「ブレーキ役の番頭」は古い? 今、スタートアップ“No.2”に求められる役割とは

左からフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリ取締役の小泉文明氏、ファッション通販「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ取締役CFOの柳澤孝旨氏、アート事業で注目を集めるチームラボ取締役の堺大輔氏

左からフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリ取締役の小泉文明氏、ファッション通販「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ取締役CFOの柳澤孝旨氏、アート事業で注目を集めるチームラボ取締役の堺大輔氏

スタートアップ企業の「顔」となり、注目を一身に集めるのは、会社のトップに位置する創業者(社長)だ。No.1を補佐し、番頭役として会社を切り盛りしていく「No.2」が脚光を浴びることはあまりない。

だが、資金調達に始まり、マーケティング戦略や人事・採用といった泥臭い部分も含めた仕事を担うNo.2を抜きにしては、会社の運営や成長は立ち行かないのも事実だ。

そんな「No.2のお仕事」にスポットを当てるイベント「第二回 No.2サミット」を、エウレカが3月28日に開催。メルカリ、スタートトゥデイ、チームラボの現役No.2が登場。ユニークな個性を持つNo.1とどのような関係を築き、自社の成功に向けて何を心がけているのかを語った。モデレーターは、グロービス・キャピタル・パートナーズのプリンシパルを務める東明宏さん、エウレカ共同創業者で取締役副社長COOの西川順さんが務めた。

「二人では飲まない」No.1との関係性

各氏のNo.1との出会いはさまざまだ。

元々大学の同級生で、阿波踊りが縁で友人だった猪子寿之氏が「会社を始める」と聞き、面白そうだから参加したというチームラボの堺大輔氏。過去に手がけたmixiを超えるものを作らなければ意味がないと考える中、コンシューマー向けスマホアプリに可能性を感じて参加を決めたメルカリの小泉文明氏。そして、ファッションは良くわからないながら、ベンチャーに興味を抱いていたこともあってジョインしたスタートトゥデイの柳澤孝旨氏。

三者三様、No.2として会社に参加した背景は異なるが、No.1に対し、「彼は自分にできないことができるし、彼ができないことを自分はできる」という思いを抱いているのは共通のようだ。文字にしてしまうと当たり前に思えるが、そうした人物と出会い、関係を築けるのは幸せなことのように思える。

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「プロダクト系は(社長の山田)進太郎さんに任せ、それ以外は全部僕が担当してます、という具合に分かれている」と語るメルカリの小泉氏

では、プライベートでも常に一緒かというと、それほどベタベタな関係というわけではない。意外なことに三氏とも、No.1と二人で飲みに行ったことはあまりないという。

スタートトゥデイの前澤友作氏のように毎日会社に来ないNo.1もいるが、「IPOの時は週に1度のペースでミーティングを行っていましたし、その後も定例ミーティングでコミュニケーションは取れてます」(柳澤氏)。堺氏も「会議室がオープンな会社なので、お互いに何をやっているかが何となく分かる」と述べた。

実はNo.2の方がイケイケ?

世間一般が抱くスタートアップのイメージで言うと、創業者社長がアクセル全開で突っ走り、No.2が「リソースに限りはあるのだから」と必死にブレーキをかける……という先入観がある。しかし実像は真逆のようだ。

「進太郎さんが想定しているリスクを超えることをしたがることはありますよ。社内で社長と交渉する戦略として、『(No.1が)上限をどこらへんまで考えているのか』を探るためにあえて大きく出すこともあるが、基本的にはNo.2がROIを意識するとつまらなくなると思う。No.2がどーんと出て、トップに見えていない未来を見えるようにするのも一つの役割」(小泉氏)

柳澤氏も「実は一番石橋を叩くのが前澤で、自分がブレーキをかけることはあまりない」そうだ。

堺氏も全く同じだ。同氏はさらに「『本当にいいものを作りたい』と思って作るものでなければ、いいものにはならない。それを引き出すことが大事だと思っているので、僕が止める必要がない」と述べた。

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スタートトゥデイの柳澤氏は、社長の前澤氏の第一印象について「アーティストだけれど同時に商売人で、右脳と左脳の両方を使える人という印象」と語る

とはいえ仕事の世界である。No.1をたしなめたり、反論したりすることはないのだろうか?

小泉氏は「マネージャー会議などで高いレベルの議論がしたい時に、あまりに細かい話を始めたので不満な態度を出したことはあります(苦笑)。細かいことを社長が言うことで周囲が発言を萎縮することはありえるので、あえて苦言を呈するのもNo.2の仕事だと思っている」と述べた。

ちなみにメルカリの山田社長にも得意ではないことはあると小泉氏。だが、誰かが社長にも言わなければならないと思うので「愛を持ってあえてダメ出しもしている」そうだ。

一方、スタートトゥデイの前澤社長はメディアにたびたび登場。時にTwitterで炎上も引き起こしたこともあるが、「第一報を聞いたときは『えっ』という感じ(笑い)。事業計画など仕事に関しては『ノー』を言うけれど、そういうことで怒ったことはない」と柳澤氏は述べた。

もともと番頭タイプ? No.2の適正とは

セミナーの後半、テーマはNo.2としての働き方に移った。

小泉氏と堺氏は元々No.2タイプだったわけではない。むしろ学生時代から部長やキャプテンなどNo.1としての経験を積んできた方だ。

「けれど、社会人になって人をサポートする楽しさを知った。トップのつらさも分かっているので、うまくサポートができるかなと思っている」(小泉氏)。

一方柳澤氏は「僕は番頭タイプ。自分のキャリアを振り返っても、自分はサポートする方が性に合っている。どちらにしても、No.2に向いているタイプが特にあるわけではないと思う」と述べた。

「要はNo.1との『組み合わせ』。無茶なことを言うNo.1をうまくハンドリングし、彼が持っていないものを補うのがNo.2の仕事」(小泉氏)。

チームラボの場合は、猪子氏との関係だけでなく創業メンバー全員の間でうまく補い合い、バランスが取れていたという。「最初のうちは、社長だからどうとか、No.2だからこうだという余裕もなかったが、だんだんそれぞれ得意なところに落ち着いていった。要は役割分担だと思う」と堺氏は振り返った。

スタートアップが成長を遂げるまでの道のりは平坦ではない。その中で揉め事はなかったのかも気になるところだ。

これに対し小泉氏は、「事業がうまくいけば大丈夫。『数字がすべてを癒す』ではないけれど、ちょっとむかつくことがあっても、結果が出れば『俺たちっていいチームだな』と言える。事業を伸ばしていくことがすべてであり、それ以外に意味はない」と述べた。

また柳澤氏は「うちは、昔は前澤と他のメンバーとの間で圧倒的な経営視点の差をメンバーが理解していたので、前澤が言ったことを実現するのが役員、という役割分担ができていたのでうまくいったと思う」と言う。

堺氏は「それぞれが『どうやったら会社が伸びるか』『どうやったらいいものができるか』という外向きのことを考えていれば大丈夫。逆に、内向きの会話が多くなるとよくない」と語った。

社員が増える中での課題は?

事業がうまく行けば、社員を増やさなければならない。だが社員が増えたら増えたで、No.2としての新たな課題が生じそうにも思えるが、あまり意識したことはないそうだ。

「とにかくその時々で『いいものを最短距離で作るにはどうしたらいいか』を突き詰め、チーム編成を少しずつ変えてみたり、不具合があれば一つ一つ変えるということをずっとやってきた」と堺氏。

小泉氏も「組織って連続的なもので、急に人が増えるということはないから、課題はその時々で向き合っていけばいい。その一方で事業は、いかに非連続的に成長させるかが課題。その中でうまく機能する仕組みや組織を作るため、見えている課題をつぶしてきた」と説明した。やってみてうまくいかない制度があれば、職場のテンションなどで「何となく分かる」のだそうだ。採用はクオリティを重視し、これと見込んだ専門性を持った人に加わってもらい、得意な業務を引き渡す形で組織を大きくしていったという。

柳澤氏は、ファッションに特化したEコマースプラットフォームを展開する会社の特性上、社長や役員など上の人たちよりも、現場のメンバーとのコミュニケーションに心を砕いたそうだ。「ファッションを扱う会社なので、入社日にスーツで会社に行ったら、まあ浮きまくり(笑)。でも当時は上場に向けた準備も進んでおり、やってもらわなくてはいけないことも多かったので、現場の人に声をかけて話を聞くようにした」という。

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チームラボの堺氏は社長の猪子氏について「自分の足りないものを持っている人を引きつけるのが本当にうまい」と語る

もう一つ、会社が成長し、メンバーが増えるに従って、社長のビジョンや人となりを知っている世代と、そうでない世代とのギャップが生まれることもある。この橋渡しをどう進めていったのだろうか。

メルカリの山田氏の場合、「本人が実直なキャラなので、社内プレゼンよりは、代わりにメディア取材を受けて記事にしてもらい、そこから本人の考えを咀嚼させるようにしている。前職のmixiの笠原さんもそうだった」(小泉氏)

前澤氏は真逆でプレゼンが得意なので、イベントなどでどんどん前に出ているそうだ。人材採用のポイントも「能力採用ではなく、理念採用で、当社の理念に共感できる人を取っている。おかげでエンジニアの採用は大変だけれど(苦笑)」(柳澤氏)。

チームラボの猪子氏も、どちらかといえばメディアを使ったメッセージ発信が多いが、それ以上に「チームラボは抽象的な理念を話すのが嫌いな会社で、モノを作れる人が強い。だから理念を語るよりも、現場の具体的なレビューの中で『なぜこう考えるか、なぜこうするか』を伝え、議論の中で深めている」と堺氏は説明した。

進言を受け入れてほしいが、変わらないでほしいとも思う

No.1とビジョンを共有し、ともに会社を成長させることに意義を感じているNo.2。時に衝突することはあっても、根底にはNo.1への「リスペクト」や「信頼」があるだろう。

「その気持ちをどのように伝えているか?」という質問に対し、堺氏は「忘年会で社員に渡す『サンキューカード』の中でメッセージを伝えている」と答えた。また小泉氏は、「役員は全員、四半期ごとに360度評価を行っており、その中でいいことも、注文もコメントとして書いている。数字が伸びているときは何もなくてもいいかもしれないが、やはりきちんと本音を伝えることは大事」と述べている。

では、こうしたNo2.からの直言を素直に聞いて従ってくれればいいのかというと、そうとも限らないのが面白いところだ。

「僕の言葉を聞いてくれないこともあるけれど、変わらないでいてほしいと思うこともある。とにかく彼には得意なところを突き抜けて、いびつでいてほしい。不得意なところはみんなで分担すればいい」と小泉氏。堺氏も「不得意なところを直そうとしないで、得意な範囲をひたすらやってほしい」と語った。

最後に、そもそもNo.2の役割とは何なのか、No.3以降の代表としての役割をどの程度意識しているのかという質問に対し、「自分はNo.2だとは思っていない。ただ、少なくとも自分が管掌している部門の社員たちに関しては社長に対する『ご意見番』で、何かあったときにはいつでも責任を取るという気持ちでやっている。このポジションにしがみつかない気概でやらないとダメだと思っている」と柳澤氏は語った。

小泉氏は「僕の夢と山田の夢は同じで、この船の舵をどう切るかは僕の腕にかかっている。一方で、進太郎さんには、自由にやらせてもらえるだろうという甘えもある。だからこそ失敗できないし、結果を出さなくてはいけない」と決意を口にした。

堺氏も「猪子がどうとかは関係ないし、No.2もNo.3もない。チームラボの一員として、皆がものづくりをやりやすくするにはどうしたらいいかを考え、支える役割を果たしていきたい」と述べている。

3人のトークはアルコールを交えたゆるい空気の中で進んでいった

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