ローカルと大企業のコラボ、成功の鍵は「地域を主体にテックはシンプル」

「シビックテック(CIVIC TECH)」という言葉をご存じだろうか。

シビックテックとは、市民(シビック)がテクノロジーを活用して地域課題の解決や地方自治の効率化などを目指す活動であり、公共とITの新しい関係を模索するためのキーワードともいえる。米国では2014年頃からシビックテック市場が活発化する傾向を見せ、それに伴い投資の動きも盛んになってきている。

日本でも、シビックテック活動を推進するCode for Japanを中心に草の根的に広がりを見せており、さらにその取り組みへの参画や支援に乗り出す大企業も出てきた。シビックテックと大企業とのコラボレーションが何を生み出すのか。ボランティアの域を超えたビジネスとしての成功の鍵はそこにあるのだろうか。リクルートの取り組みから探る。

昨年の第1回CIVIC TECH FORUMでは「2015年はシビックテック元年の年となる」と語っていた麻生氏

昨年の第1回CIVIC TECH FORUMでは「2015年はシビックテック元年の年となる」と語っていた麻生氏

「2015年は宣言した通りのシビックテック元年の年だった」。

リクルートホールディングスMedia Technology Lab 室長の麻生要一氏は、3月27日開催された「CIVIC TECH FORUM 2016」において、同社がこの一年、取り組んできたシビックテックの事例や成果について、また、その中で見えてきた今後の課題について語った。

リクルートでは常時10以上の事業が同時進行するが、「地域や社会の課題に対してはシビックテック的な事業参入を行い、収益を上げながら解決していくアプローチが多数出てきている」と麻生氏は話す。そして、リクルートとしては、ビジネスとして参入するという直球的な関わり方よりは、まずは“ITで社会課題を解決する人たちを応援する”取り組みを積極的に行ってきたという。

取り組む人たちを“無償”で応援する

その取り組みの一つとしては、「MASHUP AWARDS」がある。同アワードは、パートナー企業とともにリクルートが10年来続けてきた、今や日本最大級のハッカソン。今年はシビックテックを盛り上げるために、「シビックテック部門賞」を用意。千葉市のお祭り情報が市民の手によって入力され、検索できる「お祭りデータセンターby Code for Chiba」が、優秀作品として選出された。

シビックテックの活動を支援する”場づくり”としては、東京・渋谷のアップルストアと同じビルに作った会員制スペース「TECH LAB PAAK(テックラボパーク)」を開放している。

テックラボパークは入会審査ありの会員制だが、施設自体は会員であれば無料で利用できる。IT業界著名人や開発者からメンタリングを受けたり、イベントに参加したりと、そこでの出会いが新たなイノベーションを生み出すきっかけになっているという。実際にテックラボパークの会員が手がけたシビックテック関連事例にはこんなものがある。

・介護状態のお年寄りの排泄を感知して介護者に知らせるIOTデバイス開発を行う「aba
・スマホにたまった子どもの動画をおまかせ整理できるスマホアプリ「filme
・心停止の現場にすぐに付近の救助者を呼んで命を救うSOSアプリ「AED SOS
・ハッシュタグでつぶやくとフォトプリントしてくれる「SnSnap
・病院にいる子どもたちにプロジェクションマッピングを持ち込み笑顔にする活動「デジタルホスピタルアート

TECH LAB PARKがこれまで支援してきた入居者は、160組400人ほどになる

TECH LAB PARKがこれまで支援してきた入居者は、160組400人ほどになる

有償事業として成り立たせる道も模索

リクルートは、シビックテック活動を無償で支援する一方で、有償事業として成り立たせる道も模索している。果たしてビジネスとしての成果を見せているのか。

「地域課題にどう向き合うのかというのをやってきた一年」と麻生氏。中でも「昨年夏に開始した『Smart City Innovation Program』は、大企業がやるには画期的なプログラムだった」と振り返る。これは、三井不動産グループと柏市の行政と共に行ってきた地域密着型のオープンイノベーションプロジェクトで、「柏の葉」の町が実証実験の舞台となって進められたものだ。

「“柏の葉っカソン”と題して、『地域活性のビジネスのアイディアを何でもいいので持ってこい』とリクルート国内従業員1万人に対して投げかけ、最終的には、事業リーダーと市民、行政、ディベロッパー、不動産会社と誰が誰だかわからないくらい混じり合ってディスカッションを行った。」(麻生氏)

今回のようなリクルート新規事業開発プログラムをオープンイノベーションとして外に開いたのは初めての事例とのこと。「これまで大企業の新規事業開発というとオフィスの中で、クローズドで進め、最後にリリースという感じだった。今回画期的だったのは、まだビジネスとしてやるかどうかも、アイディアとして筋がいいかもわからないレベルから市民の方とブラッシュアップしてサービス化していくというところ。機密情報の観点での懸念を指摘されることもあったが、そこは必要な調整をしながら進めた」と麻生氏。

また、長野県塩尻市とソフトバンクと共同で実施したフィールドワークでは、市長に対して行った政策提言の中から3つの提案が進行中であること、三重県菰野町で2月にリリースした過疎地でのカーシェアリングビジネスについても語られた。

セッションの中で紹介された数々の応援プロジェクトとリクルート自身のビジネスプロジェクトが描かれた「グラフィックレコーディング」

セッションの中で紹介された数々の応援プロジェクトとリクルート自身のビジネスプロジェクトが描かれた「グラフィックレコーディング」

シビックテックの主役は地域、UIやUXは「どうでもいい」

セッション後半では、この一年の取り組みの中で、見えてきた3つの課題について語った。

「1つには、シビックテックの主体は地域でないといけないという当たり前がある。“テック”っていうけれど、地域の人たちは、ほとんどテックはわからない。タブレットを導入しても実はUIもUXもほぼどうでもいい。そもそもボタンの入れ方がわからないところにテクノロジーをいれていく。そこでは、地域の人たちを主役にして地域の熱量をどう起こすかが要だ」という。

2つ目に上げたのは運用の大切さである。「こと地域課題に関しては、テクノロジーは低くていい、もしくは高いテクノロジーがあるとしても、いかにシンプルにするかがカギ。テクノロジーよりも運用が重要。どれだけフロー化するかのほうが大切」と説明した。

3つ目として“地域課題に取り組むための課題”を踏まえた上で、「先進的な市民団体や自治体の方はいるので、小さな事例を作りながら繋げていくしかない」と事例を積み上げる大切さを語った。

麻生氏は、最後に「2016年、リクルートは地域課題を解決することによって社会課題を解決し、この世界をもっとよくしていきたいと思って活動していく。一緒に盛り上げていきましょう!」と力強く述べ、セッションを締めくくった。

一年間の取り組みで見えてきた課題

一年間の取り組みで見えてきた課題