関ヶ原の合戦も可視化、日本のインフォグラフィック第一人者にノウハウを聞いてきた

情報やデータを視覚的に表現し、受け手に直感的な気付きを与えるインフォグラフィック。一般的には「図解」のようなものとして認知されているが、ひと工夫を凝らすことで、興味や関心の低い相手を振り向かせる、コミュニケーションの強力な武器になる。

インフォグラフィックでは、図解にピクトグラムを組み合わせるなどの手法で、より感情に訴えかけるビジュアルを制作する。ここで、図解とインフォグラフィックは以下のようなものだ。

こちらは図解の一例(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/12530)

こちらは図解の一例(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/12530

こちらはインフォグラフィックの一例(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/16752

こちらはインフォグラフィックの一例(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/16752

最近では、企画書や提案書にもインフォグラフィックが使用されることがある。確かに「相手を魅了する」という特徴は目的に合致するが、デザインの心得のない人間にとってインフォグラフィック制作は少々敷居が高く感じるだろう。

日本におけるインフォグラフィック制作の第一人者は、『NewsPicks』のインフォグラフィックス・エディターで、『たのしいインフォグラフィック入門』(ビー・エヌ・エヌ新社)著者の櫻田潤さんだ。驚いたことに、デザイナー経験がほとんどないという。インフォグラフィック制作で重要なことは何なのか、詳しいお話を伺った。

最高のインフォグラフィックは「地下鉄の路線図」

――そもそも、インフォグラフィックとは何なのでしょうか。「いまいちピンと来ない」という声もあると思いますので、わかりやすい例などがあればお聞きしたいです。

例えば、電車の路線図は最高のインフォグラフィックです。恵比寿から横浜に行くとして、経路を言葉にするとめちゃくちゃ情報量が多いじゃないですか。「まず恵比寿から山手線で渋谷に行って、そこで東横線に乗り換えて……」と。

でも、路線図にはそういう情報が圧縮されていて、指を差せばわかります。つまり、コミュニケーションの距離が圧縮されているんです。脳内で補完する、つまり、情報を解凍して相手が埋め合わせてくれる。これがインフォグラフィックの特徴です。

路線図は情報量が多いインフォグラフィックだと思います。それをひとつのビジュアルに圧縮できているので、非常に優秀です。逆に、インフォグラフィックにすると情報が増えてしまう場合もあるので、まずは「何をインフォグラフィックにするか」の判断が重要になります。

――インフォグラフィックになりやすい情報と、なりにくい情報の違いはどこにあるのでしょうか。

そもそも、言葉でわかるものをグラフィックにする必要はないですよね。視覚化することによって、情報の密度が上がるかどうかがポイントです。研ぎ澄まされたキャッチコピーに、情報が付け足されて文章になり、それをビジュアルの要素で集約しながら、インフォグラフィックになっていく……というイメージです。インフォグラフィックになるかどうかを判断するには、とにかく言語化してみるのが一番ですね。

――それは、まず文章にしてみる、という意味でしょうか。

いえ、闇雲にアウトプットするのではなく、情報を収集してそれについて思考する、という順番です。

インフォグラフィックを制作するときは、最終的に使わない情報であっても、とにかく収集する必要があります。情報が不足しているなら、そもそもインフォグラフィックにする必要がなくなってしまうので。捨てるほど情報がある状態でないと、薄まった情報が綺麗な画になるだけで、意味がありません。だから、情報の密度をとにかく高めることがコツです。

わかりやすいように、制作の過程をひとつお見せしましょうか。

――ぜひ、お願いします。

会話しながら言語化→絵コンテ、スケッチ、清書へ

例えばこれは、「グーグルがアルファベット(※)になった」という記事です。(※グーグルとその関連会社が再編され、『アルファベット』という親会社の傘下になった)

インフォグラフィックというよりは図解寄りではあるんですが、Googleの戦略を分析したものになっています。画像が4枚、文章もそんなに量はありません。でも、このインフォグラフィックの制作にあたって、2015年のGoogle関連の話題をくまなくチェックしました。

500件以上の記事を洗い出して、それぞれの記事をいくつかに分類します。この記事では、「Googleサーチ」「アルファベット」「決済」「自動運転」のようにタグ付けしています。分類をしたら、優先順位をつけてソートします。

この情報をもとに、思考の段階に入ります。相手に情報を伝達するためには、ロジックが必要です。どの情報がどの情報と関連し、結び付くのか。マインドマップを作成して、ストーリーを組み立てていきます。ここではじめて、一旦紙にグラフィックのアウトラインを描き出してみます。同時に、テキストでもひたすらアウトプットします。

グラフィックのアウトラインはノートに描き出される

グラフィックのアウトラインはノートに描き出される

――(PCのフォルダを見て)テキストは10回以上の改定ver.がありますね。

はい。チームメンバーのインターンと会話しながら、「グーグルとは」「アルファベットとは」と、口に出して説明し合うこともあります。重要なのは、実際のアウトプットよりもこのような言語化が先にあるということ。言語化できていないものをインフォグラフィックにはすることはできないのです。

アウトラインを制作することで、必要なイラストやグラフなどのビジュアル要素が見えてきます。ここから、それぞれのアイデアを膨らませるようにスケッチしていきます。

あとは、スケッチしたビジュアル要素を、Illustratorなどで仕上げていきます。閲覧が想定される端末で確認しながら、ひたすら清書して、インフォグラフィックの完成です。

――最後にスケッチやIllustratorという言葉が出ましたが、インフォグラフィック制作において、そこが「言語化」に続く二番目のハードルになるかと思いました。どのようにしてそれを乗り越えればいいのでしょうか。

これについては、とにかくインフォグラフィックを制作して、経験を重ねるしかありません。イラスト制作になるとまた別の奥深い話になるので、個人サイトの『Visual Thinking』や著書の『たのしい インフォグラフィック入門』に後を譲ります。ただし、僕もデザインはほぼ独学なので、練習と工夫次第でインフォグラフィックを制作できるようになる、というのはお伝えしておきたいです。

最終判断は「自分がわかるかどうか」

――デザイナー出身ではないということですが、櫻田さんはそもそも、どうしてインフォグラフィックに取り組み始めたのでしょうか。

もともとはシステムエンジニアやプログラマーとして働いていました。ちょっとだけデザイナーのような仕事をしていたこともあります。でも、プログラミングやデザインの世界って、上には上がいる。そう思うと自分がやる意味を失ってしまって、それ以来個人サイトの運営に注力するようになりました。

マインドを変えようと思って、ピーター・ドラッカー(米国の経営学者でマネジメント研究の第一人者)の本を読んだのですが、読むだけじゃなくて何かしら工夫しようと、本の内容についての図解をはじめたのがスタートです。

――その当時、インフォグラフィックという概念は……。

日本では紙媒体やオフラインでの使用に留まっていました。2010年頃ですが、僕も当時はインフォグラフィックとは思わず、ダイヤグラムやチャートなどのような、図解だと思ってやっていました。図解が上手くなりたかったんです。デザイナーの表現方法はちょっとかじっていたので、参考事例を検索していたら、今で言うインフォグラフィックが欧米のサイトでヒットして。それを最初は個人サイトで紹介していました。

――すでに欧米では主流だったのでしょうか?

ちょうど盛り上がってきた時期でしたね。Googleトレンドで確認してみても、2010年ごろはPinterestとかInstagramが出てきたタイミングで、潮目だった。FacebookやTumblrなどの第一次SNSのブームが一旦終わって、コミュニケーションが画像中心になっていったんです。

――日本よりも数年早く、ビジュアルをシェアするのが流行っていたんですね。インフォグラフィックに出会ったときの感想は?

直感的におもしろいと思いました。「ナニコレ、わかりやすいぞ」と。当時は働きながらサイト運営をしていて、1年くらいは図解しかしていなかったです(※)。こんな経歴だから、ノンデザイナーでも大丈夫だと言えるのかもしれません。
(※冒頭の図解はこの時期の作品)

――今のように、これが本業になることは考えていなかったのでしょうか。

そうですね、もともと趣味のつもりではじめたので。Facebookに自分で制作したインフォグラフィックをアップしたり、サイトを更新したりしていたら、知り合いやサイト経由で仕事の依頼が来るようになって、「何なんだ、これは」と(笑)。

『WIRED』とか、外国発でエッジの利いたメディアから要望をいただいて。そこまで日本になかったから、そういうものがあるよ、と発信したのがよかったのでしょう。

――櫻田さんは、どうしてここまでのめりこんだのでしょう。インフォグラフィックにはどのような魅力がありますか?

インフォグラフィックって、インプットとアウトプットが同化しているものなんです。勉強しないとダメで、ひたすら勉強をしてから制作する。知識欲とも言えると思いますが、これがインプットです。一方、それを表現するのはまさにアウトプットで、これはもともと得意だった。インフォグラフィック制作には、この「インプットとアウトプットの両方があり、一体化している」んです。これが好きなポイントです。

――勉強が好き、と言い切れるのは感心してしまいます。

最初は興味があることだけを勉強していました。例えばこれは、関ヶ原の戦いをテーマにしたインフォグラフィックです。西軍東軍のマップや、戦わなかった武将一覧などを表現していて、これはもう、趣味の領域ですよね。

関ヶ原の戦いにおける東軍西軍の戦力をインフォグラフィックにしたもの(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5603)

関ヶ原の戦いにおける東軍西軍の戦力をインフォグラフィックにしたもの(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5603

他にも、レディオヘッドがツアーでどのアルバムを一番多く演奏したかとか、村上春樹の作品がどう海外で評価されているのかとか。村上春樹のレビューは、世界各国のAmazonレビューをくまなく確認しました(笑)。

レディオヘッド2012年ツアーのセットリストをインフォグラフィックにしたもの(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5671

レディオヘッド2012年ツアーのセットリストをインフォグラフィックにしたもの(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5671

世界各国でのAmazonに掲載されている村上春樹の作品レビュー数(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5789

世界各国でのAmazonに掲載されている村上春樹の作品レビュー数(出典:http://www.visualthinking.jp/archives/5789

根気強くインプットしなければいけないので、好きなことをインフォグラフィックにするのが一番ですね。これだとモチベーションが継続するので。

インフォグラフィックは課題解決の一手段

――実際に拝見して、記事を執筆するのとインフォグラフィックを制作するのは、途中まで行程が一緒であることに驚きました。情報収集や思考をせずにライティングしてしまうと、文章の記事もわかりにくかったり、内容が薄くなったりしてしまいます。インフォグラフィックも、ひとつの情報伝達の手段なんですね。

はい。文章を書くのとグラフィックを描くのでは、そこまで意識は違わないです。鉛筆で書くのか、ペンで描くのかの違いというか。僕は文章を書くようにグラフィックが描けたらいいなと思っています。

ただただインフォグラフィックだけを制作したいとは思わないんです。インフォグラフィックに向いている情報やストーリーがあるから、インフォグラフィックにするだけで。

――インフォグラフィックは直感的にわかるけど、直感的に作られているわけじゃないんですね。とてもロジカルです。

画を描くと言ってもアートのような感性の話ではなくて、課題解決の手段なんです。Webサイトの構造をh1タグh2タグ、スタイルシートでわけて考えるように、まず骨組みを作り、「一番目につく場所にこのグラフィック、テキストはこの色」「この情報とこの情報はレイヤーが一緒」と構造化していきます。すると、どれが一番伝えたい情報なのかが見えてくるので、それを大事な順に並べればいい。優劣が決まれば、配置や色も自然に定まっていくでしょう。

――インフォグラフィックができると仕事ができるかもしれない、と思ったのですが。

確かに、そうですね。情報をデザインする行為なので。例えば「社会の中の自分という存在をインフォグラフィックにできるか」という観点はおもしろいかもしれないです。

でも、インフォグラフィックにする必要がない人もいるんですよ。直感的にできる人だと、ロジックの部分がブラックボックスですから。そういう人に情報を伝達するときにわかりやすいインフォグラフィックなんて不要だし、物足りないかもしれないです。たとえば佐々木(NewsPicks編集長の佐々木紀彦さん)と話すときは、僕もいちいちわかりやすく資料を用意することはせずに感覚的に説明したりします。

――なるほど。では、いいインフォグラフィックかそうでないかは、どこで測っていますか?

NewsPicksであれば、コメントが8割くらいポジティブだったら成功だと思っていますが(笑)、明確なKPIはありません。というより、設定しにくいので定性的に評価しています。とはいえ、あんまり他人の評価には左右されていないというか、まず自分がわかりやすいものかどうかを念頭に置いています。もともと、自分のために始めたことなので。

「インフォグラフィック」って言葉は、消えてほしい

ビジネスマンが資料を作る時も、実はこの「自分がわかりやすいかどうか」って大事なんです。相手を説得するための資料って、相手に合わせすぎていて、自分のロジックやストーリーで上手く説明できないことがあると思っているので。逆に、自分が理解するための資料には、泣く泣く削った情報もあるし、たくさんの情報を圧縮して自分の言葉でまとめているから、プレゼンに強いかもしれない、という。

――インフォグラフィックが効果を発揮するのは、どのような場面なのでしょうか。

インフォグラフィックは、情報が届かなかった相手を振り向かせるための手段です。テキストでは届かなかった人、もっと言うと外国人も、小さい子どもも、インフォグラフィックであれば興味を持つかもしれない。ただし、情報が増えれば増えるほど、誰に刺さるかはわかりにくくなるので、そこは注意が必要です。

だから、NewsPicksで取り組んでいるような「読者との長期のコミュニケーションでブランドを高める」用途で効果を発揮します。また、教育機関のように能力が均質化された集団での情報伝達や、コンサルティングにも向いています。長く使ってブラッシュアップするツールですね。

――インフォグラフィックを「一時的なブーム」と見る向きもあります。今後、インフォグラフィックはどうなっていくと思いますか?

本音を言うと、インフォグラフィックっていう言葉は消えてほしいんです。「わかりやすい何か」みたいになればいい。ごくふつうに、記事の中にあるような状態が理想です。

本来、「インフォグラフィック」っていう言葉がある事自体がおかしいのではないでしょうか。なんで、「広告グラフィック」と分かれているのか。おそらくは広告じゃなくて、情報自体にもっと価値を置いているから「インフォ」グラフィックなんですよね。

でも、本当はどちらであれ、伝えたい情報の中身が大事なはずで、広告はこれまでそこを重視してこなかった。だから、いずれはインフォグラフィックでも広告グラフィックでもなく、わかりやすい情報としてそこにあればいい。極端に言えば、動画でもVRでもマンガでもいいんです。結局のところ、どんな課題を解決するかによって、適切な手法を選択すればいいだけなんだと思います。

(朽木誠一郎/ノオト)