イタくないしモテる–「マイルドオタク」の生態とは

告白しよう。わたしはおそらくオタクだ。40を過ぎてなお、深夜アニメは一通りチェックして、気に入った作品の魅力やそれが生まれた背景などは語ることができる。(そういう仕事もやりたいのだが、なかなかお声が掛からないのが悩みだ)

だが、そんなわたしからしても、今の10代、20代のオタクは僕が知るオタクじゃないよなあ、と思えて仕方がない。作品やキャラ、あるいはスタッフなどについて、ほとんど語れない人が多いのだ。

そんな違和感の中、「新・オタク経済 3兆円市場の地殻大変動」(朝日新書)の発刊を知った。書き手はあの「マイルドヤンキー」という言葉を生んだ博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんだ。

地元の友人・家族との「仲間意識」に基盤を置く新世代の「ヤンキー」を描いた原田さん。自身はオタクではない、と断言する原田さんは現代のマイルドなオタクをどう見ているのか?彼らとビジネス・プライベートでどう付き合っていけばいいのか?などなど、じっくり話を聞いた。
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「電車男」的なオタクのイメージはもう古い

–「マイルドヤンキー」という言葉はすっかり定着しましたね。原田さんが次に注目したのが現代のオタクであったわけですが、確かに70年代、80年代のオタクと比べるとずいぶん様変わりしたなあ、と思います。

僕はここ15年くらい博報堂ブランドデザイン若者研究所というところで、若者の価値観や生態と向き合ってきました。若者研究所にはそれこそオタクっぽい子からリア充まで、たくさんのいろんな若者たちが所属しています。研究所の活動は実践的で例えばお酒メーカーと組んで、「若者のお酒離れ」を分析した上で、彼らに受け入れてもらえるような商品開発をしたりしています。「今の若い子は『苦い』のがホント苦手でビールだけじゃなくて、コーヒー離れなんかも起こっている」みたいな分析を日々行っているわけです。

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博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さん。「マイルドヤンキー」という言葉の生みの親としても知られる

そんな中から「マイルドヤンキー」というクラスターの発見もあったのですが、実はここ5年くらいクライアント企業から「原田さん、オタクってどうなんですか?」という問い合わせがよく寄せられるようになったんです。

僕自身もいわゆるオタクではないのですが、僕も含めたターゲット分析をしている人たちにとって、オタクがどうにも気になる存在になってきた。しかし、いかにも「オタク」な、それこそ電車男で描かれたようなオタクなヒトってあまり街で見かけなくなったと思いませんか?

–そうですね。リュックにバンダナにチェック柄のシャツにストーンウォッシュのジーンズとスニーカー、みたいなヒトは秋葉原でも少数派で、むしろハロウィンの時にそういうコスプレをあえてしている人たちがいて興味深いなあと。自分もそうでしたが、「スクールカースト」の底辺にいたイメージはもはやありませんよね。

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僕も「オタクってそういえばどこに行っちゃたんだろう?」って。でも、マイルドヤンキーもそうだったんですが、いかにもそれっていうヒトはホントに少なくなっていて、地方でも改造車とか、リーゼントとか見かけないですからね(笑)。ユニクロとかGAPみたいなファストファッションによって、見た目の平準化が進んだ結果なんですよね。よくよく観察したり話を聞くと、微妙にやっぱり違っていたりするんですが、ぱっと見には見分けがつきにくい。

そして、週末はクラブに通い詰めるような、いわゆるリア充=パーティーピープル的な若者たちも、「わたし、実はオタクなんです」と公言しはじめた。いやいや、それオタクのライフスタイルじゃないでしょ、っていう(笑)。

–一方で、アニメイベントではDJブースが設けられて、コスプレした人たちが踊りまくっていたりしますよね。

元来のオタクが外に出てアクティブになり、リア充がオタクを自称し始めた。僕はこれをエセオタク系って言ってるんですが、いずれにせよ両者は接近しているんですよ。

現代オタクの4分類

ファッションも洗練されていてモテる、いわゆる「リア充オタク」ーーその中でもホントに好きな作品についてメチャ詳しく語り尽くせる「ガチ」な人はまだ少数派です。

リア充がアニメに接近した理由

–かつては「リア充」にとって、いろんなコンテンツの選択肢があったと思うのですが、それこそ「若者のテレビ離れ」といったことが言われていたり、TVドラマも見なくなっていたりという状況と、リア充のオタクコンテンツへの接近ということにつながっていたりしないでしょうか?

それもあるかもしれないですね。今は話題の共通項としてテレビが機能しにくくなっているのは事実です。でも、昔に比べれば弱くなっているとは言え、テレビの影響力というのは厳然としてあるんですよ。特にドラマは意外と強いですよ。

–そうなんですか?

先の「恋仲」は視聴率低迷が言われていたりしますが、視聴率に換算されない違法も含めたネットでの視聴がかなりあるんです。それ抜きにしても、ビデオリサーチの調査結果でも10代後半に絞れば視聴率20%を超えていたりします。

–でもそれを全世代にひろげると・・・・・・。

そう、世帯視聴率だと9%台になってしまって「低迷」となってしまう。今でも若者向けの番組(コンテンツ)はそれなりに見られているんですよ。

–なるほど・・・・・・そうすると以前からは減ったとはいえ月9ドラマや情報バラエティのようなコンテンツに触れているにもかかわらず、彼らがオタクコンテンツに接近しているのは何故なんでしょう?

情報誌などでプッシュされている情報に触れる頻度が減ったというのはあるでしょうね。そして、スマホやパソコンで気軽に見られるネット動画、特にアニメに若者が向かっているということではないかと思っています。

–深夜に放送されているというのはあまり関係ないわけですね。ドラマよりも1エピソードは短時間で見ることができますし。

ネットであればレンタルビデオや録画のような手間も掛からず、ネットによってアクセスはホントに簡単になりましたからね。とはいえ、ドラマやバラエティも見逃し配信が整備されてきましたし、アニメに比べてアクセスしにくいということはないはずです。

–アクセスの容易さがあまり変わらないとすると、やはり中身の面白さということになりますか?

それはありますね。かつてお茶の間にテレビが1台という時代では、若者向けであろうがなかろうが、とりあえずそれを見るしかなかったわけです。

–ゴールデンタイムの番組表を見ても、明らかに若者向けではありませんからね。中高年齢者向けの番組が増えたように思えます。では何故テレビから若者向けの番組が減ったのか、というと?

やはり日本の人口バランスを反映して、というのが原因ですね。スポンサーは世帯視聴率で番組を評価しますので。実際のところは、「世帯視聴率が高く、かつ若者の視聴率も高い」番組が広告枠としては一番高く売れるので、中高年齢向けに番組を作れば良いというものではないのですが。各局いろんなチャレンジを続けていることが、番組編成にも現われていることが見てとれます。

–「恋仲」も若者には刺さっていたけれど、世帯視聴率で評価されると厳しいものがあった。でも、製作委員会方式(製作に関わる会社が放送権料も支払う)の深夜アニメであれば世帯視聴率という評価軸から離れて、ストレートに「若者向け」の作品作りができる。

その通りですね。

「マイルドオタク」との交流術を「アメトーーク!」に学べ

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–視聴率とスポンサーというおカネの論理から、深夜アニメが若者に「刺さる」コンテンツになったという仕組みはよく分かりました。それにしても、ここまで若者がオタク化――それもリア充かつエセオタクといった具合に多様化すると、どう向き合えば良いのか戸惑いを感じるのは私だけではないはずです。

エセオタクはつまりオタクぶりたいわけです。「アメトーーク!」で「僕たちキングダム芸人です」って言って、漫画の紹介をしたりするじゃないですか。キングダムを全く読んだことのない人たちに、「こんな漫画だ」って話をして掴んでいく。

–作品の舞台である、始皇帝とか春秋時代のうんちくを語るわけでもなく、かつての「カルトQ」(91年~93年にフジテレビで放送されたマニアックな知識を競うクイズバラエティ)なんかとは全く次元が違いますよね。

オタクからすればそこで語られていることはキングダム全巻読んでいれば誰でも知っている知識なわけで、滅茶苦茶浅いわけです。でも知らない人からすれば、「へー、そうなんだ」となる。ほんのちょっと知っているんだけど、それを周囲にひけらかしたい、という欲がすごくあるんだと思います。もっというと、スクールカーストの中で「情報」っていう要素が階層の中での浮沈を握る鍵になっているのではないかと。

だから、リア充・パーティーピープルでも「私オタクです」と宣言するわけで。そんな彼らがもっている持ちネタ・豆知識を何も知らない人たちに披露させてあげる場を用意すると、気持ちよくコミュニケーションできるでしょうね。

–そこを、「お前そんだけしか知らないで、よくオタクだなんて言えるな」なんて言っちゃダメなんですね(笑)。ファーストガンダムも観ないで、ガンダムを語るなって言うのはもはや老害なんだ(笑)

そうですね(笑)。彼らの「持ちネタ」についてなるべく知らない人たちが集まっている、そういう場をセッティングしてあげるといいかなと。アメトーーク!でもゲストで来てるアイドルの子たちって何も知らないから「えー!」ってリアクションしてくれて、それを見てる方も楽しいわけです。ああいう構造を作ってあげると良い。あそこでは、旧来のオタクは存在しないことになっている。そうなっているから仕方が無い。ライト化しているから需要がないんですよ。

–本で書いておられたように、その旧来のオタクが担っていた大部分は、Wikipediaやまとめサイトなどのネットが代わりを務められるようになりましたからね・・・・・・。

エセオタクたちは、そういうオタクになりたいとも思ってませんからね。アメトーーク!が彼らにとってのゴールなんです。

–コミュニケーションの材料に過ぎない。SNSにネタ動画とか可愛いネコの画像を上げるのと変わらないかもしれないですね。

単なる豆知識をオタク知識と言っている子達が多いですからね。「もっと勉強しろ」「オタクになれ」って言ってもそもそも彼らは知識を求めてなくて、交流が目的ですから。じゃあ、そんな彼らにもっと知識を深めて欲しいというならば、「三択問題です。シャアはここでどういったでしょう?」といった具合に、彼らが咀嚼しやすいバラエティ形式にしてあげるのが良いかも知れませんね(笑)

マイルドオタクに何を売るべきか

–本書ではかなりの部分を恋愛観が占めているような印象を受けました。「非モテ」という言葉が一時期流行りましたが、オタクにとって恋愛はちょっと距離があるものという感覚だったのですが、リア充オタクは普通に恋愛しているし、一方でガチオタクの中には「ラブライブ!に専念するためと言われて、別れを切り出された」といったエピソードも紹介されていたりして、またこれも様変わりしていますね。

若者を対象にすると、仕事についてはあまり聞けませんから、生活、その中でも恋愛について聞くことは多いですね。件の「『ラブライブ!』で振られた女の子」は自他共に認める腐女子だけど世間一般でいえばとても可愛い子で、本当なのかと耳を疑いましたね(笑)

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–「俺の嫁」って言葉(特定のアニメのキャラクターに萌える様)があったりしますけど、その女の子を振った男の子からすれば、2次元(漫画やアニメのキャラ)と3次元(リアルな異性)を同一線上に並べて、比較してということなんですよね・・・・・・。

リア充オタクはそこはうまくモードを切替えて両立させていると思うんですが、ガチなオタクは、いっそうそっちに傾斜していっているのかもしれないですね。

–あるいは、モードの切替え、という意味では、「いまは2次元の方が楽だから、いまはごめんなさい」ということかもしれませんね。リアルなアイドルと同様、あるいはそれ以上に背景や物語が描かれ、没入が可能な2次元のアイドル達であれば、そういうこともあり得るのかもと思ったりします。

そんなオタク――「マイルドオタク」に象徴されるように一般人のオタク化が進む中では、若者の多くに、という事になりますが、どうモノを売っていくのか、というのもマーケターとしては関心の高いところですね。

かつては、いわゆるガチなオタクに何を売るのか、という点に関心が集まっていましたが、今はそういう人達もファストファッションを身にまとっています。だから、いかにもオタク向けといった臭いが伝わってしまうと、マスには売れない商品になってしまう。でも、エセオタクも含めて、「アニメが好きだ」という風に見られることはコミュニケーションの起点となるのでイヤではない。

–しかしおっしゃるようなバランスの商品――ガチオタクに見られず、でもアニメ好きであることを発信できるような商品――を設計するのはすごく難しいことではないんでしょうか?

でも、アニメショップに並ぶようなマニアが喜ぶ企画でなくても、ちょっとキャラクターが入っていてコンビニで気軽に手に取れる商品が受け入れられる市場が拡がっているんです。これは一般企業にとっては、実はすごく楽な時代だと思うんです。

–そんなに難しく考えなくても良い?

そうですね。マイルドオタクが増えていて、Twitterに投稿しRTされるネタ画像のようにコミュニケーションの起点を探している。コアなファンに「理解が浅い」とそっぽを向かれるリスクよりも、それこそ、清涼飲料水のボトルキャップにキャラクターを付けるみたいない最大公約数的な皆が楽しめるコンテンツを商品やサービスとして提供できれば、ビジネスとしての機会は大きくなると思うんです。

誰もが知る国民的キャラクターをCMに起用するといったことは行われるようになりましたが、もう少し世間的にニッチな、でも実は若者の多くが支持しているキャラクター、コンテンツを単に商品に貼り付けるような形で登場させることでも実は効果が上がると考えています。「ラブライブ!」などはその象徴的なものではないでしょうか。

–なるほど。「オタク」という言葉の射程範囲が拡がっていて、マーケティングとしてとても魅力的なんだけど、かつてのイメージに引きずられて機会を逃してしまっているという可能性は高いですね。まさにマイルドヤンキーと同じ構図だということがよく分かりました。ありがとうございました。