LINEで告白できる時代に、「ラブレター代筆屋」を始めた男の日々

いま、あなたにとって文字は“書く”ものですか、それとも“打つ”ものでしょうか。

私たちは電子デバイスを通して、日々相当な量の文字のやり取りをしています。その一方で、長い歴史を持つ“書いて伝える”という行為からは、段々と遠ざかっているようにも感じられます。

そんな時代の流れを逆行するかのように“書いて伝える”ことに向き合っている男性の手記が、ストーリー投稿サイト「STORYS.JP」で話題となり、2016年1月に書籍化されました。

タイトルは『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス)。著者であるデンシンワークス運営者・小林慎太郎さんは、世にも珍しい“ラブレター代筆”を仕事にしています。

ラブレター代筆とは一体どんな業務なのか、どんな依頼がくるのか、どんなきっかけから“ラブレター代筆”を始めたのか……小林さんにお話を聞きました。

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小林慎太郎(こばやし・しんたろう)
1979年東京都生まれ。立教大学社会科学部卒。IT企業において、人事・総務・社内ITなどのバックオフィス部門の責任者として働くかたわら、個人で「『想いを伝える』、を支援する。」をコンセプトに掲げたデンシンワークスを運営。ラブレター代筆やプレゼンテーション指導を手がけている。
デンシンワークスHP:http://dsworks.jp/
ラブレター代筆活動記:http://storys.jp/story/14671

 

「好きだ」「愛してる」は、むやみに使わない

――単刀直入に“ラブレター代筆”って、どんな仕事なのでしょうか。

小林慎太郎さん(以下、小林):この仕事に決まったやり方というのはないと思いますが……僕の場合は、依頼人から「どんな相手に、どのような思いを伝えたいのか」をヒアリングして、その話をもとにラブレターの内容を作成しています。

――代筆するにあたって、とくに気をつけていることはありますか。

小林:いくつかあります。まずは、ラブレターの種類によって書き分けること。

――ラブレターの種類?

小林:依頼されるラブレターは、大きく3つの種類に分けられます。好きな人に思いを伝える「告白のラブレター」、付き合っていた人や離婚してしまった人に送る「復縁のラブレター」、今そばにいるパートナーに渡す「感謝のラブレター」です。

――なるほど、「告白のラブレター」しかイメージにありませんでした。

小林:僕も始める前はそうでした。けれども、意外に「告白のラブレター」の依頼は、この3つの中で一番少ないです。最も多いのが「復縁のラブレター」ですね。

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――「復縁のラブレター」は、どんな書き方をするのですか。

小林:このパターンでは、「好きだ」「愛している」などの、直接的な感情表現を使わないようにしています。一概には断定できませんが、復縁を請うケースはそもそも相手の気持ちが離れてしまっていることが多いです。

――確かに、そんな相手の感情に訴えかけようとしても、溝は深まるばかりな気がします。

小林:なので「復縁のラブレター」の場合は、依頼者と相手の仲がよかったころの思い出を淡々とつづります。受け取った相手がイヤな気分にならないよう、そして少しでもホッコリとした気分になってくれるように。それがめぐりめぐって、復縁のきっかけになってくれたらと、願いをこめて。ラブレターだけで相手の思いを強引に引き戻そうとするのは、きっと逆効果になってしまうから。

――依頼者とラブレターの受け手の距離感を理解することがカギとなる、ということでしょうか。

小林:おっしゃる通りです。ラブレターの本分は「送り手と受け手の距離を縮めること」にあります。送り手と受け手の現状の関係性や距離感を考慮して、どれくらいなら無理なく近づけるか判断する。そのためには、依頼者への事前のヒアリングが何よりも重要になってきます。可能な限り、依頼人とは直接会って話を聞いています。

 

依頼人のためなら、普段読まない少女マンガとも向き合う

――依頼者へのヒアリングでは、どんなことを聞いていますか。

小林:主にふたりの日常の小さなことや、とりわけラブレターの受け手となる相手のことですね。相手の好きな色とか、好きな作品とか、クセとか。

――依頼者本人のことよりも、ラブレター送る相手にフォーカスするんですね。

小林:そうですね。なぜなら、ラブレターのターゲットは依頼者ではなく、受け手となる依頼人が想いを寄せる人だから。受け手の気持ちを動かすものを書くためには、その相手のことを深く知る必要があります。たとえば、ヒアリングで聞いた相手の好きな映画やマンガは、大体目を通すようにしていますね。

――それって、すごく時間がかかる作業ですよね。まったく詳しくないジャンルの作品に触れることも?

小林:あります。私はあまりマンガを読まない方なのですが、依頼をきっかけに『ちはやふる』という競技かるたを取り扱った少女マンガを読みました。まさか30歳すぎてから初めて本屋の少女マンガのコーナーに行くなんて、思ってもみませんでしたね(笑)。ただ、相手の好きな作品に触れておくと、その人が好きそうな文脈や言葉もなんとなく把握できるので、ラブレターの内容を考える際にとても役に立ちます。だから、ここは外せない作業ですね。

―― ……正直、事業としては相当コスパが悪くないですか?

小林:はい、採算性だけで見たら最悪です(笑)。けど、そういう相手にまつわる小さなエピソードが集まって、少しずつその人の輪郭が浮き彫りになってくるんですよね。仕事として責任を持つ以上、妥協はできません。ヒアリングの良し悪しは、そのままラブレターの質に直結しますから。

 

代筆のゴールは“告白や復縁の成功”ではない

――小林さんが代筆したラブレターの成功率は、どれくらいですか。

小林:すみません、そこは正確に把握していなくて。僕からラブレターを渡した結果は聞かないようにしているんです。

――そうなんですね……ということは、そもそも“告白や復縁の成功”を代筆業の目標としていない?

小林:はい。ラブレター代筆のゴールは「依頼人の思いを整理して、それを誰かに伝える後押しをすること」と位置づけています。もちろん、それで思いが成就してくれたら最高ですが、ヒアリングの時点で「これはちょっと難しそうだな……」と感じる依頼も少なくありません。それでも依頼人に「代筆屋がいたから、自分ひとりではどうにも伝えられなかった思いを、相手に届けることができた」と感じてもらえたら、私がいる意味が生まれるんじゃないかなと考えています。

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――小林さんのつくるラブレターが“成就の確約”になるわけではないですもんね。

小林:先ほどの分類で言えば、「復縁のラブレター」の成功率はかなり低いと思います。ゼロやマイナスの関係を一気に詰めるなんて、ラブレター以外のあらゆる方法を考えても、難しいことだと感じます。「それでも依頼が来る」という意味を最大限くみとって、私は依頼人に寄り添いたいです。

――依頼人の中には、わらにもすがる思いの方もいらっしゃるのかなと。

小林:そうですね。ただ、どんなに厳しい状況に置かれている依頼人でも、相手との思い出をひとつずつ聞いていくと、とても楽しそうに話してくれるんです。楽しい時間を過ごせた、久しぶりに心から笑えた、冷静に自分の思いを整理できた……ラブレターの内容を納品するまでの一つひとつの過程が、依頼人にとっての癒やし、救いになってくれていたらうれしいですね。

――お話を聞いていると、代筆屋の仕事はカウンセリングやコーチングのような側面も強いのかなと感じました。

小林:そうかもしれません。代筆をしている私が言うことではないのですが……自分で書ける人は、人に頼らずに自分で書ききった方が絶対にいいです(笑)。 けれども、世の中には自分の感情や思考を整理するのが苦手な人がいます。そういう人にとってのサポーターになり得る部分に、この仕事の真価があるんじゃないかなと、最近は感じています。

 

ラブレター代筆屋を始めた理由

――現在は会社勤めをしながら、個人でラブレターの代筆業をしているとお聞きしました。

小林:そうです。本職は、ITベンチャー企業においてバックオフィス部門の責任者として働いています。一昨年から個人で「デンシンワークス」という屋号を掲げて、プレゼンテーション指導・就活アドバイス・ラブレター代筆の3つの仕事を受け始めました。

――3つの仕事について、実際に来る依頼の割合は大体どのくらいですか。

小林:プレゼンテーションが2割、就活が1割、そして残りの7割がラブレター代筆です。当初、ラブレター代筆は「ほんの話題づくり、客寄せにでもなれば」と思って設けたカテゴリーだったので……まさかメインの仕事になるなんて思いもしませんでした。就活についてはほとんど依頼がこない状態が続いたので、今はサービスを停止しちゃってます(笑)

「デンシンワークス」のホームページ

「デンシンワークス」のホームページ

 

――そもそも、デンシンワークスを立ち上げたきっかけは何かあったのですか。

小林:よく誤解されるのですが、会社に不満はあったわけではないんです。今の仕事には心から満足しているし、これからも続けていきたいと思っています。ただ、35歳をすぎたあたりから、漠然と「このままでいいのかな……」と感じるようになって。

――現状に満足していたのに?

小林:だからこそ、かもしれません。「ビジネスパーソンとして第一線で働ける時間は、この先そんなに長くない」という予感もあり、なんだか終わりが見えてきた気がして。そしたら、「今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていたことをやるだろうか」というフレーズが記憶の底から浮き上がってきて、頭から離れなくなりました。

――スタンフォード大学の卒業式での、スティーブ・ジョブズのスピーチの一節ですね。

小林:今の会社には満足しているけれども、「明日死ぬけど、後悔がないか?」と問われたら……イエス、とは言えないと気づいて。「本当に自分が好きなことを追求して過ごす時間が必要だ」と思うに至ったんです。

――小林さんの「本当に好きなこと」とは、何ですか。

小林:自分にとってのそれは、「話すこと」と「書くこと」でした。この2つを軸に、会社員と並行して何か仕事を始めよう……そうして立ち上げたのが、デンシンワークスです。

 

上履きに詰めこまれたくしゃくしゃの紙、たった2文字につかまれて今がある

――先ほど「ラブレター代筆は客寄せのつもりで始めた」と言っていましたが、なぜラブレター代筆を思いついたのでしょうか。もともと愛着があったとか?

小林:愛着はありましたね。というのも、僕自身ラブレターを書くことが度々あって。「世間一般の人に比べたら、きっと少しはうまく書けるのでは?」という変な自信は持っていました(笑)

――ラブレターは昔からよく書いていたんですか。

小林:いえ、書き始めたのは社会人になってからです。ただ、初めてラブレターに触れたのは、小学校4年生の時ですね。

――ということは、もらった?

小林:はい(笑)。初めてもらったラブレターは、僕の下駄箱に入っていた上履きの奥に、くしゃくしゃに詰めこまれていました。登校して上履きを履こうとした時に、その紙に気づいて。取り出してみると、何回も折ったり広げたりした跡のある小さなメモ用紙に、一言だけ「すき」って書いてあった。

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――小説のワンシーンみたい……!

小林:でも、差出人の名前が書いてなかったんですよ(笑)。ただ、心当たりはありました。クラスの同級生で、当時僕が好きだった女の子です。お恥ずかしい話なのですが、なんとなく「その子も僕のことが好きなんじゃないかな」という気がしていて、文字の感じを見てもおそらくその子で間違いないだろうと。

――じゃあ、ラブレターがきっかけで仲が進展して。

小林:いえ、何も起こりませんでした(笑)。僕もラブレターの差出人を探さなかったし、あとから差出人が名乗り出てくることもなくて。その子に確認しようとも思ったのですが……気恥ずかしくてできなくて。しばらくして彼女は転校してしまったので、真相は分からずじまいです。

――なんだか、甘ずっぱいエピソードですね。

小林:今思い出してもキュンとします(笑)。それからはラブレターと無縁の人生を歩んでいたのですが、社会人になってから「もっと好きな子にちゃんと思いを伝えたい」と感じるタイミングがあって。話し下手だし、どうしたものか……と考えているうちに、自然とラブレターを書くようになっていました。だから、今ラブレター代筆をやっているのは、あの時にもらったたった2文字のラブレターのおかげなんです。

 

LINEで告白はダメですか?

――現在、文字でコミュニケーションを取ること自体は頻繁に行われていますが、「日常的に手紙を書く人」は少ないと思います。最近ではLINEやメールで告白する人もいると聞きますが、 “手紙で伝えること”とはどんな違いがあるのでしょうか。

小林:そうですね……また根も葉もない言い草になってしまいますが、基本的に“思いを伝える”という目的を果たすためならば、LINEでもメールでも、もちろん手紙でも、なんでもいいと思うんです。

――代筆屋さんがそんなこと言ってしまって大丈夫ですか?(笑)

小林:ウソはつけません(笑)。以前、就活相談に乗った大学生に「ラブレターを書くって、コンビニに行くのにわざわざスーツを着ていくみたいですね」と言われたことがあって、なるほどなぁと感心したことがあります。

――そう思っている子が手紙で告白……というのは、確かに合いませんね。

小林:その人の性格や伝えたい相手の趣向によって、適切な手段は異なります。手紙という手段は、「手紙で伝えてみようかな」と自然に思い立った人が書くことで、初めて生きてくるはず。誠実さや愚直さ、不器用さは、手紙だからこそ伝えられる人間性です。“紙に書く”こと自体が気持ちの整理につながるので、若い人たちにもぜひ、ラブレターを書いてみてほしいなと思っています。もしニーズがあれば、代筆の学割も検討していきたいなと(笑)。

 

ラブレターは2、3日寝かせて

――これからラブレターを書こうとしている人に、何かアドバイスできることはありますか。

小林:無駄に気持ちが高まってしまうので、夜中に書かない方がいいです(笑)。そして、書いたら一度寝かせること。2、3日空けて心を落ち着かせてから、受け手の気持ちを想像しながら読み直して修正する。自分の気持ちを伝えることばかりではなく、「相手を喜ばせよう」という意識を持つと、バランスが取れます。

――自分の書いたものを客観的に見るのは、なかなか難しいですよね。

小林:そして、私が皆さんに一番伝えたいのは「思いを伝えることにおいて、文章の上手い下手は取るに足らない問題だ」ということです。だって、くしゃくしゃの紙に書かれた、たった二文字のラブレターでも、十二分に思いが届くこともありますから。

――伝え方の巧拙を気にして、なかなか思いが伝えられない人は多い気がします。

小林:ラブレターというか、書くことに限った話ではありませんね。整理できていなくてもいいから、まずは思いを相手に届けることが、何より大切です。初めからうまくできなくてもいい。繰り返し言葉を重ねて、直して、つないでいけばいいんです。心から伝えたいと思っていることなら、大事な部分は必ず伝わります。そこから変わる関係、世界がきっとあるはずです。

2016年1月に出版された小林さんの著書『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』

2016年1月に出版された小林さんの著書『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』