AIがテレビCMを企画、その実力は?

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とある外資系広告代理店の、テレビCMの企画会議。メンバーたちはロボットを囲み、お菓子メーカーの新しいCM案を出し合っています。

メンバーが広告クライアントの目的や訴求内容をプログラムに入力すると、ロボットからこんなアイデアが出てきました。

「夫婦愛」を、
「民話パロディ」をつかって、
「シュール」に、
「想定外」を印象付けて、
「ほろり」とさせろ。

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このロボットの名前は「AI-CD β(エーアイ・シーディ ベータ)」。テレビCMの方針を決めるクリエイティブディレクターとして、マッキャンエリクソンで4月1日から稼働しています。

クリエイティブディレクターといえば、クライアントの要望を聞いて、誰に、どんなメッセージを、どう伝えるか、といったことを決める役割です。

AI-CDが担当するのは「クリエイティブディレクション」

AI-CDが担当するのは「クリエイティブディレクション」

AI-CDは、日本で広告賞を受賞した作品を含む、さまざまなCMをデータベース化。この情報をもとに、人工知能を使って最適なディレクションを行うそうです。

近い将来、単純な作業だけでなく、クリエイティブな仕事までもが人工知能に奪われるという議論がありますが、果たしてAI-CDの実力やいかに。東京・南青山にあるマッキャンのプロジェクトメンバーに聞きました。

AI-CDを手がけたのは、1980年〜2000年前半生まれのメンバーで構成されたプロジェクトチーム「マッキャンミレニアルズ」の4人。左から岩崎菜都美さん、折茂彰弘さん、松坂俊さん、吉富亮介さん

AI-CDを手がけたのは、1980年〜2000年前半生まれのメンバーで構成されたプロジェクトチーム「マッキャンミレニアルズ」の4人。左から岩崎菜都美さん、折茂彰弘さん、松坂俊さん、吉富亮介さん

10年分の広告賞作品を因数分解

ーー広告賞を受賞したCMを分析するだけで、優れた企画が生まれるものなのでしょうか。

松坂:テレビCMといってもかなりの本数があるので、まず僕らは日本の最高峰のアワードである「ACC CM FESTIVAL」に注目しました。過去10年で受賞した1000本近くのCMをデータベース化して、それぞれにタグを付けています。

ーー具体的にどんなタグを付けているのでしょう。

松坂:CMを構成する要素ですね。

例えば「挑戦」や「想定外」といったCMのコンセプト、「親子」や「夫婦」といったCMに登場するモチーフ、「シュール」や「コミカル」といったCMのトーン、「映画的」や「民話パロディ」といったCMの手法、「販売促進」や「機能的価値訴求」といったCMの目的、「M1層」や「F2層」といったCMのターゲットなどです。

これらは一例で、実際にはもっと多岐にわたりますが。

ーー過去のCMを因数分解する感じですね。

松坂:日本にはこれまで、CMを体系的に分解する取り組みがありませんでした。というのも、CMの世界はクリエイティブディレクター自身が売り物で、名指しで仕事が発生する属人的な世界だからです。

敏腕ディレクターの「暗黙知」、どう再現?

ーー敏腕ディレクターの発想は「暗黙知」的なものだと思うのですが、人工知能で再現できるのでしょうか。

松坂:ACCを受賞するようなクリエイティブディレクターは、自分なりのパターンを確立している人が多いかと思います。過去の作品をタグ付けしていくことで、そういう手法を取り込んでいくことはできるかと。

AI-CDが提案した企画は、我々の方で評価をフィードバックします。この企画はコンセプトが良かったけど、手法がダメだった、などと評価することで、クリエイティブの精度を高めていく感じです。

CMの目的や訴求内容、ターゲット、NG事項などを入力すると、過去の事例をもとに最適なクリエイティブ案を弾き出してくれるという

CMの目的や訴求内容、ターゲット、NG事項などを入力すると、過去の事例をもとに最適なクリエイティブ案を弾き出してくれるのだとか

ーー過去の作品の“焼き直し”ではない企画が出てくるのでしょうか。「夫婦愛を民話パロディで」というお菓子メーカーの企画は、携帯電話会社のCMで見たことがあるような……。

折茂:民話パロディというのはauのCMで使っている手法ですね。想定外はソフトバンクが以前使っていたものです。

ーーそれは焼き直しではない?

折茂:「夫婦愛をシュールに」という組み合わせは、普通に考えるとなかなか出てこないかと。人間って無意識のうちに「この単語の組み合わせはありえない」と切り捨てがちですが、AI-CDはそうはなりません。

バカの概念を知らないAIの強さ

松坂:人間だと「こんな言葉を組み合わせてバカなの?」と思われないように自粛しますが、AI-CDは怖いものがない。そもそもバカの概念を知らないですし。データから導かれる最適解を出してくれるのは、ある意味でピュアなディレクションだと思います。

あえて逆張りの提案もできます。

先ほどの「夫婦愛をシュールに」は、過去1000本のCMをもとにした「ありえそうな成功パターン」です。アルゴリズムを調整することで、「過去に存在しなかった成功パターン」を意図的に提案することもできます。競合商材で似たような表現があった場合、その業種が今までやったことのない領域をデータベースから探してくる感じですね。

ーーあまりに突拍子もない企画が出てきた場合、人間がストップさせてしまいそうです。

松坂:それはあるかもしれませんが、偏見にとらわれないアイデアを出してくれるのはありがたいです。実際に企画会議では多くの人間がアイデアを持ち寄って、それぞれのアイデアのいいとこどりをすることもありますし。

斬新な企画って、大御所ディレクターが「これが新しいんですよ〜」と言うことで、クライアントの信用を得ている部分もありましたが、AI-CDはデータに基づいた仮説を提案できるのが強みだと思います。

4月1日には新入社員11人と入社式に参加した

4月1日には新入社員11人と入社式に参加したそうです

ーー自分の仕事が取って代わられる危機感はあるのでしょうか。

松坂:しばらくはないかなと。まだまだ学習が必要ですし、CM制作の流れを見ても、AI-CDができるのはごく一部に限定されているので。僕たちをアシストしてくれる仲間として期待しています。

折茂:AI-CDがハッとさせるようなアイデアを出し、それを僕たちがクリエイティブ面で拡張する。そんな共存の道があると思っています。

あえてロボットにした理由

ーーそもそもの話なんですが、ロボットである必要性ってあるんですか。

折茂:「入社」という形にこだわりたかったんです。人工知能がクリエイティブな仕事を代替するという議論がある中で、広告代理店が人工知能を作るという単純な話よりも、ロボットを新入社員として採用したという話題のほうが、世の中に一石を投じられるのではと。

ーーロボットアームは何のために。

松坂:業界あるあるな話なんですが、クリエイティブディレクターって、アイデアを紙に書き出して「こういう感じ」と示す人が多いんです。AI-CDは業界のレジェンドっぽく、筆で書いてもらおうと。

大御所クリエイティブディレクターよろしく、筆でアイデアを書くそうです

大御所クリエイティブディレクターよろしく、筆でディレクションを書くそうです

ーー実際にクライアント先で提案しているのでしょうか。

松坂:新入社員なのでまだ“研修中”なのですが、すでにクライアントからの引き合いも来ています。まもなく筆でディレクションを書けるようになるので、クライアントのもとに出向いて提案していく予定です。


プロジェクトのリーダーを務める松坂さんによれば、開発のきっかけになったのは、Netflix発の大ヒットドラマだったと言います。

Netflixは過去数年分の視聴者の行動データをもとに、次のようなデータを算出しました。

「ケビン・スペイシー主演で、デビッド・フィンチャー監督作品で、政界物ドラマを確実に好む」

Netlfixはこのデータを踏まえて制作費10億ドルを投じ、同社初のオリジナルドラマとなる「HOUSE of CARDS」(邦題:ハウス・オブ・カード 野望の階段)を制作。その結果、ネット発の作品として初めて、テレビ業界のアカデミー賞と言われる「エミー賞」を受賞しました。

この快挙を目の当たりにした松坂さんらは「広告業界でも再現できる」と考え、会社を説得してAI-CDの開発に着手。構想から約1年で稼働するまでに至りました。

AI-CD発のクリエイティブが日本最大級の広告賞を獲得する日は来るのか。プロジェクトチームは、人工知能との共存の道を探っていきます。