「人生すべて建築物の中にある」土木雑誌BLUE’S MAGAZINEがいま伝えたいこと

前回に続き、土木建築の現場に迫る異色のカルチャー雑誌「BLUE’S MAGAZINE」(以下、ブルーズマガジン)を立ち上げた感電社のトップにインタビュー。建築会社の社長でもある感電社・代表の柳知進氏、編集者の石丸元章氏に、土建カルチャーのいまを聞いた。荒っぽさだけではない魅力が見えてくる。

「感電社」代表の柳知進さん(右)と作家の石丸元章さん(左)

作家でブルーズマガジン主筆の石丸元章さん(左)と「感電社」代表の柳知進さん(右)

意外と高学歴な人もいる土木の現場

ーー世の中にはいろいろな職人がいます。そもそもなぜ土木だけ不良っていうイメージがあるんでしょうか。

石丸:それはやっぱり荒っぽいもん。でも荒っぽい人もやみくもに乱暴なんじゃなくて、実はかなり理路整然としてるんですよ。例えば、「あー、それそれ、そこ危ないですよ」とか言ってるうちに事故になっちゃうから、怒鳴り声に聞こえるんだけど、「わー!」とか叫ぶんですよ。そういうコミュニケーションの仕方が、外から見ると荒っぽい感じにとらえられがちです。

それには向き、不向きがあって、向いてる人には気楽でいいんですよね。自分は土建の現場に取材で行くようになって、いきなり怒鳴られて、「うわあ、初対面で怒られた、なんて怖い世界だ!」って思ったんだけど。かといって、ちょっと時間が経つとね、にこやかに話しかけてくるわけ。「え、怒鳴ってたのに、どういうことなんだ?」って思う。

でも彼らは怒ってないんですよね。「危ないよ!」っていうことを伝えるための表現なんです。そういうことがわかってくると、荒っぽく見えるけど、単にそれが効率的なコミュニケーションだった。

デスクワークの人たちに「お前、何やってんだボケ!」とか怒鳴ったら、即刻パワハラって言われちゃうじゃないですか(笑) でも、そこに命がかかってると、至極自然な行為だなって思いますね。

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石丸:いわゆる土木の現場における不良っていうのは、喧嘩が好き、とかそういうことでなくって、いわゆる「これが正しいよねー」って暗黙のルールになってる普通のモラルとかに対して、「え?それって自分の頭で1回考えたほうがいいんじゃないの?」って言える態度なんです。「よくわかんないけど上司の言うこと聞きまーす」っていうことに疑問を感じてる人たちが向いてるんだと思う。

柳:だから最近は学歴関係ないですよね。うちにも例えば法政大学とか明治大学かの卒業生がいる。土木でもデスクワークがあるんですよ。CAD使ったりとか、設計とかをやる人たちはデスクワークになるんですけど、そういうところに高学歴の人は行きがちかな、と思ったら、面接きて、「現場出たい」「穴掘りたい」って言うんです。

履歴書を見ながら、ほんとにいいのかな…と思いながら、「じゃあ出てみるか」って。もやしっ子に務まるかな、と思って出してみると、半年しないうちに法政大学卒の人間が、「てめえこの野郎!」ってやってますからね(笑)

安全管理の中で、重要性のメリハリとして、いわゆるパンチパーマの人間に対して、大学卒の人間が、「てめえこの野郎!」って言ってますから。ああ、なるほどな、と(笑) だから昔のイメージの不良っていう言葉に、いまだに当てはまってしまうんでしょうね。だけど実はすごく爽やかな、高学歴の青年だったりするんですよ。最近は面白いことになってきてますね。

いまでは社長業がメインの柳さん。1日の大半はデスクと向き合っているが、現場が恋しくなることもあると漏らす

いまでは社長業がメインの柳さん。1日の大半はデスクと向き合っているが、現場が恋しくなることもあると漏らす

システムエンジニアだって職人だ

ーーどれくらい働いてると一人前になれるんですか。

柳:いや、これはほんっとに、人はどこで化けるかわからないです。例えばうちの若い衆でいうと、結婚した瞬間、次の日から変わったとか。逆にいうと、俺の同級生で一人、親方をやってるんですけど、そいつフラれると親方じゃなくなるんです(笑) もうフラれたら一瞬でいなくなるんでね。それで俺すぐ電話して、「お前明日から一週間くらい休み出せ」って(笑)

僕には、職人に光を当てたいっていうの気持ちがあるんですけど、それには意味合いがもう1つあって、それはやっぱり日雇いっていうものと職人っていうものと、バチンと線引きしたいんですよ。で、日雇いというか、世間でいうパラサイトです。パラサイト気質の人は、やっぱり職人ではないんですよ。夕方がくるのを待つ人たち。

そうではなくて、「自分たちがこれを作るんだ」っていう意識を持って、自分の意思で働いてる人間たちが職人というもので、そこにバチっと線引きをしたい。だからこそ職人が輝くものにしたいですね。

例えば今時だとシステムエンジニアの方とかも職人だと思うんですよ、もちろん。そういう人たちとほとんど変わらない。要は、創意工夫をすれば定時に帰れるし、ただ、だらだらプログラミングしてたら24時間かかっても終わらない、みたいな。そこがすごく如実に現れるのは、土木もIT系の職人さんたちとほぼ変わらないと思います。

だからこそ、そういう新しいアプリが出たりとか、サーバのスペックがどんどん向上してったりっていうのは、そこで働く人の創意工夫と努力が反映されてるし、でっかいけど性能のいいものを作るのは職人さんの創意工夫の結果だと思います。

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「どぼじょ」に「トラガール」イメージアップに必死

ーーいま工事現場が増えています。今後も需要が増えてく仕事なんですか。

柳:そうでしょうね。にもかかわらず、就労者数が減るっていう話があって大変。いまコンクリートも、各種インフラ関係も耐用年数を超えてるんですよ、ほとんどが。これから壊して作り変えなきゃいけないんですけど、それがまったく追いついてないんですよ。

でも仕事の量は、たぶんある一定数ずーっとあると思いますよ。だけども、人がいないんでね。これは今後どうするんだろうって思います。

建設現場で輝く女性にスポットを当てた特集も人気コーナーのひとつだ(創刊号より)

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ーーそこでイメージアップをしないといけないっていうことで、雑誌が必要になってくる。

柳:それも1つありますね。だから、国もやってるんですよ。例えば「どぼじょ」とか「トラガール」みたいな感じで、女性の雇用促進をするためのいろいろなネーミングつけたりとか、あとは中途で転職したい人のための学校を作ったりしています。

おもしろいのは、東京都がイメージアップコンクールっていうのをやってるんです。ストレートに、イメージをあげようとコンクールを開いています。そうやって公共工事のイメージアップを図って、働く人を増やして、なんとか仕事を維持・メンテナンスできるような形にしようとはしてますよね。

石丸:オリンピックが一応、求められる求人数のピークなんじゃないかとは言われてるんだけど、とはいえ、やっぱり東京は新陳代謝が常にありますから、そういう意味では非常に安定した働き場所です。特に意識的に働いて、自分の生活を向上しようと思ってる人にとっては、思ってるよりもずっと安定した雇用の場所だろうな、という認識です。

柳:だってたぶん目に映るもの、人生の中で見ているものっていうのは、ほぼすべて土建の作ったものですから。

ブルーズマガジンを通じて「土建と接点のない人と工事現場、お互いの理解を深めたい」と語る石丸さん

ブルーズマガジンを通じて「土建と接点のない人と工事現場、お互いの理解を深めたい」と石丸さん

ーーそうですね。街を歩いていて、工事現場を見ない日ってないですよね。

柳:ないと思います。工事でできあがったもの、建物、道路、公園……たぶん人生の中で出産から入学、卒業、就職、結婚、死まで、すべて建築物の中で起きるじゃないですか。そう考えると、仕事は絶対あるんですよ。人が見るものはすべて建築が関わっていますから。

工事現場も危険だからって囲われてるので、普通の人からすると何をやってるのかわからない。いまはそれもイメージアップの一環として改善されています。「仮囲い」っていう白い鉄板みたいなの囲いがあるじゃないですか。大手ゼネコンなんかはあれを、スケルトンのアクリル板かなんかで中が見えるようにしています。10枚に1枚、クリアにしておくと、けっこうずーっと見てる人いるんですよ(笑)

お母さんが引きこもりを預けにきた結果…

ーーこの仕事、どんな人が向いてるんでしょうか。例えばある程度の筋肉がないとだめだとか、根性が求められるとか。

柳:どんな仕事でも同じだと思いますよ。やっぱりすぐに逃げちゃうような人、自分にどんな仕事が合ってるかわかる前に辞めちゃう人、これは厳しいですけど、そうですね、1カ月か2カ月いてくれれば、だいたいの子は力を発揮します。そういう場所を探せる自信はありますね。

うちの職場、最高学歴は某医大卒。最低学歴は僕なんですよ。中学校中退ですからね(笑)それぐらいの幅の中で、パソコンを使いこなせる人間から、ガラケーも使えないような人まで揃ってて、でもみんなに得意分野がある。それで、この会社の中では誰1人欠けても困るっていう存在に、1年いればなれるんです。

新人の1日を紹介するコーナー「がんばれ新人クン!」(創刊号より)

新人の1日を紹介するコーナー「がんばれ新人クン!」(創刊号より)

あとは意外と長く続けられる仕事なんです。例えば、すごい職人でもやっぱり「老い」は来るじゃないですか。体が動かなくなってきたと。でも、ちゃんと勉強する気があれば、デスクワークにシフトチェンジして職場は変わらなくていいんですよ。イメージだと体が動かなくなったら終わりって思われがちですけどね。

あと、特殊なパターンでいうとね、引きこもりの子、たまにお母さんが預けにくるんですよ(笑) なにか極端なことをしたほうがいいじゃないか、って親も考えるんでしょうね。そういう子が前に入ってきた。やっぱり最初はうじうじしてるから、なんていうんですかね、いじられるんですよね。だけど褒められるとすぐ伸びる。なんか1個得意なことがあって、「お前すげえな」って言われると、喜んじゃって、その部分だけを一生懸命やり始めるんですよ。

たまたまその子は嫌な顔せずに何でもする子だったんです。頼まれたことはちゃんとやる。で、2キロ離れた先にネジ1個忘れて、それを取りに行ってこいって言われた時に、普通に笑顔で「はい!」って取りに行ったんですよ。それで某大手ゼネコンの所長に好かれて、そのまま引き抜かれた(笑) いまは完全に社会復帰できて相当遊んでます。この間会ったときには「キャバクラ行きましょうよー!」って言われて、「え!?」みたいな(笑) ちょっと嬉しいですよね。

ふつうの人と工事現場、お互いの理解を深めたい

ーー運動不足の人が入ったら、すぐに体ばきばきになるイメージもあります。ダイエットに効きそうな。

柳:それはもう完璧ですね。うちにはボクサーもいましたし、ウェイトリフティングやってる人もいました。体を鍛えるにはばっちりですよ。ジム代がタダになる。ギターウルフっていうバンドがあるんですけど、ギターウルフのセイジさんは、ジムも行きたいけど、お金がないし、時間もない、ライブもやりたい。そう考えたとき、あの人は土建屋で働いた(笑) あの人、たしか親方なんですよね。

石丸:入ってきた新人を見ると、年齢に関わらず2カ月くらい経つと見違えてきますよ。やっぱりぐっと締まってきて、シャツを通してでも、「おお、やってるな!」って見違える。これも取材者の見る楽しみです。

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ーー土建の方々にスポットを当てたい雑誌ですよね。でも最近はアート系の施設にも置いてあったりします。

石丸:土建の方に届けたいっていうのもあるんですけど、土建って普段接点ないからどういう世界かわかりませんよね。だからお互いにどういう世界かってわかり合った方がいいと思う。そういうことも1つの目的なんです。

もちろん雑誌を読んだ人全員がここで働くわけじゃないんだけども、どんな世界かを知ることで、街の見え方が変わってきます。工事やってる姿や光景をみて、他人のことではなくなってくる。それが1つ大きな狙い。特にアートっていうのはものを作ってる人たちですからね。

柳:ちっちゃなパイの中で取り合いをするんじゃなくて、外側の人にどんどん入って欲しいんです。ということで、ライブハウスとかにも配り始めたんですね。で、逆に、それをやりながら、今度は職人が手に取れるようなコンビニに置いてもらって、職人たちが「これに載れることがええよ」というふうに思ってくれて、それが両方成り立った時に初めて目的が叶うのかな、と思っています。

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