浣腸ひとすじ90年、イチジク浣腸の商品開発は全社員の「おしり」が支えていた

突然だが、きょう1月19日は「イチジク浣腸の日」だ。

イチジク浣腸といえば、お尻に薬を入れてワンプッシュ、人や症状にもよるが、3〜10分後にはお通じがきて、晴れやかな日々が戻ってくる薬剤。開発であるイチジク製薬の歴史は大正14年、田村廿三郎(たむら はたさぶろう)医師が作り上げたイチジク印軽便浣腸から始まった。

以来、浣腸のみを作り続け90年。いくつかのバリエーションはあれど、基本ワンアイテムのみの商材でここまでの年月を重ねられる会社はそうそうない。イチジク製薬・取締役製造部長の松田和男氏にその歴史と、商品開発にまつわる秘話を聞いた。

イチジク製薬・取締役製造部長の松田和男さん

イチジク製薬・取締役製造部長の松田和男さん

子供向けからはじまったイチジク浣腸

–しかし、浣腸ひとすじ90年ってとんでもないことだと思います。容量の少ない子供向けの商品もありますが、便秘に悩んでいる子供も多いのでしょうか?

これが結構いらっしゃいます。90年前、イチジク製薬株式会社の初代社長だった田村廿三郎医師は、便秘やひきつけ、発熱で来院した子供に、医療行為として注射器の大きなものを使って浣腸していたそうです。この治療をなんとか家庭でもできないか、ということで創業しました。そういった意味で、子供向けの浣腸薬は90年来やらせていただいております。

当時はろくな薬もなかったので、浣腸で毒素を排出させ、熱、ひきつけを直すとされていたのではないでしょうか。赤ちゃんに対して使える便秘薬は、今も限られています。でも浣腸薬は赤ちゃんでもまず問題なく副作用がない薬なのですよ。困ったときに、手軽に使ってもらいたいですね。

子供用から大人用まで、容量に応じたラインナップを用意している。

子供用から大人用まで、容量に応じたラインナップを用意している。

ただ、最近では浣腸薬を知らないお母さんが多いみたいなんです。おばあちゃんがいる家庭であれば、「子供が便秘になったら浣腸薬を使えばいい」と教えてくれるでしょうけど、核家族になればなるほど便利な浣腸薬があるという情報が伝わっていかない。

そこでたまごクラブ、ひよこクラブといった雑誌に広告を出したり、公立の児童館で行う赤ちゃん教室などに、ボランティアとして薬剤師を派遣して、赤ちゃんが便秘になったときの対処法を教えたりしています。

若者の浣腸離れどころか……

–女性向けには「リセッチ」という商品がありますが、どのような経緯で開発されたのですか?

流れからいいますと10年前、若い女性向けに1個入れかつ携帯袋つきの製品を作りました。パッケージもかわいい感じにしたのですが、なかなかうまく店頭に広がっていかず、女性が手に取ってもらうまでにはいかなかった。

ただ、若い女性にイチジク浣腸を知っていただかないと、将来、途切れてしまう怖さがありました。浣腸薬そのものの認知度も上げて、女性にとっても扱いやすい製品は、うちがトップメーカーとしてやるべきことだとはじめたのです。

パッケージを一新して、飲み薬の中に並んでも違和感のないデザインにしました。テレビコマーシャルも、ドラマやCMでブレイク中の菜々緒さんに出ていただいたところ、お店に対しての反響がとても大きいものになりました。ほぼ日本全国、どこのお店でも置いてもらえたような状態でしたね。

ただ爆発的な認知度になったかというと、そこまでは甘いものではなかったですね。お尻にものを入れるっていう抵抗感はどうしてもありますよね。便秘に効くということは理論的にはわかるけども、生理的に難しいという印象を払拭しきれなかった。

–そうするとみなさん、飲み薬のほうの便秘薬のほうに目を向けてしまうのでしょうか。

はいそうですね。

–よくメディアは「若者の◯◯離れ」といいますが、それは浣腸も例外ではない?

浣腸離れどころか、浣腸そのものを知らない人も出てきています。「浣腸」を読めない人もいますし、読めたとしてもアクセントが違ったりする人もいますし……。

東京都墨田区にあるイチジク製薬本社。

東京都墨田区にあるイチジク製薬本社。

「マイルド浣腸」や「浣腸ライト」を出せない理由

–各商品の成分含有率は一緒ですか?

はい、一緒です。明治くらいから医療行為としての浣腸があり、その時点で薬剤の配合は定まっていたようです。

–昔から受け継がれてきた伝統のレシピ、ということなのですね。

言ってしまえば、厚生労働省が決めている配合のルールから逸脱できないんです。本当は成分を変えるというのもやりたい。薬剤の濃度を低めにして「マイルド浣腸」とか「浣腸ライト」とかを出したいんですよ。

でも厚生労働省側からは薬の効果を薄めてどうするんですか、何の意味があるんですかって言われてしまう。浣腸薬は便を出すための薬であって、それをゆるくするっていうは話が違うっていう……。

逆にもっとヘビーな、濃度の高いやつも認められていません。医薬品ゆえに縛りがあります。守られている部分もあるのですが。

口から入るモノが作れないのが悩み

–新しいジャンルの商品は開発しているのですか?

企画関連としてはゼロではなかったのですが、やはり、最終的に、私たちの商品がお尻から入れるものなので、イメージ的に便秘薬とか健康食品とか、口から入れるものは厳しいですね。正直、今はもがいている状態です。

基本的には創業の時からあまり変わらず、いちじく型の浣腸薬を作り続けています。ほぼ90年間、その中でも75年くらいはこれを中心にやらせてもらいましたが、10数年前から介護向けの「Eシリーズ」も手がけはじめました。

一般的に、浣腸は自分自身で行うものですが、他人にしてあげるとなると従来の容器では難しかったのです。そこで、寝たままの人にも入れやすくするには、ということをイメージして、ノズルを長くして、蛇腹もつけました。これで角度調整がしやすくなりました。こういった商品は、業界では初めてです。

左から介護向けのEシリーズ、女性向けのリセッチ、蛇腹タイプの容器で自立するジャバラ。

左から介護向けのEシリーズ、女性向けのリセッチ、蛇腹タイプの容器で自立するジャバラ。

浣腸薬、その最適なノズルの長さ

–ノズルのお話をお聞きしたいのですが、人間の身体は、人それぞれ体型が違います。ベストの長さを見つけるのは難しいと思うのですが、どのような経緯で長さが決まったのでしょうか。

肛門管の長さは3〜5センチといわれているので、介護用のEシリーズは安全を最大限確保する意味で長さの最大限を5センチに合わせています。人にしてもらう場合もあるし、自分がやる場合もありますが、これ以上の長さは危ないと考えています。

普通のお客様からもう少しノズルが長いものはないのか、とご相談をいただくことはありますが、そのときにはやはりEシリーズをご紹介すると、だいたいご納得いただけます。

液を残さず身体に入れるための容器開発

年前に販売開始した「ジャバラ」は蛇腹状で自立するのが特徴。

年前に販売開始した「ジャバラ」は蛇腹状で自立するのが特徴。

–容器についてお聞きしたいのですが、イチジクの形状は昔から変わっていないのですか?

今はイチジク浣腸ジャバラという、蛇腹状の製品も出しています。

イチジク状の容器は使いやすいし持ちやすいけども、液残りがしやすいという欠点があって、これをなんとかしたいという思いがありました。

容器はポリエチレンのストローみたいな管を型に通して、空気でふくらませて形にするブロー成形で作っているのですが、重力の関係で必ず下の部分が厚くなってきます。おそらく宇宙でやれば理論上ぺっちゃんこになるのですが、地上でやる限りはどうしても改善できないと。

いままでもなんとかしてほしいというお客様の声がありましたが、製造ラインを大幅に変えるというのはなかなか難しかった。

そこで容器メーカーといろいろ検討を重ねて、ジャバラの容器を開発しました。この形状だと簡単にぺちゃんこになって、液残りがない。また自立もします。転がらなくなりましたし、棚の上に置いておけるから、トイレに座る前に準備できるようになりました。発売して3年目になりますが、徐々にお客様に支持されてきて数字が伸びつつあります。

実はこの形状になるまでにはいろいろありまして、当初は製造メーカーから「この形状はできない」と言われていました。でも、成形の技術が上がったことで、ようやく陽の目を見ることができたんです。

新製品のテストは社員総出でチェック

–新たな容器を開発されるときは、人間の体でもチェックはするのでしょうか?

そうですね。まず薬を入れない状態の容器でいろいろ試しています。人によっては前から入れる、後ろから入れるとやり方が違うので、社内でも結構揉めることがあります。

–薬剤が入った状態でもテストするのですか? 治験の方を雇ったりとか。

これも社内で行いますね。

–社員の方が。

ええ。

–みなさん総動員で?

はい。いま50人くらいいるのですが、社員全員で。

–でも社員のみなさんが便秘なわけじゃないですよね?

なので最初はカラ容器で入れやすさとか押しやすさをチェックします。最終的には中身が入ったものでチェックしますが、便秘じゃない人間がやるのでその時期はみんな軟便が続きます。それもですね、いっぺんに何本も比較しないといけない。1週間くらいで3本とか試すので結構つらいです(笑) 容器の形が決まるまでは、どっちがいい、こっちがいいと言い合って。

基本的に同じ時間にテストするようにしているのですが、昨日試したものの感覚なんて覚えてないんですよね。本当は連続してできればいいのですが、さすがにそれは難しい(笑)

–しかし1つの、キラーとなるような商品があればブランドは育っていくのですね。秘訣はあるのでしょうか?

やはり創業者の“困っている人をなんとか助けたい”という思いを代々受け継いでいくことだと考えます。

新製品販売前は便秘でない人も含めて社員全員でテストすると語る松田さん。

新製品販売前は便秘でない人も含めて社員全員でテストすると語る松田さん。

“あの” オカモトと資本提携

–2005年にはコンドームで知られるオカモト株式会社と資本提携しました。技術や知見とか、お互いのノウハウをやりとりしてはいるのでしょうか? または協業で製品開発を行ったりとか。

実は私自身もオカモトから来た人間なのですが、製造の機械面とか生産面ではずいぶん援助やアドバイスをもらっています。逆に向こうも医療機器を作っていますが、いわゆる清潔なものの作り方はイチジクに来て学んでいく場面もありますね。

医療機器と医薬品との壁があり、お互いやりたいことはありますけど、現実的には至っておりません。

海外市場にも果敢にチャレンジ

–製造はどちらで行っているのですか?

この下(東京都墨田区の本社)です。このビルの中でやっています。

–ここで全部作っているのですか!?

そうですね。ここから出荷しています。

イチジク製薬本社にある工場

イチジク製薬本社にある工場

ichijiku08

–海外展開もされているのですか?

輸出ということで東南アジア向けにやりはじめています。モンゴル向けの商品は日本と同じパッケージで出させてもらっています。台湾と香港向けは表記をローカライズしているだけで、いずれも成分含有率は同じです。容器もまったく同じものを使っていますね。

ただし台湾は40gが認められていません。だから30gがマックスですね。

–海外に浣腸の需要ってあるのですか。

ありますあります。もともと海外からきた医療行為ですから。ワールドワイドで浣腸のない国ってないんじゃないですかね。

オカモトが香港に拠点を持っているので、いろいろ教えていただきながらまずはそこでトライアルしました。次の開拓を考えた時に、同じアジア圏の台湾となり、引き続きモンゴルでも展開をはじめました。モンゴルはもとから肉食なので、便秘人口が多い(笑)

-ところで1月19日ってイチジク浣腸の日なんですね。

はい。日本記念日協会により記念日に制定されました。1と19「イチ(1)ジク(19)」の語呂合わせからきているんです。いまアドトラックも走らせているんですよ。1月19日は弊社の前の道を走る予定です。

「イチジク浣腸の日」は日本記念日協会が認定したものだ。

「イチジク浣腸の日」は日本記念日協会が認定したものだ。

イチジク浣腸のアドトラック

イチジク浣腸のアドトラック

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実は閉塞しつつある日本の浣腸市場。「浣腸という文字を読めない人も出てきている」の言葉に、業界トップブランドでもあるイチジク製薬が啓蒙活動に力を入れる理由がわかった気がする。

個人的にも中学時代にお世話になったイチジク浣腸。当時は後ろめたい気持ちを抱いたが、今思えば数分で便秘の辛さが解消されるだなんて、こんなにもいい薬はないだろうと感じる。最初は抵抗あるかもしれないが、お尻の調子で悩んだらこのピンクの容器に頼ってみるのもよさそうだ。