カンボジアで「Kindle印税生活」を続ける作家に聞く、人生再インストールのススメ

現在、紙媒体の雑誌が相次いで廃刊するなど、未曾有の出版不況には終わりが見えない状況だ。そんななか、“人生再インストールマガジン”と銘打ち、自由な生き方を提唱する月刊誌型の電子書籍『シックスサマナ』がサブカル好きな層からカルト的な人気を集めている。

出版社をとおさない個人出版ながら、大手出版社から発行されたタイトルと互角に肩を並べ、Amazon・Kindleのカテゴリー別のランキングでは常に上位を独占。

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紙媒体の雑誌やテレビなどの一般的なメディアでは企画段階でNGになってしまいそうな放送コードギリギリのネタも扱うなど世にも奇妙な執筆陣をそろえ、発行人を務めるのは作家・クーロン黒沢さん。「裏アジア紀行」(幻冬舎アウトロー文庫刊)をはじめとする多数の海外旅行記、最近では「大人のためのドローン入門」(飛鳥新社刊)を上梓した。

こうした作家活動を続けながら、発展途上国として知られるカンボジアの首都プノンペン在住歴は20年を超える。そんなクーロン黒沢さんに『シックスサマナ』が生まれたきっかけや電子書籍では実際どのぐらい稼げるのか。話をうかがった。

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カンボジアの首都・プノンペンにあるスラムの風景

ストレスに弱く、日本でまともに働くのが嫌だった

──まずは日本ではなく、カンボジアに住みながら作家活動を続ける理由を教えてください。

旅の本を書くことが多かったせいか、旅行ライターに分類されることの多い私ですが、サバイバルからレトロゲーム。ドローンや性具の本まで何でも書きます。

まともな就職経験が一度もないまま、カンボジアで暮らし始めて約20年。きっかけは旅云々ではなく、朝起きられない。人混みが苦手、上司の顔色伺うのも嫌──と、極めてストレスに弱い体質だったからです。プノンペンでストレスフリーかと問われれば、質は違えど、日本以上にストレスのたまる国ですが……。

──カンボジアならではの苦労がありそうですね。では具体的な暮らし、またどのぐらいの生活費が必要ですか?

住み始めた頃は、年代物の旧ソ連製エアコンをつけた瞬間、外の電線が爆発。夜は泥棒と強盗だらけ。信号待ちで銃撃戦……。そんな日々も、荒れ果てた世界に憧れていた自分には、非常にエキサイティングで楽しくもありました。

今はすっかり普通の国ですが、コメ以外の食料品からエネルギー(電気代は日本並み)に至るまで、ほとんどを輸入に頼っているためか、途上国にしては物価が高く、生活費がかさみます。現地採用日本人の給料は10~20万円が相場。対してカンボジア人の大卒初任給は約200ドル。10万あったら余裕と思うかもしれませんが、1食5ドル以上する日本食を食べ、日本人らしく過ごしたいなら10万円じゃ全然足りません。

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カンボジアで食べる日本のカレー。こういう食事は高くつく

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地元民御用達の屋台。こちらはまだきれいなほう

現地の逞しい日本人から生き方を考えさせられた

──発展途上国とはいえ、思った以上にお金が掛かるんですね。とはいえ『シックスサマナ』には、現地に長期滞在している日本人がたくさん登場しますが、黒沢さんのなかでは、たとえばどんなかたが印象的ですか?

そうですね。日本人らしく過ごすなら10万円では足りませんが、その一方で、月収200ドル以下という極限状態のなか、ゴキブリのように逞しく生きる「スーパー日本人」も存在します。たとえば、プノンペンの某スラムでアパートを経営する日本人大家さん。

10数年前、妻子を捨ててカンボジアに漂着。新しく迎えた現地人の妻と暮らすべく、全財産を叩いてスラムの建物を購入。アパートをオープンしますが、その奥さんとも数年前から別居中という、ひどく口数の少ない孤独な老人。建物には小さな部屋が3つ。ひと部屋の家賃は35ドルなので、満室でも月1万円にしかなりません。

よわい70にして、節約のため建物には住まず、アパートの外にブルーシートで作った小さな小屋にひとり暮らし、蚊の群れと戦いながら日々、ノートに夏目漱石論を書き綴っています。パスポートは数年前に行方知れず。もはや、己が日本人である証明すらない。そのまま映画化できちゃいそうな、ある意味、ロックな悟りの境地。好きでやってるんじゃないかと疑うほどですが、実際、彼らに帰国の意思はありません。日本に居場所のないアウトローが、プレデターのように溶け込めてしまう国。それがカンボジアです。周りの人は不干渉。押し付けがましく生き方を強制したりしない。こんなゆるさは日本にないかも?

さておき、こういった人たちを見ていると、人間やる気になれば何でもできるんだなぁ……と日々驚かされます。

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古着が売られた屋台。こういった店が庶民の生活に欠かせない

本当の幸せとは何なのか

──非常に興味深いお話でした。詳しいエピソードは皆様に『シックスサマナ』を読んでいただくとして、そのコンセプトを改めて教えてください。

話を戻して、創刊3年目に突入した人生再インストールマガジン『シックスサマナ』は、Amazon・Kindle向けの電子書籍。周りから「狂犬」とあだ名されようとも、人間は歳を重ねるごとに安定を求め、無意識のうち未来に備えるもの……。しかしごくまれに、破滅への近道をまっさかさま、絶対真似したくない──永遠に終わらない映画の主人公を演じ続ける人もいます。

世界の秘境を渡り歩く日本人呪術師に始まって、10年間同じ服を着続ける究極のドケチ。精神病院の看護婦、セックス依存症のアダルトチルドレン──など、他の媒体で絶対お目にかかれない連載陣。彼らの人生を読者に追体験してもらいながら、幸せとは何なのか再考を促す。それが『シックスサマナ』なのです。

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編集部の風景……ではなく、プノンペンのスラムに暮らす人を取材

電子書籍なら個人でも出版社と対等に渡り合える

──そもそも、出版社をとおさずに電子書籍を作ろうと考えたきっかけは何ですか?

出版不況が叫ばれて久しく、紙の世界では企画を通すのもひと苦労。部数は減り、話題にならない本はすぐ絶版。売上の10%が慣例だった印税率も順調に下がり、3%なんていうケースもあるそう。もはや著者の報酬は消費税以下になりつつあります。

そんな出版界の状況におびえていた3年前、手軽に情報発信できる有料メルマガに興味を持ち、発行寸前、読み捨て前提という媒体の性質がひっかかり、悩んでいたとき現れたのが電子書籍でした。

──紙の雑誌や書籍と比べ、電子書籍は通勤通学の合間でも気軽にスマホから読めることでジワジワと注目度を高めていますよね。電子書籍を制作する魅力とはなんですか?

電子書籍の市場には、紙の本と同様の体裁のものだけでなく、情報商材や名刺代わりの本、何を狙っているのか謎の本など、Kindleならではの個人出版も目立ちます。

出版は簡単。在庫いらず。絶版フリー。紙と比べマーケットは小さいけれど、ロイヤリティは数倍(Kindleは35パーセント)──書いてポンのメルマガと比べ、手間はかかりますが、Amazonなら電子書籍と一般書籍の扱いがほぼシームレス。大手出版社の本のすぐ脇に、『シックスサマナ』を並べてくれます。

また、慣れないサイトでの買い物は抵抗がありますけど、Amazon・Kindleなら近所のスーパー感覚でお金を遣ってしまう。これも魅力でした。

Kindleと独占販売契約を結べばロイヤリティ70%

──個人で制作することの大変さ、また実際どのぐらい稼げますか?

編集、校正、デザイン、出版後のトラブル処理……。今までは出版社側が対応してくれていた原稿を書く以外の作業も少なくありません。特にデザインは売上に直結する重要な作業なので、限られた予算のなか外注するようにしています。

Amazonとの契約上、具体的な数字を公開できないため、ここでは例を挙げるに留めますが、定価500円の本を出版した場合、消費税8%を引いた本体価格が463円。このうち売上の35%がロイヤリティとなります。

Kindle電子書籍の収益例
冊数 売上 ロイヤリティ
500冊 23万1500円 8万1025円
1000冊 46万3000円 16万2050円
2000冊 92万6000円 32万4100円

たとえば500冊売れる本を毎月のように出版できたとして、月収約8万円。『シックスサマナ』の場合、これではデザインの外注費すら賄えません。そこで、大抵の個人出版物はKindleストアだけのコンテンツ独占販売契約「KDPセレクト」に登録。すると収入となるロイヤリティは一気に倍の70%まで膨らみ、多少は現実的な額になってきます。

──そこだけ聞けば、たしかに紙の印税率に比べるとはるかに夢のある数字。ゆくゆくはKindleの電子書籍を利用する作家さんも増えるのかもしれませんね。

今後市場が拡大すればビジネスとして成り立つ

──電子書籍によって出版不況を乗り越え、未来を切り拓けている実感はありますか?

現在のマーケット規模では、それでもまだしばらく厳しい状態が続きそうですが、部数が増えればビジネスとして充分成り立つ。そう信じて毎号、がんばっている次第です。

『シックスサマナ』が私の人生再インストールだった……。と良い意味で言えるよう、今後も紙ではできない企画を物怖じせずに展開してゆきますので、なにとぞご愛顧のほど、よろしくおねがいします。