調だったわけではない。社員からは「売れるわけがない」と酷評され、自信満々で出したプレスリリースもまったく反響がなかった。ある銀行に協力してもらい、女子行員にアンケートを採っても、評価する声はほとんどなく、在庫は3カ月経ってもほとんど減らなかった。

一口におしぼりと言っても、人によって趣味嗜好も違えば、使う場面も違う。誰からも受け入れられる最大公約数を考えると、白い無臭の従来のおしぼりとなってしまう。その中であえて付加価値をつけた同商品は、受け入れられる先がなかなか見つからなかったのだ。

アロマおしぼり発売当初は社内外から酷評だったと苦笑いする藤波さん

アロマおしぼり発売当初は社内外から酷評だったと苦笑いする藤波さん

同社では、青、ピンク、黒、ショコラなどのカラーおしぼりや、潤い成分付きのおしぼりなど、個性的なおしぼりを多数展開している。どれもすぐに市場に受け入れられた訳ではない。しかし、同社はあえてターゲットマーケティングしていないという。「差別化の時代だからこそ、商品を差別化すればするほど面白いお客様に買ってもらえるのでは」と考えたためだ。

他社商品との違いを中心にアピールし続け、市場に受け入れられたと感じるまでに丸3年かかった。「新しいマーケットが定着するまでに最低3年かかる。3年経っても反応が返ってこなければダメということ」。

「抗ウイルス」で病院や介護の現場に入り込む

もう一つのイノベーションが、「VB(ブイビー)おしぼり」だ。VBはVIRUS BLOCK、つまり抗菌ならぬ「抗ウイルス」だ。菌は細胞を持ち、自己複製能力を持った“生物”。一方のウイルスは自分自身では増殖する能力を持たず、生きた生物の中で増殖する性質を持つ非生物という違いがある。

そもそもウイルスは、細胞表面の膜に存在する「レセプター」から入り込む。VBおしぼりは、抗ウイルス・抗菌効果がある水溶液を利用し、ウイルスを不活性化。レセプターからの侵入を防ぎ、おしぼり上のウイルスを99.9%抑制する仕組みだ。その効果から、おしぼりとしては異例の病院や介護、育児施設などの現場にも広く受け入れられた。

現在、おしぼり関連で所持する特許は3件。海外特許は韓国、オーストラリア、アメリカ、シンガポール、ヨーロッパ、インドなど9カ国に出している。「特許は攻撃的にも防御にも使える」と藤波氏。ただし、特許を取ると情報が公開されてしまうため、特許を取る方がいいのか、それともあえて取らずにいるべきなのかはいつも考えていることだ。

取材時には当然のようにおしぼりが出てきた

取材時には当然のようにおしぼりが出てきた

「おしぼり漫画」がネットで話題に

「入社して、改めてこの業界のイメージの悪さに驚いた」という藤波氏。風俗産業や“その筋”という印象があるようで、あまり良く思わない人もいて悔しかったという。

業界のイメージを良くしようと、これまでに様々な試みをしている。おしぼり小説、おしぼり漫画、おしぼりストラップ、おしぼりTシャツ、おしぼりマグカップも作った。

その中でも話題になったのが、おしぼりをキャラクター化したウェブ漫画「おしぼり人間ドビィーくん」だ。おしぼりの文化に惚れ込んでおしぼり会社に入社した主人公がある日、大型洗濯機に閉じ込められる事故にあい、「おしぼり人間」になってしまうという物語である。

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突拍子もない内容にも思えるが、「おしぼりの価値観」を変えたいという、思いを抱く主人公を通して、おしぼり業界で働く従業員の熱さや、おしぼりの豆知識を描いていて、おしぼり業界のことを楽しく理解できる。作者は漫画家志望だった社員の一人で、藤波氏が見出した。

作品はネット上で話題になり、ポータルサイトや漫画専門サイトで紹介されたことでアクセスが集中。作品を公開していた自社サイトが一時閲覧できなくなった。こうした反響は社員のモチベーションアップにつながるだけでなく、マスコミからの取材や工場見学の依頼が相次いだ。

「おしぼりって豆腐みたいなもの」

藤波タオルサービスのおしぼりビジネスは非常にユニークだ。しかし、一貫して「おしぼり」からは離れていない。

貸しおしぼり業は、使用済みおしぼりを回収・洗浄し、再利用する側面があることから、クリーニング業の一種に当たる。おしぼり同業社の中には、洗浄設備を有効活用すべく、ユニフォームクリーニングなど本業以外に乗り出すところも少なくない。おしぼり業界が縮小したからと言っておしぼりから離れるのではなく、あえておしぼりを細分化し深めたところが同社の戦略と言っていいだろう。

藤波氏はおしぼり業界を「面白い業界」と断言する。「おしぼりの面白さは、心は“おもてなし”という日本古来の文化にありながら、産業的には50年くらいの意外と新しいものということ」。つまり、根本に流れる精神は普遍的でありながら、まだ開発され尽くされていないという点だ。

「おしぼりって豆腐みたいなものだと思ってます。薬味や醤油をかければ、いろんな味わい方が楽しめる。おしぼりも香りや色や温度や素材に機能など、アイデア次第で価値観を変えられるんですよ。」

1日に30万本のおしぼりを洗浄するマシンの前に立つ藤波さん

1日に30万本のおしぼりを洗浄するマシンの前に立つ藤波さん