経営者だから自然体でいられる――元・女子大生起業家、勝負の3年目

企業秘密のアパレイユ(卵液)に特注の丸型食パンをたっぷり浸して焼き上げ、最後にカソナード(粗糖)をまぶしてバーナーであぶって……外はカリッと、中はとろける食感が楽しめる“ブリュレフレンチトースト”専門店「Foru Cafe」のオーナー・平井幸奈さん。彼女が起業したのは、まだ学生だった時のことだ。

今では大学も卒業し、お店の経営も3年目に突入した。これまで「女子大生起業家」として華々しくメディアに取り上げられる機会が多かった平井さんだが、その胸の内にはあまり他人には見せることのない、苦悩と葛藤が渦巻いていた。好きなことを実業にする大変さ、それでも続けたいと思える“起業”の魅力とは……建前の奥にある、平成生まれの起業家の本音に迫った。

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平井幸奈(ひらい・ゆきな)
1992年生まれ、広島県出身。2013年9月、早稲田大学在学中に日本初のブリュレフレンチトースト専門店「Foru Cafe」をオープン。翌年8月、株式会社フォルスタイルを設立して代表取締役に就任。Foru Cafeの経営と併行して、グラノーラブランド「FORU GRANOLA」を立ち上げ、黄金比グラノーラや生グラノーラなどの商品開発を手がける。
Foru Cafe公式HP:http://forucafe.com
FORU GRANOLAサイト:http://forugranola.com

 

3年で7割が潰れる、飲食業のシビアな現場

――飲食の世界は移り変わりが激しく「開業3年で7割、10年で9割が潰れる」とも言われていますね。率直にお聞きしますが、平井さんのお店の経営状態はいかがでしょうか。

直近でようやく安定してきて、今年度の売り上げは昨年の1.8倍に伸びています。今は正社員が1人とアルバイトが15人いて、来年もう1人社員を採用する予定です。ただ、近所にはこの2年間で5回も店が入れ替わっている一角もあるので、油断は禁物だなと。私たちの店も開業して3年目ということで“残る3割”になれるように一層気を引き締めていこうと思っています。

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――飲食店のスタートアップは初期費用、その後の運営費用ともに負担が重い印象があります。これまでに資金繰りで苦労されたことはありますか。

正直、苦労は多かったです(笑)。お店の開業のために借りたお金は、数カ月前にやっと完済しました。直近でも百貨店の催事に出すグラノーラを増産するために、やむを得ず短期で借り入れをしたこともあります。家賃、人件費、材料費など飲食店はコストのかたまりなので、常に帳簿とはにらめっこしていますね。

――金銭的なマネジメントで、気を付けていることは?

最近になって、大きな挑戦のために融資も検討するようになりましたが……基本的には「資金繰りでは楽をしない」と意識してやってきました。実は、私の祖父が2人とも自分で起業をしているんです。私が「お店を開業したい」と相談した時には、ものすごく親身にアドバイスをくれて、あまり気乗りしていなかった両親の説得までしてくれました。ただ、お金については「自分でなんとかしろ」と再三言われていたんですね。

――その言葉の意図について、平井さんはどう考えていますか。

好きなことで生きていくなら、自力で身を立てる覚悟を持て……ということだと思っています。もし初めから資金的な余裕のある中でお店をやっていたら、私は数字と向き合うことから逃げ続けていたかもしれません。地道に泥くさく、身の丈に合った進歩を続けてきたからこそ、無理なく楽しく働ける今があるのかなと感じています。

Foru Cafeで提供しているブリュレフレンチトースト

Foru Cafeで提供しているブリュレフレンチトースト

 

期待を裏切れない……キラキラとした“求められる人物像”

――飲食店の業務は、決まったメニューを顧客に提供することがメインですよね。日々の繰り返しの中で、仕事がマンネリ化することはありませんか。

私は職人気質が強いので「同じものは2度作らない」という精神で、その時に作れる最高の料理を出そうと意識しています。ここで「好きなことだから飽きない」って言えたらカッコいいんですが……毎日同じメニューを作っていると、やっぱり飽きてくる部分は出てきますね。モチベーションを下げないためにも、従業員に任せられることは任せていって、積極的に新しい取り組みにはチャレンジしていこうと。

――今はどのような挑戦を視野に入れていますか。

最近はグラノーラの製造・販売に注力しています。リリースしてからまだ半年ほどですが、テレビでご紹介いただいたり、百貨店の催事場で置いてもらえたりしたおかげで、売れ行きは好調です。今後はさらにグラノーラのラインナップを充実させて、海外展開も視野に入れながら事業を広げていこうと考えています。

主に通販で展開しているFORU GRANOLA

主に通販で展開しているFORU GRANOLA

――そういった先を見すえる“起業家精神”は、どのように培っていったのでしょうか。

インタビューであらたまって聞かれると、こんな風に格好つけて話しちゃうんですよね(笑)。私、外から言われるほど、自分のことをそんなに“起業家”だと思っていないんです。ただ、好きなことを仕事にするために店を作っただけだったので。

――在学中に起業されたこともあって、これまでインタビューを受ける機会は多々あったかと思います。過去の記事を拝見する限りでは、他意はなく“今をときめく若手女性起業家”という印象が強いのですが……平井さん自身の感覚とはズレがある?

ちょっと前までは、自分が出ているインタビュー記事を見ると「ブリュレフレンチトーストとかマジでオシャレ……この人めっちゃ意識高いな……」って他人事のように思ったりしていました(笑)。取材でも“起業したキラキラ女子大生”というイメージを持って話を聞かれることが多くて、そういう時はこちらも「期待を裏切らないようにしなきゃ」ってプレッシャーを感じてましたね。

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――今でも取材は多いと思いますが、まだそういった圧力を感じることはありますか。

たまにありますが、最近はもう「周りからはどう思われててもいいや」って割り切れるようになりました(笑)。他人のイメージに寄せたりせず、地に足の着いた自分らしい“起業家”でいられるよう、力をつけていきたいです。

 

ブランドでもあり、レッテルでもあった“女子大生起業家”という肩書き

――華々しいイメージが先行する一方で、若さがネックになったことはありましたか。

価格交渉で騙されそうになったことは何度もあって、実際に騙されたこともあります。以前、料理に使うエディブルフラワー(食用できる花)の仕入れ先を知人に紹介してもらったのですが、そこで提示された価格が想像以上に高くて。「もう少し安くなりませんか」と聞いたら、「5つ星のホテルにも同じものを卸してて、これでも安いって言われてるけどね」と突っぱねられてしまって、仕方なくそこから買うことにしました。そしたら後日、高島屋でほとんど同じものが半額くらいで売られているのを見つけたんです(笑)

――店舗で売られているものが卸値より安いって……相当ぼったくられていたんですね。

交渉相手が二回り上ほどの男性だと、足元を見られることが多いです。別件ではこちらが1カ月近く時間をかけて資料を作って、何度も先方の会社に足を運んでプレゼンをしたのに、最終的に「資本金そんなに積んでないんだね」と鼻で笑われて断られた商談もあります。「それが理由なら最初から断ってよ……」とがく然としましたね。「若いから、学生だから」と応援してくれる方も多かった反面、「若い女がチャラチャラしてるな」というスタンスで接してくる人も少なからずいました。

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――“女子大生起業家”という肩書がブランドでもあり、レッテルでもあったと。卒業してから、状況は大きく変わりましたか。

当たり前ですが“女子大生”というくくりでの取材はなくなりました。ただ、“若手の女性起業家”として取り上げていただくことはあるので、想像していたよりも露出の機会は減っていないです。それよりも、卒業したことで対等に接してくれる人や、卒業してもお店を続けていることに好感を持ってくれる人も増えたので、デメリットよりもメリットの方が大きいなと感じています。

 

起業したから、1人の“女性”でいられる

――経営が安定してきた今、これからのビジョンについては何か考えていますか。

目の前にチャンスがあって、それを手にするために、やるべきことを地道にこなしているのが現状です。今はその延長線上に、「大手企業とのコラボ商品の開発」や「海外進出」という現実的な目標が生まれて……でも、これらってお店を出す前には夢に描いていたことなんですよね。

――夢がいつの間にか目標に変わっていた、と。

目標と言えば、私は子どもの時から漠然と「とにかく幸せになりたい!」って思っていて(笑)。お店を立ち上げたのもその一環だったんですが、最近になってその意識が「幸せにしたい」に変わっていることに気づきました。

平井さんが経営する「Foru Cafe」店舗外観

平井さんが経営する「Foru Cafe」店舗外観

――「幸せにしたい」とは、周りの人たちのことを?

そうですね。アルバイトの中に、高校生の時から何度もうちの店に来てくれていた学生さんがいて。その子、大学に入ってすぐ「ここで働かせてください!」って言ってくれたんですよ。唯一の社員の子は、もう目に入れても痛くないくらいで(笑)。私、従業員のみんなが本当に大好きなんです。3日に1回来てくれる近所のおじいちゃんなど、常連さんも大好き。そんな大好きな人たちが、この店に関わることで少しでも幸せになってほしい。そのために、できることを1つずつやっていきたいです。

――起業して従業員を抱えるって、少なからず「他人の人生を背負う」ことにもなりますよね。そこに対して気負いなどはありませんか。

あまりないですね、「幸せにしたい」というのもすごくポジティブに捉えられています。私は起業して経営者になったことで、1人の“女性”でいられているなって感じているんです。もちろん、経営者でいるからすり減ることもあります。だけどそれ以上に、好きなことを好きな人たちとやっていて、本当にワクワクしつつも穏やかな日々を過ごせているから、自分に素直でいられるのかなって。

――普通に就職していたら、もっと違った自分になっていた?

今まで部活でも委員会でも、納得いかないことがあると真っ向からぶつかっていました。男だろうと先輩だろうと関係なく物申してしまうので、会社に入っていたらきっと、女を捨ててバトルに明け暮れる日々を送っていたと思います(笑)。起業家ってガツガツと戦っているような印象を持たれることが多いですし、私も昔はそう思っていました。でも今は、起業したことで無理のない自由な生き方ができていて……自分でもビックリしています。

 

“優しい強さ”が、長く愛されるブランドを作る

――平井さんにとって“幸せ”ってどんな状態でしょうか。

仕事とプライベート、両方が充実していることです。今は仕事の方に比重が傾いていますが、これから結婚・出産などのライフイベントごとに、プライベートを優先したい期間も出てくるはず。その時に、プライベートに時間を割いてもお店が回る仕組みは作りたいです。これは自分のためだけではなくて、従業員のためにもそうしなきゃと思っていて。

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――ワークライフバランスを自らコントロールできるように、ということですね。

自分の時間を100%コントロールできるのが、会社員ではない働き方の一番のメリットじゃないかなと。ただ、会社という盾がない分、自分が強くなる必要性をひしひしと感じています。

――最後にもう1つ。“必要な強さ”とは、どんなものを思い描いていますか。

敵をなぎ倒すような激しい強さじゃなくて、敵も味方を包みこむような優しい強さがほしいです。いつでも優しくて、曲がらない強さ……長く愛される老舗ブランドって、みんなそれを持ってるんですよ。時代に乗る部分はありつつも、流行に左右されない根っこはしっかり張る……両方とも取りにいかなきゃいけないから大変です。でも、3年目を超えたら次の節目は10年だから(笑)。焦らず長い目で、大好きな人たちと一緒に、自分たちのブランドを育てていこうと思っています。

(人物撮影/石毛健太郎)