「土建はパンクだ」建築会社の社長がつくった異色の土木マガジンの魅力

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土木建築の現場を追ったカルチャー雑誌「BLUE’S MAGAZINE」(以下、ブルーズマガジン)をご存知だろうか。ハードな作業、泥で汚れて汗を流す、猛々しいイメージの職人たち。いま目の前にあるあらゆる建築物は彼らがつくった。だけど、その業界のなかのことは、ほとんど知られていない。

ブルーズマガジンは職人の働き方、生き方を追った異色のフリーペーパー。建築会社を経営しながら、いきなり「感電社」という出版社を立ち上げた柳知進氏と石丸元章氏に、土建カルチャーにかける想いを聞いた。

「感電社」を立ち上げた建築会社社長の柳知進さん(左)と作家の石丸元章さん(右)

「感電社」を立ち上げた建築会社社長の柳知進さん(左)と作家の石丸元章さん(右)

「犯人は土木作業員を名乗っており…」への疑問

ーーそもそも、なぜ出版社を立ち上げたんでしょうか。

柳:僕は東京にきたのが19歳のとき。17年前に兵庫から上京してきたんですけど、そのときはパンクバンドを組んでたんですよ。東京でひと旗あげようと思って、ミュージシャンを目指していたんです。

上京する前も実家のほうで親父が経営する土建屋がありまして、ろくでもない息子でしたから、そこに放り込まれて働いてたんですね。で、いざ土建屋に入ってみたら、前から憧れてたパンクバンドのアーティストたちとなんら変わりのない世界だった。むしろこっちのほうがかっこいいんじゃないか、という人がいっぱいいたんです。

反社会的な音楽のジャンルと言われるのがパンクバンドなんですけど、たぶんそこに僕は惹かれてパンクが好きだったんですよね。でも、そんな雰囲気の人たちが土建屋にはたくさんいて、しかも現場に出れば、ものすごい輝きを放っていた。いわゆる現場がライブに見えたんですよ。

それをみたときに、「なんでここに絶えずスポットライトが当たらないのか」と考えるようになりました。疑問がどんどん湧いてきたんです。たとえば何か事件が起きたとき、ニュース番組で「犯人は土木作業員を名乗っており…」って聞いたことないですか。

ちょっと悪いイメージとか、汚いイメージとか、そういうところばっか取り上げられて、実際の工事現場の仮囲いの中で光を放っている人たちの魅力が、まったく伝わらないんですよね。ゼロです。そこにずっと違和感を感じていました。

BLUE'S MAGAZINE第5号では、柳さんと石丸さんが「なぜ自称・土木作業員は、粗暴犯で捕まるのか?」をテーマに対談した

BLUE’S MAGAZINE第5号では、柳さんと石丸さんが「なぜ自称・土木作業員は、粗暴犯で捕まるのか?」をテーマに対談した(クリックで拡大)

パンクバンドと土建屋、スタイルは何も変わらない

柳:僕、23歳でいろいろ事情があって独立することになったんです。その時に1つの決断を迫られました。いわゆるパンクバンドで音楽をやることと、土建屋で社長をやること。でもどちらにしても、実はパンクスとして生きていくことに関しては何も変わらない。スタイルは変わらないんだということに気づいて、そこで音楽をやめちゃって、土建屋を始めたんです。

土建屋をやりながら、この仕事をライブとして、外に発信したい気持ちがずーっとありました。これはどういう形で世間に光を当ててもらえばいいのかって、考え続けていたんですよね。

で、そこから長く時間が経つんですけど、2014年にTwitterで石丸さんと出会うことになりました。石丸さんに「とにかく光を当てたいんだ」という話をして、雑誌を作ってみたいって相談したんです。そうしたら石丸さんが3分後くらいに「やりましょう」って返事くれて(笑) めっちゃくちゃ早かった。

3日後にくらいに「よし、出版社立ち上げよう」という流れになりました。いま考えたらね、わけわからないですよね(笑)

石丸:土建会社っていうと古いイメージがあるかもしれないけどね、実はネットから生まれた土建系出版スタートアップなんです。ネット企業なんです。Twitterから生まれてるんです。

感電社の立ち上げは、面識がなかった石丸さんにTwitterで雑誌を作りたいと呼びかけたのがきっかけだった

感電社の立ち上げは、面識がなかった石丸さんにTwitterで雑誌を作りたいと呼びかけたのがきっかけだった

時代遅れなのは雑誌ではなく、出版社の収益バランス

ーー出版不況と言われてますし、雑誌を作るってなかなか勇気のいることだと思うんですよね、ネットだとすぐできるじゃないですか。

柳:ウェブでなんか物書いてたりしても、どうも情報がだらだらと流れていって、止まらないと感じていて、石丸さんとは「紙にこだわりましょう」っていう話はしてたんですよ。

なんか流行りでウェブに行くっていうよりは、雑誌にこだわりたい。それはやっぱり手にとって立ち止まる、情報が1回そこで止まる感覚。そういうところにこだわる意義があるだろうって話していました。

石丸:出版不況って言われているけど、それは印刷された雑誌のスタイルが必要とされてないんじゃなくて、いままでの収支をつけるスタイルが時代遅れになりつつある。編集者がたくさんいて、お給料がこれくらいで、都心のいい場所にオフィスをかまえて、流通にこれだけお金払って……。そういうバランスが崩れたから成り立たなくなっただけ。

そのバランスを組み立て直していけば、もう1度カルチャー誌を、読者の手に届けるまでの新しい流通経路が立てられるんじゃないのかな。収支のバランスも含めた全体設計を組み直してみたのがブルーズマガジンなんです。

だから、うちは取り継ぎとか、小売を通ってないじゃないですか。そういうところでお金を減らしていったり、いろいろなやり方を考えたんですよね。

なんでもありっちゃなんでもありで、ステッカーやTシャツを作って、物販をやってみたりとか。この雑誌が1つのライブハウスの箱みたいなイメージです。

あえて紙にこだわった理由を語る石丸さん

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夜の工事現場はステージだ

ーー現場で働く人のなかには、「雑誌に出たい」という人も多いのでは?

柳:おかげさまで、最近増えてきましたね。やっぱり初めの頃は、「なんじゃこりゃ!?」ていう反応だったんですよ。でも、いまは職人が手にとって、「やっぱり自分の親方が写ってたら嬉しい」とかね。そういう反応がある。それで「僕も載りたい」と、最近は言ってくれるようになりました。

「親方」の肉声を紹介する特集では、本邦初(?)の全国親方名鑑も掲載した(第4号より、クリックで拡大)

「親方」の肉声を紹介する特集では、本邦初(?)の全国親方名鑑も掲載した(第4号より、クリックで拡大)

石丸:いままで土木の現場をカルチャーの視線で撮影したカメラマンなんていないわけですよね。そしてライターもいない。

とにかく俺たちでアングル探そうと、初めて穴の中に入って、シャッターを押すわけです。そのときは、「なんだ、取材?」っていう雰囲気もあるし、カメラ向けると、ぷいってみんな顔をそむけちゃう。口も聞いてもらえないし、すごく大変だなあ、と思いました。

それがやっぱり雑誌を出していくうちに、だんだん話も聞いてくれるし、ここぞというシーンを撮らせてくれる。ちゃんとポージングしてくれる。要するにステージの上なんですよね。これからもっといい写真が撮れていくんだろうなと思います。

土建の現場というのは非常にユニークな人間や、風景や、一瞬の炸裂が撮れる、面白い舞台なんですよ。しかも夜通しで工事をやっていて、朝になるとすっと普段の姿に戻してしまう、非常におもしろい舞台装置なんです。

24時間掘られ、削られ、埋め戻される東京の工事現場にスポットを当てた特集(第3号より、クリックで拡大)

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ーーたしかに一般の人たちからは見えていない特別な舞台です。

柳:なんで雑誌をやろうと思ったか。一番初めはやっぱり「その舞台に光を当てたい」っていう大義があったんですね。でもいまはその大義がさらに強くなってて、それは1つに社会問題と大きく関わりがあります。

東日本大震災、国立競技場の問題、福岡天神再開発、あとは東京都内の耐震化の問題も。つまり職人が不足している。求人広告を出したくらいじゃ、電話が1本も鳴らない状況の中で、仕事はもう毎晩迫ってきている。そんな状況なので、工事の入札自体が不調になるくらい人が足りていなかったんですよ。

そこをいろいろ調べていくと、やっぱり就労者数がどんどん減っていってることがわかりました。世代ごとにその傾向はあって、例えばいままで330万人いる就労人数が、10年後には230万人くらいまで減るって言われてますね。

誰かが立ち上がらないとまずいぞ、という思い

ーー高齢化している、ということですか。

柳:そうです。まさに高齢化していて、若いやつも入ってこない。商売としては、おいしい状況かもしれない。ただ立っていれば、仕事はくるし、生き残れる。でもね、もうそんなレベルを超えて危機感しかない。

だって、いま暮らしていくなかで当たり前に使えるもの、建物も道路も水道も、下水もガスも、全部が当たり前じゃなくなる時代がきてるんですよね。これはもう誰かが立ち上がらないとまずいぞ、という思いがある。

現場で働く外国人労働者にスポットを当てた連載「遠く離れて」(創刊準備号より、クリックで拡大)

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石丸:要するに就労の問題ですよね。それもあるし、この仕事は大変だけど、やりがい、働くことの実感がある。ここにはね、大変だけど人間関係もあるし、大変だけどドラマもあるし、大変だけどお金を稼ぐこともできるし、自分自身のまぎれもない人生のドラマの要素、舞台があるんだから。

無理だったらしょうがないし、ここに来れば誰でも輝けるとか、誰でも良くなるとは全然思わないけど、わけがわからないまま「イスラム国入っちゃおうかな」みたいな人には、お前さ、ここに来てみろよ。そう伝えたいよ。

いま「カルチャー」ってものがなくなってきてるでしょう。カルチャーと、カルチャーの集まる場所がない。ブルーズマガジンはカルチャーを伝えたいんですよね。「土建の世界だって、知ってたほうがいいよ」って。

柳:本当にそう。いままでは、一定の枠組みの中でカテゴライズされた、たぶん「不良」という言葉が当てはまるでしょうね、暴走族やったり、ニッカポッカ履いた先輩が好きで、その先輩に憧れて鳶職を始めたりする人が多かったよね。

でも、いまはまた違う輝き方もあるんです。

後編に続く