「偏差値なし」から県内屈指の人気校にーー校長先生がやったことを聞いてみた

2015年、夏の甲子園。スタンドで派手に踊る校長先生を覚えている方もいるだろう。長崎県の創成館高等学校の奥田修史校長だ。10年前までは偏差値が表記できないほど学力が低下し、年間の生徒指導件数は300件を超え、荒れに荒れる高校だった。

生徒数は減少し、経営状態も悪化。数十億円の負債を抱えたところで、2003年に父親から引き継いで理事長兼校長に就任した。そこから驚異的な復活を遂げ、野球部は甲子園に出場し、他の部活動も活躍している。校内は挨拶が飛び交い、毎年、入学志願者が殺到する。いったい何が変わったのか、組織を変えるとはどういうことか、奥田校長に聞いた。

※ビジネスマンとして、そして教育者として、学校と生徒にかける思いを聞いた後編はこちら

理事長兼校長の奥田修史さん

理事長兼校長の奥田修史さん

「いいね、やろう!」理事長兼校長ならではのスピード感

–甲子園の応援がとても印象的でした。そもそも校長先生って、普段はどういうことをされているのでしょうか。

特に仕事らしい仕事ってないんですよ。人事の仕事をしたりとか、もしくはどうやって生徒の成績を上げるか、会議で模試とか定期考査のデータを見ながら「こうしよう、ああしよう」と話しあったりします。

なんかみなさんすごく忙しいイメージを持ってらっしゃいますけど、校長としてやらなきゃいけないことって、まあ印鑑をたくさんついたりとかですね。現場の先生の方がよっぽど忙しい(笑)。

校長は教務、理事長は経営なので、両方ともやります。私にとってはやりやすいんです。なぜかというと、校長として「これ、子供たちのためにやりたいな」と思ったら理事長としてすぐ予算をつけられるわけですよ。でも普通の校長先生は、教務の部分で何かアイディアを持っていたとしても、理事長からダメって言われたりとか、理事会で拒否されたりとかもあるじゃないですか。

でもうちではそういうことはなくて、例えば先生でも、生徒でも、「こういうことしたいんです」って思いつけば、「それいいアイディアだね、よっしゃ、いけ!」みたいなノリなんです。

素早い決断ができるってことですね。教員も生徒も非常に積極的で「やろやろー!」みたいな雰囲気があります。失敗を恐れずやってくれる風土がありますね。

例えば部活では音楽部やダンス部がそうなんですけど、生徒たちがここに来て、「お願いがあります。部活を作りたい」と言うんです。「本気でやる?」って聞いたら、「やります」と。

うちの学校は「本気」がキーワードなので、「本気でやるんだったら考えるけど、1年見させて。まずは同好会からね」って言ってスタートしました。今はもう部として認めてますし、本当に素晴らしい部活動になっています。

生徒を変える前に、大人が変わらないといけない

–年間300件くらいの生活指導があったというのが、いまでは信じられないですね。何が起きたんですか。

そうですね。そんなヤンキー学校から変わったのは、我々大人たち、先生の意識改革に尽きますね。先生だって変わりたかったんですよ。よく40歳を過ぎたらなかなか変われないとか言いますけど、僕はそれを信じていないです。みんな変わりたいんです。

僕自身が一時期社会に反抗していましたから、あの子たちの気持ちはわかるんですよ。決してワルいやつだから悪いことをしているんじゃなくて、ワルのほとんどは「暇」で、「力が有り余ってる」。この2つだけです。

とにかく暇なんですよ。やることがわからなくて力が有り余ってるんです。大人がまずそこをしっかりと導かないといけない。でも、大人って、力が有り余ってる人間を馬鹿にするんですよね。「お前らどうせ馬鹿だから」とか、「勉強もしないとろくな人間にならない」とか。

そんなことは子どもだってわかってる。「勉強が嫌いだし、できないし、でも自分の人生どうなるんだろう」。不良でも一丁前に考えるわけですよ。そこを大人が「大丈夫だよ」とか、「お前はこの学校に必要だよ」とか、そういった言葉をかけるだけで一気に変わるものですよ。

この学校の先生は、僕が来た時には子供たちのことを見下しているように感じました。もちろん大切にはしてるんですよ。大切にしてるんだけれども、どこか見下してるんです。だいたい体育の先生って偉そうじゃないですか。生徒を正座させておいて、自分は偉そうに説教してる。「お前らわかってないよな?」とかって。

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好きな人を幸せにするために、まず挨拶をしよう

–ありました。めちゃくちゃ怖かったですね(笑)

それも改めてもらった。生徒と目線を合わせるっていうのは、言葉だけじゃなくて態度もすごく大切。そういうことをやっていたら、子どもたちも僕らの言うことをちゃんと聞いてくれるようになったんですよね。

例えば全校朝会で、「お前ら、彼女がいる奴は手を挙げろ」とか言っても、もちろん誰も挙げないんですけど。「でも好きな女はいるだろ? そいつを幸せにしたいんだったらやっぱり稼がなきゃいけないじゃん。稼ぐためには就職するか自分で起業するかしないといけないんだけど、そこで一番根本に来るのは挨拶なんだわ。」みたいな話をするんですよね。

「お前らはよく自分の女を幸せにしたいとか、いい家庭を作りたいとか、口ではいうけど、じゃあそれをどうやって達成していくの?」って。まずは「挨拶から始めていくことが一番基本だよね」って言うとけっこう挨拶をし始めた。

ズボンはずり下がってるんだけど、ちゃんと近所の人に挨拶しだしたんですよ(笑) 近所の人たちは今までうちの生徒と関わらなかったのに、だんだんと話をしてくれるようになって、「話してみたらすごくいい子ですね」とか言ってくださるようになった。

そうしたら今度は子供たちの自信になって、僕もちょっと褒められただけで全校朝会で「お前らめっちゃ褒められてるぜ」みたいなことを言ったりして。子供たちは、自信を持ってから変わり始めましたね。もちろん少しずつ。ドラスティックには変えられないですけど。

夏の甲子園への初出場を果たした野球部をはじめ、部活動が優秀な成績をおさめている。大学進学も国公立や有名私大学への合格者が増えてきた。

夏の甲子園への初出場を果たした野球部をはじめ、部活動が優秀な成績をおさめている。大学進学も国公立や有名私大学への合格者が増えてきた。

進学校ではないけど倍率4.7倍、異例の人気はなぜ

–地方の私立高校で、バリバリの進学校というわけでもない。入試の倍率が4倍というのは驚異的ではないでしょうか。

一昨年は4倍で、去年は4.7倍でしたね。特に地方の私学では異様かもしれないです。やっぱりよく言われるのは、「この学校はすごく楽しい空気が流れている」と。親御さんもそうだし、もちろん子どもたちもそうなんだけれど、せっかく3年間を過ごすんだったら楽しいところで学びたい。いきいきと学びたいじゃないですか。

子どもが「学校行きたくない」って言うよりも、「行ってきまーす!」って言って欲しい。帰ってきたら、「今日学校でこんなことがあってさ」とか、「先生がこんな馬鹿してさ」とか、「校長がまた変でさ」とか。そういう話を聞けるのって親はすごく嬉しいと思うんですよね。

それをいま実際にこの学校の在校生がやってくれている。だからうちは最近、兄弟姉妹がすごく多いんですよ。「兄ちゃん姉ちゃんがすごく楽しそうにしてるからここにした」っていう弟妹が、ここ3年くらい増えてきているんですよね。

人って楽しいものに集まる。だからどうやって楽しく、そして実力をつけるか。もちろん厳しくするところは厳しくしますけれども、その中でも他の学校さんよりも明るく楽しく、何か燃えるような雰囲気を演出したいと思っています。

学歴よりも、生き方が問われる時代の教育

–偏差値向上や大学受験に特化しなくても、学校の人気は上がるものですか。

一概には言えないかもしれませんけども、一般的に受験生を持つ親、受験生たちも、やっぱり、いい学校、それは頭のいい学校に行きたいって思うんですよね。ですから、その部分はその部分でレベルアップをしていかなければいけないんですけど、同時にいまはもう学歴が通じない世の中になってきています。

東大や京大、早稲田、慶應など含めて、昔はそこから大企業に入って一生安泰、終身雇用みたいなモデルがありましたけど、もう崩れてしまっていますよね。で、今プラスアルファで何をしなきゃいけないかっていうと、「自分の人生に対してどう向き合うのか」っていう教育が求められていると思います。

我々がやってきたのはまさにそこなんです。もちろん勉強、学業についてもしっかりとやっていかなければならないんだけど、プラスアルファが必要じゃないの?って。我々は「夢マップ」というキャリア教育のプログラムを作りあげました。

いまうちの学校が人気なのだとしたら、知識プラス生きる力、まあベタな言い方ですけど、「本当に自分らしく輝いて生きるってどういうこと?」というのを突き詰めたからだろうなと。

大人がギラギラしなくて子どもたちがギラギラするわけがない

–会社もどんどん潰れたり、元気な業界が移り変わっていく中、あまり学歴だけみても意味がないと。

この地方都市・長崎でも、そういうことを親御さんが実感していらっしゃる。なので、もちろんバリバリの進学校になるというのも1つの手かもしれませんけど、それに加えて「何かもう1つ」を欲してらっしゃるんですよね。

いまの子どもたちはもちろんバブル時代の盛り上がりも知らないですし、ある意味では情けない日本の姿をニュースなどで刷り込まれてきているので、自分の国にも自信を持てないし、日本人としての自信もいまいちないんだなと思います。

そのぶん「早く大人になりたいな」とか、「早く働きたいな」って、我々大人が思わせなきゃいけないと思うんですよね。うちの教員にもよく言うんだけれども、俺たちがギラギラしていなくて子どもたちがギラギラするわけがないんですよね。ある意味、親よりも我々と1日の中で過ごす時間が長いんですから。

だから私、今日も朝からダンスの練習やりましたよ。ダンス部からオファーを受けて、今度の文化祭で一緒に踊るんですけど、本格的にやるのでめっちゃきついんですよね。44歳の俺にそれを求めるなよと思うんですけどね(笑)

でも背中を見せるというか。まあ、くさい言い方ですけど、やっぱり大人自身がキラキラして、「仕事って面白いぜ」「生きてることは大変なこともあるけど面白いよ」ということをどうやって体現していくか。すごく大事だと思います。

取材場所は校長室。「昼休みには生徒がどんどん入ってきますよ。ご飯食べていいすか!ってね」と嬉しそうに話す。

取材場所は校長室。「昼休みには生徒がどんどん入ってきますよ。ご飯食べていいすか!ってね」と嬉しそうに話す。

校長がブログでの情報発信で気をつけていること

–学校の中が変わり始めても、それをちゃんと外に伝えていかないと生徒数は増えないですよね。学校のマーケティングという面で工夫されたことはありましたか。

僕は日本の現役の校長で初めてだと思いますけれども、2006年にブログを始めたんですね。創成館校長ブログ。今でもよく問い合わせがあるんです。「校長先生はブログを書かれていますけれども、私も真似させていただいていいですか?」と。

別にこれ特許もなにもないのでいいんですけどね(笑) 僕は書き方にもすごく気を遣っています。絵文字を使ったりとか、口調も堅くならないようにしたり。そして写真をなるべく使う。読んでて楽しい物にする。

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でも校長先生ってなかなかブログを書かれないですよね。書かれたとしてもほぼ失敗例です。例えば校長が4月1日に書くブログって、書き出しはだいたい、「春爛漫……」とかですよ。これはもう読まない(笑) 誰も読む気が起きない。そこから「戦後なんたらかんたら……」と続くでしょ。そこで「違う違うー!」ってなる。

–たしかに(笑) ブログを書くときは気をつけます。

見せ方は本当に大事ですよね。うちは中学生向けの「オープンスクール」にしてもド派手なんです。よく言われるのが、「うちの子どもはもともと公立高校に行こうとしてたのに、あれで洗脳された」という親御さんの声。「あのオープンスクールを見てこの学校に行きたい」と。それはもう見せ方なんです。

学校が莫大な借金を抱えてド貧乏だった頃、当時はK1という格闘技が流行ってましたから、先生をK1選手みたいな入場シーンで登場させました。ドライアイスを用意して煙を出したり。ちゃんとした照明がなかったから普通の蛍光灯のスイッチをパチパチ連打したりとか(笑)

そこはやっぱり必死さがないとダメですよ。うちは当時、もう潰れる寸前の学校だったから必死にならざるを得なかった。やっぱり必死になったらなんでもするんですよ、人間って。

オープンスクールは先生だけじゃなくて、生徒も一緒にやってくれるんです。うちは全校生徒が780人いるんですけど、半分くらいが手伝いに来てくれるんですよ。「これやったら絶対学校の評判いいっすよ」みたいに提案してくれて、「まじで?やってやって」と頼ってます。

今年のオープンスクールは「ここで校長が歌ったほうが絶対いいですよ」って生徒に言われて、氣志團の「ワンナイトカーニバル」歌っちゃいました。誰かがYouTubeにアップしちゃいましたけど(笑)

なにより生徒がそんなふうに“自分事”でいてくれるのが嬉しいです。生徒がマイクを持って、校長が言いたいことを言ってくれる。「こんなところがすごく楽しくて、でもすごくメリハリがあって」と。僕が言いたいことを彼ら、彼女らが言ってくれるので、「俺、何も言わなくていいな」って思いますね。

甲子園のスタンドで応援、コスプレで踊る、「無理してない」

–YouTubeといえば、スタンドで応援する校長の動画はかなりの再生数になっていますね。学校を盛り上げるために相当がんばっている?

あれは馬鹿野郎ですよね(笑) 僕はもともとがそういうキャラなので、全然がんばってないです。よく2chなんかに、「あそこの校長、どこかのサポーターだろ?」とか書かれてるけど、まんざら間違いでもない。

小学校の頃からプロ野球の応援歌がすごく好きな子どもでした。昔は(読売ジャイアンツの)クロマティ選手の応援歌が好きで、世代がぜんぜん違うかな?

–知ってます、クロマティ。「楽をしてもクロウ」ですよね。

おお、よく知ってますね! 僕はあれを、小学生の時音楽の時間が始まる前にピアニカで吹いて、歌詞を黒板に書いて、皆に歌わせていたんですよ。それで音楽の先生にも教えて、結局、授業中ずっと皆で応援歌を練習しましたね。(読売ジャイアンツ・中畑清選手の応援歌)「燃えろ キヨシ 男なら」「一発キヨシ」とか(笑)

そうそう、甲子園の応援歌の中には、私が選曲したやつが何曲も含まれてますよ。創成館風にアレンジ加えたりね。

こんな背番号のユニフォームは見たことがない。

こんな背番号のユニフォームは見たことがない。

–根っからの応援好きなんですね。ブログでは、女子バレーのウェアを着てる写真も発見しました。

あれはもう恒例でね。3年生がフォークダンスをやるんですけど、はじめ全然面白くなかったんですよ。「ただ踊るんじゃなくて、何かおもしろいことしようぜ」っていう話になって、「じゃあ仮装をやったらいいんじゃないですか」って話になりまして。

当初、子供たちだけやる感じで進んでたんですけど、それじゃあダメ。「教師も一緒に盛り上がってナンボ。3年生に関わる先生は全員やろう。」と提案しました。「じゃあ校長もやりましょう。」って事になっちゃいましたね。

それで、うちの女子バレー部のユニフォームを借りてきて、ムチムチ、パンパンに(笑) ドン・キホーテでカツラを買ってきてかぶったら、もう観客が爆笑だったんですよ。めちゃくちゃ盛り上がって。そしたら、私だけ毎年やることになっちゃった。(笑)。

2013年の体育祭は女子体操部のレオタード

2013年の体育祭は女子体操部のレオタード

2014年の体育祭は女子バトミントン部

2014年の体育祭は女子バトミントン部

体育祭にギャラリーが殺到、車800台

県内でこんなに体育祭でギャラリーが多い高校はないですよ。車が800台来ましたから。とんでもないですよ。他の学校の生徒も喜んで見に来ていますね。僕が着替えて出てくる場所、他の学校の生徒だってどういう訳か知ってるから(笑)

出て行っておなか出して馬鹿みたいな格好して出て行くと、「うわ、汚い!」とか言うんですよ(笑) 僕はそれが気持ちいいんですけど。それで他の学校の子が、「先生、写真撮っていいですか?」って言うから、僕も「お前、FacebookとかTwitterやってる? 拡散しろ、拡散!」って感じです(笑)

そうしたら創成館の名前がすごい広まったんですよ。「なにこれ?」みたいな反応ですけど。だからバンバン撮ってもらいます、他の学校の生徒にもオープンに。

もちろん僕のやり方は決していい評価ばかりじゃなくて、そこはやっぱり、アンチ奥田も多いんですね。もしかしたら邪道なのかもしれない。でも楽しい雰囲気っていいじゃないですか。

2015年の体育祭はメイド

2015年の体育祭はメイド

次回に続く

次回は学校の経営状況を改善するためにビジネスマンとしてどのような取り組みを行ったのか、そしていまの社会やいまの若者について教育者としての意見を伺った。