オフィスグリコ、料金回収率を上げる「関係づくり」と「場所」の秘訣

社内の一角にある、見慣れた3段ボックス。「ちょっと小腹が空いた」「そろそろ気分転換したい」なんてときに、この「オフィスグリコ」を利用する人も多いのではないだろうか。オフィスグリコの導入企業は約10万社、そして、『お菓子ボックス』の設置台数は約12万台にのぼる。

このオフィスグリコのお菓子ボックスには、代金を回収するために口をぱっくり開けたカエルがいる。硬貨を入れるとパクッと口を閉じる姿はシュールでなかなか愛らしいが、このカエルに100円を食べさせなくても、引き出しを開いてお菓子を持ち出すことは可能だ。これで商売は成り立つのだろうか。代金をごまかす人もいるのでは……。

だが、そんな心配は実は無用。ほとんどの利用者がしっかりお金を支払っており、オフィスグリコの料金回収率は現在も「95%」超。今も回収率は右肩上がりだというオフィスグリコについて、江崎グリコ株式会社オフィスグリコ推進部・川端弘太郎さんにお話を伺った。

「人情」を信じてスタートした無人販売

江崎グリコが「オフィス向けの菓子販売サービス」のプロジェクトを開始したのは1999年。当初の販売方法は駅弁の売り子スタイルで、お菓子の入ったカゴをスタッフが抱え、各オフィスを訪ねて回った。

しかし、毎日オフィスを訪問して料金回収もその都度手渡しするのでは、手間と時間がかかって効率が悪い。販売方法を試行錯誤した末に考案されたのが、現在の「置き菓子スタイル」だ。

「オフィスグリコの置き菓子スタイルは、『置き野菜』からヒントを得て生まれたものです。路上の無人野菜販売って、あんなに無防備なのに入金率が90%くらいある。『農家の人が、雨の日も風の日も、毎日一生懸命育てた野菜を泥棒なんてできない』という気持ちが発生するからだと思います。人情を信じて、無人菓子販売をしてみることにしました」

当初はお菓子をいくつか並べた容器の隣に貯金箱を置いておくだけのシンプルな販売形式だったが、料金回収率は無人野菜販売の水準以上のレベルで、このビジネスモデルが成功する確信ができたそうだ。

「誤差が出たら◯◯さんが叱られる」販売員を思い出してもらう関係作り

しかし、消費者側の良心だけを頼りに回収率を維持してきたわけではない。川端さんが一番の理由として挙げたのは「お客さんとの関係作り」だった。

「地域密着型で、各企業には毎週同じスタッフが訪問するようにしています。同じ人間と毎週顔を合わせるというのがポイントで、スタッフにはできるだけ、声を掛け合えるような関係性を作る努力をしてもらっています」

「こんにちは! オフィスグリコです!」と元気よく挨拶をしたり、時々話しかけてくれたり……確かにオフィスグリコのスタッフさんはそんなイメージだ。このような姿勢は、入社直後に実施するスタッフ研修で教育を徹底しているという。では、このような関係性は回収率にどのように影響するのだろうか。

「関係性が密になっていくと、お客様が商品を買う際に、スタッフの顔を思い出してくれるんです。『○○さんが頑張っているから絶対お金を入れよう』『ここで誤差が出たら○○さんが叱られてしまう』って。回収できなかった料金は、導入企業ではなく江崎グリコが支払うことになっているので、企業さんも『グリコさんに迷惑かけたらいけない!』と、社内周知を徹底してくれたり、入金を促すPOPを作ってくれたりします。もし、顔が見えない、関係が薄いなどあれば、回収率は低下してしまうかもしれませんね」

関係性の密度と料金回収率の相関はさまざまなシーンで確認できる。例えばクリスマスなどのイベント時、オフィスグリコは期間限定の商品を販売するが、顧客と良好なコミュニケーションが取れているスタッフは、この注文が多い。また、限定商品を積極的に購入する企業ほど、料金回収率が比較的高いそうだ。

しかし、顧客との関わりを重視するスタッフのスタンスは、もともと料金回収率の向上を目的としたものではない。オフィスグリコは「100円でお菓子を買ってもらうデリバリー事業」ではなく、「食品を通じて、笑顔やリフレッシュ、元気などの付加価値をオフィスに届けるサービス」なのだと川端さんは語る。その付加価値の恩恵を受けている顧客からは、料金だけではない反応が返ってくるそうだ。

「『今週○○さん来ないけど、どうしたんですか?』と電話を掛けてきてくれるお客様、社内報に『オフィスグリコさん、毎回元気にありがとう』とスタッフを載せてくださる企業さんもいます。お菓子の対価も当然ありますが、スタッフが与える付加価値に100円を入れてもらっているんです」

オフィスグリコのホスピタリティが、結果として「ちゃんとお金を入れよう」というユーザーの意欲につながっていることがわかる。

設置場所で変わる回収率の差

回収率を上げるための施策は「信頼関係構築」だけではない。例えば「設置場所」は、多くの社員が行き来する執務室内、会社の占有スペースに設置するのが基本となっている。他の社員の目もある中で、リスクを冒して代金をごまかす人はなかなかいない。オフィスグリコの置き場所も回収率を左右する要素のひとつになる。

「回収率が低い企業のひとつの傾向として、無人の食堂など人の目が少ない場所に設置しています。人目のあるところに場所を変えるだけでも、回収率は目に見えて向上します。また、周知を徹底するのも効果的です。『会社がお菓子を購入してオフィスグリコを実施している』と勘違いしているケースもあり、グリコが代金の不足分を補っているという認識がない場合もありますので」

このように、現在の貯金箱スタイルはすっかり定着し、ノウハウも蓄積されつつあるが、意外にも「料金回収の方法が変化する可能性は大いにある」という。

「『自動販売機型の方がいい』と提案してくれる企業さんもいますし、この方式にこだわっているわけではないので。信頼関係により回収率は上がりますが、人間なので入れ間違いや入れ忘れはありますから。それでもお客様の利便性を損なわずに回収率を100%に近づけていくためには、弊社が常によりよい方法を見つけるべきでしょう」

瓶→カゴ→三段ボックス、容器も試行錯誤で進化

また、お菓子を入れる「容器」も改善を重ねている。「最初は、瓶の容器にお菓子を詰めたり、カゴに入れてみたりしたこともある」が、これでは見栄えが悪く、商品の補充もしにくい。試行錯誤を重ねた結果、1999年に現在の3段ボックス形式となった。オフィス空間に溶け込み、見栄えがいいだけでなく、各段のお菓子の入れ方にも工夫が施されている。

「1番上の引き出しにはタブレットやチョコレートなどリフレッシュにぴったりのお菓子、2番目にはちょっとしたおつまみになるお菓子、3番目には小腹が空いた場合にうれしい大きめのお菓子と、種類で分けています。そして週に1度、1段毎にアイテムを入れ替えます。他の2段は同じアイテムを補充しつつ、3週間ですべてが入れ替わるようになっています。ちなみに、販売しているアイテムは本部が一元管理しているので、東京から九州までまったく同じなんですよ」

こうして年間150~200種類のお菓子がオフィスに届けられる。この工夫によって、オフィスに居ながらにしてちょっとした気分転換や栄養補給ができるようになったのだ。

コミュニケーションツール、非常食としても重宝

大阪でサービスを開始した当初は100万円ほどだったオフィスグリコの売り上げは、2002年に首都圏(東京・新橋)でリリースしてから順調に成長を続け、現在は50億円に達している。シェアの増加に伴い、この15年間で、オフィスグリコに求められる役割は少しずつ変化しつつある。

「社員のコミュニケーションルームにオフィスグリコを設置される企業さんもたくさんあります。数千人規模の大企業では、部署を超えて社員同士で関わる機会が少なく、社内の一体感を保つことが難しくなります。そんな中、社員の共有スペースにオフィスグリコを設置することで、そこに部署を超えて社員を集めて、会社を盛り上げていく狙いもあるようです」

また2011年に発生した東日本大震災でもオフィスグリコが活躍するシーンがあった。多くの人々が食料を求め、コンビニでも食品の売り切れが相次いだ地域では、「オフィスグリコが非常食の役割を果たした」との声が寄せられたそうだ。

このように、コミュニケーションツール、災害時のリスクヘッジにもなるオフィスグリコだが、一方で、設置を断られるケースもまだまだあるという。

「お金絡みのトラブルを心配されるケースはまだあります。95%以上入金されることはわかっているので、その時は『随時、結果報告もさせていただきますので、まずはテスト期間から設置させてください』とお伝えしています」

15年間コツコツと信頼と実績を積み重ねてきたオフィスグリコ。その自信を川端さんの言葉から感じることができる。現状に満足することなく、今後もサービスの改善と導入企業数増加、展開エリアの拡大に挑戦していく。

「引き続き、オフィスグリコを通して、オフィスで働く皆さんにリフレッシュメントとコミュニケーションの機会を提供し、日本の企業さんに元気になっていただきたいです。まだまだ導入企業はほんの一部。日本全国のオフィス空間に、もっとオフィスグリコを届けていきたいです」

(真崎睦美+ノオト)