ネット業界20年選手が答える、若手起業家が抱える◯◯の悩み

ベテランのアドバイスは老害? それとも老益?

5月26日に宮崎県で行われた招待制イベント「IVS 2016 Spring」で、企業経営の悩みを抱える20代の若手起業家が集まり、ネット業界のベテラン起業家に公開質問しました。

質問に答えたのは、次の3人。いずれもネット業界の第一線で20年以上活躍しているベテランです。

  • 19歳で起業、20代で十数億円の借金を背負うも、その後はサイバードやKLabを立ち上げた真田哲弥さん
  • ディー・エヌ・エー(DeNA)の共同創業者で、現在は国内外のスタートアップに投資を行う川田尚吾さん
  • 日本で唯一、楽天とヤフーに事業売却した経験を持つ、ヤフー執行役員の小澤隆生さん

モデレーターは、2000年にヤフーに2社を売却し、現在はヤフー副社長の川邊健太郎さんが務めました。ネット業界のベテランの悩み相談は、起業家だけでなく、ビジネスパーソンにとっても役立つ金言が見つかりそう。以下、主な質問と回答をまとめました。

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公開質問会は、ベテランの回答が響けば「老益」、ビミョーなときは「老害」と書かれたボードを掲げるルールで進められました

年上の社員を雇う時の注意点は?

ーー大学在学中にプログラミングサークル仲間と作った会社で、社員はみんな23歳ぐらい。年上の人を雇う時の注意点は?(プログラミング学習サイト「Progate」を運営する株式会社Progateの加藤將倫さん)

真田:曲げちゃいけないポリシーは、はっきりと主張する。その一方で、自らも学ぼうという姿勢を見せると、年上の人は「もっとコイツのためにやってやろう」という気持ちになるので、聞く姿勢を見せたほうがいいですね。そのメリハリを付けるのが大事。

川田:社内の呼び方で、年上も年下も「サン」付けをすると、ヒエラルキーができないカルチャーを作れて動きやすいと思います。

ーー成功でも失敗でもない中途半端な状況から抜け出すには?(インターン・就活情報サイト「JEEK」を運営する株式会社Techouseの磯辺基之さん)

川田:四半世紀ベンチャーを見ていますが、よくあるのが、そこそこいい感じで来ているのに、地道な努力をせずに中途半端な状態が続くケース。そうなると3〜5年で組織が腐り始めます。目標数値を右肩上がりで据えて、実現していかないとダメになることが多いと思います。

真田:KLabは以前、システム受託開発で数年ぐらい横ばいが続きました。そこそこ収益が上がる状態になると、安住しがちです。そうならないためには、KPIの数値を明確化して公表して、退路を断つ体制を作ることが大事だと思います。

ヤフーに事業売却したからこそデカいことができる

ーースタートアップはIPOを目指すべきなのか、それともM&Aを目指すべきなのか?(海外ツアー・アクティビティの予約専門サイト「たびのたつじん」を運営する株式会社Rising Asiaの三木健司さん)

小澤:私の考え方は、とにかくデカいことがしたいということです。今ヤフーにいるのは、一番ユーザーとお金を持っているから。IPOやM&Aは、自分がやりたいことに対する手段だと思います。お金が10億円欲しいのであれば、目的になるのでM&Aをやればいいし、私はヤフーや楽天に売却して本当に面白かった。

真田:僕は19歳で会社経営を始めたので、ずっと上司がいない状況。わからないことは本を読んで試行錯誤して覚えましたが、上司に教えてもらうより成長速度が遅くなることもありますね。今の歳(20代)なら、1回売って、誰か優秀な方の下で修行して、もう一回独立するのは検討に値するかなと。

小澤:今は孫さんっていう大ボスの下で働いているんです。(小澤さんが担当する)「Yahoo!ショッピングが60%伸びた」と会議で話をしてたら、孫さんが「恥を知れ。なぜ300%じゃないんだ」と。やっぱり目線が上がりますよね。アナリストも評価してくれたのに、1人だけ「こんなものは大失格だ!」と。みなさんまだ若い。バイアウトって、ものすごい持参金付きの就職みたいなものですから。そういう目線があってもいいと思うんですよね。

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左からKLab社長の真田さん、DeNA顧問で投資家の川田さん、ヤフー執行役員の小澤さん

投資家はこき使え、ただし腰は低く

ーー支援先の企業で「僕のアドバイスのおかげでうまくいった」という事例はありますか?(プログラミングスクール「TECH::CAMP」を運営する株式会社divの真子就有さん)

川田:起業家が心血注いで作るプロダクトがすべてなので、投資家にできるのはお金を注入するだけです。投資家は生殺与奪権のようなものを持っていて、いくら入れるかの意思決定をするのが最大の仕事。それ以外にもミーティングで話したりしますが、一番効くのはお金ですね。

小澤:私はすべての投資先に対して、私が成功させたと思ってるんですよ。勘違いだと思ってますが、(起業家は)そうやって思わせておけばいいんです。投資家はお金を持っているので気持ちよくしてやってください。「小澤さんのアドバイスってすごいですね!」と言われますけど、起業家もうまいもので実行確率は2%ぐらいです。でも、それでいいんです。「俺が言ったようにやらないじゃないか」と言うのは、よくない投資家です。

――若手起業家が陥りやすい失敗があれば教えてください?(株式会社divの真子さん)

小澤:投資家なんてなんもわかってないですからね。みなさんは24時間365日、事業のことを考えていますが、投資家にとってはポートフォリオの一環で、そんなに時間を使っていないので。僕は1999年に創業した当時、6人くらいの名だたる人から一致しないことを言われましたし。

川田:アドバイスをもらうみたいな受け身の姿勢よりも、「営業先を紹介しろ」「事業計画をチェックしろ」と、具体的にこき使ったほうがいいと思います。ただし、腰は低く。

創業メンバー間で実力の差が出てきた時はどうする

ーー事業ピボットを行う上での注意点は?(クリエイティブ業界に特化したクラウドソーシングやセキュリティ事業を手がけるココン株式会社の倉富佑也さん)

真田:「経営者は孤独」っていいますが、合議で決めちゃだめです。「ここを縮小して、こっちに突っ込もう」となると、反対意見が出るに決まっている。先に自分の中で明確な結論を出しておくことです。1人で決断をしてから、社内会議に臨む。今あるリソースをどうするかは、積み上げ式の志向では何も生まれません。ゴールから逆算して、どうしたらできるかという思考回路が必要だと思います。

ーー起業してから数年後に、創業メンバー間で実力の差が出てきた時はどうすればいい?(会場からの質問)

真田:やめてもらうのがすっきりしますね。役員から格下げする方法もありますが、すっきりするのはしっかり話し合った上でやめていただくことかと。

小澤:やめていただくか、仕事の役割を下げていくことですね。役職を入れ替える時のやり方は、最低でも半年前に「このままだと、こうなります」と脅しではなく、クールに言っています。いきなり言うとびっくりしますので。

ーー仕事のパフォーマンスを保つために意識している生活習慣はありますか?(ココンの倉富さん)

川田:経営者的にはばらつきがありますが、アウトプットの数値目標で帳尻合わせる感じで、数字に固執してやるのがいいと思います。

小澤:自分にとって、パフォーマンスが上がる必勝パターンを持っています。「8時間以上の睡眠が取れている次の日に、1対1でブレストする」「ブレストの叩き台は先方に作ってもらって説明してもらう」。そうすると、30分ぐらいで良いアイデアが出るんです。迷信もあるかもしれませんが、仕事のやり方としての型を作っています。

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ベテラン陣のアドバイスはどれも刺さったようで、軒並み「老益」ボードが掲げられました

出資する基準はプロダクト? 経営陣?

ーースタートアップに出資する際の基準は?(会場からの質問)

川田:基本的にはプロダクトを見ます。プロトタイプを見て、面白ければ投資する。サービスを生み出せる能力がクリティカルだと思っているので、そこを重要視しています。

小澤:個人と会社で投資する場合で分けていて、YJキャピタルでは事業内容と経営陣を見ます。投資の段階がスタートアップであれば、ビジネスプランの精査はそこまでしません。投資を受ける時と、発展する時のビジネスプランが変わることが多いので、「なぜこのプランを考えているのか」という思考ロジックを問いただしています。

――個人で投資する場合は?(会場からの質問)

小澤:誰でもいいです。持論ですが、個人の投資は盆栽を買うようなもの。投資家を愛でる感じで、返ってこなくてもいい。とはいえ、個人投資先で上場なりM&Aした割合でいうと8割ぐらいになります。ただ、僕の方では選んでないんですよ。インターネットってそれくらいチャンスがあるのだと。ただし、「嘘をつく」「逃げる」「一生懸命やらない」人は断っています。

――より大きいことをしたいというマインドは、お金を持つ前後でどれくらい変わるものなのでしょうか?(Progateの加藤さん

小澤:誤解を恐れずに言うならば、純粋に自分がやりたいことを追いかけるには、生活基盤が安定していることだと思います。最初の会社を売って、生活に不安がなくなった結果、ものすごく大胆な決断ができるようになりました。「このサービスで1日100万円儲けよう」とか思わなくなって、盆栽を買うように自分のサービスが作れるようになった。

私の心境が大きく変わったのは、食べるために働く必要がなくなったことです。仕事と趣味の境目がなくなっちゃって、全部趣味。事業を売却した後は、一定の買い物をしましたけど、あんまりおもしろくなかったですね。入金翌日に欲しかったポルシェを買ったけど、乗ってみたらハンドルとアクセルが付いてて普通のクルマなんですよ。外から見るのがポルシェなんだって。

自分のために使うお金は楽しくなくて、人のためにお金を使うと楽しいことがわかった。「すごい豆まき」も自費でやってるんですよ。結局、寄付とかイベントをやる延長線上で投資をしている。僕にとっては、人に喜ばれるお金の使い方がうれしいですね。